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第三章
<閑話> マティアス工房最大の危機 <後編>
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「パウル、帰ったぞ! パウルっ!」
「ああっ、師匠! お帰りなさい! 陛下からのお呼び出しはなんだったのですか?」
私の声にパウルが工房の奥から駆け寄ってくる。
「それがな――」
そうして、私は陛下からの依頼をパウルに全て打ち明けた。
「なんと……っ、アズールさまが双子のお子さまをご出産なさったのですか?」
「ああ、それで陛下からお子さま方の揃いの御衣装と、それからルーディーさまとアズールさまの御衣装。そして、フィデリオさまからの特別注文のアズールさまの衣装、合計五着の依頼があった。これからすぐに取り掛からなくてはならない」
「五着……期間はいかほどですか?」
「そうだな。せめて二週間は欲しいところだが、おそらくもっと早く望まれるだろう。これから全ての作業を中断して、そちらの制作にかかりきりになる。パウル、お前にも頼みたい」
「はい。もちろんです。それで私はどの御衣装を担当しましょうか?」
「そうだな……」
もうあれから18年経っているとはいえ、ルーディーさまのパウルへの感情がどのようになっているかわからない。
とすれば、アズールさまに関わる衣装にはパウルは関わらない方がいいだろう。
「パウル、お前にはまずルーディーさまの御衣装を頼む。デザインはもちろん私がするが、そのほかは全てお前に任せよう。それが完成した後はお子さま方の御衣装に取り掛かる。それも手伝ってもらうつもりだ。やれるか?」
「はい! お任せください!」
「お前がいてくれて本当に心強いよ。それで、ルーディーさまの御衣装だが――」
私は陛下からお預かりした亡き王妃さまの衣装をパウルに見せた。
「これをアズールさまのおサイズに作り替えるのだが、パウルにはこの衣装と対になるルーディーさまの衣装を頼む」
「なるほど。わかりました」
そうして私は急いでルーディーさまの御衣装のデザイン描きに取り掛かった。
「師匠。ここもアズールさまの御衣装と同じ方が良いのではないですか?」
「んっ? そうか……ああ、そうだな。そうしてみよう。他にも気づいたところがあれば言ってくれ!」
それからも数箇所、パウルからの指摘を受けつつデザイン画を描き終えたのだが、想像以上の仕上がりだ。
しかもパウルが指摘したところが全て良いアクセントになっている。
やはり、パウルのセンスは抜群だ。
本当にこれを最後にパウルに譲って隠居生活を始めてもいいかもしれないな。
「ではこのデザイン通りに作り上げてくれ。最後は私が確認しよう」
「はい。わかりました!」
そこから、パウルはすぐにルーディーさまの御衣装作りに取り掛かった。
私はアズールさまのおサイズに仕立て直しだ。
アズールさまのおサイズはすでに頭の中に入っている。
これは比較的早く済むだろう。
早く終わらせて、お子さま方の衣装作りに取り掛からなければ。
私はアズールさまの仕立て直しをしながら、お子さま方のデザインを頭の中で考えていた。
それにしても、狼族のお子さま方にウサギ族のように見える御衣装とは……陛下も面白いことをお考えになるものだ。
お子さま方がお召しになる衣装だから、少し遊び心を入れるのも面白いだろう。
やはりウサギ族といえば、長い耳。
一つはピンと張った耳で、もう一つは垂れ耳というのはどうだろう。
色は絶対に真っ白だな。
そのほうがアズールさまと同じで可愛らしい。
そんなことを頭の中で考えているうちに、アズールさまの仕立て直した衣装が出来上がった。
「ふぅ……」
これで一着完成か。
辺りを見回すと夜が明けようとしている。
どうやら食事も睡眠も取らず、集中していたようだ。
ずっと座り続けていたからか、椅子から立ち上がるだけでフラフラするが、食事だけはとっておこう。
そうだ!
