エリート医師は偶然出会った可愛い子猫を囲い込んで離さない

波木真帆

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番外編

もし、あの時ひかりと出会わずに待ち合わせ場所から離れていたら…… 6

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「わっ、このスポンジ。ふわふわ」

一口食べるだけで目を輝かせる。
本当に可愛い。

「こんな美味しいケーキ、初めて食べました」

「そうか、じゃあいっぱい食べていいよ」

榎木くんが教えてくれたケーキ屋を覚えていて良かった。
彼には今度何か差し入れでもしておこう。

「あ、でも先生も食べてください」

さっと私の目にケーキ皿を移動させようとしたから、咄嗟に口を開けてみた。
成瀬が口を開けると成瀬の愛しい子が嬉しそうに食べさせてあげていると、真壁から聞いていたからだ。

「えっ?」

「ひかりくんが食べさせて」

少しでもひかりくんが私に心を開いてくれるように、そして私がひかりくんをちゃんと思っている事をわかってもらいたくてそんなことを言ってみた。

ひかりくんが嬉しそうに私に食べさせてくれたら嬉しいんだが……

そんな期待もしつつ口を開けて待っていると、頬を真っ赤に染めながらひかりくんはケーキを掬い、私の口の前に運んでくれた。

「ど、どうぞ」

「ありがとう。いただくよ」

ケーキがのったフォークをパクリと口に咥えると、今まで味わったことがないほど美味しいケーキの味に驚いた。

「うん、美味しいな」

きっとひかりくんと同じフォークを使って食べさせてくれたからだろう。

すると、ひかりくんは私をじっとみてそっと指を伸ばしてきた。
そしてその震える指が私の唇に触れる。

「あ、あの……クリームが……」

そう言いながら、私の唇を拭ってくれるがなんも付いていないことはわかっている。
だからわざとイタズラしてみた。

わざと口を開けて、ひかりくんの指をちゅっと舐めてみた。

「ひゃっ」

驚いて咄嗟に指を引き抜こうとするひかりくんの手をとって、優しく彼の身体を抱き寄せた。
私の膝にのせると、照れたように俯く。

「ごめん、イタズラしすぎた?」

「い、いえ。そうじゃなくて……ドキドキしちゃって……」

「よかった、嫌われたんじゃなくて」

そう告げると、パッと顔を上げて私を見る。

「先生のこと、嫌いになったりしません。だって……」

そこまで言いかけて、ひかりくんは話すのをやめてしまった。

「だって、なに? 何かある?」

「あの、僕のこと……気持ち悪いって思うかも……」

「ひかりくんをそんなふうに思うことはないよ」

そう言ったけれど、なぜか不安げな様子だ。

「どうしてそんなに不安に思っているかわからないけれど、私は絶対にひかりくんに嫌な感情を抱くことはないよ。私のいうことが信じられないかな?」

彼を抱きしめながら告げると、首を小さく横に振り「信じてます……」と言ってくれた。

「じゃあ、ケーキを食べたら少し二人で話そうか」

可愛らしく頷く彼の口にケーキを運んで、楽しい時間を過ごした。

そうしてケーキを食べ終わってから彼を抱きかかえたまま、ソファに移動した。

「さっきの話もだけど……ひかりくんには何か不安なことがあるのかな? よかったら今日、東京に出てきた理由とか聞いてもいい?」

私の問いかけにピクリと身体を震わせる。

「言いたくないから言わなくてもいいよ。ただ、心配なんだ。ひかりくんに何か不安なことがあるなら私が助けたい」

「せんせぇ……」

よほど不安なのだろう。
涙を潤ませて、私を見上げる。

「大丈夫。どんな話を聞いても私はひかりくんを守るよ」

強く抱きしめると、彼はぽつりぽつりと話し始めた。

「僕……男の人が好きで、自分の中に理想の男性像まで作っていつか心から愛してもらえる日が来るのを待ってたんです。でも先日……実家の工場が経営不振で、融資をしてくれる人の娘さんと結婚するようにって両親に勝手に決められてしまって……」

今時そんな話があるのか……
男性が好きだと自覚があるのに女性と結婚なんて……自分を生涯偽ることになるのは辛いだろうな。

「それは辛かったね。やっぱり断れなかった?」

「大学もすぐに辞めて結婚するようにって言われたのをなんとか大学卒業まで待ってもらうのが精一杯で、それ以上は言えなかったです」

それだけ強いプレッシャーを与えられていたんだろう。
寝不足以外に食欲がなかったのはそのせいか。

「それで、僕……なんとか結婚させられる前に、男の人とえっちしたくて……」

なるほど。さっき、突然私に「抱いてもらえますか?」って言ってきたのは、それか。

「それで、東京に出てきたのかな?」

逮捕された男に騙されて東京に出てきたと真壁が話していたが、ひかりくんは自分から望んで来たようだ。
それならいったい何を騙されたんだろう?

「はい。ゲイアプリで知り合った人が、十万円払ったらえっちしてくれるって言ってたからそれで約束して……」

「えっ? ひかりくんがお金を払う予定だった?」

「は、はい。だって僕なんか誰も相手にしてくれないから……」

その言葉に私は唖然とするしかなかった。
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