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番外編
天使降臨 part2 <後編>
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「会長。先に一花くんとお座りになっていてください。私と滝川くんで料理をお持ちします」
史紀さんが櫻葉会長に声をおかけすると、「じゃあ頼むよ」と言って、ご子息と一緒に席に向かわれた。
ご子息を抱きかかえたままで料理を運ぶのは難しいものね。
会長がお座りになる席は決まっていて、いつもそこは空いているから席取りする必要もない。
その席とは食堂内のすべての席が見下ろせる、周りの席と比べると数段高い場所にある席。
そこは元々、櫻葉会長と奥さまが社食に来られた時に食事をする席だった。
奥さまが亡くなられた後、誰から言い始めたわけでもなく、その席に座る社員はいなくなった。
あのお二人のための席だからと、社員みんなが思っていたみたい。
だからこそ、使われない日でも毎日綺麗に拭き上げて奥さまの好きなピンク色の花を飾っていた。
ガーベラ、カーネーション、チューリップ、バラ、コスモス。
どれも奥さまの優しい笑顔を思い起こさせる。
その席に、櫻葉会長がご子息とお座りになる。
その様子を拝見できるなんて……この会社で働き続けて良かったと心から思う。
「パパ。ここからの景色すごく落ち着きます」
「ははっ。麻友子も同じことを言っていたな。やはり一花と麻友子はよく似ている」
親子の仲睦まじい会話が聞こえてきて、思わず顔が綻ぶ。
「史紀さん。お待たせしました」
ご子息用にご用意した特別メニュー。
六分割されたお皿に、マッシュポテトとグリルトマト、そして二切れのステーキ。特製のオニオンソースをかけたローストビーフ一枚。外カリッと中はジューシーな少し大きめな唐揚げ一個。脂がのって抜群に美味しい、通常の三分の一ほどの大きさの鰤の照り焼き。そして五百円玉サイズの小さなハンバーガー。これはもちろんトマトもレタスもチーズも入っている本格派。小さいけれどこれは少しボリューミーかも。そのほか、空いた場所には社食の人気スイーツの小さなプリンとティラミスを入れた。
このお皿と小さなスープカップにコーンスープを入れたトレイを史紀さんに差し出した。
「これでいかがでしょう?」
「わぁ、これはすごく豪華だね。あれ? ステーキだけ二切れ?」
「あ、それは会長も一緒に召し上がるかと思って……」
奥さまが初めて来られた時、このステーキを召し上がっていたのを覚えていた。
奥様との思い出をご子息と楽しんでいただけたら……そんな思い出二切れのせてみた。
「ああ、麻友子さんか……」
どうやら史紀さんは私の意図に気づいたみたい。
「そうか、ありがとう。会長も喜ぶよ。この小さなハンバーガーはもしかして、新たに作ってくれたの?」
他の料理は通常のものを盛り付けるだけだったけど、このサイズの違うハンバーガーだけは史紀さんのいうとおり、新たに作り直した。中のトマトもミニトマトに変更したし、バンズも型抜きで小さくしたけれど、ご子息に喜んでもらえるならこんなの大したことじゃない。
「元々、こういうサイズも作ってみたいと思っていたので、今回試作品がてら作れて良かったですよ」
これは嘘じゃない。
社食で他のおかずと合わせて小さなハンバーガーをセットで大人のお子さまランチのようなものを作るのも楽しいかなと思っていた。それがご子息が来られたから試しに作れたから良かった。
「ありがとう。月森さんや他の調理師さんたちのおかげで一花くんも食事が楽しめそうだよ」
目を見て笑顔でお礼を言われるだけで報われる気がする。
その他、会長のオムライスとビーフシチューのセット、史紀さんのステーキ定食、滝川くんのローストビーフ丼を仕上げた。史紀さんがご子息の料理を運んでいる間に、滝川くんが次々と料理を運んでいった。
「わぁー! すっごく美味しそう!」
特別メニューを気に入ってくれたらしいご子息の嬉しそうな声が社食に響く。
「ご子息の声って天使の声みたい」
「本当。あの幸せそうな声を聞くだけで幸せになれそう」
「今日、社食にして良かったー!」
「あの声に癒されたおかげで午後の取引先との打ち合わせがうまくいきそうだよ」
あちらこちらからそんな声が聞こえてくる。
「んー! この柔らかいお肉。すっごく美味しい! パパも食べてみてください」
「ああ、本当だな。ここのはいつも美味しい。麻友子も好きだったんだ」
会長のその声がとても嬉しそうに聞こえて、思わず涙が出そうになる。
周りに視線を向けると、社員さんたちも感慨深そうな表情で食事をしているのが見える。
ご子息のおかげで、今日の社食はまるでひだまりのような穏やかで幸せな空気に包まれている。
