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賭けるしかない

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「実際にご自分の目でご覧になった方が良いかと存じますので、まずは服をお召しになってください」

そう言われて、自分が裸だったことを思い出した。

「この上着はジョバンニが貸してくれたのか?」

「はい。流石に裸でここまでお連れすることは難しかったので、失礼だとは思いましたが、私の服をお貸しいたしました」

「そうか、迷惑をかけたな」

「いえ、当然のことをしたまでです。こちらの服をお召しください」

手渡された服はこの団長室に置いていた私の服だ。
何かの時のためにと用意していたのが、功を奏したようだ。

トモキと共に風呂に入っていたままの姿だったのだな……。
まさかこの状態でここに戻ってくるとは思わなかった。

そう思いながら、自分の服に着替えると、

「では、行きましょうか」

と声をかけられた。

「私を一体どこに連れて行く気だ?」

「城内の書庫にございます」

「書庫? ああっ、そうかっ!!」

私の声にジョバンニはようやくわかったかと言わんばかりの表情でニヤリと笑みを浮かべた。

そうだ。
どうして思いつかなかったんだ!

私はジョバンニと共に、急いで書庫に向かった。

「お前はここの書物を読んであの神殿に来てくれたのだな?」

「はい。ですが、間一髪間に合わず、神殿長とバーンスタイン公爵さまが団長をこの世界に呼び戻してしまった後でした。私の不徳の致すところで申し訳ございません」

「いや、お前はよくやってくれた。お前があの場に現れなければ、本当にあの2人を殺めてしまったかもしれぬ。それほどまでにあの時の私は自分でも制御不能な状態だった」

「そう仰っていただけて光栄にございます」

「それで、お前の読んだ書物はどれだ?」

「はい。こちらでございます」

手渡された書物はかなり古いものであった。

「お前、これをよく見つけ出したな? この存在は誰も気づいていないのではないか?」

「はい。実はこの書物だけ、書庫の奥の壁の中に隠されるように置かれていたのです。ですから、この存在は誰も知り得ないことでしょう。もし、これが情報共有されていたならば、団長がこの世界に勝手に戻されるような事態にはならなかったはずです。ということは誰かが意図的にこれを隠したということですね」

「それはこれを書いた本人かも知れないな」

「えっ? ご本人さまですか?」

「ああ。おそらくな」

私の言葉にジョバンニは意味がわからないという様子だったが、きっとジョバンニも愛する者ができたら今の私の気持ちがわかるのだろうな。

この書物のどこに手掛かりが隠されているかも知れない。
私はそれを逃さぬよう、隅々まで隈なく読み進めていった。

「お前はこれを全部読んだのか?」

「いいえ。途中で神殿に向かいましたので。ですが、何か手がかりになるものはあるという印象を受けました」

「そうか……。なら、それを信じるとしよう」

「団長がそれをお読みの間、私は他にも書物がないか探して参ります」

「ああ、頼む」

ジョバンニは私のためにあんなにも必死になってくれている。
いつか本当にトモキを紹介することができたら嬉しいのだがな。

いや、いつかではない。
絶対にトモキをもう一度この手に取り戻して見せる!

この書物を書いたのは、数百年前の王族か。
私と同じように突然の閃光に包まれ、気づいたら異世界にいたようだ。

私と違うのは、異世界で出会った救世主となる運命の相手と最後まで交わったのちに、救世主と共にこの世界に戻ってきたという点だ。

なぜ私は1人だけで戻ってしまったのだ?

互いの蜜を体内に取り込んだという点では同じだったはずだ。

だが、取り込んだ量が少なかったからか?

あの時……確か、トモキは私の蜜を美味しいと言ってたくさん舐めてくれていた。
だが、私は指で掬って一口舐めただけだ……。

私がもっと早くトモキの蜜を取り込んでいれば……。

ああ、なんてことだ。
トモキを連れ帰れなかったのは私のせいなのか……。

そのせいでトモキに悲しい思いをさせてしまうなんて……。
私はなんと愚か者なのだろう。

だが、トモキにはまだ私の蜜が体内に残っているはずだ。
それを使って、こちらに呼び寄せる方法はないか?

