虐待されていた天使を息子として迎え入れたらみんなが幸せになりました

波木真帆

文字の大きさ
33 / 117

なおは おりこうちゃん

しおりを挟む
ベビーベッドにいる直くんから視線を感じる。
保さんとは一緒にはお風呂には入っていなかったようだと聞いていたし、大人の裸を見るのが珍しいのだろう。
三歳間近のこの時期はどんなことに対しても興味津々なのだから、無理もないか。
この分だときっと昨夜絢斗たちと一緒に入った時も、興味津々に見ていたのだろう。

なんでもおおらかな絢斗はともかく、甥っ子を風呂に入れることなどなさそうな卓くんは少し恥ずかしかったかもしれない。でも子どもというものはこうしていろいろなことも興味を持って成長するのだ。

私もおじいちゃんという立場になったのだから恥ずかしがることなく堂々と過ごすとしよう。

タオルで隠すこともなく、直くんのベビーベッドに向かうと、すでに秋穂が服を脱がせてくれている。

「さぁ、直くん。お風呂入りましょうね」

さっと抱き上げると、直くんの手がそっと秋穂の胸に触れる。
ネグレクトだった実母とはきっと一緒に風呂に入ることもなかっただろうから、柔らかい胸に抱かれることもなかっただろう。子どもなら本能で好きになるものだ。

秋穂の胸が直くんに触れられても嫉妬はしない。
それはきっと絢斗に似ているからかもしれない。

「賢将さん、私が身体を洗うから直くんの髪を洗ってくれる?」

「ああ、昔もこうしてよく洗ったな」

「ええ。懐かしいわ」

浴室に置いてある椅子に秋穂が直くんを抱いて座り、片腕と身体で支えながら器用に直くんの身体を洗っていく。その間に私が直くんの髪を洗ってあげた。
細くて柔らかい髪を絡めないように優しく洗い流すと、直くんは気持ちよさそうに目を瞑っていた。

その後、交代で髪と身体を洗い、一緒に湯船に浸かる。

「じいちゃ、みちぇー」

可愛いアヒルが湯の上を走っていく。

「おお、可愛いな」

「かーいーねー。あいちゃ、ここ、おちて」

秋穂が直くんに言われるままにアヒルの頭を押すと、可愛いアヒルの鳴き声が聞こえる。

「あら、可愛い」

秋穂の笑顔に直くんの頬も緩む。

「じいちゃ」

しばらく遊びながら湯に浸かっていた直くんが私に向かって手を伸ばしてくるので、抱っこして欲しいのかと嬉しくなってその手を取った。

「抱っこを強請ってくれるとは思わなかったな」

可愛いおねだりに喜んでいたが、突然直くんが秋穂に向かって

「あいちゃ、でりゅ」

と言い出した。

「えっ? 私?」

突然出て行けと言わんばかりの言葉に驚くしかなかった私たちだが、

「あいちゃ、おきがえー」

と言って、脱衣所を見る。

「もしかして、これって……」

「ああ、多分そうだな」

きっと昨夜、絢斗が先に出て、その間、卓くんに抱っこされて絢斗の着替えが終わるのを待っていたのだろう。
本当に賢い子だ。

「それじゃあ私、先に出て着替えるわ」

秋穂が湯船を出て脱衣所に向かうのを見送る。

「直くんは賢いな。お利口さんだ」

「なお、おりこうちゃん?」

「ああ、お利口さんだ」

この子は日に日に賢くなっていく。将来が楽しみだな。

<side沙都>

「明日、私と寛さんが直くんの部屋にお泊まりする日なの。よかったら、あなたたちも会いにくる?」

我が家に泊まった翌朝、みんなで朝食をそろって食べながら、毅たちを誘ってみた。
退院してからでもいいかと思っていたけれど、昇のあの様子を見ると早く会わせてあげたくなってしまう。

「もちろん会いに行きたいですけど、直くんは大丈夫ですか? 知らない私たちが突然病室を訪れたら驚かせてしまうんじゃないかしら?」

「あの子は賢い子だから、前もって話をしておいたら大丈夫よ。それに周りがみんな大人だから昇を見ると安心すると思うの」

「ばあちゃん! おれ、あいにいきたいー!」

「ね、昇もそう言っていることだし、みんなで会いにきてちょうだい」

私の言葉に毅も二葉さんも頷いてくれた。

「その代わり、昇。直くんは病気で入院中だから、騒いだりしちゃダメよ」

「わかってるー! おれのだいじなおもちゃかしてあげるー!!」

もうすっかりお兄ちゃん気分の昇に私たちはみんな嬉しくなっていた。

毅たちを見送って掃除や洗濯などの一通りの家事を済ませる。
その間に寛さんが昼食を作ってくれていて、それを二人でいただいた。

「さっき、卓から連絡があったよ」

「あら、何かしら?」

「保さんの退院後の住まいだが、すぐに即決するのはお互いに難しいだろうからとりあえずお試しで両方の家に住んでみたらどうかと言っていた」

「それはいいアイディアね! きっと絢斗くんのアイディアだわ」

「ああ。多分な」

「それじゃあ今日の夕食は保さんの病室に行って一緒に食べない?」

保さんがいるのは特別室。
あの部屋はいつでも面会が許されているし、面会者の食事も頼めると卓が教えてくれた。
食事をしながら好きな料理とか好みを聞いておけば、ここで暮らしてくれることになった時に困らずにすむ。

