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倉田さんのクセ
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「う、ん……っ、いい、におい……」
夢の中まで香っていたシトラスの匂いに包まれて俺は目を覚ました。
いい匂いがする目の前のものに擦り寄ってスンスンと嗅ぎながら、
あれ? 俺の布団、こんなふかふかであったかい抱き枕とかあったっけ?
寝ぼけた頭で一瞬考えて、ここが石垣の宿だということに気づいた。
目の前のほんのりと温かな温もりに眠気を誘われもう一度擦り寄ると、『――っ』と息を呑む音が微かに耳に入ってきた。
「……んっ?」
俺、何かに抱きしめられてる?
そんな気がして、ふと音の聞こえた方へ顔を上げると、そこには少し赤い顔をして俺を見つめる倉田さんの姿があった。
「おはよ」
「――なっ! えっ? ど――っ」
一瞬パニックになった俺をそっと抱きしめ、
「ほら、藤乃くん。落ち着いて……」
と背中を撫でられ俺は昨夜のことを思い出していた。
「あっ……」
「ふふっ。思い出した? 昨日途中で私と一緒にベッドに入っただろう?」
そうだ。
怖い夢見たって言ったら添い寝してくれるって言ってくれて、結局あれから一度も目を覚さなかった。
夢も見ていないくらい熟睡したなんていつぶりだろう……。
「倉田さんのおかげでぐっすり眠れました」
お礼を言おうと倉田さんを見上げると、ほんの少し疲れたような表情が見える。
もしかして俺のせいでよく寝れなかったのかもしれない。
途中で起こしちゃったしな……。
「あの……倉田さんはあんまり寝れなかったんじゃないですか? ごめんなさい……」
「そんなことないよ、大丈夫」
優しく頭をポンポンと叩かれ撫でられる。
その大きな手にホッとして微笑むと倉田さんも嬉しそうに笑ったけれど、すぐに表情を変えた。
どうしたんだろう……少し困ってる?
「それよりも……あの、藤乃くん。足は大丈夫?」
足?
倉田さんにそう言われて自分の足の状況に気づいた。
怪我した方の足が倉田さんの足に絡みついて乗っかっていた。
そのせいで倉田さんに貸してもらったTシャツが捲れ上がっている。
それどころか、その……俺の、その俺のを倉田さんのお腹に擦りつけている状態で……。
「う、わぁーーっ! ご、ごめんなさい――っつ!」
慌てて倉田さんの身体から離そうとして、足首に思いっきり力を入れてしまった。
ズキッと痛みが走る。
「ああ、そんなに急いで動かしたらだめだ……って私のせいだな、悪い」
「い、いえ……そんな。俺が倉田さんにあんな格好で……その……」
「謝ることはない。むしろ役得――」
「えっ?」
「いや、なんでもない。抱き枕だと思っていいって言ったのは私の方だ。気にすることはない」
本当に優しいな、倉田さん……。
「でも……」
「んっ? どうした?」
「この抱き枕……ぴったりフィットで気持ち良すぎてもう他の抱き枕使えそうにないですね」
今日のすっきりとした寝起きは何ものにも変え難い。
倉田さんに添い寝してもらっただけで嫌な夢も見なかったし、最高の目覚めだった。
そんな正直な感想を倉田さんに言っただけだけど、
「――くそっ、これで煽ってないっていうんだからほんとタチ悪いよな……」
よく聞こえなかったけれど、小声で何やらボソボソ呟いてた。
今、なんて言ったんだろう?
