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番外編
できた!
<side一花>
美味しいスイーツを食べ終わった後、史紀さんのお部屋でお仕事が始まった。
滝川さんが、僕専用だというパソコンを持ってきてくれたけれど、僕には使える気がしない。
でも征哉さんも、パパも、史紀さんもみんな使っているから、いつか使えるようになったらいいけどな。
今からするお仕事は、僕が考えた桜カフェの新しいメニューをみんなに食べたいって思ってもらえるような資料を作ることなんだって。
史紀さんがパソコンを使って一緒に文章を考えてくれるけれど、文字だけで伝えるより絵もあったほうが絶対にわかりやすい。
絵を描くのもパソコンでできるらしいけど、僕にはそれは難しそう。
直接絵を描きたいと言ったら、史紀さんが賛成してくれて滝川さんがすぐに準備してくれた。
施設にいた頃、小さな子たちの寝かしつけするのに使っていた絵本が、ボロボロだからという理由で捨てられてしまった。お気に入りの絵本がなくなって泣き叫ぶ小さな子たちのために、僕は捨てられていたカレンダーの裏紙と、短い色鉛筆を使って絵を描いた。
僕の記憶の中の絵本を必死に思い出して描いた絵本は、たぶんへたくそだったと思う。
でもみんな喜んで、目をキラキラ輝かせてみてくれて……
それで僕は思い出せる全ての絵本を描き上げた。
あれはもう残っていないだろうけど、みんなが喜んでくれたあの顔は今でも覚えている。
僕の目の前には綺麗な紙と鉛筆。そして、たくさんの色鉛筆。
これで、あの時の子どもたちのように、この絵を見てくれる人が笑顔になってくれるようなスイーツを描きたい。
美味しそうって思ってもらえたらいいな……
そんな期待を込めて、僕は絵を描いた。
「できたー!」
下書きが描き終わってホッとしたけれど、史紀さんは僕の絵を見て驚いたみたい。
でも、褒めてくれて嬉しい。
それどころか、他にも食べたいスイーツがあったら描いていいと言われて嬉しくなる。
食べたいスイーツか……
でも初めて食べた桜のわらび餅がすごく美味しかったから、それは使いたいな……
何かないかな~
そう考えて、ふと、この前の征哉さんが買ってきてくれたお土産を思い出した。
あれって、名前なんだったかな~。
「史紀さん……ちょっと、聞いてもいいですか?」
「ん? どうした?」
「あの、丸くて、真ん中が空いてるお菓子ってなんて名前でした?」
「丸くて、真ん中が空いてる……ああ、ドーナツかな?」
僕の説明でわかってくれるか心配だったけど、どうやら有名なものっぽい。
「あっ! ドーナツ、それです! それ、この前は征哉さんが食べさせてくれて美味しくて……」
「わかる。いろんな味があって美味しいよね」
「はい。それで、そのドーナツの中に、あの桜のわらび餅が入っているのって、美味しそうじゃないですか?」
「ドーナツの中に、わらび餅? それいいよ! 美味しそう! それも出そうよ」
史紀さんが笑顔で褒めてくれるのが嬉しい。
「そのドーナツのほうは、断面の絵も描ける? 中にこんな感じでわらび餅が入っているっているのがわかりやすいのがいいかなって」
「わかりました! 描いてみますね!」
なんだか、自分が食べてみたいものを絵にするってすごく楽しいな。
ドーナツも下書きを描いて、綺麗に色塗り。
施設にいた頃は、色鉛筆も全然揃ってなかったから、色塗りも大変だったけれど、ここは自分で組み合わせて違う色も作れるくらいたくさん種類がある。
だから、より自分の頭の中にあるものと同じ色の絵を描くことができる。
「できましたー!」
描き上がった二枚の絵を史紀さんに見せてみる。
「どうですか? もうちょっと色を濃くしたほうが見やすいですか?」
「いや、いいよ! これがすごく良い感じ。これをこのまま使おう!」
史紀さんの興奮している声をあまり聞いたことがないから、びっくりしてしまう。
でも、良いと言われるのは嬉しい。
「ねぇ、滝川くんもこれ見て!」
史紀さんが僕の描いた絵を滝川さんに見せると、急に表情が固まった。
どこか変だったかな?