パウルも集中しすぎてはいないだろうか。
重い足を引き摺りながら、パウルの作業部屋に向かうとまだ作業をしている音がする。
「パウル、もしかしてあれからずっとやっていたのか?」
「大丈夫です。ルーディーさまの大切な御衣装と思えば、集中できますから」
「その気持ちはわかるが、少し食事をとって休もう」
作業をやめたがらないパウルをなんとか説得し、食事をとらせ、しばしの仮眠をとる。
数時間後また作業に入り、合間に食事をとり、作業を続ける。
10分程度の仮眠で長時間の作業を続けていれば、何日過ごしたのかもわからなくなってくるが、
「お、おわったぁ……っ、完成したぞ! パウルっ!」
目の前に出来上がった五着の衣装を並べてみると、感動の涙が出てくる。
日付を見ればまだ三日しか経っていない。
なんと……自分でも驚くほどの速さだ。
「パウル! お前の作ったルーディーさまの御衣装は最高だな。どこをとってもなんの欠点もない。完璧だ!」
「師匠……っ、私が、師匠の元に来ることになった切っ掛けでもあるルーディーさまの御衣装を心を込めてお作りし、それを師匠に褒めていただいた時が、私がルーディーさまとアズールさまにしてしまったことのせめてもの罪滅ぼしだと考えておりました。師匠にお褒めいただいて、少しだけですが気持ちが楽になりました。ありがとうございます」
「パウル……お前はそんなことを考えていたのか……。お前はとっくに罪を償っているだろう。幼い中、親元を離れこれまで何一つ文句も言わずに修行し続けてきたのだからな」
「師匠……」
「私はこれからすぐにこの衣装をお届けしてくる。きっとこの出来を喜んでいただけるはずだ」
「私も一緒に……」
「そうだな。荷物を運ぶだけ頼んでもいいか?」
まだパウルを連れて行っていいかの許可は取っていない。
だが、今回の衣装で喜んでいただけたら次からは堂々とパウルを紹介するとしよう。
急いで箱に詰め、城へ向かう。
私もパウルも寝不足と疲れでフラフラだが、喜んでいただける顔を拝見できたらそれでいい。
必死に城に到着し、フラフラになりながら
「ご、注文の、お品を、お届けに、参りました……」
と陛下の元に荷物を運べば、
「マティアス! 本当によく頑張ってくれた。さぁ、私に完成したものを見せてくれ!!」
今で見たこともないような満面の笑みで陛下に迎え入れられた。
そして、完成した衣装をご覧になり、さらに笑顔でお褒めいただいた。
ああ、こんなにも喜んでいただけたら身を削って作業した甲斐があったというものだ。
「マティアス、本当によく頑張ってくれたな。これは衣装の代金と其方への手間賃だ。受け取るが良い」
陛下から渡された袋にはこれでもかというほどたくさんの金貨が入っていて、ずっしりと重い。
その嬉しい重みを噛み締めながら、私は部屋の外で待っていたパウルと共に工房に戻った。
ずっしりと重い金貨をテーブルに残し、私もパウルも泥のように眠りにつき、目を覚ましたのはそれから二日が経った後だった。
改めて、二人で陛下からいただいた金貨を見てみると、これから十年は遊んで暮らしてもお釣りが出るほどの金額に驚きしかない。
「パウル、これは二人で分けよう。こんなに早く完成できたのもお前のおかげだからな」
「師匠……それなら、このお金でマクシミリアンさまに機械を作っていただきましょう。そうしたら師匠にこれからもずっと衣装を作っていただけるでしょう? 隠居などまだ早いですよ。もっと私に師匠の技術を学ばせてください」
「パウル……」
ああ、パウルは本当に素直でいい子だった。
昔からちっとも変わらない。
パウルの優しさに助けられながら、もう少しだけパウルとの生活を楽しませてもらおうか。
あの時パウルを引き取ることができて本当によかった。
「ああっ、師匠! お帰りなさい! 陛下からのお呼び出しはなんだったのですか?」
私の声にパウルが工房の奥から駆け寄ってくる。
「それがな――」
そうして、私は陛下からの依頼をパウルに全て打ち明けた。
「なんと……っ、アズールさまが双子のお子さまをご出産なさったのですか?」
「ああ、それで陛下からお子さま方の揃いの御衣装と、それからルーディーさまとアズールさまの御衣装。そして、フィデリオさまからの特別注文のアズールさまの衣装、合計五着の依頼があった。これからすぐに取り掛からなくてはならない」
「五着……期間はいかほどですか?」
「そうだな。せめて二週間は欲しいところだが、おそらくもっと早く望まれるだろう。これから全ての作業を中断して、そちらの制作にかかりきりになる。パウル、お前にも頼みたい」
「はい。もちろんです。それで私はどの御衣装を担当しましょうか?」
「そうだな……」
もうあれから18年経っているとはいえ、ルーディーさまのパウルへの感情がどのようになっているかわからない。
とすれば、アズールさまに関わる衣装にはパウルは関わらない方がいいだろう。
「パウル、お前にはまずルーディーさまの御衣装を頼む。デザインはもちろん私がするが、そのほかは全てお前に任せよう。それが完成した後はお子さま方の御衣装に取り掛かる。それも手伝ってもらうつもりだ。やれるか?」
「はい! お任せください!」
「お前がいてくれて本当に心強いよ。それで、ルーディーさまの御衣装だが――」
私は陛下からお預かりした亡き王妃さまの衣装をパウルに見せた。
「これをアズールさまのおサイズに作り替えるのだが、パウルにはこの衣装と対になるルーディーさまの衣装を頼む」
「なるほど。わかりました」
そうして私は急いでルーディーさまの御衣装のデザイン描きに取り掛かった。
「師匠。ここもアズールさまの御衣装と同じ方が良いのではないですか?」
「んっ? そうか……ああ、そうだな。そうしてみよう。他にも気づいたところがあれば言ってくれ!」
それからも数箇所、パウルからの指摘を受けつつデザイン画を描き終えたのだが、想像以上の仕上がりだ。
しかもパウルが指摘したところが全て良いアクセントになっている。
やはり、パウルのセンスは抜群だ。
本当にこれを最後にパウルに譲って隠居生活を始めてもいいかもしれないな。
「ではこのデザイン通りに作り上げてくれ。最後は私が確認しよう」
「はい。わかりました!」
そこから、パウルはすぐにルーディーさまの御衣装作りに取り掛かった。
私はアズールさまのおサイズに仕立て直しだ。
アズールさまのおサイズはすでに頭の中に入っている。
これは比較的早く済むだろう。
早く終わらせて、お子さま方の衣装作りに取り掛からなければ。
私はアズールさまの仕立て直しをしながら、お子さま方のデザインを頭の中で考えていた。
それにしても、狼族のお子さま方にウサギ族のように見える御衣装とは……陛下も面白いことをお考えになるものだ。
お子さま方がお召しになる衣装だから、少し遊び心を入れるのも面白いだろう。
やはりウサギ族といえば、長い耳。
一つはピンと張った耳で、もう一つは垂れ耳というのはどうだろう。
色は絶対に真っ白だな。
そのほうがアズールさまと同じで可愛らしい。
そんなことを頭の中で考えているうちに、アズールさまの仕立て直した衣装が出来上がった。
「ふぅ……」
これで一着完成か。
辺りを見回すと夜が明けようとしている。
どうやら食事も睡眠も取らず、集中していたようだ。
ずっと座り続けていたからか、椅子から立ち上がるだけでフラフラするが、食事だけはとっておこう。
そうだ!
