異世界に飛ばされた俺は、ゴリゴリの復讐者となって世界を敵に回す

ふりたけ(振木岳人)

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◆始まりの女王

22 そうなりたくなかったら

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 「ナーケルシュ族」それが幻の地リィリィルゥルゥを守る短耳種のエルフの一族。

 古くから巨大な森の西南端を領土としており、人間界との接点が近い事から望むと望まないと異種交配が進み、ハーフエルフとはいかないまでも容姿に顕著な変化が現れた、好戦的な戦闘種族それがナーケルシュ族。

 修哉たち一行は、そのナーケルシュ族が支配する森にいる「始まりの人」……始まりの女王と呼ばれるハイエルフに合うため、ウルリーカ族の支配地域を抜けて、一路リィリィルゥルゥへと向かっていた。


 昨夜シルフィアが気付いた異変それは、火の無いところに火があった事。エルフは極力火を使わないのに、昨夜シルフィアと修哉が見たナーケルシュ族の森には、無数の松明の灯りがあったのである。

 ナーケルシュ族に何があったのかまでは分からないが、警戒し過ぎて損をする事など無いので、シルフィアは自分の愛馬ノーコーンにエマニュエルを同乗させ、修哉が単独で馬に乗っている。
いざと言う時はシルフィアがエマニュエルを守り、修哉が敵を制圧すると言う役割分担が出来上がっていたのである。

 シルフィアの得意とする武器はもちろん弓である。森の中、木々の上を縦横無尽に駆け回り、敵の死角に向かって鋭い矢を放つ、遠距離スナイピングを旨としており、近距離格闘戦は無力に近い。

 細身の片手剣いわゆるレイピアが、良くエルフの主力武器として物語に描かれる事があるが、レイピアはフランス王朝時代の儀礼剣であり、剣のコンセプト自体が「刺突」なので、一対一の決闘の際にしか使われない。エペなどフェンシング競技の基礎となったもので、決して戦場で斬る殴るをする剣ではないのだ。

 よって、耳長エルフであるシルフィアが持つ武器と言えば弓、そして腰のベルトに収めたナイフである。
ナイフは近接格闘戦の護身用としての価値もさる事ながら、弓で仕留めた鹿やウサギを、その場で解体する為の携帯必須のツールである。ーー森の人は、儀礼剣など持たないなである。

 話が横に逸れてしまったが、シルフィアがナイフで自分とエマニュエルを守り、修哉がディメンション・リビルドで遭遇戦を制する……急ごしらえの役割分担ではあるが、なかなか利にかなっているフォーメーションではある。そしてそれは、早速効果を発揮するかもしれない場面に出くわしたのである。

 ナーケルシュ族支配地域に入って半日、昼食を撮り終えた一行が再び馬に乗りリィリィルゥルゥを目指し始めていると、いきなり草むらから目の前に、二人のエルフが現れたのである。

「止まれ、馬を止めろ!」

 修哉たちに向かって叫びエルフは、両手を高々と上げて停止を求めて来る。
それに応じて馬を止めた修哉たちではあったが、このナーケルシュ族の男性エルフの二人、修哉たちを歓迎している様な穏やかな表情ではない。いきなり何故こんな所に現れたんだと、酷く狼狽しながらも、修哉たちに露骨な敵意を向けて来たのである。

 種族間同士の方が意思疎通は速いと判断し、修哉はシルフィアに目配せでこのエルフたちとの交渉を頼む。もともとそれを心得ていたシルフィアは修哉の前に馬を出し、二人のエルフと対峙した。

「我が名はシルフィア・マリニン、ウルリーカ族の長ユリアナ・マリニンの孫にて次にウルリーカを統べる者である。アンカルロッテの約定にてこの地を自由に歩く事を許された身だが、我を止めるとは何故であるか、明らかにされよ!」

 やはり名前の力と言うのは絶大で、ユリアナとシルフィアの名前が出た途端、急に礼儀正しくなる二人のエルフ。だが、その視線は修哉とエマニュエルに注がれており、人間との関係で何かよからぬ事が起きたのではとシルフィアはふんだ。

「こちらにおわすは、ウルリーカと近しい、やんごとなきお方である。そしてその者はウルリーカが呼んだ原初の導士。御二方ともウルリーカの客人であり、失礼は許さん」

 ナーケルシュの男二人は修哉に反応した。それも原初の導士だと聞いた途端、二人は目を合わせつつ、意外にも安堵の表情を見せたのだ。

「シルフィア様、無理を承知でお願いしたい事がございます」

「我がナーケルシュの族長、ジヌデューヌ様にお会いになって頂けないでしょうか?」

「待て、筋道が違う!汝らは何故我らを止めたかと問うておる。それを明らかにせぬまま、話を先に進めるでない!」

 恐縮するナーケルシュのエルフたちはシルフィアの一喝で我に返り、神妙な顔付きで事の経緯を話し始めた。


 ーー昨年末あたりからこのナーケルシュの森に人間が大量に入り込み、ウサギやイノシシ、鹿や熊などの動物を勝手に狩り始めた。もちろんナーケルシュ族は自分たちの領土だと何度も主張したのだが、結局は武力衝突に陥ってしまう。
しかし人間側には原初の導士が味方しており、ナーケルシュ族に勝ち目は無く、森の奥へ奥へとジリジリと撤退を続けている。人間たちからこの森を守る為に、ここも警戒線を張っていたーー


「あの松明の灯りはやはり、人間のものだったのか……」

 シルフィアの呟きに同意する修哉だが、まだ納得出来ていない部分がある。このエルフたちの口から「原初の導士」が出た事で、修哉は俄然この話に食らいついたのだ。

「あんたたちは森の侵入者を人間とだけ表現しているが、それは共和国の軍隊なのか?」

「いえ、違います。この森の遥か南、共和国領土の西北端にある街、リジャの住人たちです」

「住人?住人たちが何で越境なんかして狩りをしている?」

「リジャは穀倉地帯の中心にある街なんですが、昨年の干ばつで飢餓が始まっているらしいのです」

「それに!森の南に広がる平野には、街を捨てた人間たちが集まって難民キャンプらしき集落が出来上がって……!」

「なるほどな。汝らナーケルシュの者共も、生存権を賭けた闘いに身を委ねなくてはならなくなったと」

 シルフィアは眉をひそめ、エルフたちの話に同情を示す。すると、おもむろに修哉が、シルフィアに提案を持ち出した、ナーケルシュの族長に会って詳細を聞いてみたいと。
元々がリィリィルゥルゥの地で始まりの女王に会うのがこの旅の目的だ。遠回りになるがそれで良いのかとシルフィアが問うと、修哉は眼を冷たく輝かせながらきっぱりとこう答えた。

「この闘い、落とし所が全く無いぞ。人間もエルフも殺し殺されの凄惨な闘い、つまり絶滅戦だ。そうなりたくなかったら、俺を族長のところへ案内しろ」

 自分の素性よりもまず、もう一人の原初の導士に興味を持っていた修哉であったが、何故か最優先でエルフと人間たちとの衝突を止めようとしている。

 面倒な局面に顔を突っ込むのは、彼の性格なのかそれとも、別のところに思惑があるのか……。修哉の真意を探ろうとするシルフィアであったが、未だ結論には至っていない。
ただ、エマニュエルは修哉を尊敬の眼差しで見つめていた。「過去に、そういう状況を目の当たりにし、心を痛めた事があるんだ。だから見ていられないんだな」と。



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