真っ白ウサギの公爵令息はイケメン狼王子の溺愛する許嫁です

波木真帆

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第三章

幸せのための訣別

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<sideアズール>

――ねぇ、起きて……起きてったら……

うーん、まだ眠い……

――寝ぼけてないで、早く起きて……

だれー?

――忘れちゃったの? アズール、僕……蒼央だよ

えっ? 蒼央、って……僕じゃないの?

驚いて、目を開けると見たことのない真っ白な場所に僕は浮かんでいた。

「えっ……ここ、どこ?」

「ここは神さまのいる場所。アズールが危ないことをしたから、神さまに頼んでアズールの意識の中から抜け出て、二人で話をさせてもらうことにしたんだ」

「危ないこと?」

「自分が体調悪いのに、ルーディーを呼びにいこうとするヴェルナーを止めたでしょう?」

「でも、だって、あれは……」

「国王として、そして騎士団の特別顧問としての仕事を全うしようとするルーディーと、特別遠征訓練に選ばれた騎士たちのことを思ったからって言いたいの?」

「だって……次は当分行けないからって言ってたし、それにルーが騎士団長を辞めないといけなくなったのも、僕のお世話をするためだったし……これ以上迷惑かけちゃいけないって思ってたから……だから……」

僕が我慢すればいいって思ったんだ。

「はぁーーっ。アズールは、いつまであの時のお母さんの言葉を引きずってるの?」

「――っ、引きずってるってそんなこと……っ」

「引きずってるでしょ? <あんたの病気のせいで、私がどれだけ苦労してると思ってるの? ほんと迷惑なのよ! あんたのせいで!>って、そう罵られたことを忘れてないんだよね?」

目の前の蒼央に言われて、嫌な思い出が甦る。
散々お母さんに罵られて、最後の最後に言われた言葉は僕の心を抉った。

――あんたなんか、ほんと産まなきゃよかった! なんであの時死ななかったのよ!!! 死んでくれたら私は幸せになれたのに!!!

僕の耳をつんざくようなお母さんの叫びは、アズールになって幸せになった今でも忘れられない。
しかも、自分が熱を出して動けなくなった時に鮮明に思い出してしまったんだ。

ルーがあのお母さんみたいなことを言わないってわかってる。
僕が体調を崩したと知ったら優しいルーは絶対に帰ってきてくれる。
でも、迷惑かけた上に、訓練まで切り上げさせて帰って来させるなんて……そんなことさせたくなかった。

「ねぇ、もしルーディーが訓練を終わらせて帰ってくるまで待っていたら、どうなっていたと思う?」

「どうなってたって……」

「高熱で食事も水分も摂れなくて、ルーディーが帰宅する直前に死んじゃってたんだよ。アズールは」

「――っ、そんな……っ」

「そうしたら、ロルフとルルはあんなに小さいのに、アズールを失うことになったんだよ。生まれてすぐに親を亡くすってどれほど悲しいか、ルーディーも、それにヴェルナーだってよく知ってるんじゃないの?」

「あっ……」

だから、ヴェルナーは……あんなに必死でルーを迎えにいこうとしてくれたんだ……。

「それにね、アズールは大事なことを忘れてるよ」

「大事なこと?」

「アズールとルーディーは運命の番。アズールが死んじゃったら、一緒にルーディーも死んじゃうんだよ」

「――っ!!!」

「ロルフとルルはアズールだけじゃなく、ルーディーも失うところだったんだ。それだけじゃないよ。ルーディーは『神の御意志』、そしてアズールは神に選ばれた『神の御意志』の相手。その二人が存在する理由は、ヴンダーシューン王国を平和に導くため。もし、その二人がいなくなったら……?」

「まさか……」

「国自体が滅亡するんだよ」

「――っ!!!」

「わかる? アズールの存在はそれくらい大事なものなんだよ! だから、アズールが体調を崩してみんなが心配するのは当たり前。それを迷惑かけるからとか考えるのがおかしい!」

そうはっきりきっぱり言い切られて、僕はなんの反論もできなかった。

「でもね、アズールがそう思ってしまうのは、僕という存在があるからだってわかったんだ」

「そんなこと……」

「ううん、僕がいるから蒼央だった頃の嫌な思い出が甦って我慢しちゃうんだよ。だからね、僕……決めたんだ」

「決めたって、何を?」

「神さまの優しさで蒼央の記憶を忘れずにアズールとして生まれてきて、アズールとともにここまで一緒に過ごしてきて、蒼央では与えられなかった愛情も、やりたかった楽しいことも、誰かに愛されて嬉しいと感じることも家族と過ごせる幸せも、いっぱいいっぱい味わうことができた。だから……もう、アズールと離れてもいいかなって……」

「それって……」

「せっかく、こうしてアズールから離れたし、このまま別れてこれからはウサギ族のアズールとして新しく人生を過ごしてほしい」

「蒼央……」

「僕は、大満足だよ。自分の子どもまで見られるなんて思わなかったし、それで十分。もう後悔も何もないんだ」

すっきりと晴々とした蒼央の顔は、あの病室にいたころとは全然違うことに気づく。

「じゃあ、もう僕たち……お別れなの?」

「アズールがルーディーのところに戻って、アズールの中から、蒼央が満足していなくなったよって話をしたら、その瞬間、アズールの中から僕の記憶が消えてなくなるんだ」

「そんな……」

「後悔はないって言ったろ? 僕もこれから、新しい人生を歩みたいんだ。だから、これから二人で別々に幸せになろう」

「蒼央……」

「あっ、ほら。ルーディーが呼んでる。子どもたちもいるよ。アズール……これからもいっぱいいっぱい幸せになってね」

ギュッと抱きしめられたような感覚がして、僕が目を瞑ると、

――アズールっ! まんまっ!!

と呼ぶ声が遠くから聞こえた。
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