18 / 310
本当の家族に
しおりを挟む
聖ラグエル病院から我が家まではそこまで離れているわけではないが、今日に限っては果てしなく遠く感じた。
信号で停まることすらもどかしく感じながらようやく我が家に到着し、地下のガレージに車を止め、ひかるがいる部屋に向かった。
廊下を走ろうとして、もしかしたら寝ているかもしれないとハッと我に返り、慌てて息を整える。
ノックしようかと思ったがそれで起こしてもいけない。
そっと扉を開き中を窺うと、
「わぁ! お母さん、すごいっ! もっとして見せて!!」
「ふふっ。はいはい。ほら、どう?」
「わぁー! 上手!!」
と少し興奮気味のひかると、和やかで楽しげな母の声が聞こえる。
母のあんな楽しそうな声、いつぶりだろう。
父が亡くなってから初めてじゃないか?
二人で一体何をしているのか気になって、そっと中に入るとひかるのベッドにテーブルを置き、母が折り紙を折っているのが見える。
周りには折り紙で作ったらしい鶴や風船、花や小箱と言ったものが散乱していた。
そういえば、母は折り紙が得意だったな。
懐かしい子どもの頃の記憶が甦る。
「わぁー! 可愛い! これは傘?」
「ええ、そうよ」
得意げに話す母さんに思わず
「楽しそうだな」
と声が出てしまった。
「わっ!」
突然聞こえた私の声に身体をびくりと震わせるひかるを見て申し訳なさが募る。
せっかく楽しんでいたのに邪魔をしてしまったな。
「あら、征哉。あなたいつの間に帰っていたの?」
「今帰ってきたところだよ。あまりにも楽しそうだったから声かけられなくて……驚かせるつもりじゃなかったんだ。悪い、ひかる」
「あ、そんな……っ。僕こそ、気がつかなくてごめんなさい。あの……おかえりなさい。お仕事、お疲れさまです」
「――っ、あ、ああ。ありがとう」
ひかるにおかえりと言われるだけでなんとも嬉しい感情が込み上げる。
こんなの初めてだな。
「今、ひかるくんと折り紙で遊んでいたのよ」
「ああ、ひかるが楽しそうで安心したよ」
「はい。お母さんがいろんなこと教えてくれて、とっても楽しいです」
「お母さん?」
「はい。そう呼んでもいいと仰ったので……あの、だめ、でしたか?」
「ダメだなんて! ひかるが打ち解けてくれて嬉しいよ。私ももう家族だと思っているんだから」
「家族……」
私の言葉にひかるが黙って俯いてしまった。
もしかして、家族になるのは嫌だったのだろうか……。
ここで家族の話を持ち出したのは、流石に時期尚早だったか?
そう思ったが、肩が震えている。
「ひかる? どうした?」
慌ててひかるの元に駆け寄り、ベッドに腰を下ろしてひかるを見つめた。
母も不安そうに見つめている。
すると、ひかるはゆっくりと顔をあげて目を潤ませながら口を開いた。
「あの……ぼく、かぞくって、いってもらえて、うれしくて……」
「――っ!! ひかるっ!」
「ひかるくん! 私も嬉しいわ」
「お母さんっ!」
「――っ」
ひかると母が目の前で抱き合うのを見て、私も仲間に入りたくなって、二人をまとめて腕の中に閉じ込めた。
ひかるはもちろん小さいが、母も思っていたよりもずっと小さく感じる。
母も父が亡くなって寂しかったのだろうな。
「せっかく家族が揃っているから、ここでひかるに大事な話をしておきたいんだ」
「えっ……大事な、話ですか?」
「ああ。これからのひかるのことだが……ひかるの戸籍を確認したら、ひかるは『佐伯ひかる』ではなくて、『平嶋ひかる』のままになっていた」
「平嶋……僕の前の名前です。じゃあ、本当に僕は……養子にはなってなかったんですね……」
「ああ、だから正式に母と養子縁組をしないか?」
「えっ……それって……」
「私がひかるくんの本当の母親になるということね。私は嬉しいわ。ひかるくんはどう?」
「えっ……あの、僕……」
戸惑うのも無理はないか。
だが、私の籍に入れるより母の籍に入れた方が相続の面から言っても絶対にその方がいい。
「ひかる、急いで結論を出さなくてもいい。私たちがひかると本当の家族になりたい気持ちはずっと変わらないから、ひかるの気持ちが落ち着いたら返事をしてくれたらいいよ。なぁ、母さん」
「ええ、そうね。もう私はひかるくんを息子だと思っているから、ひかるくんがゆっくりと考えたらいいわ」
母がひかるの頭を優しく撫でると、ひかるは小さな声でお母さんと呼んでから私たちを見た。
「僕……お母さんと征哉さんと、家族になりたいです……だから、お願いします。僕を家族に、してください……」
「――っ!! ひかるくん!!」
母とひかるが涙を流しながら抱き合う姿に、私も思わず泣きそうになっていた。
ああ、これで私たちは家族になれる。
これまで寂しく辛い思いをしていた分、徹底的に甘やかしてやろう。
そう心に誓った。
信号で停まることすらもどかしく感じながらようやく我が家に到着し、地下のガレージに車を止め、ひかるがいる部屋に向かった。
廊下を走ろうとして、もしかしたら寝ているかもしれないとハッと我に返り、慌てて息を整える。
ノックしようかと思ったがそれで起こしてもいけない。
そっと扉を開き中を窺うと、
「わぁ! お母さん、すごいっ! もっとして見せて!!」
「ふふっ。はいはい。ほら、どう?」
「わぁー! 上手!!」
と少し興奮気味のひかると、和やかで楽しげな母の声が聞こえる。
母のあんな楽しそうな声、いつぶりだろう。
父が亡くなってから初めてじゃないか?
