真っ白ウサギの公爵令息はイケメン狼王子の溺愛する許嫁です

波木真帆

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第二章

蒼央の記憶

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<sideアズール>

ああー、初めてお城の中にあるルーのお部屋にお泊まりしたら、部屋の中全部が安心するルーの匂いでいっぱいで僕にとってはなんだか天国みたいな場所だった。

目隠ししておっきな手袋つけてお洋服も着たままだったけど、ルーと一緒にお風呂に入ることもできたし、髪の毛と尻尾も洗ってもらえてすっごく楽しかったし、一緒に寝ている時もずっとルーの匂いに包まれて朝までぐっすり眠れた。

もう最高の夜だったな。

朝になって、お家に帰るまでルーと一緒にたくさんおしゃべりできるかなって思ったけれど、爺が僕のために美味しいお菓子をたくさん用意してくれてるっていうから食べに行ったんだ。

爺の大好きなあのお店のお菓子がたくさんあって、爺とおしゃべりしながらお腹いっぱい食べちゃった。

今度はお店にも食べに行きましょうと爺が誘ってくれて嬉しかった。
だって、こうやってお家で食べるのも楽しいけど、お外に出てお店で食べるのもすごく楽しいもんね。
ルーも一緒にいったら、わけっこして食べられるし。

でも、いっぱい食べてたら、いつの間にか眠たくなっちゃった。
夢の中でルーのいい匂いがして、一番いい匂いがするところをぺろぺろ舐めると甘い味がしてすごく美味しかった。
ふふっ、やっぱりこの匂い大好きだなぁ。

甘い味をたっぷりと舐めるとまた眠くなってくる。
そのまま僕はぐっすりと眠り込んでしまった。

「あれ?」

目を覚ますと、いつも見慣れた天井が見える。

あっ……ここ、僕のお部屋だ。

いつの間にか帰ってきたんだ……。

あれ? ルーは?

やっぱりいない……。

お泊まりした日は早くにバイバイするってことになってるから、今日は僕が寝ちゃっている間にバイバイしちゃったのかな。
残念……ああ、最後におしゃべりしたかったな。

きっとお腹ぽんぽこりんになっちゃったから眠っちゃったんだ。
うーん、お菓子もう少し我慢しておけば良かったな……。

次にルーのお部屋にお泊まりできた時は絶対寝ないようにしようっと。

そうだ!
ヴェルに起きたよって言って来よう!

そう思って、起きあがろうとしてなんだか違和感を感じた。
なんとなく下着が濡れている気がして、ズボンの中にそっと手を入れてみると、クチュリと嫌な感覚がした。

以前に一度だけ感じたあの感触と同じ。
そっと手を引き抜いて、恐る恐る下着に触れた指をみると、ねっとりとした白いものが付いているのが見えた。

――っ、こ、これ……っ。

うそ――っ。

糸を引く、その粘り気のあるものを見てあの時の辛い思い出が一気に甦ってくる。


18の誕生日を迎えてしばらく経った頃、下着が濡れているような感覚を覚えて僕は目を覚ました。
すぐにそれがおねしょだと思った。

この年になっておねしょだなんて恥ずかしい。
でも師長さんにはちゃんと報告しないといけないかな。
僕はため息を吐きながらベッドの横に置いてある小さなタンスから下着を取り出して、濡らしてしまった下着を取り替えた。

えっ……あれ? 違う。
これ、おねしょじゃないみたい。

粘り気のある白い物体。
それはどこからどう見ても僕の知っているおしっことは違う。

時々検査もしているからわかる。
紙コップに入れたおしっこは水みたいで黄色かった。
匂いを嗅いでみたけど変な匂いがする。
やっぱりこれはおしっこじゃない。

なら、これは……。
そうか……やっぱりな。

だって、もうタイムリミットは迫っているんだもん。
そりゃあいろんなところから症状は出てくるよね。

もし、これを報告したらまたいろんな検査して、新しい薬が増えて苦しい時間が長引くだけ。
それならもう何も言わずにそのままにしておこう。

お母さんだって、僕が無駄に長生きすることなんて望んでない。
先生たちだってきっと、僕が早くいなくなったほうがホッとするはずだ。
僕だってもういい加減自由になりたい。

そう!
僕はやっと自由になれるんだ。

汚れた下着は、タンスの一番下の段の誰も見ないような奥に小さく折り畳んで隠した。
それから数日はそれがいつか見つかるんじゃないかとドキドキしていたけれど、僕の下着が一枚なくなったって師長さんも誰も気が付かなかった。

もうご飯なんか食べなくてもいい。
どうせご飯を食べても死んじゃうだけだ。
そう思ったら食事も取れなくなった。

それからすぐだった。
僕の体調が目に見えて悪くなったのは。

先生たちは慌てていたけれど、僕はもうわかっていた。
だって、あんなひどい匂いのするわけのわからない物体が身体から出てくるようになったんだもん。

結局、僕があの物体を見てからひと月も経たないうちに僕は死んでしまったんだ。

だから僕にはわかってる。
あの白いものが下着についたら、それはもうすぐ死んじゃうサインなんだ。

アズールは元気だから、あれをみることはないと思っていたのに。
もし見るとしたってそれはもっとずっと大人になってからだと思ってたのに。

蒼央よりも小さな12歳でまた見ることになるなんて思いもしなかった。

そうか……僕はこの世界でも早く死んじゃう運命だったんだな。

前はもうすぐ死ねるんだと思うと嬉しかった。
ずっと病気ばかりな上にずっと一人で寂しかったから。

でも、今は違う。
優しいお父さまとお母さま。そしてお兄さまやヴェルナー。
屋敷の人たちにも優しくしてもらえてる。

それに何より大好きなルーがいる。
いつも僕のそばで抱っこしてくれて、安心させてくれるルーがいる。

死んじゃったらもう、ルーに会えないんだ……。

ルーに、会えない……。

頭がそう理解した瞬間、もう涙が止まらなくなった。

ついさっきまでルーとずっと楽しい時間を過ごしていたのに。

なんで僕は死んじゃうんだろう。

やっぱりあの時師長さんや先生に正直に言わなかったからかな。
そうか。
その時のバチが当たったのかな。

でも、やっぱり辛いな。

今度は正直に言わないといけないかな。
もうすぐ死んじゃうけど、幸せだったよって。

ルー、悲しむかな。

お父さまもお母さまもお兄さまも悲しんでくれるかな。

それにヴェルも……。


そんなことを考えながら寝室から出てきた時、ドアをトントントンと叩く音が聞こえた。

その叩き方にヴェルだとすぐにわかって、急いで扉を開けるとヴェルが僕の顔を見るなり急いで駆け寄ってきて抱きしめてくれた。

「もう怖くないですよ。大丈夫です」

ヴェルの優しい声に余計に辛くなる。
きっとヴェルのことだから、僕がもうすぐ死んじゃうことは薄々感じていいるのかもしれない。

それでも優しく怖い夢を見たのかと尋ねてくれる。
本当にヴェルは優しい。

だから怖かったけど、僕は蒼央の時から初めて本当のことを言えたんだ。

「あのね、ぼく……もうすぐ、しんじゃうの……」

そう言った時のヴェルの悲しげな顔を僕は一生忘れないだろう。
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