歩けなくなったお荷物な僕がセレブなイケメン社長に甘々なお世話されています

波木真帆

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番外編

親子の時間

<side史紀>

一花くんの、人を和ませる優しいイラストはプレゼンではかなり目を惹くだろう。
これはかなりいいところまで、いや、もしかしたらメニューとして採用されるかもしれない。
そんな期待に胸が高鳴る。

私以上に、滝川くんの興奮が大きいことも期待が持てる要因だ。
大絶賛する彼を見て、私も嬉しくなる。

そんな中、一花くんが困惑気味に滝川くんに話しかけた。

滝川くんは一花くんから声をかけられたことに緊張と驚きを感じているようだったが、一花くんの言葉にさらに困惑することになった。

「あの、僕……ごしそくって名前じゃなくて、一花です。一花って呼んでください!」

どうやら、一花くんは「ご子息」という言葉の意味を知らないようだ。
まぁ、無理もない。

一花くんが過ごしたあの施設で、「ご子息」なんて言葉遣いをする人間がいるとは思えない。

でも、滝川くんと出会ってから数時間……

一花くんがずっと、滝川くんが名前を間違えて読んでいると思っていたのが面白い。

自分は一花だから、一花と呼んでほしい……

一花くんなりにずっと気になっていたんだろう。
それを想像したら面白くて、我慢できずに声を上げて笑ってしまった。

「滝川くん、君の負けだよ」

「社長……」

どうしたらいいんだろうとでも言いたげな表情の彼に、私は声をかけた。

「一花くん本人がそう望んでいるんだ。望みを叶えてあげることも大人の役割だよ」

そう告げると、滝川くんは小さく頷いた。

「あ、あの……では、一花さん。これでよろしいでしょうか?」

さすがに一花くん、とは立場上言えないか。
滝川くんとしての最大の譲歩だろう。

一花くんとしては、敬称が少し気になっているようではあるが、名前を呼ばれたことは嬉しかったらしい。

「よかったー! これで滝川さんとも仲良し!」

「っ!」

一花くんの嬉しそうな笑顔に、滝川くんは崩れ落ちそうになるのを必死にこらえている。
そんな二人がたまらなく可愛く見えた。

「さぁ、じゃあ資料を完成させていこうか」

「はーい! 滝川さんもきてー!」

「は、はい」

こうして新たな三人の関係が始まった。
三人でアイディアを出し合い、一花くんの言葉も文章に混ぜ込みながら資料作りを続け、ようやく完成した頃、私の部屋の電話がなった。

ー会長。どうなさいましたか?

ー征哉くんから連絡があった。今から向かうと一花に連絡を送っているが一向に既読にならない。電話も繋がらないと心配していたよ。どうしたんだ?

ーすみません。資料作りに熱中していて気づかなかったみたいです。

お昼寝した時に、スマホの音を消していたのをすっかり忘れてしまっていた。

ー何もなければいい。三人でそこまで集中していたのならもう終わったのか?

ーはい。ちょうど今しがた完成したところです。

ーそうか。じゃああとはお前が引き継いでプレゼンに持ち込もう。征哉くんがそろそろこちらに到着する頃だから、部屋に迎えに行くよ。

それだけ告げると会長は電話を切った。

「一花くん、貴船会長がお迎えに来られるよ。ちょうど資料も完成してたからよかったね」

「はい。今日のこと、征哉さんに話をしてもいいですか?」

「スイーツの中身までは話しちゃダメだけど、資料を考えたまでならいいよ。あとは秘密!」

秘密、と聞いてなんだかすごく嬉しそうだ。

「わかりましたー!」

そんな話をしている間に、部屋の扉がノックされ、滝川くんが開けに行った。

「一花。お疲れ」

「パパー!」

会長の表情がすっかり父親のそれになっている。

ご自宅やプライベートな場ではもうすっかり見慣れた表情だけど、スーツ姿の会社で見るのはなんとも不思議な気がする。

さっと椅子から抱き上げると、一花くんは会長の胸に顔を擦り寄せた。

「僕、頑張りました!」

「そうか、結果はともかく一花がこの会社のために力を尽くしてくれているのが私は嬉しいよ」

たとえ選ばれなくても、頑張っている姿を見られるだけで幸せ。会長の心からの言葉だ。

「僕、パパの役に立ってますか?」

「ああ。もちろん。私だけじゃなく、この会社の役に立っているよ」

その言葉に、一花くんは今日一番の笑顔を浮かべた。

「さぁ、征哉くんが迎えに来る。下に降りよう」

会長は最後の時間を惜しむように、一花くんを抱きかかえてエレベーターまで歩いて行く。
私と滝川くんは、少し離れてその後ろをついていった。

「パパ。またお仕事しにきてもいいですか? パパと食堂やカフェに行くのも楽しかった」

「そうか、そうか。いつでも来てくれて構わないよ」

「わーい! 嬉しい!」

これまでずっとできなかった親子の時間を取り戻すかのような二人の会話に、思わず笑みがこぼれる。
滝川くんはそんな二人を見て、涙を潤ませているように見えた。
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