虐待されていた天使を息子として迎え入れたらみんなが幸せになりました

波木真帆

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楽しいサプライズ

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「直くん、本当に可愛い!」

鳴宮くんが直くんをあまりにも愛おしそうに抱きしめているから、志良堂が嫉妬しないかと心配したが、志良堂も二人の様子を微笑ましく見ているようだ。

「磯山、写真を撮ってもいいか?」

「構わないよ」

私に確認をとってからスマホを構えた志良堂は嬉しそうに、直くんを抱っこした鳴宮くんの写真を撮っていた。

「ねぇ、宗一郎さんも抱っこさせてもらおうよ」

鳴宮くんの声に志良堂は伺いを立てるようにそっと私に視線を向けた。

「直くんから志良堂に手を伸ばすなら構わないよ」

そんな私の言葉に、志良堂は笑顔を浮かべながら直くんに手を差し出した。

「おじさんのところに来るかい?」

直くんは一瞬考えた様子を見せたが、小さな腕を志良堂に向ける。

「――っ!!」

志良堂は嬉しそうに直くんを抱きあげ、自分の腕で包み込む。

「ああ、可愛いな……」

愛おしそうに直くんを見つめるその姿。
私は志良堂の初めてみる表情に思わず写真を撮っていた。

「おいちゃ?」

直くんは志良堂の頬をペタペタと触って不思議そうにしている。
どうしたんだろう?

「ねぇ、卓さん。直くん、もしかしたら志良堂教授がおじさんって言ったから毅さんと混同して不思議に思ってるんじゃない? おじちゃんってこんな顔だったっけ?って」

「あっ!」

――おじちゃんでいいだろう。

私がそう言ったから直くんは毅をおじちゃんと呼んでいたんだったか。
確かに同じ名前なら混乱しても不思議はない。

「明らかに違う顔なのに名前が一緒なら悩んでも不思議はないな。さて、どうしようか」

「ん? なになに? 宗一郎さんの呼ばれ方?」

私と絢斗が話をしていると鳴宮くんが話に加わってきた。

「そうなんだよ。直くん、志良堂教授をなんて呼んだらいいかな?」

「うーん。宗一郎って子どもには長いもんね。じゃあそうちゃんでいいんじゃない? 可愛いし」

志良堂が……そうちゃん。

なんとも不思議な感覚だが直くんには呼びやすいのは間違いない。

「直くん、この人はそうちゃんだよ」

「そうちゃ?」

「うん、そうちゃん! 直くん、上手だね」

「そうちゃ!」

鳴宮くんに褒められて嬉しかったのか、直くんは志良堂の頬を触りながら笑顔でそうちゃんと呼んでいた。

志良堂のまんざらでもなさそうな顔に思わず笑ってしまう。
あいつにもこんな表情ができたんだな。

「それにしても宗一郎さん、抱っこ上手だね」

「それは皐月で慣れているからね」

「もう! 私は赤ちゃんじゃないよ」

「ははっ」

志良堂と鳴宮くんが直くんを中心に寄り添って話をしているのを見ると、心が温かくなってくる。

「皐月も志良堂教授も嬉しそう。直くんがいるだけでこんなに幸せになれるんだね」

「ああ、あの子はみんなの天使だよ」

私の言葉に絢斗は少し考えたかと思ったら、何かを思いついたとばかりに笑顔を向けた。

「ねぇねぇ、志良堂教授が直くんを抱っこして事務所に行こうよ。伊織くん、絶対に驚くよ!」

「わぁ! それ、楽しそう!!」

鳴宮くんは絢斗の考えにすぐに賛同するが、志良堂は直くんが気になるらしい。

「私に抱っこされて連れて行かれて不安にならないか?」

やっぱりそこか。でも今の直くんの様子を見ていると大丈夫だろう。
私が直くんを連れて行きたかったが、普段冷静な安慶名くんを驚かせるのは、私よりも断然志良堂だからな。
ちょっと見てみたい気もする。

「私たちも一緒に行くから大丈夫ですよ。ね、直くん。今から、かっこいいお兄ちゃんたちに会いに行こうか?」

絢斗もすかさず直くんに声をかけると、直くんの興味をひいたようだ。

「にいちゃ?」

「そう。そうちゃんとさっちゃんの子どもなんだよ。直くん、こんにちはってご挨拶できるかな?」

「こんちちわ、れきるー!」

子ども特有の舌足らずな発音に癒される。

「じゃあ、行こうか」

私たちは地下駐車場から事務所へ上がった。

今の時間は依頼人は誰もきていないのはわかっている。
二人で協力して仕事をしてくれているはずだ。

いつも二人にはお世話になっているから驚かせるのは悪い気もするが、可愛い直くんを紹介しつつ楽しい時間にするだけだ。
そう自分に言い聞かせて事務所に入る扉の前に立った。

「ここから入れば、すぐに事務所だ」

直くんを抱っこした志良堂を先頭に隣に鳴宮くん。
その後ろから、私と絢斗もついていった。

そっと彼らに近づき、成瀬くんが私たちの気配に気づきかけたところで、

「伊織」

と志良堂が声をかける。

「えっ? はっ?」

安慶名くんはそんな声を発したまま、その場に茫然と立ち尽くしていた。
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