7 / 27
もう少しだけ……
しおりを挟む
今日、小田切先生に会えるんだ……。
そう思うだけで胸がときめく。
ああ、こんな感情久しぶりだ。
中学生で自分がゲイだと認識してから憧れるだけで我慢していたけれど、大学に入ってからは憧れることもやめていた。
どれだけ憧れたって絶対に思いが伝わらないことがわかっていたからだ。
勝手に期待して傷つくくらいなら最初から憧れなんてやめてしまおうと心に蓋をしていた。
だけど、成人男性として欲求は深まるばかりで……。
その結果、安田さんみたいな人に身体を奪われることになってしまったわけだけど。
そのおかげと言っていいのかわからないけど、僕が不感症だということもわかったからこれでより一層、誰かに憧れるとか、好きになるとかやめようって思えた。
でも……。
あの日以来、小田切先生にはときめいてしまう。
何もかも知られてて、受け入れてもらえないと思っているのにときめきが止められない。
最初からダメだと確定しているから、本当にただ思うだけだけど、それすらも捨てていた僕から見れば驚くべきことだ。
でもわかってるんだ。
小田切先生は僕を不憫に思って優しくしてくれているだけってことは。
だから期待するのはやめよう。
ただもう少しだけときめいていたい。
久しぶりのこの幸せな感情をいつでも思い出して幸せに浸れるように。
ああ、定時に終わってオフィスを出るなんてどれくらいぶりだろう?
もう思い出せないほど毎日頑張ってたんだな、僕。
緊張しながらエレベーターを降り、玄関に向かうと本当に一台の車が停まっていた。
これかな? 小田切先生の言っていた車は。
でも、違ってたり……。
どうしていいかわからずにいると、運転席からビシッと黒いスーツを着た男性が降りてきて、
「北原暁さま。運転手の白井でございます。小田切さまからお送りするようにもうしつかっております。さぁ、こちらにお乗りください」
と後部座席の扉を開いて中へと案内してくれる。
と同時に胸ポケットに入れていたスマホがブルっと振動するのを感じた。
急いでスマホを開くと
<連絡が遅くなってすみません。白井という運転手に行き先を伝えていますので、北原さんは乗るだけで大丈夫ですよ>
というメッセージと共に車の詳細な情報も載せられていて、目の前のこれが小田切先生の用意してくれた車に間違いなさそうだ。
さすが弁護士さん。
僕が心配にならないようにしてくれたんだな。ありがたい。
「あの、ありがとうございます。よろしくお願いします」
頭を下げ、車に乗り込んでから小田切先生に
<今、車に乗りました>
とメッセージを送った。
すぐに
<私はもう到着していますので、安心してください>
とメッセージが返ってきた。
と同時に可愛い犬が忠犬ハチ公のようにお利口さんに待っているスタンプまで送られてきて、思わず笑ってしまう。
「ふふっ。小田切先生、可愛い」
こんな楽しい時間がずっと続けばいいのに……。
でも安田さんのことも解決したし、今日できっと終わり。
ずっと胸につかえていたものを綺麗さっぱり無くしてくれたし、それにこんなときめきまで思い出させてくれた先生には感謝しかない。
僕にできるせめてものお返しは支払いだけだ。
就職して4年。
それなりに稼いでいたし、ほとんど何もつかっていないから貯金だけはあるしたっぷりと払わせてもらおう。
こんなにいっぱい払ってくれた気前のいい人がいたなというくらいの存在でいいから思い出してもらえるように……。
「お待たせいたしました。お気をつけてお降りください」
車が停まり、白井さんが後部座席の扉を開いてくれる。
「あ、ありがとうございます」
ドキドキしながら降りた僕の目に飛び込んできたのは、大きな一軒家。
「えっ、ここ、ですか?」
「はい。少々お待ちください」
白井さんはそういうと、その家のインターフォンを鳴らした。
ガチャリと鍵の開く音が聞こえて、中から小田切先生が駆け寄ってくる。
「北原さん、こんなところまでお越しいただきありがとうございます」
「あ、あの小田切先生。ここは……?」
「ここは私の自宅です。その方がゆっくりとお話しできると思いまして」
ああ、そういうことか。
確かに誰に聞かれているかわからない場所でする話じゃないもんな。
そのためにわざわざ自宅に案内してくれるなんて……本当に小田切先生っていい人だ。
「さぁ、どうぞ中に入ってください」
白井さんも車もいつの間にか帰ってしまっていて、僕は一人で家の中へと案内される。
リビングに足を踏み入れた途端、いい匂いが漂ってくる。
「なんか、いい匂いがします」
「ふふっ。わかりましたか? 夕食を用意しましたので、一緒に食べましょう」
「――っ、そんなっ、いいんですか?」
「ええ。北原さんに召し上がってもらおうと思ったら、久々に腕が鳴りました」
「えっ、これ……小田切先生の手料理なんですか?」
「はい。料理は趣味みたいなものなんですよ。いつも自分で作って食べているので、北原さんに召し上がっていただけると嬉しいです」
まるでレストランかと思ってしまうほど、美味しそうで綺麗に盛り付けられた料理が並んでいるのにこれが全部手作りだなんて……。
先生、すごすぎ……。
そう思うだけで胸がときめく。
ああ、こんな感情久しぶりだ。
中学生で自分がゲイだと認識してから憧れるだけで我慢していたけれど、大学に入ってからは憧れることもやめていた。
どれだけ憧れたって絶対に思いが伝わらないことがわかっていたからだ。
勝手に期待して傷つくくらいなら最初から憧れなんてやめてしまおうと心に蓋をしていた。
だけど、成人男性として欲求は深まるばかりで……。
その結果、安田さんみたいな人に身体を奪われることになってしまったわけだけど。
そのおかげと言っていいのかわからないけど、僕が不感症だということもわかったからこれでより一層、誰かに憧れるとか、好きになるとかやめようって思えた。
でも……。
あの日以来、小田切先生にはときめいてしまう。
何もかも知られてて、受け入れてもらえないと思っているのにときめきが止められない。
最初からダメだと確定しているから、本当にただ思うだけだけど、それすらも捨てていた僕から見れば驚くべきことだ。
でもわかってるんだ。
小田切先生は僕を不憫に思って優しくしてくれているだけってことは。
だから期待するのはやめよう。
ただもう少しだけときめいていたい。
久しぶりのこの幸せな感情をいつでも思い出して幸せに浸れるように。
ああ、定時に終わってオフィスを出るなんてどれくらいぶりだろう?
