真っ白ウサギの公爵令息はイケメン狼王子の溺愛する許嫁です

波木真帆

文字の大きさ
64 / 296
第一章

遠い日の思い出

しおりを挟む
<sideアズール>

いつもベッドで寝るか、起き上がるかをして過ごす日々だった病室で、動き回れない僕の一番の楽しみが折り紙だった。

まだ大部屋にいた頃、隣のベッドにいた子が元気になって退院していく時、迎えにきたおばあちゃんが一緒の部屋だった僕たち3人に折り紙をくれたんだ。

金色と銀色も入った100枚入りの綺麗な折り紙。

――えーっ、お菓子がよかったのに。

そんなことを言っている子たちをよそに、僕は初めてみるこの綺麗な紙に釘付けだった。

「あの……おばあちゃん、ありがとう」

僕のあの短い人生でその言葉を話したのは、あの時が最初で最後だったかもしれない。

おばあちゃんは緊張に震えていた僕の言葉ににっこりと笑顔を浮かべて、

「これもあげよう。きっと楽しいよ」

一冊の本を手渡してくれたんだ。

それからすぐだった。
僕が一人部屋に移ったのは。

もらった折り紙は、何度も折っては何度も開いて、破れるまで何度も何度も繰り返し使った。
綺麗な色を使うのが勿体無くて、減っていくのを見るたびに心が痛かった。

僕が集中して折り続けているのをみた師長さんにあまり無理をしちゃいけないと怒られたけれど、僕は初めての娯楽に出会えたようなそんな幸せを止める気にはならなかった。

一冊まるまる作り方を覚えた頃には、折り紙は残り半分くらいになってしまっていた。

ちゃんとお昼寝をするという約束で、師長さんから余った紙をもらえるようになって、僕はすごく嬉しかった。

あの時覚えた折り紙がまさかこんなところで役に立つなんて……人生わからないものだよね。

ルーに似合う王冠。
やっぱり金色の紙がいいかな。

もしプレゼントしてもいいなら、金色の紙で作れたらな。

「じぃ、どう?」

久しぶりだったから覚えているか心配だったけど、蒼央としての記憶が残っているなら折り紙の作り方も覚えているんじゃないかって思ったのは当たっていたみたい。

驚くくらい滑らかに指が動いた気がする。

記憶の中の僕の指より、今の僕の指は随分と小さくて短いけれどそれでもできるものなんだな。
心の中で自分に感心しながら、王冠を被ったところを爺に見せると、爺は驚いた顔をしたまましばらく動かなかった。

「じぃ?」

「あ、アズールさま……あの、こちらは……一体、どちらで学ばれたのですか?」

「えっ? えっとぉ……」

お父さまに聞いた……はダメだよね。
なら、お母さまも……お兄さまはもっとダメだよね。
だって、お兄さまが知っていることを爺が知らないわけないもの。

っていうか、普通にあるものだと思ってたけど、もしかして折り紙ってここになかったとか?

うわーっ、どうしよう……。
それは考えてなかった。

「あの、えっとぉ……しらない、あいだに?」

「えっ?」

「だから……えっとぉ、あのいろいろ、おってたら……しらないあいだに、つくれるようになってたの。うん、そう! しらない、あいだに」

爺の視線がなんだかドキドキする。
でも、生まれるより前の記憶がある……なんてこと、いうわけにもいかないし。
これで貫き通すしかないよね。

「……そうでございましたか。なんと素晴らしいっ! さすが、ルーディーさまの運命の番さまでいらっしゃる!!」

少し興奮気味の爺にちょっとドキドキしつつも、何とか誤魔化せたことにホッとすると同時に、褒められて嬉しくなってしまう。

「あの、アズールさまがお作りになったその王冠を、爺にしっかりと見せていただけますか?」

「ふふっ。いいよ」

僕の頭から落ちないように王冠の中に耳を入れていたから、爺は僕の耳に触れないようにゆっくりと王冠を引き抜いた。

やっぱりルーが話していたように耳に触っちゃいけないんだよね。
爺もマックスもふわふわそうな耳してるから触ってみたいけど、昔、マックスの尻尾に触ろうとした時、ルーに注意されたから絶対にダメだよね。

