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自分の狭量さに驚く
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「わぁっ! 美味しそうっ!」
一花の華やぐ声に私たちだけでなく、料理を運んできた店員たちも顔を綻ばせる。
こんなふうに素直に気持ちを表してもらえるのは嬉しいことだろう。
「さぁ、食べようか」
「征哉さん、これはなんですか?」
「これは蕎麦だよ。ここで作られた蕎麦粉と美しい湧水で作られているから最高だぞ」
「おそば……一度食べてみたいと思ってました! すごい! 嬉しいです!!」
そうか…‥蕎麦も初めてだったか。
そういえば家ではまだ食べさせてなかったな。
今までも初めてのものはあったが、まさか蕎麦までも食べたことがないとは思ってなかったな。
私が知らないだけで一花にとって初めてのものはまだまだあるのだろう。
食べ物でなくても、全てのことにおいてこれから一つずつ私が体験させてやりたいものだ。
「じゃあ、蕎麦を食べて見ようか。まずは何もつけずに食べてご覧。蕎麦粉の味がわかって美味しいよ」
一花は素直に蕎麦を数本掬って口に入れる。
それにしても、うちに来てすぐに全てのアレルギー検査をしておいてよかった。
初めてのものならアレルギーがあってもわからないからな。
「んっ、ふわっていい香りがして美味しいです!」
「そうか、気に入ってよかった」
一花はすっかり気に入ったのか、今度は蕎麦つゆにつけて食べ始めた。
啜るのは慣れないようだがそれもまた可愛い。
「こっちの天ぷらもすぐ近くの山で採れたものだから美味しいぞ。蕎麦つゆにつけて食べるのも美味しいし、塩をつけても美味しい。どっちで試してみる?」
「えっと……征哉さんはどっちが好きですか?」
「そうだな、私は塩で食べるのが好きかな」
「じゃあ、塩で食べてみたいです」
「わかった」
綺麗に揚げられた山菜を一口サイズに箸で細かくして、細かい塩にほんの少しつけて一花の口に運んでやる。
サクッといい音がして、一花の表情が緩む。
これをみられるだけでここに連れてきた甲斐があるというものだ。
「志摩くん、どうだ? ここは絶品だろう?」
「ええ、ここのお蕎麦は格別ですね。このお蕎麦はオーナー自ら作っていらっしゃるんですか?」
「ああ、そうなんだ。蕎麦づくりにすっかり魅入られたみたいでね、最初は蕎麦屋だけにする予定だったが、彼の蕎麦に惚れ込んだ板前が一緒に店をやりたいと直談判してきて蕎麦会席の店にすることにしたんだそうだよ。結果的にそれがこの店の雰囲気とも相まって大成功だったんだが」
「そうなんですね。本当にお蕎麦だけでなく他のお料理も最高ですね」
確かに、目でも楽しめるし、何よりひとつひとつが少量なのに手が込んでいて、いろいろなものを食べさせてあげたい一花にはピッタリだ。
弱りきっていた身体は、私と共に生活するようになってだいぶ元気にはなったが、やはり今までの生活はあまりにも過酷すぎたせいで、一度にたくさんの量を食べることができない。
これでも随分と良くなってきたが、同じ年齢の者と比べるとまだまだ小さいだろう。
だから、私は予約の時点で、見た目にはあまり気付かれないようにしながら内容量をできるだけ少なくして欲しいと頼んでおいた。
かなり難しい注文だったと思うが、彼には一花の身体のことをある程度話しておいたから、快く引き受けてくれた。
「ふぅ……お腹いっぱいです」
「一花、完食したんだな。えらいぞ。でも無理はしていないか?」
「大丈夫です、これすっごく美味しくて気づいたら食べちゃってました」
「そうか、それならよかった」
「一花くんもリハビリを頑張って元気になってきたから食欲が増えてきたんだね。良いことだよ」
「はい。僕、これからもリハビリ頑張ります!」
一花が完食したことを褒めていると、谷垣くんも合いの手を入れてくれてよかった。
一花にとっても嬉しい体験になったことだろう。
食事を終え、談笑していると
「失礼します」
