68 / 121
羨ましい
しおりを挟む
「平松くん、布団に連れて行くよ」
そんな声が遠くで聞こえていたような気がするけれど、俺はもう動くこともできなかった。
「んっ……」
まぶしっ。
目の前が急に明るくなったような気がして目を覚ますと、カーテンの隙間から漏れ出た光が顔に当たっていたことに気づいた。
あれ?
こんなところに窓なんてあったっけ?
ぼーっとしながら起き上がるとそこがベッドじゃないことにびっくりした。
「えっ? ここどこ?」
「あっ、平松くん。起きた?」
自分がどこにいるのかわからなくて焦っていると、突然聞き慣れた声が聞こえた。
「えっ?」
慌てて声のする方向を見ると、そこには名嘉村さんが笑顔で立っているのが見えた。
「えっ? な――っ、えっ?」
「ふふっ。平松くん、落ち着いて。昨日、うちで一緒に夕食を食べたのは覚えてる?」
「ゆう、しょく……あっ!」
そういえば、昨日誘われて家に行って、ご飯を食べたんだ。
それで話を聞いてて、それで……。
「帰った記憶が、ない……」
「ふふっ。よかった。覚えてたね。そう、昨日途中で寝ちゃったんだ。起こして家に帰すのも心配だったし、お客さま用の布団もあったから客間で泊まってもらったんだよ」
「すみません、ご迷惑かけてしまって……」
「ううん。僕が少し強い泡盛出しちゃったからだよ。お猪口だから大丈夫かなって思ってたけど、僕が知らない間に結構呑んじゃってたみたいだったから、倒れたりしなくてよかったよ。平松くん、酔うと眠るだけだから安心した」
「本当にすみません。あっ、もしかしてこの布団って……」
まさか松川さんのを使っちゃったりとかないよね?
そんなの申し訳なさすぎる。
「ああ、違うから気にしないで。本当にお客さま用で何かあった時のために置いてるものだから。あ、ちゃんと寝かせる前に布団は乾燥しておいたから大丈夫だよ」
そう言われてホッとする。
でもよく考えたら恋人なんだからわざわざ客間で布団に寝るわけないか。
一緒にベッドで寝てるに決まってる。
「ふふっ。起きれそうならお風呂入ってくれていいよ。昨日、お風呂入ってないでしょ」
「あ、でも着替えが……」
「大丈夫。僕のを着れば良いよ。下着は新品があるし、仕事行く前に自分の家に寄って着替えれば良いでしょ?」
「でも……」
迷惑になるから……と言おうとしたけれど、
「ほら、お風呂ももうできてるから入っておいで」
と言ってくれたからこれ以上断るのも失礼な気がして、ありがたくお風呂をいただくことにした。
「これ、着替えね。そこの扉がお風呂だから。バスタオルは棚に置いてあるやつを好きに使ってくれて良いからね」
そう言ってキッチンに戻っていく名嘉村さんの背中にお礼を言って、脱衣所に入るとふわっと甘いミルクのような香りに迎えられた。
どうやら入浴剤を入れてくれているらしい。
本当に名嘉村さんって優しいな。
脱いだ服は持って帰らないといけないから、綺麗に畳んで端に置いて風呂場の中に入った。
「んー、良い匂い」
甘い香りにすっかり目が覚めた。
さっと髪と身体を洗わせてもらい、そのついでにそっとボディーソープに目をやるとやっぱり<無香性>の文字がある。
本当にみんな<無香性>なんだな。
湯船に浸かりながら考えるけれど、結局あの時の砂川さんの
――匂いはそれだけ重要だっていうことですよ。
と言っていた、あの謎かけのような意味はまだわからないまま。
でも、みんなが同じものだと言っていたのは本当だった。
いや、別に疑っていたわけではないけれど、でも本当にどういうことなんだろうな……。
再び湧き上がった疑問を抱きながらお風呂を出て、棚に置いてあったバスタオルを取ろうと手を伸ばすと、
「――っ!!!」
バスタオルの置いてある棚のすぐ上に見たことのあるボトルをが目に入って、思わずその場に固まってしまった。
これ……八尋さんの家で見たやつだ。
社長から試作品で渡されたって言ってた<Lube>
しかも使いかけ……ってことは、これを名嘉村さんと松川さんが使ってるってことで……。
わぁーっ!!
