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友人への紹介
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<side卓>
「今日、志良堂と鳴宮くんが来るんだったか?」
すっかり気に入ったらしいプレイハウスで遊んでいる直くんを見ながら、絢斗に話しかけると絢斗は直くんに手を振りながら答えてくれた。
「うん。伊織くんより先に直くんに会いたいんだって」
「ははっ。鳴宮くんらしいな」
だからか。
いつもの絢斗なら、直くんを連れて帰るときに少し事務所に顔を出したいと言い出すと思っていた。
直くんに早く部屋を見せたいがために我慢したのだと思っていたが、鳴宮くんとの約束を守るためだったんだろう。
「直くんが食べられるものをお土産に持ってきてくれるって言ってたから、それでお茶にしよう」
「志良堂のことだから時間的にそろそろ連絡が来そう――ああ、やっぱり来たぞ」
スマホを取り出そうとしたところで私の手に振動が伝わってきた。
<あと十五分ほどで着くよ。今日は少しだけ会わせてもらったらすぐに帰るから。ちなみに今日私たちがそっちにいくことは伊織には知らせていないよ>
安慶名くんへのサプライズめいたメッセージが入っていて思わず笑ってしまった。
私も少しそんな気がしていたから、安慶名くんと成瀬くんには二人が来ることは内緒にしていた。
察しのいい成瀬くんなら、もしかしたら直くんが我が家に来た日に鳴宮くんが会いに来るかも……とほんの少しの可能性を感じているかもしれないが、安慶名くんは流石にそこまで想像してはいないだろう。
突然志良堂と鳴宮くんが現れたらどんな反応をするだろうな。
「絢斗、見てごらん」
私はスマホのメッセージを絢斗の前に差し出した。
絢斗がスマホに目を向けている間は、私が直くんの動向をしっかりと見ている。
決して目を離すことはない。
「わぁ、おもしろそう!! 流石の伊織くんも皐月たちが来たら驚くだろうね」
「地下の駐車場に入れるように伝えたから、そこに迎えにいって一緒に事務所にあがろうか」
「うん! あ、でも直くん。地下の駐車場怖がらないかな?」
窓のない部屋は怖がるかもしれないと思ったんだろう。
「大丈夫。直くんの好きなぬいぐるみを持たせて、絢斗が抱っこしたら怖がらないよ。それにそこから車に乗ることもこれからあるから一度は見せておかないといけないだろう?」
「うん、そうだね。直くん、まだ見てないお部屋があるから探検に行こうか」
「たん、けん?」
わからなくて小首をかしげる仕草が可愛くて仕方がない。
「そう、車のお家があるんだよ。そこを探検しに行こう」
「くるまの、おうちー! たんけん、ちゅるー!!」
入院生活で私たちだけでなく大勢の人間と関わって、絵本もいっぱい読み聞かせしたおかげで覚束なかった言葉の理解も一気に増した。直くんと言葉を交わせば交わすほど、直くんの語彙力が増えていくのを身をもって感じていた。
絢斗が直くんを抱っこして、地下駐車場に向かう。
最初こそ、緊張しているようだったが絢斗が探検だと言ってくれたおかげで興味はあるようだ。
そこに志良堂の車が入ってくる。
「わぁっ!!」
直くんは車のヘッドライトに驚いて大きな声をあげたから、私はさっと二人を守るように抱きしめた。
「大丈夫だよ。あーちゃんのお友だちが直くんに会いに来てくれたんだよ」
「あーちゃ、おともらち?」
絢斗の優しい言葉にホッとした様子の直くんを絢斗に任せて、私は急いで志良堂の車に駆け寄った。
「すぐにライトを消してくれ。直くんが驚いている」
「ああ、悪い」
さっとライトが消えると、絢斗が直くんを連れてこちらに近づいてきた。
その姿に一気に笑顔を見せた鳴宮くんは、志良堂が扉を開けてやる前にさっさと自分で助手席の扉を開け飛び出していった。
「絢斗ー! この子が直くん? めちゃくちゃ可愛い!!」
「ふふっ。私と卓さんの可愛い息子だよ。ね、直くん」
絢斗が直くんをぎゅっと抱きしめて頬を擦り寄せると、直くんは嬉しそうに笑っていた。
それを見ているだけで癒される。
「磯山……お前のそんな表情が見られるとはな……想像以上だよ」
「本当に可愛いんだよ。時々、私と絢斗の本当の子どもなんじゃないかと錯覚する時があるくらいだ」
「そこまでか……それはもう運命だな。どういう縁であっても必ず出会う運命だったんだよ、磯山と緑川くんのようにな」
直くんと必ず出会う運命……。それはそうかもしれない。
だって、ひと目みた時からこの子を一生守り抜くと誓ったんだから。
「直くん、私は、さっちゃんだよ」
「さっちゃ?」
「可愛い! そう、さっちゃん。抱っこさせてくれる?」
鳴宮くんが手を差し出すと、直くんは一瞬絢斗の顔を見てから、鳴宮くんの手に自分の手を伸ばした。
「わぁー! 可愛い!!」
鳴宮くんの腕の中にすっぽりとおさまるその姿は、絢斗同様に安心しているように見えた。
「あの子は、自分に危害を及ぼさない相手だとすぐに理解できるようだな」
「直くんは本当に賢い子なんだよ」
