153 / 296
第三章
なんとかしないと!
しおりを挟む
<sideアリーシャ>
アズールとヴェルナーがこの屋敷を出て三週間。
日を追うごとにこの屋敷がどんどん暗くなっていく。
家族だけでなく、使用人たちのため息もあちらこちらで聞こえる。
特にベンは毎日のようにアズールが過ごしていた部屋に入って、アズールがいつ帰ってきてもいいように掃除をしていると言いつつも、思い出を懐かしんでいるようにも見える。
いなくなってよくわかるわ。
――ふふっ。お母さまーっ! こっち! こっち!
アズールの笑顔がいつも明るくしてくれていたのね。
アズールがいるのといないのとではこんなにも変わってしまうなんて……。
ヴィルもクレイもなんとか元気に見せているけれど、格段に口数が減ったもの。
このままじゃみんな落ち込んで体調を崩してしまうわ。
うーん、なんとかしないとね。
とりあえず、月に一度は実家に里帰りということをお願いできないかしら?
それなら、少しは我が家の雰囲気も良くなると思うのよね。
「ベン、ちょっとお買い物に行きたいのだけど一緒についてきてもらえる?」
「はい。奥さま。お供いたします」
「あ、二人に心配させたくないから、馬車はいらないわ」
「えっ……ですが……」
「いいの、ねっ」
「はい。承知しました」
ヴィルとクレイが執務室で仕事に励んでいる間に、私の突然の行動を少し訝しんでいるベンとそっと家を出た。
「あの、奥さま……本当はどちらにお出かけになるのでございますか?」
「ふふっ。騎士団の訓練場よ」
「アズールさまにお会いになるのですか?」
「いいえ。アズールがいるかどうかはわからないわ。王子がアズールを連れて行っているとは思えないし」
「では……?」
「ふふっ。内緒」
途中で差し入れのパンを買って訓練場に向かうと、入り口にはアズールが過ごしていた間いつも我が家の警護任務にあたってくれていた騎士たちの姿が見えた。
声をかけようと近づくと騎士たちの方から驚きの表情と共に声をかけられた。
「――っ!! ヴォルフ公爵家の奥方さま。このような場所にお越しいただくとは何かございましたか?」
「いいえ。いつも警護してもらっていたお礼に来ただけなの。マクシミリアンはいるかしら?」
「はい。ただいま中で訓練中でございます。どうぞご案内いたします」
「ありがとう」
見知った騎士が入り口にいてくれて助かったわ。
奥に進むと、騎士たちの闘志溢れる声が響いてくる。
少し緊張しながら、中に入ると、
「アリーシャさま! どうしてこちらに?」
と驚いた表情のヴェルナーが駆け寄ってきた。
「あら? ヴェルナーもここにいたの? てっきりアズールと一緒にいると思ったわ」
「今日は団長と結婚式の準備をなさっていますので、私はその間訓練を手伝っているのです」
「そうなの。ヴェルナーがいてくれたら話は早いわ」
「えっ? 何かございましたか?」
「少しヴェルナーと話がしたいのだけど、いいかしら? あっ、これ騎士の皆さんで召し上がってちょうだい」
「ありがとうございます。それでは応接室にご案内いたしますので、少々お待ちいただいてもよろしいですか?」
「ええ。ここで待っているわ」
ヴェルナーは私から差し入れの箱を受け取ると、急いでマクシミリアンの元に駆け寄った。
マクシミリアンと話をしている姿を見るのはなんだか久しぶりね。
あの二人には随分と辛い日々を過ごさせてしまったわ。
アズールに発情の兆候が出始めてから、王子との初夜を無事に終えるまでずっと離れ離れにさせてしまったものね。
二人とも自分の仕事には忠実だから、かなり長い日数を別々に過ごさせることになって日々憔悴しきったような表情を見せていくヴェルナーが可哀想で仕方がなかったもの。
アズールが無事に初夜を終えて出てきた時、アズールに対してホッとする気持ちもあったけれど、何よりもヴェルナーを安心させてあげられることも嬉しかったのよね、私。
二人を眺めていると、マクシミリアンがヴェルナーとともに駆け寄ってきた。
「アリーシャさま。お心遣いをいただきありがとうございます」
「いいえ、いつものお礼なのよ。それよりもなぜそんなに離れているの?」
「いえ、今訓練をしたばかりで汗臭いかと……」
「ふふっ。そんなことを気にしていたの? 私たちを守るために必死に訓練をしてくれているのだから気にすることではないわ」
「はい。ありがとうございます」
「少しの間、ヴェルナーを借りるわね」
そう言って、ヴェルナーの腕を取って訓練場を出た。
「こちらでございます」
「ありがとう」
綺麗な応接室のソファーに案内されて、ベンには部屋の外で待機をしてもらった。
「紅茶をどうぞ」
「あら、ここでもうちと同じ紅茶が飲めるのね」
「はい。たまに団長がアズールさまをお連れになるので、アズールさまのお好きなものが揃っていますよ」
「そう。よかったわ。アズールも楽しんでいるようね」
「あの、それで私にお話とは……」
「ああ、そうそう。それが本題だったわ。久しぶりにヴェルナーと会って話ができて嬉しくて。実は――」
ヴェルナーに、アズールとヴェルナーがいなくなってからの日々を話すと神妙な表情で静かに聞いてくれた。
アズールとヴェルナーがこの屋敷を出て三週間。
日を追うごとにこの屋敷がどんどん暗くなっていく。
家族だけでなく、使用人たちのため息もあちらこちらで聞こえる。
特にベンは毎日のようにアズールが過ごしていた部屋に入って、アズールがいつ帰ってきてもいいように掃除をしていると言いつつも、思い出を懐かしんでいるようにも見える。
いなくなってよくわかるわ。
――ふふっ。お母さまーっ! こっち! こっち!