何想像してるんだ、俺は!
でも、本当に恋人同士ってことなんだよな。
そういう関係も込みの……。
それを想像して羨ましいと思ってしまったのは、俺には一生無理だと分かったからだろう。
いくら八尋さんが恋愛するのに性別は関係ないと思っていたって、選ぶ権利はあるんだ。
八尋さんが俺なんか選ぶわけない。
だから八尋さんと一緒にこれを使う日なんて一生来ない。
だから、羨ましいって一番に思ってしまったんだ。
名嘉村さんと松川さんみたいに、お互いに一目惚れだったらどんなに幸せだっただろう。
片思いなんて、一番辛すぎる。
ちょっと寂しくなりながら、着替えを済ませて外に出ると美味しそうな匂いに出迎えられた。
「お風呂いただきました」
「あっ、平松くん。ちょうど良いタイミング! ご飯できたよ」
優しい笑顔の名嘉村さんをみて、名嘉村さんくらい綺麗だったら俺だって自信持って告白できたんだけどな……と思ってしまう。
俺には一生告白なんて無理だな。
そんな声が遠くで聞こえていたような気がするけれど、俺はもう動くこともできなかった。
「んっ……」
まぶしっ。
目の前が急に明るくなったような気がして目を覚ますと、カーテンの隙間から漏れ出た光が顔に当たっていたことに気づいた。
あれ?
こんなところに窓なんてあったっけ?
ぼーっとしながら起き上がるとそこがベッドじゃないことにびっくりした。
「えっ? ここどこ?」
「あっ、平松くん。起きた?」
自分がどこにいるのかわからなくて焦っていると、突然聞き慣れた声が聞こえた。
「えっ?」
慌てて声のする方向を見ると、そこには名嘉村さんが笑顔で立っているのが見えた。
「えっ? な――っ、えっ?」
「ふふっ。平松くん、落ち着いて。昨日、うちで一緒に夕食を食べたのは覚えてる?」
「ゆう、しょく……あっ!」
そういえば、昨日誘われて家に行って、ご飯を食べたんだ。
それで話を聞いてて、それで……。
「帰った記憶が、ない……」
「ふふっ。よかった。覚えてたね。そう、昨日途中で寝ちゃったんだ。起こして家に帰すのも心配だったし、お客さま用の布団もあったから客間で泊まってもらったんだよ」
「すみません、ご迷惑かけてしまって……」
「ううん。僕が少し強い泡盛出しちゃったからだよ。お猪口だから大丈夫かなって思ってたけど、僕が知らない間に結構呑んじゃってたみたいだったから、倒れたりしなくてよかったよ。平松くん、酔うと眠るだけだから安心した」
「本当にすみません。あっ、もしかしてこの布団って……」
まさか松川さんのを使っちゃったりとかないよね?
