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〜桜の木の下で〜 <中編> side佳都
<side佳都>
――桜守の初等部にはすごく大きくて綺麗な桜の木があるの。その大きな桜の木の下で好きな人とキスをすると、一生一緒にいられるのよ。
桜守出身のママから、そんな話をぼくは何度も聞いていた。
その時ぼくは日本から遠く離れた場所に住んでいて、いつかその桜の木を見てみたいとずっと思っていた。
パパの海外での仕事が終わって、日本に戻ることになった時、ぼくは絶対に桜守学園に行きたいってお願いしたんだ。
そして、頑張って勉強して合格することができた。
海外で暮らしていても、家では必ず日本語で話すというルールだったから、ぼくは英語もフランス語も日本語も話すのは上手になった。日本語を書くのはまだまだ難しいけどね。
そうして、待ちに待った桜守学園初等部の入学式の日。
「それじゃあママとパパは体育館に行っておくわね。佳都はあそこで名札をもらって教室に行くのよ」
「わかったー! けいと、ひとりでできるからパパとママはさきにいっていーよ!」
ちょっと心配そうな顔をしていたけれど、パパとママは先に体育館に行った。
「よし! ひとりでがんばるぞー!」
名札をもらいに行こうとしたその時、ふと桜の木のことを思い出した。
まだ時間はあるし、先に桜の木を見ておこうかな。
だって、人がいっぱいになったらゆっくり見られないし。
ママから桜の木の場所は聞いて知っている。
ぼくは先に桜を見に行こうと駆け出した。
「あ! あったー! すっごくおっきい! それにきれーい!」
ママが言ってたとおり、本当におっきな桜の木。
ひらひらと舞う白っぽい花びらがすごく綺麗だ。
ぼくは桜の下に駆け寄ってひらひらと舞う花びらを見上げた。
ひらひらと落ちてきた花びらがぼくのほっぺたに触れる。
「これ、きょうのきねんにもってかえろう! パパとママにもみせなきゃ!」
ぼくはポケットからハンカチを取り出して、ぼくのほっぺたに落ちた花びらを挟んだ。
前に花びらでママが栞を作ってくれたから、これで同じように作ってもらおう。
夢にまで見ていた桜の木に来ることができて、可愛いお土産までできてぼくは幸せな気分でいっぱいになっていた。
その時、ぼくの後ろから突然声が聞こえた。
「こっちのほうが綺麗じゃない?」
急に聞こえた声にびっくりして振り返ると、桜の花を手のひらにのせて渡してくれるおにーさんがいた。
「えっ……」
これは、夢? なのかな?
おにーさん、全然動かないし、ぼくを見て驚いているみたい。
「あ、あの……」
不安に思いつつ声をかけるとおにーさんはニコッと優しい笑顔を見せてくれた。
そしてぼくの名前を聞いてくる。
さくら、けいと。
そう言おうとして驚かれたけれど、ちゃんと名前を言えた。
おにーさんの名前は「あやしろ、なおき」って言うんだって。
なおきさん……名前もだけど、すごくかっこいい。
ぼくが持っている絵本に出てくる王子さまみたいだ。
「けいとくん、君は……」
その声が聞こえたと同時に、キーンコーンカーンコーンと鐘の音が聞こえた。
「あっ! ぼく、きょうしつにいかなきゃ! いちねんせいになれない!」」
まだ名札ももらってない。
どうしよう……おくれてしまって、もう入学式に行けなくなっちゃったら……
「大丈夫。私が一緒について行くから。ちゃんと一年生になれるから安心していいよ。ほら、行こう」
なおきさんに手を差し出されて、ぼくはその手を取った。
パパよりは小さいけれど、あったかくてホッとする。
ぼくはなおきさんと手を繋いだまま、名札をもらいに行った。
「おはようございます。お名前をお願いします」
優しそうな先生たちに声をかけられてちょっと緊張した。
「ぼく、さくらけいとです」
「はい。佳都くん。あなたはピンク組さんね。今日のご挨拶、頑張ってね」
ピンクの名札を渡されて、胸につける。
「はい。ぼく、がんばります!」
笑顔で答えると、隣にいたなおきさんが声をかけてくれた。
「佳都くん、ご挨拶ってもしかして……」
「ぼく、だいひょうであいさつするのー!」
合格が決まってすぐに先生から連絡があって、パパとママと一緒に挨拶を考えたんだ。
「そうか……君が、七海が言ってた子だったんだな」
なおきさんはそう言ってぼくの頭を優しく撫でてくれた。
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