アズールの笑顔がいつも明るくしてくれていたのね。
アズールがいるのといないのとではこんなにも変わってしまうなんて……。
ヴィルもクレイもなんとか元気に見せているけれど、格段に口数が減ったもの。
このままじゃみんな落ち込んで体調を崩してしまうわ。
うーん、なんとかしないとね。
とりあえず、月に一度は実家に里帰りということをお願いできないかしら?
それなら、少しは我が家の雰囲気も良くなると思うのよね。
「ベン、ちょっとお買い物に行きたいのだけど一緒についてきてもらえる?」
「はい。奥さま。お供いたします」
「あ、二人に心配させたくないから、馬車はいらないわ」
「えっ……ですが……」
「いいの、ねっ」
「はい。承知しました」
ヴィルとクレイが執務室で仕事に励んでいる間に、私の突然の行動を少し訝しんでいるベンとそっと家を出た。
「あの、奥さま……本当はどちらにお出かけになるのでございますか?」
「ふふっ。騎士団の訓練場よ」
「アズールさまにお会いになるのですか?」
「いいえ。アズールがいるかどうかはわからないわ。王子がアズールを連れて行っているとは思えないし」
「では……?」
「ふふっ。内緒」
途中で差し入れのパンを買って訓練場に向かうと、入り口にはアズールが過ごしていた間いつも我が家の警護任務にあたってくれていた騎士たちの姿が見えた。
声をかけようと近づくと騎士たちの方から驚きの表情と共に声をかけられた。
「――っ!! ヴォルフ公爵家の奥方さま。このような場所にお越しいただくとは何かございましたか?」
「いいえ。いつも警護してもらっていたお礼に来ただけなの。マクシミリアンはいるかしら?」
「はい。ただいま中で訓練中でございます。どうぞご案内いたします」
「ありがとう」
見知った騎士が入り口にいてくれて助かったわ。
奥に進むと、騎士たちの闘志溢れる声が響いてくる。
少し緊張しながら、中に入ると、
「アリーシャさま! どうしてこちらに?」
と驚いた表情のヴェルナーが駆け寄ってきた。
「あら? ヴェルナーもここにいたの? てっきりアズールと一緒にいると思ったわ」
「今日は団長と結婚式の準備をなさっていますので、私はその間訓練を手伝っているのです」
「そうなの。ヴェルナーがいてくれたら話は早いわ」
「えっ? 何かございましたか?」
「少しヴェルナーと話がしたいのだけど、いいかしら? あっ、これ騎士の皆さんで召し上がってちょうだい」
「ありがとうございます。それでは応接室にご案内いたしますので、少々お待ちいただいてもよろしいですか?」
「ええ。ここで待っているわ」
ヴェルナーは私から差し入れの箱を受け取ると、急いでマクシミリアンの元に駆け寄った。
マクシミリアンと話をしている姿を見るのはなんだか久しぶりね。
あの二人には随分と辛い日々を過ごさせてしまったわ。
アズールに発情の兆候が出始めてから、王子との初夜を無事に終えるまでずっと離れ離れにさせてしまったものね。
二人とも自分の仕事には忠実だから、かなり長い日数を別々に過ごさせることになって日々憔悴しきったような表情を見せていくヴェルナーが可哀想で仕方がなかったもの。
アズールが無事に初夜を終えて出てきた時、アズールに対してホッとする気持ちもあったけれど、何よりもヴェルナーを安心させてあげられることも嬉しかったのよね、私。
二人を眺めていると、マクシミリアンがヴェルナーとともに駆け寄ってきた。
「アリーシャさま。お心遣いをいただきありがとうございます」
「いいえ、いつものお礼なのよ。それよりもなぜそんなに離れているの?」
「いえ、今訓練をしたばかりで汗臭いかと……」
「ふふっ。そんなことを気にしていたの? 私たちを守るために必死に訓練をしてくれているのだから気にすることではないわ」
「はい。ありがとうございます」
「少しの間、ヴェルナーを借りるわね」
そう言って、ヴェルナーの腕を取って訓練場を出た。
「こちらでございます」
「ありがとう」
綺麗な応接室のソファーに案内されて、ベンには部屋の外で待機をしてもらった。
「紅茶をどうぞ」
「あら、ここでもうちと同じ紅茶が飲めるのね」
「はい。たまに団長がアズールさまをお連れになるので、アズールさまのお好きなものが揃っていますよ」
「そう。よかったわ。アズールも楽しんでいるようね」
「あの、それで私にお話とは……」
「ああ、そうそう。それが本題だったわ。久しぶりにヴェルナーと会って話ができて嬉しくて。実は――」
ヴェルナーに、アズールとヴェルナーがいなくなってからの日々を話すと神妙な表情で静かに聞いてくれた。
306
あなたにおすすめの小説
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」
突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!?
全力すれ違いラブコメファンタジーBL!
支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる