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受け入れるということ
<side一慶>
「父さん。帰ろう」
二人が去っていったのを見送ると、大我に呼びかけられた。
「ああ、そうだな。運転は頼むぞ」
助手席に乗り込もうとした瞬間、さっきの真人の姿が脳裏に浮かぶ。
ふらついた彼を支えた身体の軽さがまだ腕に残っている気がして、思い出すだけで頬が自然に緩む。
もうすっかり運転が上手くなった息子の運転で駐車場を出る。
「父さん。今日はありがとう」
「いや。真宙くんのお父さんに会えてよかったよ。優しくていい人だな」
「父さんがそこまで人を褒めるのも珍しいな。でもよかったよ」
確かに、数時間一緒にいても嫌なところが一つも目につかなかったのは初めてかもしれない。
多少なりとも気になってしまうものなのに。
「それで、二人で暮らす家は見つかったのか?」
「候補はいくつか出てるよ。でも、真宙が一番気に入った家にしてやりたいから」
その言葉に思わず笑みを浮かべる。
もうすっかり真宙を最優先事項に考えているようだ。
「そうだな。それがいい。金が足りないなら言いなさい。結婚祝いに出してやる」
「心配しないでいいよ。それくらい俺だって貯めてるから」
こんな頼もしい言葉を言うようになったか。
本当に成長したな。
私、水無瀬一慶は、フルーヴ・インダストリアルズという、そこそこ名の知れた会社の社長だ。
祖父が創業し、父から受け継いだ会社を、ゆくゆくは大我が継ぐ予定だ。
一見、何不自由ない幸せな生活を送っていると思われるだろう。
だが、大我には母親がいない。生まれた時から、ずっと――
大我の母親とは、いわゆる許嫁の仲だった。
祖父が会社を大きくするために、取引先の孫娘と私を結婚させると取り決めた。
初めて会ったのは、彼女が中学生の頃。私は高校生で何度か顔を合わせた。
だが、彼女に特別な感情が芽生えることは一度もなかった。
彼女が高校生になった頃、実は男性に興味が持てないのだと告白された。
しかも彼女には密かに付き合っている女性がいて、その人といつか一緒になりたい、と教えてくれた。
泣きながらその秘密を打ち明けられた時、私は彼女にある計画を持ちかけた。
「後継さえできれば何も言われない。だから、結婚して男の子ができるまで辛抱してほしい。その代わり、君には一切触れない。そして、後継が無事に生まれたら、私がその子を育てるから君は自由に生きていい。私が全て責任をとる」
その計画に、彼女は同意した。彼女が大学を卒業したタイミングで、結婚。
すぐに人工授精を経て後継となる男の子、大我が生まれた。
彼女は、子どもが無事に生まれたのを見届け、離婚届を置いて私のもとから去っていった。
今は同性婚が認められた海外で幸せに暮らしていて、年に一度、彼女から元気だという連絡が届く。
ただ、大我には生涯会うつもりがないという彼女の気持ちを汲んで、母親は亡くなったと教えてきた。
これからもその意志を変えることはない。それでも彼女の選んだ生き方を、私は尊重した。
だからこそ、今日……真人が息子たちを受け入れた姿が、胸に沁みたのかもしれない。
自宅に戻ると、大我はそそくさと自室に入って行った。
きっと、真宙に電話でもするのだろう。
ふと真人のことが頭をよぎる。
そういえば、無事に帰りついただろうか。
少し酔っていたから、自宅まで一緒について行ってやればよかったかもしれない。
車の中で眠ってしまっていたら、あの真宙に真人を運ぶのは難しかったかもしれないのに。
そこまで頭が回らなかったことを悔やみつつ、スマホを手に取った。
プライベート用のスマホだが、ほとんど活用していない。
大我が幼い時には、クラスメイトの保護者の連絡先をいくつか入れていたこともあったが、大我が成長するにつれ、疎遠になり連絡先から消した。
久しぶりに追加された連絡先から<真人>を選び、メッセージを書く。
だが、なんて書こうか悩む。
書いては消し、を繰り返し、ようやく書いたメッセージは当たり障りのない文章。
最後に、息子たちをダシに彼を誘う言葉を書いて送信した。
送った後で、失敗だったかと後悔したが、しばらくして真人からメッセージが来た。
<こちらこそ、ご心配をおかけしてすみません。でも本当に楽しい時間が過ごせました。また、ぜひご一緒させてください。真人>
その短い文章を何度も読み返し、気づけば「よし!」と声を上げていた。
