運命の人は親友の××でした 

波木真帆

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番外編

制服の魔法  8

<side涼平>

「ただいまー。腹減ったー」

指紋認証の玄関扉を開け、いつものように声をかけて入った。
けれど、いつも出迎えてくれる母さんの姿がない。
家にいるはずなのに、珍しい。

そう思いながら靴を脱いで上がろうとすると、見慣れない靴を見つけた。

父さんのとも、兄貴のとも違う茶色の革靴のようなもの。
隣に並んだ兄貴のスニーカーとサイズがあまりにも違うから、兄貴のじゃない。
でも、細いヒールの靴ばかり履く母さんのでもありえない。

じゃあ、誰のだ?

見慣れない靴を前に玄関で佇んでいると、

「あら、涼平。帰ってきてたの?」

と母さんの声が聞こえた。
どうやら二階にいたみたいだ。

「あ、うん。今、帰った」

「手を洗ってらっしゃい。おやつ用意するわよ」

いつも笑顔だが、今日はやけに機嫌がいい母さんになんとなく違和感を感じる。
俺は、とりあえず家に上がった。リビングのソファにランドセルを置き、手を洗ってからダイニングに向かった。

母さんが鼻歌混じりに、俺のおやつを用意している。絶対に何かいいことがあったに違いない。

「はい。召し上がれ」

出してくれたのは、シャケとおかかのおにぎりと野菜スープ。

それを頬張りながら、気になっていることを尋ねてみた。

「ねぇ、玄関にあったあの靴。誰の?」

「あら、やっぱり気づいたの? 誰だと思う?」

楽しげに笑う母さんを見て、ますます気になる。

「母さんのじゃないだろ」

早く教えろよと言いたいのを我慢して返すと、笑って答えた。

「ええ。周平がお友だちを連れてきてるの」

「ぶっ、ごほっ。ごほっ」

兄貴が?
友だちを連れてきた?

口の中のご飯を吐き出してしまいそうになるのを必死に抑える。
母さんが差し出してくれたお茶を一気に飲み干し、声を上げた。

「冗談だろ?」

俺が驚くのを見て、母はさらに楽しそうな表情を浮かべている。

「ふふ。本当なの。しかも、可愛い子よ」

「可愛いって……」

あの、兄貴が……そんなことあるはずない。

「本当に可愛い子なのよ。周平も隅におけないわよね~。友だちって言い張ってたけど多分、すぐに付き合っちゃうわよ」

「うそだろ……」

堅物で、真面目で、勉強以外何も興味もなさそうなあの兄貴が……
まじで信じられない。

茫然としたまま、目の前のおにぎりとスープを平らげ、席を立った。
ランドセルをとって、部屋に上がろうとすると

「邪魔しないのよ」

と声がかかる。

「わかってるよ」

そう言いつつも、内心は気になって仕方がなかった。

兄貴に気づかれないようにそっと階段を上がる。
兄貴の部屋の扉に耳を当て、中の会話を聞いてみる。

でも、うちは俺の部屋も含めて全て防音。
扉に耳を当てたくらいで聞けるわけがない。

ゴクリと息を呑み、そっとドアノブに手をかけた。

気づかれないように、慎重に……
静かにドアノブを回す。

カチャッと音がしたら終わりだ。

全神経を集中して音を立てないようにドアノブを回し、扉を開ける。
ほんのわずかな隙間ができた。

俺はその隙間から部屋の中を覗き込む。

すると……

足を投げ出してラグに座っている兄貴を跨いで、その上に乗っている人影が見えた。

「えっ……?」

一瞬、何をしているのか理解できなかった。

距離が近い、
いや、近いなんてもんじゃない。

顔が重なっていて、何をしているのか、どんな表情をしているのかは見えない。

でも、それでもわかる。

あれは、どう見ても……

「は?」

頭の中で何かが弾けた。

兄貴が?
あの兄貴が?
人を部屋に入れるどころか、こんな……

ドクンと心臓が跳ねる。

もう一度ちゃんと見ようと、ほんの少しだけ扉を開けて覗き込んだその時

「んっ……しゅう、へいさん……っ」

甘く妙に艶かしい声が耳に飛び込んできた。

「っ!」

あまりの衝撃に急いで扉を閉めた。
静まり返った廊下に、自分の心臓の音だけがやけに大きく響く。

ドクドクドク、と耳の奥で鳴り続けるそれに思考が全く追いつかない。

「うそ、だろ……」

あの、堅物で、真面目で、色恋とか一切興味なさそうな兄貴が……

絶対に違うと思いたくても、さっきの光景が頭から離れない。

跨ってたよな?
しかも、あの声……

「キス、してた……?」

言葉にした瞬間、顔が一気に熱くなる。

もう一度、確認するか?

「いやいや、無理無理無理」

もし、キスしてたのを俺が見たなんて知られたら、兄貴に何されるか……

ブルっと背筋が凍るのを感じながら、俺は急いで自分の部屋に飛び込んだ。
感想 69

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みんなの感想(69件)

四葩(よひら)
2026.03.31 四葩(よひら)
ネタバレ含む
2026.04.04 波木真帆

四葩さま。コメントありがとうございます!
涼平のランドセル背負った姿。見てみたいですよね(笑)
邪魔しないように注意されてもこっそり覗いちゃう。
ここが涼平っぽいところですwww
かわい子ちゃんが兄に跨ってキス。
かなり刺激的です。
兄には気づかれてそうな気もしますが、今は敬介に夢中なので今は咎めることはないでしょうね。
今頃、兄の顔が見れない〜とドキドキしまくってそうです(笑)

解除
いぬぞ~
2026.03.31 いぬぞ~
ネタバレ含む
2026.04.04 波木真帆

いぬぞ〜さま。コメントありがとうございます!
涼平のランドセルはまだ許容範囲ですが、祐悟もランドセル背負っていると思うとちょっとウケますよね(笑)
紀香ママがおやつを用意すると考えて、やっぱりケーキとかお菓子はなさそう……と思ったら、やっぱりおにぎりになりましたwww
でもそれくらい食べないと旦那な胃袋は夕食まで持ちませんね。
にゃんこならお腹いっぱいになっちゃってますね。

ふふ🤭そうそう、そういう設定でした(笑)
その点周平はかなり堅物ですね。

かわい子ちゃんの方が積極的に兄を跨いで座ってるんで、やっぱり驚きますよね。
しかもチュー後の艶かしい声まで聞いちゃいました(笑)
小学生な涼平には刺激強かったかな?
いやいや、ニャンコな高校生よりかなり情報は持ってそうですよね(笑)

解除
Madame gray-01
2026.03.31 Madame gray-01
ネタバレ含む
2026.04.04 波木真帆

Madame gray-01さま。コメントありがとうございます!
ふふ🤭あの兄貴が?ですよね(笑)
こっそり覗いてすごいもの見ちゃいましたwww

解除

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