そんなの申し訳なさすぎる。
「ああ、違うから気にしないで。本当にお客さま用で何かあった時のために置いてるものだから。あ、ちゃんと寝かせる前に布団は乾燥しておいたから大丈夫だよ」
そう言われてホッとする。
でもよく考えたら恋人なんだからわざわざ客間で布団に寝るわけないか。
一緒にベッドで寝てるに決まってる。
「ふふっ。起きれそうならお風呂入ってくれていいよ。昨日、お風呂入ってないでしょ」
「あ、でも着替えが……」
「大丈夫。僕のを着れば良いよ。下着は新品があるし、仕事行く前に自分の家に寄って着替えれば良いでしょ?」
「でも……」
迷惑になるから……と言おうとしたけれど、
「ほら、お風呂ももうできてるから入っておいで」
と言ってくれたからこれ以上断るのも失礼な気がして、ありがたくお風呂をいただくことにした。
「これ、着替えね。そこの扉がお風呂だから。バスタオルは棚に置いてあるやつを好きに使ってくれて良いからね」
そう言ってキッチンに戻っていく名嘉村さんの背中にお礼を言って、脱衣所に入るとふわっと甘いミルクのような香りに迎えられた。
どうやら入浴剤を入れてくれているらしい。
本当に名嘉村さんって優しいな。
脱いだ服は持って帰らないといけないから、綺麗に畳んで端に置いて風呂場の中に入った。
「んー、良い匂い」
甘い香りにすっかり目が覚めた。
さっと髪と身体を洗わせてもらい、そのついでにそっとボディーソープに目をやるとやっぱり<無香性>の文字がある。
本当にみんな<無香性>なんだな。
湯船に浸かりながら考えるけれど、結局あの時の砂川さんの
――匂いはそれだけ重要だっていうことですよ。
と言っていた、あの謎かけのような意味はまだわからないまま。
でも、みんなが同じものだと言っていたのは本当だった。
いや、別に疑っていたわけではないけれど、でも本当にどういうことなんだろうな……。
再び湧き上がった疑問を抱きながらお風呂を出て、棚に置いてあったバスタオルを取ろうと手を伸ばすと、
「――っ!!!」
バスタオルの置いてある棚のすぐ上に見たことのあるボトルをが目に入って、思わずその場に固まってしまった。
これ……八尋さんの家で見たやつだ。
社長から試作品で渡されたって言ってた<Lube>
しかも使いかけ……ってことは、これを名嘉村さんと松川さんが使ってるってことで……。
わぁーっ!!
何想像してるんだ、俺は!
でも、本当に恋人同士ってことなんだよな。
そういう関係も込みの……。
それを想像して羨ましいと思ってしまったのは、俺には一生無理だと分かったからだろう。
いくら八尋さんが恋愛するのに性別は関係ないと思っていたって、選ぶ権利はあるんだ。
八尋さんが俺なんか選ぶわけない。
だから八尋さんと一緒にこれを使う日なんて一生来ない。
だから、羨ましいって一番に思ってしまったんだ。
名嘉村さんと松川さんみたいに、お互いに一目惚れだったらどんなに幸せだっただろう。
片思いなんて、一番辛すぎる。
ちょっと寂しくなりながら、着替えを済ませて外に出ると美味しそうな匂いに出迎えられた。
「お風呂いただきました」
「あっ、平松くん。ちょうど良いタイミング! ご飯できたよ」
優しい笑顔の名嘉村さんをみて、名嘉村さんくらい綺麗だったら俺だって自信持って告白できたんだけどな……と思ってしまう。
俺には一生告白なんて無理だな。
320
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした
楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。
仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。
◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪
◇全三話予約投稿済みです
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。自称博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「絶対に僕の方が美形なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ!」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談?本気?二人の結末は?
美形病みホス×平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
※現在、続編連載再開に向けて、超大幅加筆修正中です。読んでくださっていた皆様にはご迷惑をおかけします。追加シーンがたくさんあるので、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
姉が結婚式から逃げ出したので、身代わりにヤクザの嫁になりました
拓海のり
BL
芳原暖斗(はると)は学校の文化祭の都合で姉の結婚式に遅れた。会場に行ってみると姉も両親もいなくて相手の男が身代わりになれと言う。とても断れる雰囲気ではなくて結婚式を挙げた暖斗だったがそのまま男の家に引き摺られて──。
昔書いたお話です。殆んど直していません。やくざ、カップル続々がダメな方はブラウザバックお願いします。やおいファンタジーなので細かい事はお許しください。よろしくお願いします。
タイトルを変えてみました。
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
契約妻に「愛さない」と言い放った冷酷騎士、一分後に彼女の健気さが性癖に刺さって理性が崩壊した件
水月
恋愛
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件の旦那様視点短編となります。
「君を愛するつもりはない」
結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。
出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。
愛を期待されないのなら、失望させることもない。
契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。
ただ「役に立ちたい」という一心だった。
――その瞬間。
冷酷騎士の情緒が崩壊した。
「君は、自分の価値を分かっていない」
開始一分で愛さない宣言は撤回。
無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる