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第一章
初めてのお客さん
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<sideアズール>
「あぶっ、あぶっ」
うーん、いっぱい寝てスッキリした気分。
お母さま、僕……目が覚めちゃった。
手足をばたつかせて、一生懸命声を上げる。お母さまはすぐに気づいて僕を抱き上げてくれた。腕の中にスポッとおさまって見上げると、お母さまの優しい笑顔が見える。
ああ、お母さまは今日も優しい。
お母さま、大好き。
「あだっ、だっ」
「アズール、とってもご機嫌ね」
「あぶーっ」
だって、毎日とっても嬉しいんだ。
きっとお母さまとずっと一緒だからかな。
手を伸ばすとすぐに僕の手をぱくっと咥えて遊んでくれるし、お腹が空いたらすぐにミルクを飲ませてくれるし、呼んだらすぐに抱っこしてくれるし……今まで僕がして欲しかったことが全て叶うって、本当に嬉しい。
お母さまと楽しくおしゃべりしていると――と言っても、僕はあぶっとか、ばぶっとかしか言えてないけど気持ちは伝わっていると思いたい――部屋の扉が叩かれた。
「あっ、アズール。お父さまがきてくださったわよ」
いつも笑顔のお母さまだけど、お父さまがこの部屋に来てくれた時はいつにも増して嬉しそうだ。
僕もお父さまが来てくれるのは嬉しい。
だって、大きな手で抱っこしてくれるんだもん。
「アリーシャ、アズールの様子はどうだ?」
「あだっ、だっだっ」
「聞こえます? あなたが来たのが嬉しいみたいで元気いっぱいですよ」
「そうか、いい子だな」
お母さまの腕から優しく抱き上げてくれる。
お母さまの抱っこもあったかくて嬉しいけれど、お父さまの抱っこはしっかりと包まれる感じがして安心するんだ。
「アズール、お父さまだぞ」
「あぶっ」
「本当にわかっているみたいだな」
わかってるよ、お父さま。
早くいっぱいおしゃべりできたらいいのに……
ちょっともどかしいな。
「アズール、今日は大事な人がお前に会いにくるぞ」
「あぶーっ」
大事な人って誰?
でも僕にお客さんだなんて……っ!
生まれて初めてだ!!
「きゃっ、きゃっ」
「んっ? 今日は本当にご機嫌だな。もしかして相手が分かってるのか?」
「あなたったら、そんなこと……」
お母さまがくすくすと楽しそうに笑っている。
「いや、アリーシャ。運命の相手なのだから、そんなこともあるかも知れぬぞ」
お父さまは少し驚いた様子で僕を見る。
でも……運命の相手って、どういうことだろう?
「今から王子がお越しになるのですか?」
「さっき城から早馬が来た。今日は正式にアズールに会いにくるようだ」
「そうですか……王子もようやくアズールと対面なさるのですね」
「ずっと悩んでいたようだったが、覚悟が決まったのだろうな。神の御意志とはいえ、アズールが怖がらなければいいがな」
僕を見つめるお父さまの目が優しい。
「大丈夫ですわ。なんと言っても運命のつがいなのですから……」
「そうだな。それを信じよう」
お父さまはお母さまとお話を終えると、ギュッと僕を抱きしめて部屋を出て行った。
結局話の内容はよくわからなかったけれど、僕に誰かお客さんが来てくれるということはわかった。
ああ、早く来てくれないかな……
待ち遠しすぎるっ!!
それからしばらくして、お父さまがまた部屋に現れた。
もしかして、お客さんが来たの??
あまりにも嬉しくて興奮してしまう。
お父さまはスッと僕を抱き上げて、真剣な表情で僕を見つめた。
「ああ、アズール……。いいか、運命に出会ってもお前を一番愛しているのは父の私だと忘れてはならぬぞ。わかったな」
あれ? 何か聞き覚えがあるような言葉だけど……どこで聞いたんだっけ?
でも、大丈夫。
僕……お父さまが大好きだよ。
「あぶっ、あぶっ」
そう伝えたくてお父さまの顔に手を伸ばすと、お父さまは嬉しそうに笑っていた。
そして、そのまま僕を抱っこしたまま、部屋の外に連れて行かれる。
お母さまと離れるのは、最初の日以来だ。
いったいどこに連れて行かれるんだろう……。
そう思っていると、なんだか部屋中に甘くていい匂いが漂っているのがわかる。
なんだろう……
すごくいい匂いだ。
「ルーディー王子。こちらは我がヴォルフ公爵家の次男アズールにございます」
お父さまはそう言って、抱きかかえていた僕を誰かに渡そうとする。
んっ?
お父さま……今、王子って言った?
王子って……もしかして、あの、王子さま?
僕は幾度となく読み耽っていた絵本の王子さまを思い出していた。
なぜか顔中が布に覆われていて、どんな顔をしているのかよくわからないけれど、王子さまだから顔をむやみに見せちゃいけないとかあるのかもしれない。
うん、そうに違いない。
王子さまの顔は見えないけど、初めて見る本物の王子さまに会えたのが嬉しくて笑顔を見せる。王子さまは手を震わせながら僕をお父さまから優しく受け取って抱っこしてくれた。
以前いた世界で夢見るばかりだった絵本の中の出来事が今、現実に起こっていることが信じられなくて興奮してしまう。
「きゃっ、きゃっ」
手足をばたつかせて喜んでいても、なんて安定するんだろう。
ああ、お父さまとは違うけどすごく安心するな。
「アズール、私はルーディー。君の許嫁だよ」
そんな言葉が僕の小さな耳に飛び込んできた。
一瞬聞き間違いかと思ったけど、今、許嫁って言ったよね?
確か許嫁って、結婚相手ってことだった気がするんだけど……
この人は王子さまで、僕も男……それっていいのかな?
「あぶっ、あぶぅ」
僕を女の子だと間違えているのかもと思って、ちょっと乱暴に足をばたつかせてみたけれど、僕の力が弱すぎて何にもならない。
まぁ、いいや。
もしかしたらこの世界は男とか女とか関係ないのかも知れない。
それより、結婚相手の顔を知らない方が寂しいかも。
よーし!
僕はさらに思いっきり手をバタバタさせて、王子さまの顔にかかっていた布を剥ぎ取った。
「あっ!」
王子さまが驚いて声をあげたけれど、それ以上に僕はびっくりした。
だって王子さまの顔に、ワンちゃんみたいなふさふさの毛が生えていたんだから!
「アズール……」
王子さまに名前を呼ばれたような気がしたけど、今は目の前のふさふさに触りたくて仕方がない。僕は手を伸ばしてほっぺたに触ってみた。
もふっと柔らかい感触がとてつもなく気持ちがいい。
「あだっ、あだっ!」
もっともっと触りたくて両手を伸ばして顔を撫で回していると、僕の指が王子さまの口の中に入ってしまった。
おっきな歯が痛いかな? と思ったけれど、すぐに何かが僕の指を包み込んで何も痛くない。それどころか、チュッと吸われて気持ちいいくらい。
「きゃっ、きゃっ」
こういうのやってみたかったんだ!
僕、ずっとワンちゃんを飼ってみたかったんだ。
王子さまがワンちゃんみたいだなんて……っ!
可愛いし、嬉しいし、最高っ!
もう楽しくて、楽しくてずっと顔を撫で回してしまう。
「あ、アズール……怖くないのか?」
王子さまからそんな質問をされる。
怖い?
何が?
どれが?