この天使と過ごせる時間がこれからも続きますように……そう願ってやまない。
史紀さんが櫻葉会長に声をおかけすると、「じゃあ頼むよ」と言って、ご子息と一緒に席に向かわれた。
ご子息を抱きかかえたままで料理を運ぶのは難しいものね。
会長がお座りになる席は決まっていて、いつもそこは空いているから席取りする必要もない。
その席とは食堂内のすべての席が見下ろせる、周りの席と比べると数段高い場所にある席。
そこは元々、櫻葉会長と奥さまが社食に来られた時に食事をする席だった。
奥さまが亡くなられた後、誰から言い始めたわけでもなく、その席に座る社員はいなくなった。
あのお二人のための席だからと、社員みんなが思っていたみたい。
だからこそ、使われない日でも毎日綺麗に拭き上げて奥さまの好きなピンク色の花を飾っていた。
ガーベラ、カーネーション、チューリップ、バラ、コスモス。
どれも奥さまの優しい笑顔を思い起こさせる。
その席に、櫻葉会長がご子息とお座りになる。
その様子を拝見できるなんて……この会社で働き続けて良かったと心から思う。
「パパ。ここからの景色すごく落ち着きます」
「ははっ。麻友子も同じことを言っていたな。やはり一花と麻友子はよく似ている」
親子の仲睦まじい会話が聞こえてきて、思わず顔が綻ぶ。
「史紀さん。お待たせしました」
ご子息用にご用意した特別メニュー。
六分割されたお皿に、マッシュポテトとグリルトマト、そして二切れのステーキ。特製のオニオンソースをかけたローストビーフ一枚。外カリッと中はジューシーな少し大きめな唐揚げ一個。脂がのって抜群に美味しい、通常の三分の一ほどの大きさの鰤の照り焼き。そして五百円玉サイズの小さなハンバーガー。これはもちろんトマトもレタスもチーズも入っている本格派。小さいけれどこれは少しボリューミーかも。そのほか、空いた場所には社食の人気スイーツの小さなプリンとティラミスを入れた。
このお皿と小さなスープカップにコーンスープを入れたトレイを史紀さんに差し出した。
「これでいかがでしょう?」
「わぁ、これはすごく豪華だね。あれ? ステーキだけ二切れ?」
「あ、それは会長も一緒に召し上がるかと思って……」
奥さまが初めて来られた時、このステーキを召し上がっていたのを覚えていた。
奥様との思い出をご子息と楽しんでいただけたら……そんな思い出二切れのせてみた。
「ああ、麻友子さんか……」
どうやら史紀さんは私の意図に気づいたみたい。
「そうか、ありがとう。会長も喜ぶよ。この小さなハンバーガーはもしかして、新たに作ってくれたの?」
他の料理は通常のものを盛り付けるだけだったけど、このサイズの違うハンバーガーだけは史紀さんのいうとおり、新たに作り直した。中のトマトもミニトマトに変更したし、バンズも型抜きで小さくしたけれど、ご子息に喜んでもらえるならこんなの大したことじゃない。
「元々、こういうサイズも作ってみたいと思っていたので、今回試作品がてら作れて良かったですよ」
これは嘘じゃない。
社食で他のおかずと合わせて小さなハンバーガーをセットで大人のお子さまランチのようなものを作るのも楽しいかなと思っていた。それがご子息が来られたから試しに作れたから良かった。
「ありがとう。月森さんや他の調理師さんたちのおかげで一花くんも食事が楽しめそうだよ」
目を見て笑顔でお礼を言われるだけで報われる気がする。
その他、会長のオムライスとビーフシチューのセット、史紀さんのステーキ定食、滝川くんのローストビーフ丼を仕上げた。史紀さんがご子息の料理を運んでいる間に、滝川くんが次々と料理を運んでいった。
「わぁー! すっごく美味しそう!」
特別メニューを気に入ってくれたらしいご子息の嬉しそうな声が社食に響く。
「ご子息の声って天使の声みたい」
「本当。あの幸せそうな声を聞くだけで幸せになれそう」
「今日、社食にして良かったー!」
「あの声に癒されたおかげで午後の取引先との打ち合わせがうまくいきそうだよ」
あちらこちらからそんな声が聞こえてくる。
「んー! この柔らかいお肉。すっごく美味しい! パパも食べてみてください」
「ああ、本当だな。ここのはいつも美味しい。麻友子も好きだったんだ」
会長のその声がとても嬉しそうに聞こえて、思わず涙が出そうになる。
周りに視線を向けると、社員さんたちも感慨深そうな表情で食事をしているのが見える。
ご子息のおかげで、今日の社食はまるでひだまりのような穏やかで幸せな空気に包まれている。
この天使と過ごせる時間がこれからも続きますように……そう願ってやまない。
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