と声がかかり、作務衣姿の男性が入ってきた。
「この度は当店にお越しいただきありがとうございます」
爽やかな笑顔と共に挨拶をしてきたのは、この店のオーナーで友人の天沢陽仁。
作務衣に三角巾という出立ちだが、相変わらず目を惹く男だ。
「天沢。久しぶりだな」
「貴船、今日は来てくれて嬉しいよ」
「店を出してすぐに何度か来た以来か。繁盛していて何よりだよ」
「おかげさまでやっと軌道に乗ってきて安心しているよ。それよりもお前の大事な人を紹介してくれないか?」
「ああ、そうだったな。この子は貴船一花。私の大事な子で、一生を共にする相手だよ」
「貴船って、もう籍に入れているのか?」
「ああ、すぐにでも私のものにしたかったんだ」
そういうと、天沢は驚きを隠せない様子で私と一花の顔を何度も見ていた。
ふふっ。天沢が驚くのも無理はない。
私が誰か特定の人に執着する姿なんて見たこともないのだからな。
どう見たって未成年の、しかも可愛い男の子をすでに籍にまで入れたと知ったら驚くしかないだろう。
私はなおも驚いた様子で見つめる天沢を横目に、今度は一花に天沢を紹介した。
「一花、彼は私の友人で、この店のオーナー、天沢陽仁だ」
「あ、あの……貴船、一花です……。よろしくお願いします」
天沢は一花の挨拶も茫然と見つめていたが、私の視線にハッと我にかえり、
「あ、ああ。一花くんだね。よろしく。気を悪くしてしまっていたらごめんね。まさか貴船の大事な子がこんなに可愛い子だと思っていなかったものだから驚いてしまったんだ」
と詫びを入れた。
「い、いえ。そんな可愛いだなんて……っ、恥ずかしいです」
「――っ!! 可愛いっ!!」
「おい、天沢。浮気するなら、千里さんを呼ぶぞ」
「な――っ、ちょっと待てって! 俺が浮気なんてするはずないだろう!」
「一花を見てときめいただろう?」
「ちょっと、可愛いって言っただけだろう。そんな狭量なやつだったか?」
天沢に言われてドキッとする。
確かに私は一花に対してだとどうしようもなく狭量になる。
だがそれは仕方がないだろう。
こんなにも愛おしくてたまらないのだから。
一花の華やぐ声に私たちだけでなく、料理を運んできた店員たちも顔を綻ばせる。
こんなふうに素直に気持ちを表してもらえるのは嬉しいことだろう。
「さぁ、食べようか」
「征哉さん、これはなんですか?」
「これは蕎麦だよ。ここで作られた蕎麦粉と美しい湧水で作られているから最高だぞ」
「おそば……一度食べてみたいと思ってました! すごい! 嬉しいです!!」
そうか…‥蕎麦も初めてだったか。
そういえば家ではまだ食べさせてなかったな。
今までも初めてのものはあったが、まさか蕎麦までも食べたことがないとは思ってなかったな。
私が知らないだけで一花にとって初めてのものはまだまだあるのだろう。
食べ物でなくても、全てのことにおいてこれから一つずつ私が体験させてやりたいものだ。
「じゃあ、蕎麦を食べて見ようか。まずは何もつけずに食べてご覧。蕎麦粉の味がわかって美味しいよ」
一花は素直に蕎麦を数本掬って口に入れる。
それにしても、うちに来てすぐに全てのアレルギー検査をしておいてよかった。
初めてのものならアレルギーがあってもわからないからな。
「んっ、ふわっていい香りがして美味しいです!」
「そうか、気に入ってよかった」
一花はすっかり気に入ったのか、今度は蕎麦つゆにつけて食べ始めた。
啜るのは慣れないようだがそれもまた可愛い。
「こっちの天ぷらもすぐ近くの山で採れたものだから美味しいぞ。蕎麦つゆにつけて食べるのも美味しいし、塩をつけても美味しい。どっちで試してみる?」
「えっと……征哉さんはどっちが好きですか?」
「そうだな、私は塩で食べるのが好きかな」
「じゃあ、塩で食べてみたいです」
「わかった」
綺麗に揚げられた山菜を一口サイズに箸で細かくして、細かい塩にほんの少しつけて一花の口に運んでやる。
サクッといい音がして、一花の表情が緩む。
これをみられるだけでここに連れてきた甲斐があるというものだ。
「志摩くん、どうだ? ここは絶品だろう?」
