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日本旅行編
なんともいえない味わい
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「観月、空良たちの様子はどうだ?」
「つい今し方、休憩に入ったようだ。ほら」
ミヅキが見せてくれた画面には、三人が並んで何かを摘んでいるのが見える。
「ミヅキ、あれは何を食べているのだ?」
ユヅルの小さな指で摘んであってもこちらからはあまりよく見えない。
「あれは金平糖です」
「コンペイトー? 聞いたことがない菓子だな」
「フランスで似たものといえば、bonbonやsucred'orgeでしょうか。あれよりももっと小さな砂糖菓子ですよ。疲れた時に糖分補給するには最適のお菓子です」
sucre d'orgeはフランスで最も古い優しい甘味のキャンディのことだが、日本にも同じようなものがあったのだな。
「なるほど。あのテーブルに置かれた綺麗な陶器はBonbonnièreか。コンペイトーとやらがどういうものか気になるな」
「凌也、実物を見せてやるといい」
「ロレーヌ、それじゃあリビングに戻りましょうか」
ミヅキの父上がすぐに提案してくれてミヅキたちと共に和室を出た。
ミヅキの父上にソファーに案内されている間に、ミヅキが何やら小さな缶を持って戻ってきた。
「これはまた綺麗な缶だな」
「ええ、金平糖の専門店としても有名な老舗の和菓子屋のものなんですが、<星彩庵>という店の名前にぴったりな綺麗な缶なんですよ」
天の川を模したような綺麗な缶を開けると、そこには棘のような形をした可愛らしいものが並んでいた。
「これはConfeitoか」
「さすがですね。その通りです。日本の金平糖はポルトガルから伝わった言葉をそのまま漢字に当てはめたものなんですよ」
なるほど。コンフェイト、コンペイトーか。
面白いな。
「召し上がりますか?」
「いただこう」
甘いものはそこまで得意ではないが、ユヅルが口にしたものは食べておきたい。
淡い青色をした小さなそれを指で摘んで口に入れる。
「噛まないで舐めてくださいね。時間をかけて味わってください」
その言葉通り、口の中で味わうと、味が変化していくのを感じる。
それだけでこれがただ砂糖を固めたものでないことがわかる。
「どうですか?」
「これは美味しいな。なんともいえない奥深さがある」
「金平糖の味わいがわかるとはロレーヌさんはさすがですね」
ミヅキの父上の言葉にユウキの父上も頷く。
砂糖と水だけで作り上げるものだから作り手の技術が味わいに大きく左右する。
このコンペイトーはかなりの職人技が詰め込まれているのがわかる
ミヅキたちがこのコンペイトーを好む理由がよくわかる気がする。
そんな話をしている間にも画面のユヅルたちは休憩を終え、またマフラーを編み始めた。
ユヅルとソラが編んでいる横で、教えているリオも編んでいるのが見える。
「あれはミヅキのものか?」
ボルドー色のマフラーはかなり綺麗に編み込まれているのが画面越しにもわかる。
とても綺麗な色だが、ミヅキには少し年齢が上のような気がする。
「あれは、ジュールさんのものですよ」
「なに? ジュールの?」
「ええ。理央がいつもお世話になっているジュールさんにもプレゼントしたいって言って、あの色を選んだんです」
リオがジュールのために……。
そういえばあの色はジュールが好んできているものだな。
そうか、リオはそれを覚えていてくれたか……。
ジュールはリオから受け取ったら涙を流して喜ぶだろうな。
三人が一生懸命マフラーを編み続けるのを肴にワインを飲んで明日の外出に向けて話をしていると、
「わぁー!! できたーーっ!!」
「僕もーー!! できたーーっ!!」
という嬉しそうな声が画面から聞こえてきた。
「おお、できたか! すごいな」
「ええ、弓弦くんも空良くんも編み物の才能がありますよ。なぁ、悠木」
「ああ、空良があんなにも集中して俺のために頑張ってくれたと思ったら嬉しいしかないな」
画面を見つめるユウキの表情がとても柔らかい。
愛しい人が自分のために頑張ってくれているのだからな。
そうなるのも当然だ。
だが、ミヅキだけはユウキに眉を顰めた。
「お前、嬉しいからと言って今夜はあんまりサカるなよ。明日、空良くんが出られないとなったらみんなから大顰蹙をかうぞ」
「――っ、わかってるよ! お前、俺をなんだと思ってるんだ! 人の家でそこまでするわけないだろう!」
そこまでと言った時点で、少しはすると認めたようなものだが、確かにフランスではいつも起きてくるのが最後だったから心配されても仕方がないな。
私も可愛いユヅルの隣では理性がとびそうになるが今夜だけは必死で抑えなければユヅルに嫌われてしまう。