パウルも集中しすぎてはいないだろうか。
重い足を引き摺りながら、パウルの作業部屋に向かうとまだ作業をしている音がする。
「パウル、もしかしてあれからずっとやっていたのか?」
「大丈夫です。ルーディーさまの大切な御衣装と思えば、集中できますから」
「その気持ちはわかるが、少し食事をとって休もう」
作業をやめたがらないパウルをなんとか説得し、食事をとらせ、しばしの仮眠をとる。
数時間後また作業に入り、合間に食事をとり、作業を続ける。
10分程度の仮眠で長時間の作業を続けていれば、何日過ごしたのかもわからなくなってくるが、
「お、おわったぁ……っ、完成したぞ! パウルっ!」
目の前に出来上がった五着の衣装を並べてみると、感動の涙が出てくる。
日付を見ればまだ三日しか経っていない。
なんと……自分でも驚くほどの速さだ。
「パウル! お前の作ったルーディーさまの御衣装は最高だな。どこをとってもなんの欠点もない。完璧だ!」
「師匠……っ、私が、師匠の元に来ることになった切っ掛けでもあるルーディーさまの御衣装を心を込めてお作りし、それを師匠に褒めていただいた時が、私がルーディーさまとアズールさまにしてしまったことのせめてもの罪滅ぼしだと考えておりました。師匠にお褒めいただいて、少しだけですが気持ちが楽になりました。ありがとうございます」
「パウル……お前はそんなことを考えていたのか……。お前はとっくに罪を償っているだろう。幼い中、親元を離れこれまで何一つ文句も言わずに修行し続けてきたのだからな」
「師匠……」
「私はこれからすぐにこの衣装をお届けしてくる。きっとこの出来を喜んでいただけるはずだ」
「私も一緒に……」
「そうだな。荷物を運ぶだけ頼んでもいいか?」
まだパウルを連れて行っていいかの許可は取っていない。
だが、今回の衣装で喜んでいただけたら次からは堂々とパウルを紹介するとしよう。
急いで箱に詰め、城へ向かう。
私もパウルも寝不足と疲れでフラフラだが、喜んでいただける顔を拝見できたらそれでいい。
必死に城に到着し、フラフラになりながら
「ご、注文の、お品を、お届けに、参りました……」
と陛下の元に荷物を運べば、
「マティアス! 本当によく頑張ってくれた。さぁ、私に完成したものを見せてくれ!!」
今で見たこともないような満面の笑みで陛下に迎え入れられた。
そして、完成した衣装をご覧になり、さらに笑顔でお褒めいただいた。
ああ、こんなにも喜んでいただけたら身を削って作業した甲斐があったというものだ。
「マティアス、本当によく頑張ってくれたな。これは衣装の代金と其方への手間賃だ。受け取るが良い」
陛下から渡された袋にはこれでもかというほどたくさんの金貨が入っていて、ずっしりと重い。
その嬉しい重みを噛み締めながら、私は部屋の外で待っていたパウルと共に工房に戻った。
ずっしりと重い金貨をテーブルに残し、私もパウルも泥のように眠りにつき、目を覚ましたのはそれから二日が経った後だった。
改めて、二人で陛下からいただいた金貨を見てみると、これから十年は遊んで暮らしてもお釣りが出るほどの金額に驚きしかない。
「パウル、これは二人で分けよう。こんなに早く完成できたのもお前のおかげだからな」
「師匠……それなら、このお金でマクシミリアンさまに機械を作っていただきましょう。そうしたら師匠にこれからもずっと衣装を作っていただけるでしょう? 隠居などまだ早いですよ。もっと私に師匠の技術を学ばせてください」
「パウル……」
ああ、パウルは本当に素直でいい子だった。
昔からちっとも変わらない。
パウルの優しさに助けられながら、もう少しだけパウルとの生活を楽しませてもらおうか。
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