「ええ、ここのお蕎麦は格別ですね。このお蕎麦はオーナー自ら作っていらっしゃるんですか?」
「ああ、そうなんだ。蕎麦づくりにすっかり魅入られたみたいでね、最初は蕎麦屋だけにする予定だったが、彼の蕎麦に惚れ込んだ板前が一緒に店をやりたいと直談判してきて蕎麦会席の店にすることにしたんだそうだよ。結果的にそれがこの店の雰囲気とも相まって大成功だったんだが」
「そうなんですね。本当にお蕎麦だけでなく他のお料理も最高ですね」
確かに、目でも楽しめるし、何よりひとつひとつが少量なのに手が込んでいて、いろいろなものを食べさせてあげたい一花にはピッタリだ。
弱りきっていた身体は、私と共に生活するようになってだいぶ元気にはなったが、やはり今までの生活はあまりにも過酷すぎたせいで、一度にたくさんの量を食べることができない。
これでも随分と良くなってきたが、同じ年齢の者と比べるとまだまだ小さいだろう。
だから、私は予約の時点で、見た目にはあまり気付かれないようにしながら内容量をできるだけ少なくして欲しいと頼んでおいた。
かなり難しい注文だったと思うが、彼には一花の身体のことをある程度話しておいたから、快く引き受けてくれた。
「ふぅ……お腹いっぱいです」
「一花、完食したんだな。えらいぞ。でも無理はしていないか?」
「大丈夫です、これすっごく美味しくて気づいたら食べちゃってました」
「そうか、それならよかった」
「一花くんもリハビリを頑張って元気になってきたから食欲が増えてきたんだね。良いことだよ」
「はい。僕、これからもリハビリ頑張ります!」
一花が完食したことを褒めていると、谷垣くんも合いの手を入れてくれてよかった。
一花にとっても嬉しい体験になったことだろう。
食事を終え、談笑していると
「失礼します」
と声がかかり、作務衣姿の男性が入ってきた。
「この度は当店にお越しいただきありがとうございます」
爽やかな笑顔と共に挨拶をしてきたのは、この店のオーナーで友人の天沢陽仁。
作務衣に三角巾という出立ちだが、相変わらず目を惹く男だ。
「天沢。久しぶりだな」
「貴船、今日は来てくれて嬉しいよ」
「店を出してすぐに何度か来た以来か。繁盛していて何よりだよ」
「おかげさまでやっと軌道に乗ってきて安心しているよ。それよりもお前の大事な人を紹介してくれないか?」
「ああ、そうだったな。この子は貴船一花。私の大事な子で、一生を共にする相手だよ」
「貴船って、もう籍に入れているのか?」
「ああ、すぐにでも私のものにしたかったんだ」
そういうと、天沢は驚きを隠せない様子で私と一花の顔を何度も見ていた。
ふふっ。天沢が驚くのも無理はない。
私が誰か特定の人に執着する姿なんて見たこともないのだからな。
どう見たって未成年の、しかも可愛い男の子をすでに籍にまで入れたと知ったら驚くしかないだろう。
私はなおも驚いた様子で見つめる天沢を横目に、今度は一花に天沢を紹介した。
「一花、彼は私の友人で、この店のオーナー、天沢陽仁だ」
「あ、あの……貴船、一花です……。よろしくお願いします」
天沢は一花の挨拶も茫然と見つめていたが、私の視線にハッと我にかえり、
「あ、ああ。一花くんだね。よろしく。気を悪くしてしまっていたらごめんね。まさか貴船の大事な子がこんなに可愛い子だと思っていなかったものだから驚いてしまったんだ」
と詫びを入れた。
「い、いえ。そんな可愛いだなんて……っ、恥ずかしいです」
「――っ!! 可愛いっ!!」
「おい、天沢。浮気するなら、千里さんを呼ぶぞ」
「な――っ、ちょっと待てって! 俺が浮気なんてするはずないだろう!」
「一花を見てときめいただろう?」
「ちょっと、可愛いって言っただけだろう。そんな狭量なやつだったか?」
天沢に言われてドキッとする。
確かに私は一花に対してだとどうしようもなく狭量になる。
だがそれは仕方がないだろう。
こんなにも愛おしくてたまらないのだから。
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