真っ白ウサギの公爵令息はイケメン狼王子の溺愛する許嫁です

波木真帆

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第一章

ささやかな願い

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一度書いてみたかったケモ耳異世界。
最初だけ悲しい部分がありますが、転生してからは愛されモードになります。
上手く書けるかわかりませんが楽しんでいただけると嬉しいです。


  *   *   *

<side蒼央>

蒼央あおくん、今日は頑張って食べたわね。この調子で元気になったら、きっとお父さんもお母さんも病院に来てくれるわよ」

「うん。ありがとう。師長さん」

なんとか半分以上食べ終わった食器を配膳車に乗せて部屋を出ていく師長さんを見送りながら、僕は大きなため息を吐いた。

お母さんたちが来てくれるわけがない。
師長さんだって分かってるけど、僕のために言ってくれてるんだよね。

でも……言われるだけで、結局は来てくれない事を再確認してどんどん傷ついていく。
こんなんなら、もうお母さんたちの話題なんて出してくれなくていいのに……
僕は空しか見えない窓を見ながらもう一度大きなため息を吐いた。



僕、夏川なつかわ蒼央あおは予定日よりも三ヶ月近く早く生まれたせいか、生まれた時から身体が弱くこれまで生きてきたほとんどの時間を病院で暮らしている。
一歳になった頃に数回、自宅で数日間過ごしただけでなんの思い出もない僕の世界はずっと変わらないこの個室と、ここから見える空だけ。
あとは何も知らない。

毎日、ベッドを少し起こして座っているだけで何もせずにただ時間だけが流れていくのを見ているだけだ。

余命宣告は今までに五回は受けた。

一歳まで持てばいい。

三歳を超えられるかどうか。

小学生にはなれないかもしれない。

十歳を迎えられるかどうかわからない。

二十歳までは確実に生きられないでしょう。
多分これが、最後の余命宣告だと思ってる。

そう感じながら、僕は先生たちのおかげで先日十八歳の誕生日を迎えた。

物心ついた頃から、お父さんたちはあまり病院にはきてくれなかった。
大部屋にいたころ、周りの子たちのところには毎日のように誰かが付き添って、食事を食べさせてもらってたり、抱っこされながら眠ったり、絵本を読み聞かせしてもらってたりしていた。
ずっと同じ部屋で聞いていたから、僕の頭の中にあるいくつかの物語は誰かのお父さんかお母さんの声で覚えたものだ。

最初は扉が開くたびに、お母さんかも!
次こそはお父さんかも!
今度こそ……って毎日期待してた。

でも、どれだけ期待しても僕に会いに来てくれることはほとんどなかった。
あまりにも僕のところに誰も来てくれないから、いつの間にか僕の部屋は個室に変わってしまった。きっと師長さんたちの配慮だったんだろう。
みんなが親と楽しく過ごしているのを見なくて良くなった分、さらに一人の時間が増えた。

もうすっかり期待しなくなった頃、突然お母さんがやってきた。
久しぶりに見たお母さんは僕の記憶の中のお母さんとは随分変わってしまったように見えた。

それでも来てくれたことが嬉しくて僕は久しぶりに笑顔になれた気がした。

でも、久しぶりに会いに来てくれたことが嬉しすぎて、僕はついわがままをいってしまったんだ。

「ねぇ、お母さん……僕、もっとお母さんに会いたい! だから、もっと病院に来て」

もっとお母さんとの時間を過ごしたい。
みんなのようにご飯を食べさせてもらったり、抱っこしてもらったり……お母さんと会話を楽しんでみたいってお願いしたら、きっとお母さんもわかってくれると思った。

でも……今まで見たこともない鬼のような形相で怒鳴られた。

「会いたい? ふざけないで! あんたの病気のせいで、私がどれだけ苦労してると思ってるの? 高い医療費ばっかり払わされて、一向に治りもしない。あんたのせいで私には自由な時間もなく働かされるばっかり。余命宣告受けるたびにこれまでの辛抱だと必死にやってきたのに全然くたばりもしないし、いい加減にしてよ!」

「お、お母さん……ご、ごめ――」

「ああーっ、もうほんとなんなのよ、あんた! あんたのせいで私の人生めちゃくちゃよ! 治りもしないんならさっさと死んじゃってよ。ほんと迷惑なのよ! あんたのせいで! あんたのせいであの人だっていなくなっちゃったんだから! あんたなんか、ほんと産まなきゃよかった! なんであの時死ななかったのよ! 死んでくれたら私は幸せになれたのに!」

お母さんはそう吐き捨てると病室をバタバタと出て行って、それから一度も来てくれなくなった。

当時十歳だった僕はお母さんに怒られたことが怖くて、苦しくて……しばらく泣いて過ごした。
僕がわがままを言ったから嫌われたんだ。
僕は悪い子だったんだ。
だから、愛してもらえないんだ。

それが悲しくて布団を被ってひたすら泣いた。

――あんたなんか、ほんと産まなきゃよかった! なんであの時死ななかったのよ! 死んでくれたら私は幸せになれたのに!

この言葉がずっと耳に残って離れない。
そんな僕に追い打ちをかけるような話が耳に入ってきた。


「ねぇ、聞いた? 蒼央くんのお父さん……若い女と浮気してでてっちゃったんだって」
「えーっ、だからお母さん、あんなことを蒼央くんに?」
「気持ちはわかるけど、酷すぎでしょ」
「まあね、でももう十年でしょ? 辛くなるのもわかるよね」
「もう多分来ないんじゃない?」
「うーん、そうかもね。ってか、お母さんも浮気してるでしょ?」
「えっ? そうなの?」
「この前田村さんが街で若い男と腕組んで歩いてるの見たってさ」
「じゃあ、もう本格的に蒼央くんのこと見捨てるってわけ?」
「まあ、うちとしては入院代だけ滞らずに払ってくれさえすれば家庭のことには首突っ込まないけどね」
「でも、ほんと蒼央くん可哀想……。最期くらいは会いに来てくれたらいいけどね」


看護師さんたちは廊下での会話が部屋に筒抜けなのを知らないのかな。
いや、わざと僕に聞かせて現実を思い知らせてくれているのかもしれない。

そうか……僕はとうとう捨てられたんだ……
治りもしない、かといってなかなか死なない僕に嫌気がさしたんだ。

僕はあの日から、死ぬことだけを考えて生きるようになった。
それでも自分で死ぬのは怖くてできなかった。
でも、僕は自分で手を下さなくても近いうちに死ぬ。
それだけが、いつしか僕の心の拠り所になっていた。



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