あーあ、今はルーもいないから、ルーの耳も、もふもふなほっぺも、もふもふふさふさなしっぽにも触れなくて、なんか寂しいな。

今日行っちゃったばかりなのに、もうルーに会いたいよ。

「アズールさま? どうかなさいましたか?」

「ううん。だいじょうぶ」

「そうでございますか?」

爺は心配そうに僕を見つめながらも、

「この王冠は本当に素晴らしゅうございます。これはルーディーさまもお喜びになりますよ」

と言ってくれた。

「ほんと? わぁー、うれしいっ!」

「それではすぐにこの王冠にぴったりな紙をご用意いたしましょう」

「あのね、じぃー、ぼく……きんいろがいい……」

「承知いたしました。金色の素晴らしい紙をご用意いたします」

爺の言葉に僕は飛び上がりそうなほど嬉しかった。


「ふにゃっ!」

突然トントントンとすごい勢いで扉が叩かれて、僕はびっくりして声を上げてしまった。

「申し訳ございません、アズールさま。きっとマクシミリアンが帰ってきたのでしょう」

爺は急いで扉に駆け寄ると、勢いよく扉を開けた。

「アズールさまを驚かせてどうするんだ!」

「アズールさま、申し訳ございません」

部屋の中に入ってきて早々に僕に謝ってくるけれど、僕が勝手に驚いてしまっただけだから気にしないでいいのに。

「あずーる、もうだいじょうぶ。それより、まっくすのおててにあるの、なに?」

「これが騎士団の詰め所に置いてあったのを思い出して取ってきたのですが、これは誰にでもバロンを膨らませることができる道具でございます!」

「あずーるにも?」

「はい。もちろんでございますよ」

「どうやって、するの?」

「バロンの先を先端に差し込みます。そして、ここを手のひらで押すと簡単に膨らみますよ」

説明しながら、マックスがやってくれるのをみていると、風船はあっという間に綺麗に膨らんだ。

「わぁーっ! すごいっ、すごいっ! これなら、あずーるにも、できちゃうね」

「はい。もちろんでございます。早速やってみられますか?」

「やるー!!」

僕は手渡された風船をその道具の先端に差し込んで、最初は片手でぐっと押してみた。

「ふぇっ……うご、かない……」

重くて硬くてびくともしない。

「だ、大丈夫でございますよ。あのアズールさま、両手で。そう、両手でやってみましょう」

「りょうて?」

言われた通り、今度は両手でぐっと力一杯押してみた。
風船を差し込んだ側はマックスが持っているけれど、やっぱりびくともしない。

「ふぇ……っ、うご、かない……っ」

僕はルーのために風船を膨らませることもできないんだ……。

そう思っていると、

「アズールさま、申し訳ございません! 私のやり方が間違っておりました。もう一度やっていただけますか?」

と声をかけられた。

でも、僕にはきっと……。

そう思いながら、もう一度手のひらでぐっと押し込むと、スッと道具が動いた気がした。
と同時にさっきまで萎んでいた風船がパンパンに空気が入っている。

「わぁー! できた!!」

「さすがでございます! アズールさま! これでお作りになれますよ」

僕、できたんだ!
これでルーにそっくりな風船が作れるんだ!!
わぁー、よかった!
しおりを挟む
感想 570

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される

中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」 夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。 相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。 このお話はムーンライトでも投稿してます〜

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜

たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話 騎士団長とのじれったい不器用BL

目が覚めたら宿敵の伴侶になっていた

木村木下
BL
日本の大学に通う俺はある日突然異世界で目覚め、思い出した。 自分が本来、この世界で生きていた妖精、フォランだということを。 しかし目覚めたフォランはなぜか自分の肉体ではなく、シルヴァ・サリオンという青年の体に入っていた。その上、シルヴァはフォランの宿敵である大英雄ユエ・オーレルの『望まれない伴侶』だった。 ユエ×フォラン (ムーンライトノベルズ/全年齢版をカクヨムでも投稿しています)

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。

はぴねこ
BL
 高校生の頃、片想いの親友に告白した。  彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。  もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。  彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。  そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。  同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。  あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。  そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。 「俺もそろそろ恋愛したい」  親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。  不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。

処理中です...