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すれ違う距離
<side一慶>
<お義父さんの様子がおかしい。何か知ってる?>
大我から届いたメッセージに、胸がざわついた。
すぐに真人に電話をかけた。
しかし、呼び出し音が長く続いてもなかなか繋がらない。
ようやく出たと思ったら、聞こえてきたのは大我の声だった。
真人の様子を尋ねてもはっきりと答えず、真人の家で三人で食事をしているとだけ告げられる。
その向こうで、真宙の声がした。
――お義父さんも来てもらったら?
その声に、一瞬の迷いもなかった。
ーすぐに向かう。
そう告げて電話を切り、車を走らせる。
理由はわからない。
それでも、今は放ってはいけないと思った。
インターフォンを鳴らすと、出迎えてくれたのは息子たち二人だった。
「父は中にいますよ」
穏やかな声でそう告げる真宙の隣で、大我はどこか不機嫌そうに見えた。
気になったが、今はそれよりも真人の様子が優先だ。
二人に案内され、リビングに足を踏み入れる。
「真人さん、こんばんは。急にすみません」
そう声をかけながら、真人の表情を探る。
違う……
先週末、一緒に過ごした時とは明らかに違っていた。
視線が合わない。どこかぎこちなく、なんとなく距離を取られている気さえする。
気のせいであって欲しいと思いながら、真人のために用意してきたスイーツの入った紙袋を持ち上げた。
「お土産を……」
そう言って真人に近づいた、その時……
真人の表情が、わずかに曇った。
心配で声をかけたが、
「いえ、大丈夫です」
そういって、彼はスッと身を引いた。
その一瞬で確信した。真人に避けられている、と。
けれど、思い当たることがない。
先週はあれほど自然に笑い合っていたのに、どうして……
全く理由もわからないまま、胸の奥に小さな引っ掛かりが残る。
ふと、さっきまで会っていた人物のことが頭をよぎった。
◇◇◇
茅乃との電話を切った翌日。
仕事の調整を済ませた私は、彼女に金曜の夜に会おうとメッセージを送った。
場所は馴染みのカフェ。長時間過ごすつもりはない。
用件が終わったら彼女と直接会うことはもうない。
全てが終わった後で、真人に連絡を入れよう。
週末の予定は空けてある。
また一緒にどこかに出かけるのもいい。
そう考えながら、胸ポケットに入れているプライベート用のスマホを取り出した。
指先に触れる、小さな感触はあのとき、真人が選んでくれたお揃いのストラップ。
家に帰ってすぐにつけたそれを、無意識になぞる癖がついた。
その度にあのときの楽しく穏やかな時間が思い出されて、心が華やぐ。
社長室の扉がノックされる。
入ってきたのは、大我だ。
大口の取引先との重要資料を持ってやってきた。
引き出しから印鑑を取り出している間に、デスクに置いていた私のスマホについたストラップが目に入ったようだ。
「父さん、そんなストラップつけてたっけ?」
「悪いか」
「いや、悪くはないけど……珍しいと思っただけだよ」
大我の表情を見て、どこで買ったのか聞きたそうな気配を感じた。
だが、なんとなく二人だけの秘密にしておきたくて、詳しくは説明しなかった。
「真宙くんとは、うまくやっているのか」
印鑑を押しながら、話題をそっと変える。
「もちろん。毎日楽しくやっているよ。お義父さん仕込みのおかずをいっぱい詰めた弁当も作ってくれるし、ただ……」
「なんだ?」
「真宙からは写真やメッセージをいっぱい送っているみたいだけど、お義父さんからはあまり返ってこないみたいで、ちょっと心配しているよ。多分、邪魔しないようにって気を遣ってくれているんだろうね」
真人の性格なら、確かにそう思うかもしれない。
一人で寂しく過ごしているだろうに、自分からは弱音を吐かないだろう。
だからこそ、ついててやりたくなる。
「父さんも時間があるなら、お義父さんに声をかけてみてよ」
「ああ、わかった」
大我としては、真宙の心配事を減らしたいのだろう。
私には願ったり、叶ったりだ。
そのためにも早く全てを終わらせないとな。
そうして、茅乃との約束の日。
予定通りに仕事を終わらせ、待ち合わせ場所のカフェに向かう。
近くのパーキングに車を止め、歩き始めたそのとき……
「ねぇねぇ、少しくらいお茶に付き合ってくれてもいいだろう?」
しつこいナンパの声が耳に入る。
「悪いけど、約束しているから。ナンパなら他を当たって」
「どんなやつと約束してるか知らないけど、絶対に俺とのほうが楽しいって」
はっきりと断られているのに、本当にしつこい男だ。
しかも、言い寄られているのは間違いなく茅乃だ。
大きくため息をつき、私はその二人に近づいた。
<お義父さんの様子がおかしい。何か知ってる?>
大我から届いたメッセージに、胸がざわついた。
すぐに真人に電話をかけた。
しかし、呼び出し音が長く続いてもなかなか繋がらない。
ようやく出たと思ったら、聞こえてきたのは大我の声だった。
真人の様子を尋ねてもはっきりと答えず、真人の家で三人で食事をしているとだけ告げられる。
その向こうで、真宙の声がした。
――お義父さんも来てもらったら?
