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放っておけない
「悠木くん、驚いたな。まさかこんなところで君に会えるとは」
「私もですよ。島田先生。でも先生のところで助かりました」
「あの子は知り合いか?」
「いいえ、偶然倒れる場に居合わせただけで」
「そうか、あの子は熱中症だけでなく栄養失調だぞ、それもかなりのな。あの身体の状態では相当辛かったはずだ」
やはりな。あの子の身体は驚くほど軽かった。
この飽食の時代に栄養失調だなんて……。
「君が居合わせてなかったら、今頃命も危なかったな。よかったよ」
「今日はこのまま入院ですか?」
「ああ、そうだな。本当なら2~3日入院させたいところだが、身元がわからない状態ではな……」
「では、私の病院に転院させます。そちらの許可をいただけますか?」
「わかった。そうしよう。まぁ悠木くんの病院の方がここよりずっと親身に見てやれるだろう。
今日は動かさないほうがいいだろうから転院は明日にしよう」
「ありがとうございます。それからもう一つお願いなんですが、ここの特別室に入れてもらえますか?
私も一緒に泊まりたいので」
「君も一緒に?」
「はい。目を覚ました時に説明する人がいた方が彼も安心するでしょう? 付き添いではなく医師としてそばにいますから許可をいただけますか?」
「ははっ。わかった。そうしよう」
「院長先生、助かります」
「こんな時ばっかり院長か。まぁいい。すぐに特別室に移動させるから」
「ありがとうございます」
俺は処置を終えてベッドで休んでいる彼を見ながら、早く彼の声が聞きたい……ただそれだけを願っていた。
特別室に移動して数時間経った頃、ようやく彼が目を覚ました。
「あれっ? 僕……」
彼はどうやら今の状況が理解できていないようだ。
おそらく自分が倒れたこともわかっていないだろう。
「目が覚めてよかった」
そう声をかけると、彼はビクッと身体を震えさせこちらを向いた。
「えっ、あの……」
「驚かせて悪かったね。ここは病院。私は医者だ。君はバイト中に倒れてここに緊急搬送されたんだ」
「た、おれて……病院??」
「そう、だから安心してゆっくり休むといい」
「そ、そんな……僕、困ります」
「困るってどうして?」
「僕、お金ないんです。病院なんてっ! それに、バイトに戻らないと! あのチラシ、全部配らないと罰金とられるんです」
「罰金?」
「そうです、3万円。だから、僕行かなきゃ……」
彼はまだフラつく身体を必死に起き上がらせようとしているが、彼の身体はまだ耐えられる状態にない。
すぐに彼の身体を抱きとめて落ち着かせようと声をかけた。
「起きてはだめだ、君は今日はここに入院だよ」
「入院? 僕、入院代なんか支払えません」
せっかく少し血色が良くなった顔がみるみるうちに青褪めていく。
「大丈夫、私が君の身元引き受け人になったから、病院代は気にしないでいい」
「えっ……でも、そんなこと」
「いいんだ、こうやって君と知り合えたのも何かの縁。今日はここでゆっくり休みなさい。アルバイトの件は気にしないでいい。罰金は取られないようにしてあげるから」
「本当、ですか……」
「ああ、君を騙したりはしない。信用してくれ」
そういうと彼は小さく頷いた。
「そうだ、まだ少し話せそうなら、君の名前を聞いても?」
「あ、はい。僕……笹原空良と言います」
「笹原くん、いくつ? 大学生、もしかして高校生とか?」
高校生と言い直したのは、童顔で華奢な佳都くんよりも随分と幼く見える彼がどうしても大学生には見えなかったからだ。
「ついこの前18歳になりました。高校は、その……辞めたんです……」
「なるほど。親御さんは東京にいるのかな?」
「あの……2人とも去年亡くなって、僕……兄弟もいなくて、その……」
両親が亡くなって高校を辞めざるを得なかったということか。
「そうか、申し訳ない。辛いことを聞いてしまったね」
「いえ、いいんです」
「チラシ配りのバイトはいつからやってるのかな?」
「3ヶ月前に無料の求人雑誌に載ってて、それで面接にいったらその場で採用になったんですけど……最初の仕事の時に、僕……事務所に置いてあったお客さんの大切な壺を割ってしまったんです。それで、その弁償代を払い終わるまでは辞めるわけにはいかなくて。チラシとかティッシュとか毎回仕事内容は違うんですけど、あのバイト、とにかく罰金が多くて給料からどんどん天引きされちゃって……それで」
「食費を削って働いてたわけか……」
「なんでそれを……?」
「君の身体見たらわかるよ。栄養失調になってる。その上、今日みたいな炎天下で着ぐるみきて動いてたら、そりゃあ倒れてしまうよ。もっと身体を労らないと」
「でも、僕……どうしていいかわからなくて……」
確かにそうだな。
急に親がいなくなって社会に放り出されてお金稼ぐのに必死になってた時に、変なのに騙されて……。
なんだろう。
自分の中に彼を助けてやりたいという気持ちが抑えられない。
こんな気持ち初めてだな。
だが、彼に付き添ってここまで足を突っ込んだんだ。
今更放り出すことなんてできない。
「あのバイトのことも罰金のことももちろん壊したという壺の弁償も何も気にしなくていい。あとは大人である私に任せて、君はしっかり休みなさい」
私がそういうと、彼はやっとホッとした表情でベッドに横たわった。
すぐに彼から寝息が聞こえる。
相当身体が疲弊していたんだろうな。
それにしても彼のバイト先、とんでもないところだな。
まぁ、倒れた人間相手にさっさと起きろと暴言吐くぐらいだからな。
あんな劣悪な環境で働かせた挙句に罰金か。
これは他でもなんだかんだといちゃもんつけて賃金を払っていないんだろう。
そもそも最初の壺を割ったっていうのも怪しいな。
すぐに調べるとするか。
こういうときは綾城に援護を頼むのがいい。
俺はすぐに綾城に電話をかけると、何コール目かの後に電話をとった。
ー悠木、どうした?