もう思い出せないほど毎日頑張ってたんだな、僕。
緊張しながらエレベーターを降り、玄関に向かうと本当に一台の車が停まっていた。
これかな? 小田切先生の言っていた車は。
でも、違ってたり……。
どうしていいかわからずにいると、運転席からビシッと黒いスーツを着た男性が降りてきて、
「北原暁さま。運転手の白井でございます。小田切さまからお送りするようにもうしつかっております。さぁ、こちらにお乗りください」
と後部座席の扉を開いて中へと案内してくれる。
と同時に胸ポケットに入れていたスマホがブルっと振動するのを感じた。
急いでスマホを開くと
<連絡が遅くなってすみません。白井という運転手に行き先を伝えていますので、北原さんは乗るだけで大丈夫ですよ>
というメッセージと共に車の詳細な情報も載せられていて、目の前のこれが小田切先生の用意してくれた車に間違いなさそうだ。
さすが弁護士さん。
僕が心配にならないようにしてくれたんだな。ありがたい。
「あの、ありがとうございます。よろしくお願いします」
頭を下げ、車に乗り込んでから小田切先生に
<今、車に乗りました>
とメッセージを送った。
すぐに
<私はもう到着していますので、安心してください>
とメッセージが返ってきた。
と同時に可愛い犬が忠犬ハチ公のようにお利口さんに待っているスタンプまで送られてきて、思わず笑ってしまう。
「ふふっ。小田切先生、可愛い」
こんな楽しい時間がずっと続けばいいのに……。
でも安田さんのことも解決したし、今日できっと終わり。
ずっと胸につかえていたものを綺麗さっぱり無くしてくれたし、それにこんなときめきまで思い出させてくれた先生には感謝しかない。
僕にできるせめてものお返しは支払いだけだ。
就職して4年。
それなりに稼いでいたし、ほとんど何もつかっていないから貯金だけはあるしたっぷりと払わせてもらおう。
こんなにいっぱい払ってくれた気前のいい人がいたなというくらいの存在でいいから思い出してもらえるように……。
「お待たせいたしました。お気をつけてお降りください」
車が停まり、白井さんが後部座席の扉を開いてくれる。
「あ、ありがとうございます」
ドキドキしながら降りた僕の目に飛び込んできたのは、大きな一軒家。
「えっ、ここ、ですか?」
「はい。少々お待ちください」
白井さんはそういうと、その家のインターフォンを鳴らした。
ガチャリと鍵の開く音が聞こえて、中から小田切先生が駆け寄ってくる。
「北原さん、こんなところまでお越しいただきありがとうございます」
「あ、あの小田切先生。ここは……?」
「ここは私の自宅です。その方がゆっくりとお話しできると思いまして」
ああ、そういうことか。
確かに誰に聞かれているかわからない場所でする話じゃないもんな。
そのためにわざわざ自宅に案内してくれるなんて……本当に小田切先生っていい人だ。
「さぁ、どうぞ中に入ってください」
白井さんも車もいつの間にか帰ってしまっていて、僕は一人で家の中へと案内される。
リビングに足を踏み入れた途端、いい匂いが漂ってくる。
「なんか、いい匂いがします」
「ふふっ。わかりましたか? 夕食を用意しましたので、一緒に食べましょう」
「――っ、そんなっ、いいんですか?」
「ええ。北原さんに召し上がってもらおうと思ったら、久々に腕が鳴りました」
「えっ、これ……小田切先生の手料理なんですか?」
「はい。料理は趣味みたいなものなんですよ。いつも自分で作って食べているので、北原さんに召し上がっていただけると嬉しいです」
まるでレストランかと思ってしまうほど、美味しそうで綺麗に盛り付けられた料理が並んでいるのにこれが全部手作りだなんて……。
先生、すごすぎ……。
244
あなたにおすすめの小説
寂しいを分け与えた
こじらせた処女
BL
いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。
昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる