大富豪ロレーヌ総帥の初恋

波木真帆

文字の大きさ
167 / 177
日本旅行編

なんともいえない味わい

しおりを挟む
「観月、空良たちの様子はどうだ?」

「つい今し方、休憩に入ったようだ。ほら」

ミヅキが見せてくれた画面には、三人が並んで何かを摘んでいるのが見える。

「ミヅキ、あれは何を食べているのだ?」

ユヅルの小さな指で摘んであってもこちらからはあまりよく見えない。

「あれは金平糖です」

「コンペイトー? 聞いたことがない菓子だな」

「フランスで似たものといえば、bonbonボンボンsucreシュクルd'orgeドラジェでしょうか。あれよりももっと小さな砂糖菓子ですよ。疲れた時に糖分補給するには最適のお菓子です」

sucre d'orgeはフランスで最も古い優しい甘味のキャンディのことだが、日本にも同じようなものがあったのだな。

「なるほど。あのテーブルに置かれた綺麗な陶器はBonbonnièボンボニエールreか。コンペイトーとやらがどういうものか気になるな」

「凌也、実物を見せてやるといい」

「ロレーヌ、それじゃあリビングに戻りましょうか」

ミヅキの父上がすぐに提案してくれてミヅキたちと共に和室を出た。
ミヅキの父上にソファーに案内されている間に、ミヅキが何やら小さな缶を持って戻ってきた。

「これはまた綺麗な缶だな」

「ええ、金平糖の専門店としても有名な老舗の和菓子屋のものなんですが、<星彩庵>という店の名前にぴったりな綺麗な缶なんですよ」

天の川を模したような綺麗な缶を開けると、そこには棘のような形をした可愛らしいものが並んでいた。

「これはConfeitoコンフェイトか」

「さすがですね。その通りです。日本の金平糖はポルトガルから伝わった言葉をそのまま漢字に当てはめたものなんですよ」

なるほど。コンフェイト、コンペイトーか。
面白いな。

「召し上がりますか?」

「いただこう」

甘いものはそこまで得意ではないが、ユヅルが口にしたものは食べておきたい。

淡い青色をした小さなそれを指で摘んで口に入れる。

「噛まないで舐めてくださいね。時間をかけて味わってください」

その言葉通り、口の中で味わうと、味が変化していくのを感じる。
それだけでこれがただ砂糖を固めたものでないことがわかる。

「どうですか?」

「これは美味しいな。なんともいえない奥深さがある」

「金平糖の味わいがわかるとはロレーヌさんはさすがですね」

ミヅキの父上の言葉にユウキの父上も頷く。
砂糖と水だけで作り上げるものだから作り手の技術が味わいに大きく左右する。
このコンペイトーはかなりの職人技が詰め込まれているのがわかる
ミヅキたちがこのコンペイトーを好む理由がよくわかる気がする。

そんな話をしている間にも画面のユヅルたちは休憩を終え、またマフラーを編み始めた。

ユヅルとソラが編んでいる横で、教えているリオも編んでいるのが見える。

「あれはミヅキのものか?」

ボルドー色のマフラーはかなり綺麗に編み込まれているのが画面越しにもわかる。
とても綺麗な色だが、ミヅキには少し年齢が上のような気がする。

「あれは、ジュールさんのものですよ」

「なに? ジュールの?」

「ええ。理央がいつもお世話になっているジュールさんにもプレゼントしたいって言って、あの色を選んだんです」

リオがジュールのために……。
そういえばあの色はジュールが好んできているものだな。
そうか、リオはそれを覚えていてくれたか……。

ジュールはリオから受け取ったら涙を流して喜ぶだろうな。

三人が一生懸命マフラーを編み続けるのを肴にワインを飲んで明日の外出に向けて話をしていると、

「わぁー!! できたーーっ!!」

「僕もーー!! できたーーっ!!」

という嬉しそうな声が画面から聞こえてきた。

「おお、できたか! すごいな」

「ええ、弓弦くんも空良くんも編み物の才能がありますよ。なぁ、悠木」

「ああ、空良があんなにも集中して俺のために頑張ってくれたと思ったら嬉しいしかないな」

画面を見つめるユウキの表情がとても柔らかい。
愛しい人が自分のために頑張ってくれているのだからな。
そうなるのも当然だ。

だが、ミヅキだけはユウキに眉を顰めた。

「お前、嬉しいからと言って今夜はあんまりサカるなよ。明日、空良くんが出られないとなったらみんなから大顰蹙をかうぞ」

「――っ、わかってるよ! お前、俺をなんだと思ってるんだ! 人の家でそこまでするわけないだろう!」

そこまで・・・・と言った時点で、少しはすると認めたようなものだが、確かにフランスではいつも起きてくるのが最後だったから心配されても仕方がないな。
私も可愛いユヅルの隣では理性がとびそうになるが今夜だけは必死で抑えなければユヅルに嫌われてしまう。

鬼畜疑惑を払拭するにも、ユウキは明日は早く起きてくるのが必要なのかもしれない。
しおりを挟む
感想 91

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...