ー悪いな。今日実家に行ってるんだったよな? 今、大丈夫か?
ーああ、少しなら大丈夫だ。悠木から電話なんて珍しいな、なんかあったのか?
ーああ、実は……
俺は手短に目の前で眠っている彼のことを話した。
ーだから、そういうわけで彼の仕事先を調べて欲しいんだが、できるか?
ー楽勝だ。すぐに指示出しておくから、明日には報告できるよ。
ー助かるよ。
ーいや、お前にはいろいろ借りがあるからな。気にしないでいい。それにしても、お前……
ーなんだ?
ーいや、なんでもない。今日はゆっくり彼についててやるんだな。
ーああ、サンキュー。
これでバイト先の問題は片付くだろう。
あとはこれからのことか。
明日うちの病院に転院させて、少し体重が戻ったらそのまま俺の家に住まわせるかな。
仕事は……
って、なんで俺はそこまで心配してるんだ?
偶然出会っただけのこの子に。
家や仕事の心配までする必要ないただの他人なのに。
だが、どうしても放っておけない。
俺は初めて自分で自分の気持ちがわからなくなっていた。
「私もですよ。島田先生。でも先生のところで助かりました」
「あの子は知り合いか?」
「いいえ、偶然倒れる場に居合わせただけで」
「そうか、あの子は熱中症だけでなく栄養失調だぞ、それもかなりのな。あの身体の状態では相当辛かったはずだ」
やはりな。あの子の身体は驚くほど軽かった。
この飽食の時代に栄養失調だなんて……。
「君が居合わせてなかったら、今頃命も危なかったな。よかったよ」
「今日はこのまま入院ですか?」
「ああ、そうだな。本当なら2~3日入院させたいところだが、身元がわからない状態ではな……」
「では、私の病院に転院させます。そちらの許可をいただけますか?」
「わかった。そうしよう。まぁ悠木くんの病院の方がここよりずっと親身に見てやれるだろう。
今日は動かさないほうがいいだろうから転院は明日にしよう」
「ありがとうございます。それからもう一つお願いなんですが、ここの特別室に入れてもらえますか?
