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私の過ち

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用意してもらった着替えの着方がわからなかったが。トモキが着ていた服に似ていたからあの着方を真似すればいいのだろう。
間違えていたら、今度こそトモキの世話を受けなければいけなくなる。
それだけは阻止しなければならない。

これでよかったかと何度も鏡で確認をして、風呂場を出るといい匂いが漂ってきた。
どうやら食事の支度をしてくれているようだ。

医術だけでなく、料理も自分でできるとは……なんという才能だろう。

トモキはこの世界の食事が私の口に合うかを気にしてくれているようだが、食べ物のことで文句をつけることは愚か者のすることだ。

たとえ味覚が違おうとも、私がトモキの作ったものに文句を言うことなどあり得ない。
それに何よりこんなにもいい匂いがしているのだ。
トモキの作ったものに食べられないものなどあろうはずがない。

私の言葉にトモキは安堵の表情を見せ、食事ができるまで休んでいるようにと言ってくれたが、それよりもトモキの様子が気になる。
先ほどから調理板の上にある肉を包丁で叩いているのだ。
一体何をしているのか気になって尋ねれば、『つくね』とやらを作るのに、肉を細かくしたいらしい。

確かに騎士団でも調理担当が筋のある大きな肉を包丁で叩いているのを見たことがある。
あれを思い出しながら、トモキの代わりに肉を叩くことにした。

古いせいか切れ味は多少悪くなっていたものの、私の力と相まって肉はすぐに挽肉になった。

隣で目を丸くしているトモキにこれでいいかと尋ねれば、尊敬の眼差しで私を見つめてくれる。

もっとトモキに喜んでもらいたくてもっと手伝うと言えば、その挽肉に何やら調味料を乗せたものを手渡してくる。
その袋が破れやすいから混ぜるときに力を加減してくれと言われ、注意しながら混ぜ合わせた。

ほんの数回混ぜ合わせただけで、

「すごいですね! ありがとうございます!」

と尊敬の念を込めた声でお礼を言われる。

なんだ、手伝いはもう終わりなのか……。
トモキのそばから離れがたく、

「ここの生活を学んでおきたいからしばらくトモキの動きをみていてもいいか?」

ともっともらしい理由を告げ、トモキのそばにいれば、トモキは私を気にしながらも手際よく料理を作り始めた。
調味料を絡めて仕上がったものからは先ほどよりもずっといい匂いが漂っている。

見ているだけで腹が鳴りそうになるのを必死に抑えていると、トモキは二人分の食事を盛り付けあちらのテーブルに運ぼうとし始めた。

私の怪我を気遣ったのだろうが、トモキが運ぶより私が運んだほうがずっと安全だ。
このくらいの重さなどあってないようなものだからな。

あまりにも量の違う食事に気が引けたが、トモキが私のためにしてくれたのがひしひしと伝わってきてこれ以上拒むのも憚られて、トモキの気持ちを素直に受け取ることにした。

それにしても、見知らぬ私の話を信じ、傷の手当をして、風呂に入らせてくれた上に、食事まで分け与えてくれる……これほど優しい人間がいるとはな。
トモキはまるで天使のようだな。

食事の挨拶を教えてもらい、早速トモキの手料理を食べようとするとトモキはじっと私を見つめたまま食べようとしない。
どうやら私の反応を伺っているようだが、そんなにも見つめられると流石に私でも照れる。

こんなにも緊張する食事は初めてだと思いながら、トモキの料理を口に運ぶとなんとも言えない極上の味がした。

なんとっ!
これほど美味しいものがこの世界にあるとは……。

しかも料理人ではなく、トモキが作ったものだ。
なんと素晴らしい才能だろう。

正直に味の感想を伝えれば、

「良かった。クリスさんの口に合うかドキドキしてました」

と嬉しそうに顔を綻ばせた。

――っ!
私にこれほど無防備な顔を見せるとは……。
もしかしたらトモキは私に好意を持ってくれているのだろうか?

だからこんなにも私に優しく接してくれるのか?

そう言いかけたが、流石にそれは自惚れがすぎる。
きっとトモキは私でなくとも誰にでも分け隔てなく優しくしたはずだ。
なんせ、天使のような心の持ち主なのだから……。

ふとみれば、トモキは見慣れぬ棒のようなものを使って食事をしている。
食べ物を挟んだり、小さく切り分けたり……なんと器用なことだろう。

気になって尋ねてみれば、ここではそれを使って食事をするのが当たり前なのだという。

ここでどれだけの期間を過ごすことになるかわからないのなら、私もこれを使えるようにならなければトモキに恥をかかせることになるのではないか。

それならば、今のうちに使えるようになっておくべきだろう。
そう思い、トモキに『箸』とやらを借りたのだが、一向にトモキのようには使えない。

これをあんなにも自在に使えるとは……医術といい、料理といい、やはりトモキはただならぬ者なのだろう。

それなのに何一つ驕るところもなく、

「慣れですよ、クリスさんならすぐに使えるようになると思います。ゆっくり練習してください。でも今日は疲れているでしょうから、フォークとスプーンでいいですよ」

と私に気遣いすら見せてくれる。

見た目だけで何もできぬ子どもだと思ってしまって申し訳なかったなと心の中で謝罪した。
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