「……倉田さん?」
「ああ、ごめん。こんな抱き枕でよかったらいつでも使ってよ」
寝起きだというのに爽やかでキラキラと輝くような笑顔を見せられ、俺はドキドキと胸が高鳴ってしまった。
はぁーーっ。やっぱ、倉田さんって格好良すぎるな……。
「そろそろ起きるか?」
「あ、はい。そうですね。今日は船が動いてたらいいんですけど」
「そうだな、後で離島ターミナルに連絡してみよう」
すっかり普通になってしまっているお姫さま抱っこでまずはトイレに連れて行ってもらい用を足して、洗面所で朝の身支度を整えてから自分の部屋へと連れて行ってもらった。
その間、倉田さんはずっと俺のそばについていてくれた。
あ、流石に用を足しているときは扉の外にいてくれたんだけど……。
『ちょっと待ってて』と言われベッドに座って待っていると、倉田さんが昨日着ていた服とスーツを持ってきてくれた。
どうやらクリーニングに出す時にあのスーツも一緒にクリーニングに出してくれていたみたいだ。
それを宿のスタッフさんから受け取ってきて渡してくれた。
「ありがとうございます」
お礼を言いながら受け取ると、『着替えを手伝おう』と言ってくれた。
そんなことまでと思ったけれど、先に下着を履いている間にワイシャツのボタンを外し準備をしてくれていてもうあとは流されるまま、あっという間に俺はスーツに着替えてしまっていた。
倉田さんって絶対前世は執事かなんかに違いない!
そう思ってしまうほどあまりの手際の良さに驚いてしまう。
「よしっ。準備万端だな」
ささっとネクタイの締め襟を綺麗にして満足そうに俺を見つめながら、今度はあの広縁の椅子へと連れて行ってくれた。
倉田さんが着替えている間、外の景色を見ていたけれど今日の石垣は雲ひとつない晴天だ。
ああ、今日は西表に行けるといいな。
「朝食は部屋とレストラン、どっちがいい?」
準備を終えた倉田さんがそう尋ねてきた。
えーっ、どっちも捨て難い……けど、昨日からずっと部屋にいるし、レストランも行ってみたいかも。
あ、でも捻挫してるから部屋の方が無難かな……。
「ふふっ。レストランに行きたそうだな。じゃあ、そっちにしようか」
「えっ? あの、なんでわかったんですか?」
「ははっ。藤乃くん、すぐ顔に出るから」
えーっ、そんな出てるかな?
俺は両手でほっぺたをモミモミと触っていると、
「こういうとこ……ほんと可愛すぎるな」
倉田さんが口元を押さえながら何か言っていた。
なんだろう?
倉田さん、時々何か呟いてるのはクセなのかな?
夢の中まで香っていたシトラスの匂いに包まれて俺は目を覚ました。
いい匂いがする目の前のものに擦り寄ってスンスンと嗅ぎながら、
あれ? 俺の布団、こんなふかふかであったかい抱き枕とかあったっけ?
寝ぼけた頭で一瞬考えて、ここが石垣の宿だということに気づいた。
目の前のほんのりと温かな温もりに眠気を誘われもう一度擦り寄ると、『――っ』と息を呑む音が微かに耳に入ってきた。
「……んっ?」
俺、何かに抱きしめられてる?
そんな気がして、ふと音の聞こえた方へ顔を上げると、そこには少し赤い顔をして俺を見つめる倉田さんの姿があった。
「おはよ」
「――なっ! えっ? ど――っ」
一瞬パニックになった俺をそっと抱きしめ、
「ほら、藤乃くん。落ち着いて……」
と背中を撫でられ俺は昨夜のことを思い出していた。
「あっ……」
「ふふっ。思い出した? 昨日途中で私と一緒にベッドに入っただろう?」
そうだ。
怖い夢見たって言ったら添い寝してくれるって言ってくれて、結局あれから一度も目を覚さなかった。
夢も見ていないくらい熟睡したなんていつぶりだろう……。
「倉田さんのおかげでぐっすり眠れました」
お礼を言おうと倉田さんを見上げると、ほんの少し疲れたような表情が見える。
もしかして俺のせいでよく寝れなかったのかもしれない。
途中で起こしちゃったしな……。
「あの……倉田さんはあんまり寝れなかったんじゃないですか? ごめんなさい……」
「そんなことないよ、大丈夫」
優しく頭をポンポンと叩かれ撫でられる。
その大きな手にホッとして微笑むと倉田さんも嬉しそうに笑ったけれど、すぐに表情を変えた。
どうしたんだろう……少し困ってる?
「それよりも……あの、藤乃くん。足は大丈夫?」
足?