「あぶっ?」
意味がわからなくて聞き返すと、僕の長い耳が垂れた気がした。
いつもはピンと張っているこの耳だけど、何か気になることがあると垂れちゃうんだって。
耳を見ると僕の気持ちがわかるんだって、お母さまが教えてくれたんだ。
すると、王子さまは突然、
「くぅっ!」
と苦しそうな声をあげた。
「あぶっ、あぶっ」
うーん、いっぱい寝てスッキリした気分。
お母さま、僕……目が覚めちゃった。
手足をばたつかせて、一生懸命声を上げる。お母さまはすぐに気づいて僕を抱き上げてくれた。腕の中にスポッとおさまって見上げると、お母さまの優しい笑顔が見える。
ああ、お母さまは今日も優しい。
お母さま、大好き。
「あだっ、だっ」
「アズール、とってもご機嫌ね」
「あぶーっ」
だって、毎日とっても嬉しいんだ。
きっとお母さまとずっと一緒だからかな。
手を伸ばすとすぐに僕の手をぱくっと咥えて遊んでくれるし、お腹が空いたらすぐにミルクを飲ませてくれるし、呼んだらすぐに抱っこしてくれるし……今まで僕がして欲しかったことが全て叶うって、本当に嬉しい。
お母さまと楽しくおしゃべりしていると――と言っても、僕はあぶっとか、ばぶっとかしか言えてないけど気持ちは伝わっていると思いたい――部屋の扉が叩かれた。
「あっ、アズール。お父さまがきてくださったわよ」
いつも笑顔のお母さまだけど、お父さまがこの部屋に来てくれた時はいつにも増して嬉しそうだ。
僕もお父さまが来てくれるのは嬉しい。
だって、大きな手で抱っこしてくれるんだもん。
「アリーシャ、アズールの様子はどうだ?」
「あだっ、だっだっ」
「聞こえます? あなたが来たのが嬉しいみたいで元気いっぱいですよ」
「そうか、いい子だな」
お母さまの腕から優しく抱き上げてくれる。
お母さまの抱っこもあったかくて嬉しいけれど、お父さまの抱っこはしっかりと包まれる感じがして安心するんだ。
「アズール、お父さまだぞ」
「あぶっ」
「本当にわかっているみたいだな」
わかってるよ、お父さま。
早くいっぱいおしゃべりできたらいいのに……
ちょっともどかしいな。
「アズール、今日は大事な人がお前に会いにくるぞ」
「あぶーっ」
大事な人って誰?
でも僕にお客さんだなんて……っ!
生まれて初めてだ!!
「きゃっ、きゃっ」
「んっ? 今日は本当にご機嫌だな。もしかして相手が分かってるのか?」
「あなたったら、そんなこと……」
お母さまがくすくすと楽しそうに笑っている。
「いや、アリーシャ。運命の相手なのだから、そんなこともあるかも知れぬぞ」
お父さまは少し驚いた様子で僕を見る。
でも……運命の相手って、どういうことだろう?
「今から王子がお越しになるのですか?」
「さっき城から早馬が来た。今日は正式にアズールに会いにくるようだ」
「そうですか……王子もようやくアズールと対面なさるのですね」
「ずっと悩んでいたようだったが、覚悟が決まったのだろうな。神の御意志とはいえ、アズールが怖がらなければいいがな」
僕を見つめるお父さまの目が優しい。
「大丈夫ですわ。なんと言っても運命のつがいなのですから……」
「そうだな。それを信じよう」
お父さまはお母さまとお話を終えると、ギュッと僕を抱きしめて部屋を出て行った。
結局話の内容はよくわからなかったけれど、僕に誰かお客さんが来てくれるということはわかった。
ああ、早く来てくれないかな……
待ち遠しすぎるっ!!
それからしばらくして、お父さまがまた部屋に現れた。
もしかして、お客さんが来たの??
あまりにも嬉しくて興奮してしまう。
お父さまはスッと僕を抱き上げて、真剣な表情で僕を見つめた。
「ああ、アズール……。いいか、運命に出会ってもお前を一番愛しているのは父の私だと忘れてはならぬぞ。わかったな」
あれ? 何か聞き覚えがあるような言葉だけど……どこで聞いたんだっけ?
