息子の幸せを見届けたら、大人な恋が始まりました

波木真帆

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光と庭園の間で

部屋の前には先ほどの店員が待っていた。

「千里さん。婚礼部まで案内お願いできますか?」

「はい。こちらへどうぞ」

奥の廊下を進むと、離れの部屋に<旧天沢家別邸 婚礼部・プリムローズ>という表札が掲げられていた。

「佐久川さん。日南さん。お客さまをお連れしました」

部屋の中から現れたのは、ノーネクタイのカジュアルスーツながらも品のある男性だった。

「千里さん。ご案内ありがとうございます。どうぞ新郎新夫さま。中にお入りください」

彼の明るい笑顔に思わず返事をしそうになり、私は戸惑う。

「えっ、あの……」

戸惑いの声を上げると、彼は不思議そうな表情で私を見た。
隣で一慶がくすりと笑う。

「すみません。日南さん、私たちはカップルではないんですよ。息子たちの結婚式の参考に伺ったんです」

すると、スーツの男性の顔が一気に赤らんだ。

「お二人の雰囲気がとても柔らかくて、てっきりご本人方だと思ってしまって……。申し訳ございません」

「いえいえ。お気になさらず。では、真人さん。中に入らせていただきましょう」

一慶がすぐに優しい言葉をかけたおかげで、その場の空気が和んでホッとする。

改めて彼に部屋に案内されて、中に入る。
広くはないが、壁一面に庭園の写真や過去の結婚式のアルバムが並んでいて。上品で落ち着いた空間だった。

「婚礼部、部長の佐久川でございます。こちらは社員の日南」

奥にいた長身の男性が慣れた様子で名刺を渡してくる。
ソファに案内されて腰を下ろすと、目の前に幾つかの資料を並べられた。

「こちらで、これまでの式の流れや会場の使い方などをご覧いただけます。

佐久川が説明しながらページをめくるたびに、写真の中の新郎新婦や家族の笑顔、そして飾り付けに目を奪われる。

「この庭を使った人前式は、光の入り方がちょうど良いんです。季節によっても教場が変わりますし、自然光だけでこんなに美しい写真が撮れるんですよ」

パンフレットでも十分美しいのに、肉眼で見たらどれほどだろうか、想像するだけで鳥肌が立つ。

「本当に、美しいですね……」

思わず呟くと、一慶が小さく頷いた。

「でしょう?」

一慶の声は穏やかで、どこか嬉しそうに響く。その瞬間、佐久川が笑顔で口を開いた。

「ちなみに、ここで使われている映像撮影用のカメラは、すべて水無瀬さんの会社で開発されたものなんですよ」

「えっ……そう、なんですか?」

思わぬ事実に驚いて一慶を見上げると、彼もまた笑顔で頷いた。

「ええ。産業用のハイスピードカメラ技術を応用して、屋外の式場でも自然光のまま鮮明の撮れるように設計されているんです。光が足りなくても鮮明に撮れるように設計しているので、動きの速い場面でもブレずに記録できるんですよ」

これだけ美しい瞬間がパンフレットに残せるのは、一慶の会社のこのカメラのおかげなのか。改めて感心してしまう。

「そんな技術が、結婚式にも使われているんですね」

「ええ。特別な一日を、できるだけ美しく残してもらいたいですからね。私も現場にいて、実際に式場で撮影されているのを見ると嬉しくなります」

よほど自分の仕事に誇りを持っているのだろう。普段の一慶からは想像できないくらい楽しそうな顔をしている。

「息子たちの特別な一日を、一慶さんのカメラで撮れたら最高ですね」

自然に溢れた言葉に、一慶は少し照れたように微笑んだ。

「では、少し庭園のほうもご覧になりますか?」

佐久川の言葉に、一慶が小さく頷き、私の肩越しに視線を送った。

「真人さん、行って見ましょうか」

婚礼部を出て、廊下を抜ける。
すると、先ほどの庭園が目の前に広がっていた。
緑の香りがふわりと漂い、さっき見た写真よりもさらに立体的で鮮やかたった。
苔むした石灯籠や東屋、芝生の柔らかな曲線……全てが光を受けて輝いている。

あまりの美しさに思わず息を呑んだ。
隣に立つ一慶も、目を細めて庭を見つめていた。

「実際にここで撮影すると光の入り方も微妙に違って、肉眼では見逃してしまう奥の美しさまで、うちのカメラなら鮮やかに捉えられるんです」

「良いですね……」

自然と二人の歩幅が揃い、気づけば肩が触れそうな距離で並んで歩いている。
不思議と、落ち着く心地よさがあった。
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