「父さん。帰ろう」
二人が去っていったのを見送ると、大我に呼びかけられた。
「ああ、そうだな。運転は頼むぞ」
助手席に乗り込もうとした瞬間、さっきの真人の姿が脳裏に浮かぶ。
ふらついた彼を支えた身体の軽さがまだ腕に残っている気がして、思い出すだけで頬が自然に緩む。
もうすっかり運転が上手くなった息子の運転で駐車場を出る。
「父さん。今日はありがとう」
「いや。真宙くんのお父さんに会えてよかったよ。優しくていい人だな」
「父さんがそこまで人を褒めるのも珍しいな。でもよかったよ」
確かに、数時間一緒にいても嫌なところが一つも目につかなかったのは初めてかもしれない。
多少なりとも気になってしまうものなのに。
「それで、二人で暮らす家は見つかったのか?」
「候補はいくつか出てるよ。でも、真宙が一番気に入った家にしてやりたいから」
その言葉に思わず笑みを浮かべる。
もうすっかり真宙を最優先事項に考えているようだ。
「そうだな。それがいい。金が足りないなら言いなさい。結婚祝いに出してやる」
「心配しないでいいよ。それくらい俺だって貯めてるから」
こんな頼もしい言葉を言うようになったか。
本当に成長したな。
私、水無瀬一慶は、フルーヴ・インダストリアルズという、そこそこ名の知れた会社の社長だ。
祖父が創業し、父から受け継いだ会社を、ゆくゆくは大我が継ぐ予定だ。
一見、何不自由ない幸せな生活を送っていると思われるだろう。
だが、大我には母親がいない。生まれた時から、ずっと――
大我の母親とは、いわゆる許嫁の仲だった。
祖父が会社を大きくするために、取引先の孫娘と私を結婚させると取り決めた。
初めて会ったのは、彼女が中学生の頃。私は高校生で何度か顔を合わせた。
だが、彼女に特別な感情が芽生えることは一度もなかった。
彼女が高校生になった頃、実は男性に興味が持てないのだと告白された。
しかも彼女には密かに付き合っている女性がいて、その人といつか一緒になりたい、と教えてくれた。
泣きながらその秘密を打ち明けられた時、私は彼女にある計画を持ちかけた。
「後継さえできれば何も言われない。だから、結婚して男の子ができるまで辛抱してほしい。その代わり、君には一切触れない。そして、後継が無事に生まれたら、私がその子を育てるから君は自由に生きていい。私が全て責任をとる」
その計画に、彼女は同意した。彼女が大学を卒業したタイミングで、結婚。
すぐに人工授精を経て後継となる男の子、大我が生まれた。
彼女は、子どもが無事に生まれたのを見届け、離婚届を置いて私のもとから去っていった。
今は同性婚が認められた海外で幸せに暮らしていて、年に一度、彼女から元気だという連絡が届く。
ただ、大我には生涯会うつもりがないという彼女の気持ちを汲んで、母親は亡くなったと教えてきた。
これからもその意志を変えることはない。それでも彼女の選んだ生き方を、私は尊重した。
だからこそ、今日……真人が息子たちを受け入れた姿が、胸に沁みたのかもしれない。
自宅に戻ると、大我はそそくさと自室に入って行った。
きっと、真宙に電話でもするのだろう。
ふと真人のことが頭をよぎる。
そういえば、無事に帰りついただろうか。
少し酔っていたから、自宅まで一緒について行ってやればよかったかもしれない。
車の中で眠ってしまっていたら、あの真宙に真人を運ぶのは難しかったかもしれないのに。
そこまで頭が回らなかったことを悔やみつつ、スマホを手に取った。
プライベート用のスマホだが、ほとんど活用していない。
大我が幼い時には、クラスメイトの保護者の連絡先をいくつか入れていたこともあったが、大我が成長するにつれ、疎遠になり連絡先から消した。
久しぶりに追加された連絡先から<真人>を選び、メッセージを書く。
だが、なんて書こうか悩む。
書いては消し、を繰り返し、ようやく書いたメッセージは当たり障りのない文章。
最後に、息子たちをダシに彼を誘う言葉を書いて送信した。
送った後で、失敗だったかと後悔したが、しばらくして真人からメッセージが来た。
<こちらこそ、ご心配をおかけしてすみません。でも本当に楽しい時間が過ごせました。また、ぜひご一緒させてください。真人>
その短い文章を何度も読み返し、気づけば「よし!」と声を上げていた。
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