その声に、一瞬の迷いもなかった。
ーすぐに向かう。
そう告げて電話を切り、車を走らせる。
理由はわからない。
それでも、今は放ってはいけないと思った。
インターフォンを鳴らすと、出迎えてくれたのは息子たち二人だった。
「父は中にいますよ」
穏やかな声でそう告げる真宙の隣で、大我はどこか不機嫌そうに見えた。
気になったが、今はそれよりも真人の様子が優先だ。
二人に案内され、リビングに足を踏み入れる。
「真人さん、こんばんは。急にすみません」
そう声をかけながら、真人の表情を探る。
違う……
先週末、一緒に過ごした時とは明らかに違っていた。
視線が合わない。どこかぎこちなく、なんとなく距離を取られている気さえする。
気のせいであって欲しいと思いながら、真人のために用意してきたスイーツの入った紙袋を持ち上げた。
「お土産を……」
そう言って真人に近づいた、その時……
真人の表情が、わずかに曇った。
心配で声をかけたが、
「いえ、大丈夫です」
そういって、彼はスッと身を引いた。
その一瞬で確信した。真人に避けられている、と。
けれど、思い当たることがない。
先週はあれほど自然に笑い合っていたのに、どうして……
全く理由もわからないまま、胸の奥に小さな引っ掛かりが残る。
ふと、さっきまで会っていた人物のことが頭をよぎった。
◇◇◇
茅乃との電話を切った翌日。
仕事の調整を済ませた私は、彼女に金曜の夜に会おうとメッセージを送った。
場所は馴染みのカフェ。長時間過ごすつもりはない。
用件が終わったら彼女と直接会うことはもうない。
全てが終わった後で、真人に連絡を入れよう。
週末の予定は空けてある。
また一緒にどこかに出かけるのもいい。
そう考えながら、胸ポケットに入れているプライベート用のスマホを取り出した。
指先に触れる、小さな感触はあのとき、真人が選んでくれたお揃いのストラップ。
家に帰ってすぐにつけたそれを、無意識になぞる癖がついた。
その度にあのときの楽しく穏やかな時間が思い出されて、心が華やぐ。
社長室の扉がノックされる。
入ってきたのは、大我だ。
大口の取引先との重要資料を持ってやってきた。
引き出しから印鑑を取り出している間に、デスクに置いていた私のスマホについたストラップが目に入ったようだ。
「父さん、そんなストラップつけてたっけ?」
「悪いか」
「いや、悪くはないけど……珍しいと思っただけだよ」
大我の表情を見て、どこで買ったのか聞きたそうな気配を感じた。
だが、なんとなく二人だけの秘密にしておきたくて、詳しくは説明しなかった。
「真宙くんとは、うまくやっているのか」
印鑑を押しながら、話題をそっと変える。
「もちろん。毎日楽しくやっているよ。お義父さん仕込みのおかずをいっぱい詰めた弁当も作ってくれるし、ただ……」
「なんだ?」
「真宙からは写真やメッセージをいっぱい送っているみたいだけど、お義父さんからはあまり返ってこないみたいで、ちょっと心配しているよ。多分、邪魔しないようにって気を遣ってくれているんだろうね」
真人の性格なら、確かにそう思うかもしれない。
一人で寂しく過ごしているだろうに、自分からは弱音を吐かないだろう。
だからこそ、ついててやりたくなる。
「父さんも時間があるなら、お義父さんに声をかけてみてよ」
「ああ、わかった」
大我としては、真宙の心配事を減らしたいのだろう。
私には願ったり、叶ったりだ。
そのためにも早く全てを終わらせないとな。
そうして、茅乃との約束の日。
予定通りに仕事を終わらせ、待ち合わせ場所のカフェに向かう。
近くのパーキングに車を止め、歩き始めたそのとき……
「ねぇねぇ、少しくらいお茶に付き合ってくれてもいいだろう?」
しつこいナンパの声が耳に入る。
「悪いけど、約束しているから。ナンパなら他を当たって」
「どんなやつと約束してるか知らないけど、絶対に俺とのほうが楽しいって」
はっきりと断られているのに、本当にしつこい男だ。
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