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夢の中で癒されて
<side礼央>
ああ、またこの夢だ。
今日で10日連続同じ夢。
よっぽど疲れているんだろう。
夢でだけでも癒されたくて僕の願望が見させてくれてるんだ。
心地よい温もりに包まれて時折誰かの甘い囁きを受けながら、僕はこの上ない幸せに満ち足りた気分になっていた。
ああ、こんな夢ならずっと覚めなければいい。
ここにずっと留まっていたい。
そう思っていたのに、非情にもまた辛い朝がやってくる。
僕の名前は久保田礼央。
今年就職したばかりの22歳。
入社して間もないと言うのに直属の上司に嫌われてしまったのか、何もわからない新入社員には難しすぎる仕事を無限に押し付けられ毎日の帰宅は午前様。
仕事に早く慣れろと祝日も休日もなく働かされて……僕の身体はすっかり悲鳴をあげていた。
そんな僕を癒してくれていたのが、ここ数日必ず見ている夢だった。
わずか数時間の夢の中で、僕は大きくて柔らかなベッドに横たわり、自分よりも逞しく立派な身体をしている誰かに抱きしめられて深い深い眠りについていた。
そのおかげか朝起きると、身体の疲れはともかく頭はすっきりしていた。
夢見がいいというのはこういうことなのだろう。
ほんの少しだけ、あの夢が本当は夢じゃないんじゃないかって思うところもある。
だって、あの柔らかいベッドの感触も、誰かに包み込まれた温もりも、安心する匂いも全て僕は覚えているんだ。
だけど、目を覚ますといつもの自分の部屋。
僕の身体の下には安くて硬いマットレスがある。
それがあの夢を現実だと思えなくしてるんだ。
でも今の僕にはあれが夢でも現実でも構わない。
僕の心を癒してくれる唯一のものなのだから……。
また今日もあの癒しの夢を見られることを期待して、僕は重い身体を引き摺りながら仕事へと向かった。
「久保田ーっ。遅刻してんじゃねーよ! 新入社員は誰よりも早くきて掃除を済ませておくように言っただろうが!」
「すみません。いつもの電車に乗ったんですけど、途中で少し止まってしまって……」
緊急停止ボタンが押されたとかで30分以上電車の中に閉じ込められてしまったんだ。
こうならないように一生懸命早く出たんだけどな……。
朝からこうやって怒鳴られるのは本当にきつい。
「ああっ? 言い訳してんなよ! 社会人ならそういうことも考えてもっと早い電車に乗ってこいよ」
「は、はい。すみません。明日からはそうします」
「けっ! 本当使えないやつだ! お前、罰として今日は会社に泊まりだ。そうしたら遅刻せずに済むだろう」
「いや、それは流石に……」
風呂もない。
ベッドもない。
普段の時ならともかく、疲れ切った今の身体には辛すぎる。
「ああっ? 俺のいうことが聞けないってのか? 俺が会社に泊まれって言ったら泊まればいいんだよ! いちいち楯突くな!」
「くっ――、わかりました」
「じゃあ、会社に一晩中いるなら、これもあれもできるだろう。全部明日の朝までに終わらせとけよ!!」
そう言って僕のデスクに途轍もない量の仕事を置いていく。
ああ、今日は眠れないだろうな。
あの癒しの夢は今日はお預けか……。
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