息子の幸せを見届けたら、大人な恋が始まりました

波木真帆

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それぞれの夜

風呂でのんびりしすぎたのか、着替えて脱衣所を出るとちょうどご飯が炊き上がった音が聞こえた。
買ってきた惣菜を皿に移し、レンジで温める。

真宙が好きだから、いつもなら味噌汁は欠かさないが、一人なら別になくてもいい。
一人だと晩酌をする気にもなれず、グラスに麦茶を注ぎ、炊き立てのご飯とおかずだけの夕食を摂る。

真宙が一日の出来事を話してくれるから、食事中にテレビをつけることはなかったが、一人だとあまりにも静かすぎる。
テレビをつけてみたが、この時間は何をやっているかもわからない。
適当にチャンネルのボタンを押していると、テーブルに置いていたスマホが振動を伝えた。

いつもなら、真宙か? と思うところだが、なぜかこの時は、一慶からかと少し期待してしまっていた自分がいた。

テレビを消し、箸を置く。
スマホを手に取ると、画面に<水無瀬一慶>の名前が見えて、思わず頬が緩んだ。

画面を開くと、<今日の思い出です>というメッセージと共に、蕎麦屋の庭で撮ってもらった写真が現れた。
自分の想像していたよりもずっと笑顔なことに驚く。
さらにスクロールすると、水族館でのイルカやクラゲの写真。
そして、いつの間に撮っていたのか、私がイルカの餌やりをしている短い動画まで添付されていた。

この映像を見るだけで、あの時の楽しい気分を思い出す。

「嬉しいけど……」

楽しい思い出を切り取った一慶からの贈り物に胸が温かくなる反面、今の一人で過ごしている現実を思い知らされているようで寂しく思える。
お礼のメッセージを送り、動画に入っている一慶の声を何度も再生しながら、少しずつ心を落ち着けた。

食事の片付けを済ませて時計を見ると、寝るにはまだ少し早いが起きていても何もすることもない。

部屋に上がり、ベッドに横たわった。
いつもの時間にスマホのアラームをセットして、枕元に置く。

イルカのストラップが目に入って、もう一度動画を見たくなった。
というより、中に入り込んでいた一慶の声が聞きたかったのかもしれない。

それをエンドレス機能で再生しているうちに、私は眠りについていた。

<side一慶>

水族館を出たところまでは、まだ楽しそうだった。
だが高速に乗り、東京が近づくと真人のテンションが下がっていくのを感じた。

私との時間が終わりに近づいているのを寂しがってくれているのなら、それは嬉しいことだ。

SAで惣菜を購入するように誘った時、真人の目が少し潤んだように見えた。
一瞬の表情だったが、心の中で何かを必死に押し込めているように見えて、少しだけ申し訳なく思った。

真人を自宅に送り届けた後も、本当は中に入るのを見届けたかった。
だが、私が帰るのを見送りたそうにしているのを感じて、そのまま車を走らせた。

一人の家に帰って、寂しく感じているのではないだろうか。
そう思うと、心が痛んだ。

自宅に戻り、バスルームに入った時、真人の家に置いてきた入浴剤を思い出した。
今頃、あれに気づいてくれているだろうか。

自分の家の湯船にも同じ入浴剤を入れ、ひとときの癒しを感じる。

買ってきた惣菜をビールのあてにしながら、スマホを手に取った。

とても同じ歳とは思えない、無邪気な笑顔を見せる真人の写真を見て、思わず笑みが溢れる。

その中から佐久川に撮ってもらった写真と、水族館の写真、そしてイルカの餌やりの短い動画を選んで真人に送信した。お礼はすぐにきたが、それ以上メッセージを送ることはやめておいた。

この写真や動画を見て、少しは寂しさが紛れてくれたらいい。

本当は一人にしたくなかった。
でも、今はまだ早い。

もう少し、彼の中に私を思う芽が育ってくれたら……

そう考えながら、スマホを置き、ビールのグラスを傾ける。
静かな部屋に一人の時間がゆったりと流れる。

そこにスマホが着信を告げた。

もしかして、真人だろうか。
写真が動画を送ったらそのお礼でも?

思ったよりも早く、芽は育っているのかも知れない。
少し浮かれた私の目に飛び込んできたのは、元妻の茅乃かやのの名前だった。

それを見た途端、一気に現実に引き戻された気がした。

だが、彼女は悪くない。
いつもこの時期に彼女から電話が来ることを、すっかり失念していた私の落ち度だ。
それだけ、頭の中が真人のことでいっぱいになっていたということだろう。

私は深呼吸をして、その電話をとった。
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