息子の幸せを見届けたら、大人な恋が始まりました

波木真帆

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幸せな時間

湯上がりの熱がまだ引かないまま、その仕草に少しだけ胸が高鳴る。
ゆっくりと近づいて、一慶の隣に腰を下ろした。

「し、失礼します」

こうして並んで座ったのは、初めてではない。
それこそ、最初の顔合わせの食事会の時から隣に座っていた。
けれど、お互いに惹かれて合っているとわかった今は、やはり緊張する。

さっきまで賑やかな空間だったせいで、静かな分、余計に二人きりだということを強く意識してしまう。

「髪、まだ濡れてますね」

そんな声をかけられたと思ったら、首にかけていたタオルをそっと取られる。

「風邪ひきますよ」

優しい手つきで髪を拭かれ、どうしていいかわからない。

「す、すみません」

とりあえず謝ってみたものの、どうして謝ったのか自分でもわからない。
すると、一慶が小さく笑った気配がした。

「どうして謝るんですか?」

そう言いながらも、手は止まらない。
優しく、丁寧に、髪を拭いてくれている。
その距離の近さと、触れられている感覚に心臓がうるさくなる。

「いえ、あの……こういうこと、慣れてなくて……」

正直にそういうと、一慶の手が一瞬だけ止まった。

「私もですよ」

「えっ……」

思わず顔を上げると、すぐ近くで視線がぶつかる。

「こうして拭いてあげたことがあるのは、大我だけです。私は女性はもちろん、男性とも今まで一度もお付き合いはありませんから」

大我の母とも契約結婚だと話していたし、触れることもなかったと話していた。
だから、この言葉はもちろん真実だろう。

「あの……こんなことを聞いていいのか、わからないんですけど……」

「いえ、なんでも聞いてください。真人さんに聞かれて困ることは何もありません」

そうはっきりと言われて、こちらのほうが恐縮してしまう。

「じゃあ……あの、その……」

少し言葉を選びながら、勇気を振り絞って尋ねる。

「私と、その……こうして触れ合うことは、どう感じますか?」

問いかけた瞬間、耳まで熱くなる。
答えを聞くのが怖い気もしたが、それ以上に知りたかった。

一慶は手を止め、静かに私を見つめた。

「真人さんが、許してくれるなら……もっと、触れ合いたいと思っています」

「えっ……あの、それって……」

「ハグをしたり、キスをしたり………もちろん、それ以上のことも……」

真剣な眼差しではっきりと言われて、どくんと胸が高鳴った。

「そ、そんな……急に、そこまで言われると……っ」

思わず顔が熱くなる。
手のひらも視線と汗ばんでいるのがわかる。

一慶は、少し微笑むように目を細め、髪を拭いていた手をそっと肩に置いた。
その距離の近さと、触れられている感覚が心臓をさらに早くする。

「すみません。性急すぎましたね」

耳元で囁かれた言葉に、思わず顔を上げる。
真剣で、でも優しい眼差しが胸をギュッと締め付ける。

「い、いえ。そんなことは……っ、ただ、胸が、ドキドキして……」

言葉が震え、どこに視線を向けていいのかわからない。
それをみて、一慶は私の手にそっと触れた。

「安心してください。私もドキドキしてますよ。ほら」

静かに持ち上げられた手が、一慶の胸に触れる。
服越しに早い鼓動が伝わってくる。

「本当だ、早い……」

一慶の気持ちが伝わってきたのが嬉しくて、思わず視線を合わせた。
すると、一慶が私を見る目があまりにも熱を帯びていて、頬が熱くなる。
一慶は、そっと顔を近づけてきた。

「真人さん……」

甘く囁くような声に、そっと目を閉じた。
もうすぐ唇に触れそう……

心臓が口から出そうなほど緊張していたその瞬間、

「お父さん、お風呂入るねー」

という真宙の声が響いた。

その声に思わず身体を離し、お互いに顔を赤らめる。

「お父さんは、もうお風呂入ったんだよね?」

大我と一緒にリビングに顔をだした真宙が、私たちを見て笑みを浮かべた。

「もう、二人とも飲み過ぎじゃない。顔、赤いよ」

どうやら酔っ払っていると勘違いしてくれたみたいだ。

「あ、ああ。もうやめておくよ。それより、お風呂入っていいよ」

「うん。大我と一緒に入るから、ちょっと時間かかるかも。先に寝ておいていいよ」

さらりとそんなことを言われて、顔がさらに赤くなる。

「わ、わかった」

なんとかそう告げて、二人を見送る。

また静かになったリビングで、私たちは顔を見合わせて笑った。
頬の熱はまだ残っていて、一慶の手がそっと私の手に触れる。

「さっきの続き、いい?」

一慶の瞳に甘く強い気持ちが宿るのを感じて、私は小さく頷く。
そっと近づいてくる唇が、今度はちゃんと重なった。

柔らかくて、温かくて、甘いキス。
胸の鼓動が早まり、息が少し重なる。
頬もまだ熱くて、手を握り返す力が自然と強くなる。
二人だけの、静かで幸せな時間がそっと流れていくのを感じた。
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