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この国のために

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<sideクリス>

まさかここまでの腕前とは思ってもみなかった。
私をここまで追い詰めるとは……。

私も少し本気を出してみるとするか。

ああ、こんなにもついてこれる者がいるとはな。
そもそも、タツオミはあちらの世界で剣術を嗜んでいたとは言っていたが、それを仕事としていたわけではない。
ということはここでしっかりと訓練を積めば、私と双璧を成すほどの実力をつけることも夢ではない。

これが救世主の実力なのか。

トモキの存在はこの国に平穏を、そしてタツオミの力はここの国に安心を与えるものなのだろう。

私が実力を確認したのだから、誰にも文句は言わせない。

これで決まりだ!

最後の一手を決めた瞬間、タツオミの木剣が弾け飛んだ。

「くっ! 参りました」

ふふっ。
悔しそうにしながらもきちんと頭をさげる
その姿に興奮してしまうのはようやく見つけた私の好敵手だからだろう。

タツオミ、悔しがれ。
そしてもっと強くなれ。

其方の存在はこの国にとっても、そして私にとってもいい影響を与えてくれるはずだ。



手合わせを終え、ジョバンニの元に戻ると、タツオミは

「すみません、負けてしまいました」

とジョバンニに悔しそうに伝えていた。

「何を言っているのですか。団長にあれほど攻め入ったのを私は初めてみたのですよ」

「えっ、本当ですか?」

「ええ。団長はいつも瞬殺でしたから。でも手加減はなさってませんよ。それは戦ったタツオミの方がご存知でしょう?」

「はい。一瞬本気モードに入ったのを感じました。あの時の威力はとても重かったですね」

さすが、それも気づいていたのか。
あの瞬間、タツオミに纏っていた空気もまた変わったからな。

「私を本気にさせたのは騎士団に入ってから、タツオミだけだ。さすがだな」

「あの、じゃあ……」

「ああ。今日の新入団員の訓練にはぜひ参加してもらいたい」

「――っ、はいっ!! ありがとうございます!」

「それから……タツオミには二人目の副団長として騎士団に入ってもらいたい」

「えっ? 私が、ですか? そんな大役務まりますでしょうか?」

「元々、ジョバンニだけに副団長の仕事を任せるのは負担がありすぎると思っていたのだ。自分の鍛錬に加え、膨大な書類仕事に、騎士たちを纏め的確な指示を与えることも副団長の仕事だ。私にも団長としての仕事があり、なかなか手伝うのも厳しい状況で、騎士たちの中から一人、副団長に昇格させようかと思っていたのだ。だが、その実力に見合うものが見つからなくてな。ここまでズルズルと引き延ばしになっていたのだよ。タツオミがジョバンニと共に私を支えてくれたらこれほど安心できることはない。どうだ? タツオミ、引き受けてはくれないか?」

私の真剣な問いかけにタツオミは一度ジョバンニに視線を送った。

そして、嬉しそうな表情で

「若輩者ではございますが、精一杯努めさせていただきます」

と言ってくれたのだ。

ああ、これで我が国は安泰だな。

「クリスさん! 龍臣さんが騎士団に入ることになって嬉しいですか?」

「ああ、そうだな。龍臣の実力ならば、ジョバンニと同等くらいだからな。我々三人がいれば、この国は無敵だぞ」

「そんなにすごいんですね! というか、ジョバンニさんもものすごく強いんですね!」

「ああ。ジョバンニに鳩尾を殴られて意識を失ったことがあるくらいだ」

トモキと引き裂かれてこの世界に戻ってきた時、半狂乱になっていた私を殴り、冷静にさせてくれたのだ。
あの時の私はおかしくなっていたからな。
殴りでもしなければ、私はどうなっていたことか……。

「えっ? 鳩尾、ですか?」

「団長! タツオミが誤解するような言い方はやめてください。あの時はただ無我夢中で……」

「ああ、そうだな。本当にジョバンニがいなければこうしてトモキとの時間を過ごすこともなかったかもしれない。あの時、ジョバンニに殴られたからこそ目が覚めたんだよ」

「団長……」

「そういうことですか。ならば、ジョバンニは私たち皆の恩人ということですね。そんな素晴らしい人が私の伴侶であることを誇りに思いますよ、ジョバンニ……」

「タツオミ……」

嬉しそうに抱きしめ合う二人に聞こえるように、

「では、そろそろ訓練場に向かうとしよう。トモキ、行こうか」

とトモキを抱き上げ、先に玄関へと向かった。

今頃口づけでも交わしているだろうか。
まぁいい。私たちは同志だ。

トモキと愛を語り合い、二人が来るのを待つとしよう。
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