直くんを抱っこして、きゃっきゃと楽しんでいる鳴宮くんと絢斗の様子を私と志良堂は微笑ましく思いながら見つめていた。
「今日、志良堂と鳴宮くんが来るんだったか?」
すっかり気に入ったらしいプレイハウスで遊んでいる直くんを見ながら、絢斗に話しかけると絢斗は直くんに手を振りながら答えてくれた。
「うん。伊織くんより先に直くんに会いたいんだって」
「ははっ。鳴宮くんらしいな」
だからか。
いつもの絢斗なら、直くんを連れて帰るときに少し事務所に顔を出したいと言い出すと思っていた。
直くんに早く部屋を見せたいがために我慢したのだと思っていたが、鳴宮くんとの約束を守るためだったんだろう。
「直くんが食べられるものをお土産に持ってきてくれるって言ってたから、それでお茶にしよう」
「志良堂のことだから時間的にそろそろ連絡が来そう――ああ、やっぱり来たぞ」
スマホを取り出そうとしたところで私の手に振動が伝わってきた。
<あと十五分ほどで着くよ。今日は少しだけ会わせてもらったらすぐに帰るから。ちなみに今日私たちがそっちにいくことは伊織には知らせていないよ>
安慶名くんへのサプライズめいたメッセージが入っていて思わず笑ってしまった。
私も少しそんな気がしていたから、安慶名くんと成瀬くんには二人が来ることは内緒にしていた。
察しのいい成瀬くんなら、もしかしたら直くんが我が家に来た日に鳴宮くんが会いに来るかも……とほんの少しの可能性を感じているかもしれないが、安慶名くんは流石にそこまで想像してはいないだろう。
突然志良堂と鳴宮くんが現れたらどんな反応をするだろうな。
「絢斗、見てごらん」
私はスマホのメッセージを絢斗の前に差し出した。
絢斗がスマホに目を向けている間は、私が直くんの動向をしっかりと見ている。
決して目を離すことはない。
「わぁ、おもしろそう!! 流石の伊織くんも皐月たちが来たら驚くだろうね」
「地下の駐車場に入れるように伝えたから、そこに迎えにいって一緒に事務所にあがろうか」
「うん! あ、でも直くん。地下の駐車場怖がらないかな?」
窓のない部屋は怖がるかもしれないと思ったんだろう。
「大丈夫。直くんの好きなぬいぐるみを持たせて、絢斗が抱っこしたら怖がらないよ。それにそこから車に乗ることもこれからあるから一度は見せておかないといけないだろう?」
「うん、そうだね。直くん、まだ見てないお部屋があるから探検に行こうか」
「たん、けん?」
わからなくて小首をかしげる仕草が可愛くて仕方がない。
「そう、車のお家があるんだよ。そこを探検しに行こう」
「くるまの、おうちー! たんけん、ちゅるー!!」
入院生活で私たちだけでなく大勢の人間と関わって、絵本もいっぱい読み聞かせしたおかげで覚束なかった言葉の理解も一気に増した。直くんと言葉を交わせば交わすほど、直くんの語彙力が増えていくのを身をもって感じていた。
絢斗が直くんを抱っこして、地下駐車場に向かう。
最初こそ、緊張しているようだったが絢斗が探検だと言ってくれたおかげで興味はあるようだ。
そこに志良堂の車が入ってくる。
「わぁっ!!」
直くんは車のヘッドライトに驚いて大きな声をあげたから、私はさっと二人を守るように抱きしめた。
「大丈夫だよ。あーちゃんのお友だちが直くんに会いに来てくれたんだよ」
「あーちゃ、おともらち?」
絢斗の優しい言葉にホッとした様子の直くんを絢斗に任せて、私は急いで志良堂の車に駆け寄った。
「すぐにライトを消してくれ。直くんが驚いている」
「ああ、悪い」
さっとライトが消えると、絢斗が直くんを連れてこちらに近づいてきた。
その姿に一気に笑顔を見せた鳴宮くんは、志良堂が扉を開けてやる前にさっさと自分で助手席の扉を開け飛び出していった。
「絢斗ー! この子が直くん? めちゃくちゃ可愛い!!」
「ふふっ。私と卓さんの可愛い息子だよ。ね、直くん」
絢斗が直くんをぎゅっと抱きしめて頬を擦り寄せると、直くんは嬉しそうに笑っていた。
それを見ているだけで癒される。
「磯山……お前のそんな表情が見られるとはな……想像以上だよ」
「本当に可愛いんだよ。時々、私と絢斗の本当の子どもなんじゃないかと錯覚する時があるくらいだ」
「そこまでか……それはもう運命だな。どういう縁であっても必ず出会う運命だったんだよ、磯山と緑川くんのようにな」
直くんと必ず出会う運命……。それはそうかもしれない。
だって、ひと目みた時からこの子を一生守り抜くと誓ったんだから。
「直くん、私は、さっちゃんだよ」
「さっちゃ?」
「可愛い! そう、さっちゃん。抱っこさせてくれる?」
鳴宮くんが手を差し出すと、直くんは一瞬絢斗の顔を見てから、鳴宮くんの手に自分の手を伸ばした。
「わぁー! 可愛い!!」
鳴宮くんの腕の中にすっぽりとおさまるその姿は、絢斗同様に安心しているように見えた。
「あの子は、自分に危害を及ぼさない相手だとすぐに理解できるようだな」
「直くんは本当に賢い子なんだよ」
直くんを抱っこして、きゃっきゃと楽しんでいる鳴宮くんと絢斗の様子を私と志良堂は微笑ましく思いながら見つめていた。
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