でも、大丈夫。
僕……お父さまが大好きだよ。
「あぶっ、あぶっ」
そう伝えたくてお父さまの顔に手を伸ばすと、お父さまは嬉しそうに笑っていた。
そして、そのまま僕を抱っこしたまま、部屋の外に連れて行かれる。
お母さまと離れるのは、最初の日以来だ。
いったいどこに連れて行かれるんだろう……。
そう思っていると、なんだか部屋中に甘くていい匂いが漂っているのがわかる。
なんだろう……
すごくいい匂いだ。
「ルーディー王子。こちらは我がヴォルフ公爵家の次男アズールにございます」
お父さまはそう言って、抱きかかえていた僕を誰かに渡そうとする。
んっ?
お父さま……今、王子って言った?
王子って……もしかして、あの、王子さま?
僕は幾度となく読み耽っていた絵本の王子さまを思い出していた。
なぜか顔中が布に覆われていて、どんな顔をしているのかよくわからないけれど、王子さまだから顔をむやみに見せちゃいけないとかあるのかもしれない。
うん、そうに違いない。
王子さまの顔は見えないけど、初めて見る本物の王子さまに会えたのが嬉しくて笑顔を見せる。王子さまは手を震わせながら僕をお父さまから優しく受け取って抱っこしてくれた。
以前いた世界で夢見るばかりだった絵本の中の出来事が今、現実に起こっていることが信じられなくて興奮してしまう。
「きゃっ、きゃっ」
手足をばたつかせて喜んでいても、なんて安定するんだろう。
ああ、お父さまとは違うけどすごく安心するな。
「アズール、私はルーディー。君の許嫁だよ」
そんな言葉が僕の小さな耳に飛び込んできた。
一瞬聞き間違いかと思ったけど、今、許嫁って言ったよね?
確か許嫁って、結婚相手ってことだった気がするんだけど……
この人は王子さまで、僕も男……それっていいのかな?
「あぶっ、あぶぅ」
僕を女の子だと間違えているのかもと思って、ちょっと乱暴に足をばたつかせてみたけれど、僕の力が弱すぎて何にもならない。
まぁ、いいや。
もしかしたらこの世界は男とか女とか関係ないのかも知れない。
それより、結婚相手の顔を知らない方が寂しいかも。
よーし!
僕はさらに思いっきり手をバタバタさせて、王子さまの顔にかかっていた布を剥ぎ取った。
「あっ!」
王子さまが驚いて声をあげたけれど、それ以上に僕はびっくりした。
だって王子さまの顔に、ワンちゃんみたいなふさふさの毛が生えていたんだから!
「アズール……」
王子さまに名前を呼ばれたような気がしたけど、今は目の前のふさふさに触りたくて仕方がない。僕は手を伸ばしてほっぺたに触ってみた。
もふっと柔らかい感触がとてつもなく気持ちがいい。
「あだっ、あだっ!」
もっともっと触りたくて両手を伸ばして顔を撫で回していると、僕の指が王子さまの口の中に入ってしまった。
おっきな歯が痛いかな? と思ったけれど、すぐに何かが僕の指を包み込んで何も痛くない。それどころか、チュッと吸われて気持ちいいくらい。
「きゃっ、きゃっ」
こういうのやってみたかったんだ!
僕、ずっとワンちゃんを飼ってみたかったんだ。
王子さまがワンちゃんみたいだなんて……っ!
可愛いし、嬉しいし、最高っ!
もう楽しくて、楽しくてずっと顔を撫で回してしまう。
「あ、アズール……怖くないのか?」
王子さまからそんな質問をされる。
怖い?
何が?
どれが?
「あぶっ?」
意味がわからなくて聞き返すと、僕の長い耳が垂れた気がした。
いつもはピンと張っているこの耳だけど、何か気になることがあると垂れちゃうんだって。
耳を見ると僕の気持ちがわかるんだって、お母さまが教えてくれたんだ。
すると、王子さまは突然、
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