私も一緒に泊まりたいので」
「君も一緒に?」
「はい。目を覚ました時に説明する人がいた方が彼も安心するでしょう? 付き添いではなく医師としてそばにいますから許可をいただけますか?」
「ははっ。わかった。そうしよう」
「院長先生、助かります」
「こんな時ばっかり院長か。まぁいい。すぐに特別室に移動させるから」
「ありがとうございます」
俺は処置を終えてベッドで休んでいる彼を見ながら、早く彼の声が聞きたい……ただそれだけを願っていた。
特別室に移動して数時間経った頃、ようやく彼が目を覚ました。
「あれっ? 僕……」
彼はどうやら今の状況が理解できていないようだ。
おそらく自分が倒れたこともわかっていないだろう。
「目が覚めてよかった」
そう声をかけると、彼はビクッと身体を震えさせこちらを向いた。
「えっ、あの……」
「驚かせて悪かったね。ここは病院。私は医者だ。君はバイト中に倒れてここに緊急搬送されたんだ」
「た、おれて……病院??」
「そう、だから安心してゆっくり休むといい」
「そ、そんな……僕、困ります」
「困るってどうして?」
「僕、お金ないんです。病院なんてっ! それに、バイトに戻らないと! あのチラシ、全部配らないと罰金とられるんです」
「罰金?」
「そうです、3万円。だから、僕行かなきゃ……」
彼はまだフラつく身体を必死に起き上がらせようとしているが、彼の身体はまだ耐えられる状態にない。
すぐに彼の身体を抱きとめて落ち着かせようと声をかけた。
「起きてはだめだ、君は今日はここに入院だよ」
「入院? 僕、入院代なんか支払えません」
せっかく少し血色が良くなった顔がみるみるうちに青褪めていく。
「大丈夫、私が君の身元引き受け人になったから、病院代は気にしないでいい」
「えっ……でも、そんなこと」
「いいんだ、こうやって君と知り合えたのも何かの縁。今日はここでゆっくり休みなさい。アルバイトの件は気にしないでいい。罰金は取られないようにしてあげるから」
「本当、ですか……」
「ああ、君を騙したりはしない。信用してくれ」
そういうと彼は小さく頷いた。
「そうだ、まだ少し話せそうなら、君の名前を聞いても?」
「あ、はい。僕……笹原空良と言います」
「笹原くん、いくつ? 大学生、もしかして高校生とか?」
高校生と言い直したのは、童顔で華奢な佳都くんよりも随分と幼く見える彼がどうしても大学生には見えなかったからだ。
「ついこの前18歳になりました。高校は、その……辞めたんです……」
「なるほど。親御さんは東京にいるのかな?」
「あの……2人とも去年亡くなって、僕……兄弟もいなくて、その……」
両親が亡くなって高校を辞めざるを得なかったということか。
「そうか、申し訳ない。辛いことを聞いてしまったね」
「いえ、いいんです」
「チラシ配りのバイトはいつからやってるのかな?」
「3ヶ月前に無料の求人雑誌に載ってて、それで面接にいったらその場で採用になったんですけど……最初の仕事の時に、僕……事務所に置いてあったお客さんの大切な壺を割ってしまったんです。それで、その弁償代を払い終わるまでは辞めるわけにはいかなくて。チラシとかティッシュとか毎回仕事内容は違うんですけど、あのバイト、とにかく罰金が多くて給料からどんどん天引きされちゃって……それで」
「食費を削って働いてたわけか……」
「なんでそれを……?」
「君の身体見たらわかるよ。栄養失調になってる。その上、今日みたいな炎天下で着ぐるみきて動いてたら、そりゃあ倒れてしまうよ。もっと身体を労らないと」
「でも、僕……どうしていいかわからなくて……」
確かにそうだな。
急に親がいなくなって社会に放り出されてお金稼ぐのに必死になってた時に、変なのに騙されて……。
なんだろう。
自分の中に彼を助けてやりたいという気持ちが抑えられない。
こんな気持ち初めてだな。
だが、彼に付き添ってここまで足を突っ込んだんだ。
今更放り出すことなんてできない。
「あのバイトのことも罰金のことももちろん壊したという壺の弁償も何も気にしなくていい。あとは大人である私に任せて、君はしっかり休みなさい」
私がそういうと、彼はやっとホッとした表情でベッドに横たわった。
すぐに彼から寝息が聞こえる。
相当身体が疲弊していたんだろうな。
それにしても彼のバイト先、とんでもないところだな。
まぁ、倒れた人間相手にさっさと起きろと暴言吐くぐらいだからな。
あんな劣悪な環境で働かせた挙句に罰金か。
これは他でもなんだかんだといちゃもんつけて賃金を払っていないんだろう。
そもそも最初の壺を割ったっていうのも怪しいな。
すぐに調べるとするか。
こういうときは綾城に援護を頼むのがいい。
俺はすぐに綾城に電話をかけると、何コール目かの後に電話をとった。
ー悠木、どうした?
ー悪いな。今日実家に行ってるんだったよな? 今、大丈夫か?
ーああ、少しなら大丈夫だ。悠木から電話なんて珍しいな、なんかあったのか?
ーああ、実は……
俺は手短に目の前で眠っている彼のことを話した。
ーだから、そういうわけで彼の仕事先を調べて欲しいんだが、できるか?
ー楽勝だ。すぐに指示出しておくから、明日には報告できるよ。
ー助かるよ。
ーいや、お前にはいろいろ借りがあるからな。気にしないでいい。それにしても、お前……
ーなんだ?
ーいや、なんでもない。今日はゆっくり彼についててやるんだな。
ーああ、サンキュー。
これでバイト先の問題は片付くだろう。
あとはこれからのことか。
明日うちの病院に転院させて、少し体重が戻ったらそのまま俺の家に住まわせるかな。
仕事は……
って、なんで俺はそこまで心配してるんだ?
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