ブラコン学園長が恋したのは真面目で可愛い新任教師でした

波木真帆

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本当は……

羽織っていたジャケットをそっと脱ぐ。
そして、敬介の膝を枕に眠っている斎川先生にそのジャケットをかけ、腕に抱きかかえた。
予想していたよりも軽いことに驚く。
だがそれ以上に、彼の顔が間近に見えて、あまりの可愛さに思わず足が止まった。
この距離で彼を見るのは、初めてだったからつい見惚れてしまう。

「兄さん、大丈夫? 周平さんに連れて行ってもらおうか?」

私が身動き一つしないから、彼を運べないと思ったのだろう。
そんな提案をしてくるが、この温もりを誰にも譲ったりしない。

「大丈夫だ。敬介は周平くんと先にホテルに行って、部屋を使えるようにしておいてくれ」

「わかった。行こう、周平さん」

敬介はさっと立ち上がると、周平くんの手を取って部屋を出ていった。途端に部屋がしんと静まり返る。
ようやく訪れた斎川先生との二人っきりのひとときに、なんとも言えない感情が込み上げた。

彼を手放したくない。一緒に朝を迎えたい。

そんな思いでいっぱいになる。だが、まだ時期尚早。
今日は我慢だ。

彼の頬が私の胸元に触れる。
その温もりに、思わず息を呑んだ。
愛しい人の温もりとほのかに香る彼の甘い香りを堪能しながら、斎川先生を抱きかかえて店を出た。

昼間はだいぶ温かかったが、やはり夜は冷える。
だが、イギリスで仕立てたビキューナのジャケットなら、夜風くらい問題ないだろう。

このジャケットを仕立てた時は、このような使い方をするとは思っていなかったが、斎川先生を暖かく包み込むことができてよかった。


「あ、兄さん!」

ホテルのロビーに足を踏み入れると、敬介が駆け寄ってくる。

「部屋の手続きはしてくれたか?」

「うん。だけど今日はジュニアスイートしか空いてなくて……」

敬介がオーナーを務めるイリゼホテルは高級ホテル。
当日飛び込みでジュニアスイートとなると、数十万クラスの部屋になる。
それを気にしているのかもしれないが、斎川先生を寝かせる部屋だ。
スイートでなくて残念だと思っているくらいだから、全く問題ない。

「支払いのことを気にしているなら問題ない」

「いや、そうじゃなくてあまり広すぎると、斎川くんが起きた時びっくりしちゃうんじゃないかと思って……」

そうか、その心配だったか。

「まぁ、驚くだろうが大丈夫だよ。支払いは私につけておいてくれ。鍵を頼む」

敬介からカードキーを受け取り、エレベーターに向かう。
敬介がついてこなかったのは、私を気遣ってくれているのだろう。

カードキーをエレベーターにかざす。
そうしなければ、この部屋のボタンが現れない仕組みになっている。

エレベーターを降り、部屋に向かう。その間もずっと彼からは穏やかな寝息が聞こえていた。

部屋に入り、斎川先生をベッドにそっと横たえる。

柔らかなマットレスに身体が沈み、彼は小さく身じろぎをした。
だが、目を覚ますことなく、規則正しい寝息を立てている。

「よかった」

ホッと一息つくが、腕の中にあった温もりが離れた途端、胸の奥が妙に空いたような気がした。

彼にかけていた私のジャケットを外し、彼のジャケットとネクタイ、ベルトを外して楽にしてやる。
少しだけ額にかかった髪を指先で払うと、くすぐったそうに眉がわずかに動いた。

それだけで、思わず笑みが溢れる。

「まったく……」

こんな無防備な姿を見せられて、平静でいられるほど私はできた人間ではない。
ベッドの縁に腰を下ろし、しばらく彼の寝顔を眺めていた。

長いまつ毛。
スッと通った鼻筋。
ほんのり赤い頬。

あの店で見せていた嬉しそうな表情とは違い、今はひどく幼く見える。
思わず手を伸ばしかけて、ハッとして止めた。

これ以上触れてしまえば、もう帰れなくなる。

本当は、このままここに残り、朝まで彼の隣にいたい。
だが、まだその資格はない。

立ち上がり、ベッド脇のテーブルに備え付けのメモを一枚とる。

少し考えてから、ペンを走らせた。


<目を覚ました時には驚くかもしれないが、どうか安心してほしい。少し酒に酔っていたようなので、ホテルの部屋を用意した。体調が悪いようなら無理はしないこと。学校のことは気にしなくていい。 浅香知成>


書き終えてから、しばらくその紙を見つめる。
本当はもっと書きたいことがあるが、今はこれでいい。

メモをテーブルに置き、最後にもう一度だけ彼を見る。

「おやすみ、斎川先生」

その言葉に、彼がふっと笑みを浮かべたような気がした。
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