考えろ、考えるんだ!

あっ!!!
そうだっ!!!!

「ジョバンニっ! ジョバンニっ!!!」

私はあることを思い出し、大声でジョバンニを呼び戻した。

「何事ですか?」

「トモキをこちらに呼び戻せるかも知れない!」

「まことでございますか?」

「ああ、私があちらに置いてきたものがトモキをこちらに呼び寄せてくれるはずだ!」

私はその書物を手に急いでジョバンニと共に自分の屋敷へと戻った。

屋敷の玄関扉を荒々しく叩くと、扉を開けた執事が私を見て驚きの表情を浮かべる。

まだ私がここに帰ってきたことを知らされていないということは、父上はまだ帰宅していないということだろう。
今は父上がどこにいったかはどうでもいい。

私は執事への説明も後回しにして、急いで自室へ向かった。

部屋に入り、書斎に向かうと陛下から贈られた勲章メダルが燦々と輝いているのが見える。

「これだ!」

「団長! これでどうやってそのお方を呼び戻すのですか?」

「あちらにも同じ勲章メダルを置いてきた。もし、あれにトモキが触れてくれたら……きっとここに来てくれるのではないかと思う」

「ですが、触れただけでそううまくいくでしょうか?」

「私の体内にも、トモキの体内にも互いに舐めた蜜がある。量が少なかったとはいえ、きっとまだ効果を発揮してくれるはずだ。今はそう信じるしかない」

そうだ。
いつかトモキが私を思い出して、あのメダルに触れてくれる時が来るまで、私は決してここから離れない。
今度こそ、私たちは一生離れないんだ!

<side龍臣>


あれから少し食事を取るようになった智己はようやく退院の許可が出た。
それでも1人でいさせるわけにはいかない。

もう少し元気を取り戻すまで、俺の家で面倒を見るというと、最初はかなり遠慮していた。
きっとクリスさん以外と一緒に過ごすことを心も身体も拒否しているのだろう。

だが、また倒れでもしたら今度は命に関わる。
3食しっかりと食べられるまでと条件付きで俺はなんとか説き伏せた。

退院したその足で智己とクリスさんが過ごしていた……といっても1日だけだが……マンションに連れて行き、荷物をまとめることにした。

智己は部屋に入った瞬間大粒の涙を溢し、その場にしゃがみ込んだ。

それも当然だ。
あれから数日経ってはいても、クリスさんの痕跡はあちらこちらにあるのだから。

「智己……まだ、可能性は消えてないんだぞ」

限りなく低いとは思うが、クリスさんの智己への想いに賭けたいんだ。

必死にその場から立たせて、2人の部屋に向かう。

ふらふらと智己がクローゼットの扉を開くと、大事そうに一枚の服を取り出した。

「マスター、僕はこれだけでいいです……他の荷物は何もいらない」

そう言った智己が胸に抱きしめている服は

「――っ、これ……クリスさんの服か……」

綺麗な勲章メダルがいくつもついたジャケットとズボンだった。

このメダルの量を見ただけでクリスさんがあちらの世界でどれだけの英雄だったかがわかる。

「クリスさん……本当にすごい騎士団長だったんだな」

「だから……あちらの、世界で……きっと、必要とされて……それで、連れて……いかれちゃった、のかな……」

「智己……」

「でも、それなら、僕も一緒に連れていってくれたらよかったのに……。もう、クリスさんに会いたくてたまらない……ううっ……っ」

ギュッとクリスさんの服を抱きしめながら、智己が必死に涙を堪えるのが可哀想で見ていられない。

「我慢しないで泣いていいって言ったろ? 感情を押し込むな」

小さな身体を震わせながら、クリスさんへの思いを抑えようとする智己を背中から抱きしめ、頭を撫でながら

「自分の思いを大声で叫んでみろ!」

というと、智己は

「クリスさんに会わせてーっ!!!」

大声で叫んだ。

智己の大声と共に、目に溜まった涙がボロボロと溢れてクリスさんの服とメダルを濡らした瞬間、目を開けていられないほどの眩い光が部屋を包み込んだ。
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