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大事な子だから
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<side絢斗>
「卓さん、どうかした?」
「あ、いや。なんでもない」
帰り道、車の中で何度か声をかけたけれどこの繰り返し。
「なんでもないことないでしょう? 昇くんを気にしているの?」
「悪い。自分の狭量さに呆れていたんだ」
「昼間も直くんに会いに行っていたんでしょう? 何かあった?」
講義が立て込んでいて二葉さんたちが病室に顔をみせる時には私は行けなかった。
そのあと直くんと昇くんの可愛い動画が二葉さんから送られてきていたけれど、卓さんのことには何も触れてなかった。
それが気になっていたんだ。
「昇が……直くんを抱っこして……」
「うん。可愛いね」
「可愛いんだが……昇が直くんの匂いを嗅いでいたのが気になって大声を上げてしまったんだ」
「えっ、卓さんが大声?」
聞いた時は信じられなかった。
卓さんは感情が昂っても幼い子どもに大声をあげるなんてことしないと思っていたから。
卓さんはさっと路肩に停めると、私を真剣な目で見つめながらゆっくりと口を開いた。
「自分でもびっくりしたくらいだ。でも驚いて謝罪してきた昇と、私を怖いと言った直くんの表情を忘れられない。申し訳ないことをしたと思ったのに、さっき昇が直くんのところに泊まると聞いた時に嫉妬してしまったんだ」
「そっか……そうだったんだ」
「絢斗も呆れているだろう? あんな小さな子に嫉妬する私を……」
「ううん、呆れたりしないよ」
「えっ……」
私の言葉に卓さんは目を丸くして私を見つめた。
「嫉妬するってことは、直くんのことを愛している証拠でしょう? 多分、昇くんが匂いを嗅いでいたのが直くんじゃなく私だったとしても同じくらい気にしてくれたはずだし、嫉妬してくれたはずだよ。私はそこに卓さんの愛を感じるし、直くんももう少し大きくなったら怖がらずに嬉しいって思ってくれると思うな」
「絢斗……」
「それに何より、卓さんもわかってるんでしょう? 昇くんにとって直くんが大事な子だって。だから余計に嫉妬しちゃったんだよね」
二葉さんから送られてきた動画とさっきの二人の様子を見ただけでもすぐにわかった。
まだお互い子どもだから恋愛という感じではないけれど、本能が大事な子だと告げていた。
卓さんはそれをわかっているから可愛い息子がもう取られてしまうと思って余計に嫉妬してしまったのかもしれない。
うちのお父さんでさえ、卓さんと出会った頃は寄り添って歩いているだけで嫉妬してたし。
そういうものなんだろうなってお母さんと話したことがある。
今では私が卓さんと仲良くしているのを安心して見てくれるから、きっと卓さんも時間が経ったら嫉妬しないようになるんじゃないかな。
「今はまだ直くんが私たちの息子になったばかりで私たちも緊張しているっていうか、ほら、産後のガルガル期って知ってる?」
「ガルガル期?」
「うん、出産してすぐのお母さんは、自分の子どもが他の人に触れられていると不快な気持ちになったりするんだって。子どもを守る防衛反応がそうさせているみたいだよ。私たちも直くんと知り合ってまだ少しだしその時期になっていてもおかしくないよね? 私たちが直くんと一緒に住み始めたらこの気持ちもおさまってくるんじゃないかな」
「防衛反応、か……。確かに、これ以上傷つけられないように過剰に反応していたかもしれないな」
昇くんに対しては本当に嫉妬だろうけど、これは内緒にしておこう。
「だから私は卓さんに呆れたりしないよ。卓さんは本当のパパになっている成長段階だと思ってるから……」
「絢斗……ありがとう」
ようやく卓さんの表情が和らいだ。
よかったな。
「帰ろうか」
「ああ、そうだな。ゆっくり風呂にでも入ろう」
卓さんからの甘い誘いに私は断る理由なんてどこにもなかった。
「あ、そういえば志良堂教授から聞いた?」
「志良堂から? なんだ?」
「皐月と志良堂教授がもうすぐ高校生の子を引き取るんだって。倉橋くんの会社に新卒で入る子の弟さんで宮古島の子なんだって」
「それでどうして志良堂の家に?」
「すごく優秀な子だから桜守に通わせたいからって言ってたよ。写真見せてもらったけどすっごく可愛い子だったんだ。今度学校見学も兼ねて東京に来るって言ってたからその時に直くんにも会いに来るって話してたよ。伊織くんもいるからちょうどいいよね」
志良堂家に引き取られた伊織くんと、志良堂家で生活することになる真琴くん。
話は合うだろうな。
「そうか、志良堂のところもまた賑やかになりそうだな」
「うん。伊織くんが働き始めてなかなか会えないって溢してたから。可愛い子のお世話ができるから張り切りそうだよね」
伊織くんが皐月の家で過ごしている間は毎日楽しそうだったもんね。
そういえば、あの時の志良堂教授も少なからず伊織くんに嫉妬していた気がする。