鬼畜疑惑を払拭するにも、ユウキは明日は早く起きてくるのが必要なのかもしれない。
「つい今し方、休憩に入ったようだ。ほら」
ミヅキが見せてくれた画面には、三人が並んで何かを摘んでいるのが見える。
「ミヅキ、あれは何を食べているのだ?」
ユヅルの小さな指で摘んであってもこちらからはあまりよく見えない。
「あれは金平糖です」
「コンペイトー? 聞いたことがない菓子だな」
「フランスで似たものといえば、bonbonやsucred'orgeでしょうか。あれよりももっと小さな砂糖菓子ですよ。疲れた時に糖分補給するには最適のお菓子です」
sucre d'orgeはフランスで最も古い優しい甘味のキャンディのことだが、日本にも同じようなものがあったのだな。
「なるほど。あのテーブルに置かれた綺麗な陶器はBonbonnièreか。コンペイトーとやらがどういうものか気になるな」
「凌也、実物を見せてやるといい」
「ロレーヌ、それじゃあリビングに戻りましょうか」
ミヅキの父上がすぐに提案してくれてミヅキたちと共に和室を出た。
ミヅキの父上にソファーに案内されている間に、ミヅキが何やら小さな缶を持って戻ってきた。
「これはまた綺麗な缶だな」
「ええ、金平糖の専門店としても有名な老舗の和菓子屋のものなんですが、<星彩庵>という店の名前にぴったりな綺麗な缶なんですよ」
天の川を模したような綺麗な缶を開けると、そこには棘のような形をした可愛らしいものが並んでいた。
「これはConfeitoか」
「さすがですね。その通りです。日本の金平糖はポルトガルから伝わった言葉をそのまま漢字に当てはめたものなんですよ」
なるほど。コンフェイト、コンペイトーか。
面白いな。
「召し上がりますか?」
「いただこう」
甘いものはそこまで得意ではないが、ユヅルが口にしたものは食べておきたい。
淡い青色をした小さなそれを指で摘んで口に入れる。
「噛まないで舐めてくださいね。時間をかけて味わってください」
その言葉通り、口の中で味わうと、味が変化していくのを感じる。
それだけでこれがただ砂糖を固めたものでないことがわかる。
「どうですか?」
「これは美味しいな。なんともいえない奥深さがある」
「金平糖の味わいがわかるとはロレーヌさんはさすがですね」
ミヅキの父上の言葉にユウキの父上も頷く。
砂糖と水だけで作り上げるものだから作り手の技術が味わいに大きく左右する。
このコンペイトーはかなりの職人技が詰め込まれているのがわかる
ミヅキたちがこのコンペイトーを好む理由がよくわかる気がする。
そんな話をしている間にも画面のユヅルたちは休憩を終え、またマフラーを編み始めた。
ユヅルとソラが編んでいる横で、教えているリオも編んでいるのが見える。
「あれはミヅキのものか?」
ボルドー色のマフラーはかなり綺麗に編み込まれているのが画面越しにもわかる。
とても綺麗な色だが、ミヅキには少し年齢が上のような気がする。
「あれは、ジュールさんのものですよ」
「なに? ジュールの?」
「ええ。理央がいつもお世話になっているジュールさんにもプレゼントしたいって言って、あの色を選んだんです」
リオがジュールのために……。
そういえばあの色はジュールが好んできているものだな。
そうか、リオはそれを覚えていてくれたか……。
ジュールはリオから受け取ったら涙を流して喜ぶだろうな。
三人が一生懸命マフラーを編み続けるのを肴にワインを飲んで明日の外出に向けて話をしていると、
「わぁー!! できたーーっ!!」
「僕もーー!! できたーーっ!!」
という嬉しそうな声が画面から聞こえてきた。
「おお、できたか! すごいな」
「ええ、弓弦くんも空良くんも編み物の才能がありますよ。なぁ、悠木」
「ああ、空良があんなにも集中して俺のために頑張ってくれたと思ったら嬉しいしかないな」
画面を見つめるユウキの表情がとても柔らかい。
愛しい人が自分のために頑張ってくれているのだからな。
そうなるのも当然だ。
だが、ミヅキだけはユウキに眉を顰めた。
「お前、嬉しいからと言って今夜はあんまりサカるなよ。明日、空良くんが出られないとなったらみんなから大顰蹙をかうぞ」
「――っ、わかってるよ! お前、俺をなんだと思ってるんだ! 人の家でそこまでするわけないだろう!」
そこまでと言った時点で、少しはすると認めたようなものだが、確かにフランスではいつも起きてくるのが最後だったから心配されても仕方がないな。
私も可愛いユヅルの隣では理性がとびそうになるが今夜だけは必死で抑えなければユヅルに嫌われてしまう。
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