二人で一体何をしているのか気になって、そっと中に入るとひかるのベッドにテーブルを置き、母が折り紙を折っているのが見える。
周りには折り紙で作ったらしい鶴や風船、花や小箱と言ったものが散乱していた。
そういえば、母は折り紙が得意だったな。
懐かしい子どもの頃の記憶が甦る。
「わぁー! 可愛い! これは傘?」
「ええ、そうよ」
得意げに話す母さんに思わず
「楽しそうだな」
と声が出てしまった。
「わっ!」
突然聞こえた私の声に身体をびくりと震わせるひかるを見て申し訳なさが募る。
せっかく楽しんでいたのに邪魔をしてしまったな。
「あら、征哉。あなたいつの間に帰っていたの?」
「今帰ってきたところだよ。あまりにも楽しそうだったから声かけられなくて……驚かせるつもりじゃなかったんだ。悪い、ひかる」
「あ、そんな……っ。僕こそ、気がつかなくてごめんなさい。あの……おかえりなさい。お仕事、お疲れさまです」
「――っ、あ、ああ。ありがとう」
ひかるにおかえりと言われるだけでなんとも嬉しい感情が込み上げる。
こんなの初めてだな。
「今、ひかるくんと折り紙で遊んでいたのよ」
「ああ、ひかるが楽しそうで安心したよ」
「はい。お母さんがいろんなこと教えてくれて、とっても楽しいです」
「お母さん?」
「はい。そう呼んでもいいと仰ったので……あの、だめ、でしたか?」
「ダメだなんて! ひかるが打ち解けてくれて嬉しいよ。私ももう家族だと思っているんだから」
「家族……」
私の言葉にひかるが黙って俯いてしまった。
もしかして、家族になるのは嫌だったのだろうか……。
ここで家族の話を持ち出したのは、流石に時期尚早だったか?
そう思ったが、肩が震えている。
「ひかる? どうした?」
慌ててひかるの元に駆け寄り、ベッドに腰を下ろしてひかるを見つめた。
母も不安そうに見つめている。
すると、ひかるはゆっくりと顔をあげて目を潤ませながら口を開いた。
「あの……ぼく、かぞくって、いってもらえて、うれしくて……」
「――っ!! ひかるっ!」
「ひかるくん! 私も嬉しいわ」
「お母さんっ!」
「――っ」
ひかると母が目の前で抱き合うのを見て、私も仲間に入りたくなって、二人をまとめて腕の中に閉じ込めた。
ひかるはもちろん小さいが、母も思っていたよりもずっと小さく感じる。
母も父が亡くなって寂しかったのだろうな。
「せっかく家族が揃っているから、ここでひかるに大事な話をしておきたいんだ」
「えっ……大事な、話ですか?」
「ああ。これからのひかるのことだが……ひかるの戸籍を確認したら、ひかるは『佐伯ひかる』ではなくて、『平嶋ひかる』のままになっていた」
「平嶋……僕の前の名前です。じゃあ、本当に僕は……養子にはなってなかったんですね……」
「ああ、だから正式に母と養子縁組をしないか?」
「えっ……それって……」
「私がひかるくんの本当の母親になるということね。私は嬉しいわ。ひかるくんはどう?」
「えっ……あの、僕……」
戸惑うのも無理はないか。
だが、私の籍に入れるより母の籍に入れた方が相続の面から言っても絶対にその方がいい。
「ひかる、急いで結論を出さなくてもいい。私たちがひかると本当の家族になりたい気持ちはずっと変わらないから、ひかるの気持ちが落ち着いたら返事をしてくれたらいいよ。なぁ、母さん」
「ええ、そうね。もう私はひかるくんを息子だと思っているから、ひかるくんがゆっくりと考えたらいいわ」
母がひかるの頭を優しく撫でると、ひかるは小さな声でお母さんと呼んでから私たちを見た。
「僕……お母さんと征哉さんと、家族になりたいです……だから、お願いします。僕を家族に、してください……」
「――っ!! ひかるくん!!」
母とひかるが涙を流しながら抱き合う姿に、私も思わず泣きそうになっていた。
ああ、これで私たちは家族になれる。
これまで寂しく辛い思いをしていた分、徹底的に甘やかしてやろう。
そう心に誓った。
1,210
あなたにおすすめの小説
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
若頭の溺愛は、今日も平常運転です
なの
BL
『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編!
過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。
ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。
だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。
……俺も、ちゃんと応えたい。
笑って泣けて、めいっぱい甘い!
騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー!
※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
-----------------------------------------
0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻本作品(オリジナル)の結末をif(運命の番)ルートに入れ替えて、他サイトでの投稿を始めました。タイトルは「一度目の結婚で愛も希望も失くした僕が、移住先で運命と出逢い、二度目の結婚で愛されるまで」に変えてます。
オリジナルの本編結末は完全なハッピーエンドとはいえないかもしれませんが、「一度目の〜…」は琳が幸せな結婚をするハッピーエンド一択です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる