48 / 122
大事な子だから
<side絢斗>
「卓さん、どうかした?」
「あ、いや。なんでもない」
帰り道、車の中で何度か声をかけたけれどこの繰り返し。
「なんでもないことないでしょう? 昇くんを気にしているの?」
「悪い。自分の狭量さに呆れていたんだ」
「昼間も直くんに会いに行っていたんでしょう? 何かあった?」
講義が立て込んでいて二葉さんたちが病室に顔をみせる時には私は行けなかった。
そのあと直くんと昇くんの可愛い動画が二葉さんから送られてきていたけれど、卓さんのことには何も触れてなかった。
それが気になっていたんだ。
「昇が……直くんを抱っこして……」
「うん。可愛いね」
「可愛いんだが……昇が直くんの匂いを嗅いでいたのが気になって大声を上げてしまったんだ」
「えっ、卓さんが大声?」
聞いた時は信じられなかった。
卓さんは感情が昂っても幼い子どもに大声をあげるなんてことしないと思っていたから。
卓さんはさっと路肩に停めると、私を真剣な目で見つめながらゆっくりと口を開いた。
「自分でもびっくりしたくらいだ。でも驚いて謝罪してきた昇と、私を怖いと言った直くんの表情を忘れられない。申し訳ないことをしたと思ったのに、さっき昇が直くんのところに泊まると聞いた時に嫉妬してしまったんだ」
「そっか……そうだったんだ」
「絢斗も呆れているだろう? あんな小さな子に嫉妬する私を……」
「ううん、呆れたりしないよ」
「えっ……」
私の言葉に卓さんは目を丸くして私を見つめた。
「嫉妬するってことは、直くんのことを愛している証拠でしょう? 多分、昇くんが匂いを嗅いでいたのが直くんじゃなく私だったとしても同じくらい気にしてくれたはずだし、嫉妬してくれたはずだよ。私はそこに卓さんの愛を感じるし、直くんももう少し大きくなったら怖がらずに嬉しいって思ってくれると思うな」
「絢斗……」
「それに何より、卓さんもわかってるんでしょう? 昇くんにとって直くんが大事な子だって。だから余計に嫉妬しちゃったんだよね」
二葉さんから送られてきた動画とさっきの二人の様子を見ただけでもすぐにわかった。
まだお互い子どもだから恋愛という感じではないけれど、本能が大事な子だと告げていた。
卓さんはそれをわかっているから可愛い息子がもう取られてしまうと思って余計に嫉妬してしまったのかもしれない。
うちのお父さんでさえ、卓さんと出会った頃は寄り添って歩いているだけで嫉妬してたし。
そういうものなんだろうなってお母さんと話したことがある。
今では私が卓さんと仲良くしているのを安心して見てくれるから、きっと卓さんも時間が経ったら嫉妬しないようになるんじゃないかな。
「今はまだ直くんが私たちの息子になったばかりで私たちも緊張しているっていうか、ほら、産後のガルガル期って知ってる?」
「ガルガル期?」
「うん、出産してすぐのお母さんは、自分の子どもが他の人に触れられていると不快な気持ちになったりするんだって。子どもを守る防衛反応がそうさせているみたいだよ。私たちも直くんと知り合ってまだ少しだしその時期になっていてもおかしくないよね? 私たちが直くんと一緒に住み始めたらこの気持ちもおさまってくるんじゃないかな」
「防衛反応、か……。確かに、これ以上傷つけられないように過剰に反応していたかもしれないな」
昇くんに対しては本当に嫉妬だろうけど、これは内緒にしておこう。
「だから私は卓さんに呆れたりしないよ。卓さんは本当のパパになっている成長段階だと思ってるから……」
「絢斗……ありがとう」
ようやく卓さんの表情が和らいだ。
よかったな。
「帰ろうか」
「ああ、そうだな。ゆっくり風呂にでも入ろう」
卓さんからの甘い誘いに私は断る理由なんてどこにもなかった。
「あ、そういえば志良堂教授から聞いた?」
「志良堂から? なんだ?」
「皐月と志良堂教授がもうすぐ高校生の子を引き取るんだって。倉橋くんの会社に新卒で入る子の弟さんで宮古島の子なんだって」
「それでどうして志良堂の家に?」
「すごく優秀な子だから桜守に通わせたいからって言ってたよ。写真見せてもらったけどすっごく可愛い子だったんだ。今度学校見学も兼ねて東京に来るって言ってたからその時に直くんにも会いに来るって話してたよ。伊織くんもいるからちょうどいいよね」
志良堂家に引き取られた伊織くんと、志良堂家で生活することになる真琴くん。
話は合うだろうな。
「そうか、志良堂のところもまた賑やかになりそうだな」
「うん。伊織くんが働き始めてなかなか会えないって溢してたから。可愛い子のお世話ができるから張り切りそうだよね」
伊織くんが皐月の家で過ごしている間は毎日楽しそうだったもんね。
そういえば、あの時の志良堂教授も少なからず伊織くんに嫉妬していた気がする。
みんなそういうものなのかもしれない。
「卓さん、どうかした?」
「あ、いや。なんでもない」
帰り道、車の中で何度か声をかけたけれどこの繰り返し。
「なんでもないことないでしょう? 昇くんを気にしているの?」
「悪い。自分の狭量さに呆れていたんだ」
「昼間も直くんに会いに行っていたんでしょう? 何かあった?」
講義が立て込んでいて二葉さんたちが病室に顔をみせる時には私は行けなかった。
そのあと直くんと昇くんの可愛い動画が二葉さんから送られてきていたけれど、卓さんのことには何も触れてなかった。
それが気になっていたんだ。
「昇が……直くんを抱っこして……」