みんなそういうものなのかもしれない。
「卓さん、どうかした?」
「あ、いや。なんでもない」
帰り道、車の中で何度か声をかけたけれどこの繰り返し。
「なんでもないことないでしょう? 昇くんを気にしているの?」
「悪い。自分の狭量さに呆れていたんだ」
「昼間も直くんに会いに行っていたんでしょう? 何かあった?」
講義が立て込んでいて二葉さんたちが病室に顔をみせる時には私は行けなかった。
そのあと直くんと昇くんの可愛い動画が二葉さんから送られてきていたけれど、卓さんのことには何も触れてなかった。
それが気になっていたんだ。
「昇が……直くんを抱っこして……」
「うん。可愛いね」
「可愛いんだが……昇が直くんの匂いを嗅いでいたのが気になって大声を上げてしまったんだ」
「えっ、卓さんが大声?」
聞いた時は信じられなかった。
卓さんは感情が昂っても幼い子どもに大声をあげるなんてことしないと思っていたから。
卓さんはさっと路肩に停めると、私を真剣な目で見つめながらゆっくりと口を開いた。
「自分でもびっくりしたくらいだ。でも驚いて謝罪してきた昇と、私を怖いと言った直くんの表情を忘れられない。申し訳ないことをしたと思ったのに、さっき昇が直くんのところに泊まると聞いた時に嫉妬してしまったんだ」
「そっか……そうだったんだ」
「絢斗も呆れているだろう? あんな小さな子に嫉妬する私を……」
「ううん、呆れたりしないよ」
「えっ……」
私の言葉に卓さんは目を丸くして私を見つめた。
「嫉妬するってことは、直くんのことを愛している証拠でしょう? 多分、昇くんが匂いを嗅いでいたのが直くんじゃなく私だったとしても同じくらい気にしてくれたはずだし、嫉妬してくれたはずだよ。私はそこに卓さんの愛を感じるし、直くんももう少し大きくなったら怖がらずに嬉しいって思ってくれると思うな」
「絢斗……」
「それに何より、卓さんもわかってるんでしょう? 昇くんにとって直くんが大事な子だって。だから余計に嫉妬しちゃったんだよね」
二葉さんから送られてきた動画とさっきの二人の様子を見ただけでもすぐにわかった。
まだお互い子どもだから恋愛という感じではないけれど、本能が大事な子だと告げていた。
卓さんはそれをわかっているから可愛い息子がもう取られてしまうと思って余計に嫉妬してしまったのかもしれない。
うちのお父さんでさえ、卓さんと出会った頃は寄り添って歩いているだけで嫉妬してたし。
そういうものなんだろうなってお母さんと話したことがある。
今では私が卓さんと仲良くしているのを安心して見てくれるから、きっと卓さんも時間が経ったら嫉妬しないようになるんじゃないかな。
「今はまだ直くんが私たちの息子になったばかりで私たちも緊張しているっていうか、ほら、産後のガルガル期って知ってる?」
「ガルガル期?」
「うん、出産してすぐのお母さんは、自分の子どもが他の人に触れられていると不快な気持ちになったりするんだって。子どもを守る防衛反応がそうさせているみたいだよ。私たちも直くんと知り合ってまだ少しだしその時期になっていてもおかしくないよね? 私たちが直くんと一緒に住み始めたらこの気持ちもおさまってくるんじゃないかな」
「防衛反応、か……。確かに、これ以上傷つけられないように過剰に反応していたかもしれないな」
昇くんに対しては本当に嫉妬だろうけど、これは内緒にしておこう。
「だから私は卓さんに呆れたりしないよ。卓さんは本当のパパになっている成長段階だと思ってるから……」
「絢斗……ありがとう」
ようやく卓さんの表情が和らいだ。
よかったな。
「帰ろうか」
「ああ、そうだな。ゆっくり風呂にでも入ろう」
卓さんからの甘い誘いに私は断る理由なんてどこにもなかった。
「あ、そういえば志良堂教授から聞いた?」
「志良堂から? なんだ?」
「皐月と志良堂教授がもうすぐ高校生の子を引き取るんだって。倉橋くんの会社に新卒で入る子の弟さんで宮古島の子なんだって」
「それでどうして志良堂の家に?」
「すごく優秀な子だから桜守に通わせたいからって言ってたよ。写真見せてもらったけどすっごく可愛い子だったんだ。今度学校見学も兼ねて東京に来るって言ってたからその時に直くんにも会いに来るって話してたよ。伊織くんもいるからちょうどいいよね」
志良堂家に引き取られた伊織くんと、志良堂家で生活することになる真琴くん。
話は合うだろうな。
「そうか、志良堂のところもまた賑やかになりそうだな」
「うん。伊織くんが働き始めてなかなか会えないって溢してたから。可愛い子のお世話ができるから張り切りそうだよね」
伊織くんが皐月の家で過ごしている間は毎日楽しそうだったもんね。
そういえば、あの時の志良堂教授も少なからず伊織くんに嫉妬していた気がする。
みんなそういうものなのかもしれない。
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