倉田さんにそう言われて自分の足の状況に気づいた。
怪我した方の足が倉田さんの足に絡みついて乗っかっていた。
そのせいで倉田さんに貸してもらったTシャツが捲れ上がっている。
それどころか、その……俺の、その俺のを倉田さんのお腹に擦りつけている状態で……。
「う、わぁーーっ! ご、ごめんなさい――っつ!」
慌てて倉田さんの身体から離そうとして、足首に思いっきり力を入れてしまった。
ズキッと痛みが走る。
「ああ、そんなに急いで動かしたらだめだ……って私のせいだな、悪い」
「い、いえ……そんな。俺が倉田さんにあんな格好で……その……」
「謝ることはない。むしろ役得――」
「えっ?」
「いや、なんでもない。抱き枕だと思っていいって言ったのは私の方だ。気にすることはない」
本当に優しいな、倉田さん……。
「でも……」
「んっ? どうした?」
「この抱き枕……ぴったりフィットで気持ち良すぎてもう他の抱き枕使えそうにないですね」
今日のすっきりとした寝起きは何ものにも変え難い。
倉田さんに添い寝してもらっただけで嫌な夢も見なかったし、最高の目覚めだった。
そんな正直な感想を倉田さんに言っただけだけど、
「――くそっ、これで煽ってないっていうんだからほんとタチ悪いよな……」
よく聞こえなかったけれど、小声で何やらボソボソ呟いてた。
今、なんて言ったんだろう?
「……倉田さん?」
「ああ、ごめん。こんな抱き枕でよかったらいつでも使ってよ」
寝起きだというのに爽やかでキラキラと輝くような笑顔を見せられ、俺はドキドキと胸が高鳴ってしまった。
はぁーーっ。やっぱ、倉田さんって格好良すぎるな……。
「そろそろ起きるか?」
「あ、はい。そうですね。今日は船が動いてたらいいんですけど」
「そうだな、後で離島ターミナルに連絡してみよう」
すっかり普通になってしまっているお姫さま抱っこでまずはトイレに連れて行ってもらい用を足して、洗面所で朝の身支度を整えてから自分の部屋へと連れて行ってもらった。
その間、倉田さんはずっと俺のそばについていてくれた。
あ、流石に用を足しているときは扉の外にいてくれたんだけど……。
『ちょっと待ってて』と言われベッドに座って待っていると、倉田さんが昨日着ていた服とスーツを持ってきてくれた。
どうやらクリーニングに出す時にあのスーツも一緒にクリーニングに出してくれていたみたいだ。
それを宿のスタッフさんから受け取ってきて渡してくれた。
「ありがとうございます」
お礼を言いながら受け取ると、『着替えを手伝おう』と言ってくれた。
そんなことまでと思ったけれど、先に下着を履いている間にワイシャツのボタンを外し準備をしてくれていてもうあとは流されるまま、あっという間に俺はスーツに着替えてしまっていた。
倉田さんって絶対前世は執事かなんかに違いない!
そう思ってしまうほどあまりの手際の良さに驚いてしまう。
「よしっ。準備万端だな」
ささっとネクタイの締め襟を綺麗にして満足そうに俺を見つめながら、今度はあの広縁の椅子へと連れて行ってくれた。
倉田さんが着替えている間、外の景色を見ていたけれど今日の石垣は雲ひとつない晴天だ。
ああ、今日は西表に行けるといいな。
「朝食は部屋とレストラン、どっちがいい?」
準備を終えた倉田さんがそう尋ねてきた。
えーっ、どっちも捨て難い……けど、昨日からずっと部屋にいるし、レストランも行ってみたいかも。
あ、でも捻挫してるから部屋の方が無難かな……。
「ふふっ。レストランに行きたそうだな。じゃあ、そっちにしようか」
「えっ? あの、なんでわかったんですか?」
「ははっ。藤乃くん、すぐ顔に出るから」
えーっ、そんな出てるかな?
俺は両手でほっぺたをモミモミと触っていると、
「こういうとこ……ほんと可愛すぎるな」
倉田さんが口元を押さえながら何か言っていた。
なんだろう?
倉田さん、時々何か呟いてるのはクセなのかな?
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