「それはいいな」

寛さんが賛成してくれたこともあって、昼食を終えた私たちは急いで出かける準備を整えた。
しおりを挟む
感想 237

あなたにおすすめの小説

恋人は配信者ですが一緒に居られる時間がないです!!

海野(サブ)
BL
一吾には大人気配信者グループの1人鈴と付き合っている。しかし恋人が人気配信者ゆえ忙しくて一緒に居る時間がなくて…

ヴァレンツィア家だけ、形勢が逆転している

狼蝶
BL
美醜逆転世界で”悪食伯爵”と呼ばれる男の話。

隣国のΩに婚約破棄をされたので、お望み通り侵略して差し上げよう。

下井理佐
BL
救いなし。序盤で受けが死にます。 大国の第一王子・αのジスランは、小国の第二王子・Ωのルシエルと幼い頃から許嫁の関係だった。 ただの政略結婚の相手であるとルシエルに興味を持たないジスランであったが、婚約発表の社交界前夜、ルシエルから婚約破棄するから受け入れてほしいと言われる。 理由を聞くジスランであったが、ルシエルはただ、 「必ず僕の国を滅ぼして」 それだけ言い、去っていった。 社交界当日、ルシエルは約束通り婚約破棄を皆の前で宣言する。

【完結】私の結婚支度金で借金を支払うそうですけど…?

まりぃべる
ファンタジー
私の両親は典型的貴族。見栄っ張り。 うちは伯爵領を賜っているけれど、借金がたまりにたまって…。その日暮らしていけるのが不思議な位。 私、マーガレットは、今年16歳。 この度、結婚の申し込みが舞い込みました。 私の結婚支度金でたまった借金を返すってウキウキしながら言うけれど…。 支度、はしなくてよろしいのでしょうか。 ☆世界観は、小説の中での世界観となっています。現実とは違う所もありますので、よろしくお願いします。

【短編】追放された聖女は王都でちゃっかり暮らしてる「新聖女が王子の子を身ごもった?」結界を守るために元聖女たちが立ち上がる

みねバイヤーン
恋愛
「ジョセフィーヌ、聖なる力を失い、新聖女コレットの力を奪おうとした罪で、そなたを辺境の修道院に追放いたす」謁見の間にルーカス第三王子の声が朗々と響き渡る。 「異議あり!」ジョセフィーヌは間髪を入れず意義を唱え、証言を述べる。 「証言一、とある元聖女マデリーン。殿下は十代の聖女しか興味がない。証言二、とある元聖女ノエミ。殿下は背が高く、ほっそりしてるのに出るとこ出てるのが好き。証言三、とある元聖女オードリー。殿下は、手は出さない、見てるだけ」 「ええーい、やめーい。不敬罪で追放」 追放された元聖女ジョセフィーヌはさっさと王都に戻って、魚屋で働いてる。そんな中、聖女コレットがルーカス殿下の子を身ごもったという噂が。王国の結界を守るため、元聖女たちは立ち上がった。

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

能ある妃は身分を隠す

赤羽夕夜
恋愛
セラス・フィーは異国で勉学に励む為に、学園に通っていた。――がその卒業パーティーの日のことだった。 言われもない罪でコンペーニュ王国第三王子、アレッシオから婚約破棄を大体的に告げられる。 全てにおいて「身に覚えのない」セラスは、反論をするが、大衆を前に恥を掻かせ、利益を得ようとしか思っていないアレッシオにどうするべきかと、考えているとセラスの前に現れたのは――。

うちに待望の子供が産まれた…けど

satomi
恋愛
セント・ルミヌア王国のウェーリキン侯爵家に双子で生まれたアリサとカリナ。アリサは黒髪。黒髪が『不幸の象徴』とされているセント・ルミヌア王国では疎まれることとなる。対してカリナは金髪。家でも愛されて育つ。二人が4才になったときカリナはアリサを自分の侍女とすることに決めた(一方的に)それから、両親も家での事をすべてアリサ任せにした。 デビュタントで、カリナが皇太子に見られなかったことに腹を立てて、アリサを勘当。隣国へと国外追放した。

処理中です...