ちょっと不安になったけれど、すぐに滝川さんの表情が明るくなった。
「素晴らしいです! ご子息の絵、最高ですよ! これはこのままが絶対にいいです!」
「だよね。やっぱりそうだね」
そう言って、二人で笑顔を見せてくれたけれど、実はずっと気になっていることがある。
「あの……」
「一花くん、どうした? 疲れちゃった?」
「そうじゃなくて、あの滝川さん……」
僕が声をかけると、滝川さんはピクッと身体を震わせた。
「は、はい。何かございましたか?」
「あの、僕……ごしそくって名前じゃなくて、一花です。一花って呼んでください!」
今日会ってからずっと僕のことを、滝川さんだけがごしそくって呼ぶのが気になっていた。
僕は一花なのに。でも、パパも史紀さんも何も言わないから、僕の聞き間違いなのかなって思ってたけど、やっぱりごしそくって呼んでたんだ。
「いいですか?」
「ですが、よろしいのですか?」
「だって、僕……一花だもん」
そういうと、史紀さんが大きな声で笑い出した。
美味しいスイーツを食べ終わった後、史紀さんのお部屋でお仕事が始まった。
滝川さんが、僕専用だというパソコンを持ってきてくれたけれど、僕には使える気がしない。
でも征哉さんも、パパも、史紀さんもみんな使っているから、いつか使えるようになったらいいけどな。
今からするお仕事は、僕が考えた桜カフェの新しいメニューをみんなに食べたいって思ってもらえるような資料を作ることなんだって。
史紀さんがパソコンを使って一緒に文章を考えてくれるけれど、文字だけで伝えるより絵もあったほうが絶対にわかりやすい。
絵を描くのもパソコンでできるらしいけど、僕にはそれは難しそう。
直接絵を描きたいと言ったら、史紀さんが賛成してくれて滝川さんがすぐに準備してくれた。
施設にいた頃、小さな子たちの寝かしつけするのに使っていた絵本が、ボロボロだからという理由で捨てられてしまった。お気に入りの絵本がなくなって泣き叫ぶ小さな子たちのために、僕は捨てられていたカレンダーの裏紙と、短い色鉛筆を使って絵を描いた。
僕の記憶の中の絵本を必死に思い出して描いた絵本は、たぶんへたくそだったと思う。
でもみんな喜んで、目をキラキラ輝かせてみてくれて……
それで僕は思い出せる全ての絵本を描き上げた。
あれはもう残っていないだろうけど、みんなが喜んでくれたあの顔は今でも覚えている。
僕の目の前には綺麗な紙と鉛筆。そして、たくさんの色鉛筆。
これで、あの時の子どもたちのように、この絵を見てくれる人が笑顔になってくれるようなスイーツを描きたい。
美味しそうって思ってもらえたらいいな……
そんな期待を込めて、僕は絵を描いた。
「できたー!」
下書きが描き終わってホッとしたけれど、史紀さんは僕の絵を見て驚いたみたい。
でも、褒めてくれて嬉しい。
それどころか、他にも食べたいスイーツがあったら描いていいと言われて嬉しくなる。
食べたいスイーツか……
でも初めて食べた桜のわらび餅がすごく美味しかったから、それは使いたいな……
何かないかな~
そう考えて、ふと、この前の征哉さんが買ってきてくれたお土産を思い出した。
あれって、名前なんだったかな~。
「史紀さん……ちょっと、聞いてもいいですか?」
「ん? どうした?」
「あの、丸くて、真ん中が空いてるお菓子ってなんて名前でした?」
「丸くて、真ん中が空いてる……ああ、ドーナツかな?」
僕の説明でわかってくれるか心配だったけど、どうやら有名なものっぽい。
「あっ! ドーナツ、それです! それ、この前は征哉さんが食べさせてくれて美味しくて……」
「わかる。いろんな味があって美味しいよね」
「はい。それで、そのドーナツの中に、あの桜のわらび餅が入っているのって、美味しそうじゃないですか?」
「ドーナツの中に、わらび餅? それいいよ! 美味しそう! それも出そうよ」
史紀さんが笑顔で褒めてくれるのが嬉しい。
「そのドーナツのほうは、断面の絵も描ける? 中にこんな感じでわらび餅が入っているっているのがわかりやすいのがいいかなって」
「わかりました! 描いてみますね!」
なんだか、自分が食べてみたいものを絵にするってすごく楽しいな。
ドーナツも下書きを描いて、綺麗に色塗り。
施設にいた頃は、色鉛筆も全然揃ってなかったから、色塗りも大変だったけれど、ここは自分で組み合わせて違う色も作れるくらいたくさん種類がある。
だから、より自分の頭の中にあるものと同じ色の絵を描くことができる。
「できましたー!」
描き上がった二枚の絵を史紀さんに見せてみる。
「どうですか? もうちょっと色を濃くしたほうが見やすいですか?」
「いや、いいよ! これがすごく良い感じ。これをこのまま使おう!」
史紀さんの興奮している声をあまり聞いたことがないから、びっくりしてしまう。
でも、良いと言われるのは嬉しい。
「ねぇ、滝川くんもこれ見て!」
史紀さんが僕の描いた絵を滝川さんに見せると、急に表情が固まった。
どこか変だったかな?
ちょっと不安になったけれど、すぐに滝川さんの表情が明るくなった。
「素晴らしいです! ご子息の絵、最高ですよ! これはこのままが絶対にいいです!」
「だよね。やっぱりそうだね」
そう言って、二人で笑顔を見せてくれたけれど、実はずっと気になっていることがある。
「あの……」
「一花くん、どうした? 疲れちゃった?」
「そうじゃなくて、あの滝川さん……」
僕が声をかけると、滝川さんはピクッと身体を震わせた。
「は、はい。何かございましたか?」
「あの、僕……ごしそくって名前じゃなくて、一花です。一花って呼んでください!」
今日会ってからずっと僕のことを、滝川さんだけがごしそくって呼ぶのが気になっていた。
僕は一花なのに。でも、パパも史紀さんも何も言わないから、僕の聞き間違いなのかなって思ってたけど、やっぱりごしそくって呼んでたんだ。
「いいですか?」
「ですが、よろしいのですか?」
「だって、僕……一花だもん」
そういうと、史紀さんが大きな声で笑い出した。
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