「うん。可愛いね」
「可愛いんだが……昇が直くんの匂いを嗅いでいたのが気になって大声を上げてしまったんだ」
「えっ、卓さんが大声?」
聞いた時は信じられなかった。
卓さんは感情が昂っても幼い子どもに大声をあげるなんてことしないと思っていたから。
卓さんはさっと路肩に停めると、私を真剣な目で見つめながらゆっくりと口を開いた。
「自分でもびっくりしたくらいだ。でも驚いて謝罪してきた昇と、私を怖いと言った直くんの表情を忘れられない。申し訳ないことをしたと思ったのに、さっき昇が直くんのところに泊まると聞いた時に嫉妬してしまったんだ」
「そっか……そうだったんだ」
「絢斗も呆れているだろう? あんな小さな子に嫉妬する私を……」
「ううん、呆れたりしないよ」
「えっ……」
私の言葉に卓さんは目を丸くして私を見つめた。
「嫉妬するってことは、直くんのことを愛している証拠でしょう? 多分、昇くんが匂いを嗅いでいたのが直くんじゃなく私だったとしても同じくらい気にしてくれたはずだし、嫉妬してくれたはずだよ。私はそこに卓さんの愛を感じるし、直くんももう少し大きくなったら怖がらずに嬉しいって思ってくれると思うな」
「絢斗……」
「それに何より、卓さんもわかってるんでしょう? 昇くんにとって直くんが大事な子だって。だから余計に嫉妬しちゃったんだよね」
二葉さんから送られてきた動画とさっきの二人の様子を見ただけでもすぐにわかった。
まだお互い子どもだから恋愛という感じではないけれど、本能が大事な子だと告げていた。
卓さんはそれをわかっているから可愛い息子がもう取られてしまうと思って余計に嫉妬してしまったのかもしれない。
うちのお父さんでさえ、卓さんと出会った頃は寄り添って歩いているだけで嫉妬してたし。
そういうものなんだろうなってお母さんと話したことがある。
今では私が卓さんと仲良くしているのを安心して見てくれるから、きっと卓さんも時間が経ったら嫉妬しないようになるんじゃないかな。
「今はまだ直くんが私たちの息子になったばかりで私たちも緊張しているっていうか、ほら、産後のガルガル期って知ってる?」
「ガルガル期?」
「うん、出産してすぐのお母さんは、自分の子どもが他の人に触れられていると不快な気持ちになったりするんだって。子どもを守る防衛反応がそうさせているみたいだよ。私たちも直くんと知り合ってまだ少しだしその時期になっていてもおかしくないよね? 私たちが直くんと一緒に住み始めたらこの気持ちもおさまってくるんじゃないかな」
「防衛反応、か……。確かに、これ以上傷つけられないように過剰に反応していたかもしれないな」
昇くんに対しては本当に嫉妬だろうけど、これは内緒にしておこう。
「だから私は卓さんに呆れたりしないよ。卓さんは本当のパパになっている成長段階だと思ってるから……」
「絢斗……ありがとう」
ようやく卓さんの表情が和らいだ。
よかったな。
「帰ろうか」
「ああ、そうだな。ゆっくり風呂にでも入ろう」
卓さんからの甘い誘いに私は断る理由なんてどこにもなかった。
「あ、そういえば志良堂教授から聞いた?」
「志良堂から? なんだ?」
「皐月と志良堂教授がもうすぐ高校生の子を引き取るんだって。倉橋くんの会社に新卒で入る子の弟さんで宮古島の子なんだって」
「それでどうして志良堂の家に?」
「すごく優秀な子だから桜守に通わせたいからって言ってたよ。写真見せてもらったけどすっごく可愛い子だったんだ。今度学校見学も兼ねて東京に来るって言ってたからその時に直くんにも会いに来るって話してたよ。伊織くんもいるからちょうどいいよね」
志良堂家に引き取られた伊織くんと、志良堂家で生活することになる真琴くん。
話は合うだろうな。
「そうか、志良堂のところもまた賑やかになりそうだな」
「うん。伊織くんが働き始めてなかなか会えないって溢してたから。可愛い子のお世話ができるから張り切りそうだよね」
伊織くんが皐月の家で過ごしている間は毎日楽しそうだったもんね。
そういえば、あの時の志良堂教授も少なからず伊織くんに嫉妬していた気がする。
みんなそういうものなのかもしれない。
あなたにおすすめの小説
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
運命じゃない人
万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。
理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
空港清掃員58歳、転生先の王宮でも床を磨いたら双子に懐かれ、国王に溺愛される
木風
恋愛
羽田空港で十五年、黙々と床を磨いてきた清掃員・田中幸子(58)は事故死し、没落寸前の子爵令嬢エルシアとして転生する。
婚約破棄の末に家を追われた彼女が選んだのは、王宮の清掃員――前世の技で空気まで変わるほど磨き上げていく仕事だった。
やがて母を亡くした双子王子王女に懐かれ、荒れた執務室の主である喪中の国王とも距離が縮まり……。
「泣くなら俺の胸で」――床も心も磨き直す、清掃令嬢の溺愛成り上がり。
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
完結しました!ありがとうございました。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。