箱入り御曹司はスーツの意味を知らない

波木真帆

文字の大きさ
17 / 21
番外編

テーマパークで遊ぼう! <前編>

しおりを挟む
<side欧介>

「わぁ! 可愛い!」

二人っきりでドライブを楽しんで帰宅途中に、渚が突然歩道を歩いている女性を見てそんなことを叫び出した。

渚が私以外のものに目移りするとは思いもしなかったが、渚とて健康な男子。
女性を見てそのような思いを抱くこともあるだろう。
だが、やはり嫉妬してしまうものだ。

渚があの女性とどうにかなろうと思っているわけではないとわかっているし、渚から十分愛されているという自信もある。
ただ、私の狭量すぎる心が渚の言葉を受け入れられないだけだ。

一回りも年上なくせにこんなことで嫉妬するなんて呆れられるだろうがどうしようもない。
それでも渚にだけは焦ったところを見せたくなくて、必死に冷静を装いながら、

「渚はああいうのが好みなのか?」

と尋ねてみた。

冷静になっていたかはわからない。
それでもなんとか言えたと思う。

すると、渚は満面の笑みを私に向けながら、

「はい。あのふさふさのしっぽと耳、すっごく可愛いです」

と言ってきた。

「えっ? しっぽと、耳?」

「はい。ほら、みてください」

渚に言われた通りにもう一度女性に目を向けると、確かに猫のような耳と尻尾をつけているのが見える。
あれはカチューシャか。

ああ、そうか。

「この先にテーマパークがあるからだな。おそらくそこで買ったんだろう」

「テーマパークってもしかして、レーヴランドですか?」

「ああ、確かそのような名前だったな」

「わぁーっ! 僕、一度でいいからそこに行ってみたかったんですよね」

「そうなのか?」

「はい。高校生の時に校外授業で貸切のレーヴランドで遊べる日があったんですけど、その日に限って体調を崩していけなくて……。クラスメイトがあのケモ耳や尻尾をつけて写真を撮っているのを見せてもらって羨ましいなって思ってたんです。それから結局行く暇がなくて行けずじまいだったんですよね」

そんな思い出があったのか……。
だから、渚は彼女たちがつけていたカチューシャと尻尾が気になったんだ。

それなのに、私は……嫉妬などして恥ずかしい。

「それじゃあ、今から行ってみようか?」

「えっ、でもこんな突然いいんですか? お父さまからは貸切じゃないと行ってはいけないって言われてたんですけど……」

「大丈夫、心配はいらないよ。私が一緒だから安心してくれていいよ」

「――っ、そうですね!! 欧介さんが一緒なら楽しいことしかないですよね」

素直にそう喜んでくれるのが可愛い。
それにしても天都さんが渚をしっかりと躾けていてくれたおかげで、渚の初めてのレーヴランド体験を誰にも取られずにすんだな。

後でたっぷりとお礼をしておこう。

隣で楽しそうにしている渚を連れ、私は車を飛ばした。

実はこのレーヴランドがある土地は全て我が桐島コンツェルンの所有地であり、毎年かなりの額の土地使用料がレーヴランドから支払われている。
そのため、私が連絡を入れればすぐに貸切にすることなど造作もないが、渚はそんなことを望まないだろう。
きっとみんなが楽しんでいるテーマパークの雰囲気を楽しみたいのだろうから、私たちに気を遣わないように言っておかないとな。

駐車場に車をとめ、入り口に向かうとすぐに支配人が駆けつけてきた。
駐車場の出入り口にあるチェックモニターで私だとわかり、慌ててやってきたのだということはすぐにわかった。

「渚、ちょっと車の中で待っていてくれ」

「はい」

私の言葉にいつも素直に返事を返してくれる渚を愛らしく思いながら、私は一人、車を降りた。

「桐島さま。わざわざこちらにお越しいただくなんて何かございましたか?」

「いや、私の愛しい伴侶がレーヴランドに行きたいというので遊びに来ただけだ。完全なプライベートだから気にしなくていい」

「えっ、桐島さまがご伴侶さまをお連れくださったのですか?」

先日のシュトルツ大使主催のパーティーで私が渚と入籍し、伴侶を得たことを正式に発表したために日本だけでなく世界中で私の結婚が知られることとなったが、私の愛しい渚を見せるのが勿体無くてあのパーティー以降、二人で目立つ場所に出かけたことはまだなかった。
だから、このレーヴランドが二人で公の場に出る初めてになると言っても過言ではない。

「ああ、そうだ」

「でしたら、一時間ほどお待ちいただきましたら貸切に――」
「いや、私のつまは一般人と同じようにこのレーヴランドで遊ぶのを楽しみにしているからそれを奪わないでほしい」

「ですが……」

「もちろん我々の周りに警備はつけさせてもらうが、一般人の制限は必要ない」

渚は知らないが、私たちが出かけるときにはこっそりと警備をつけている。
渚を守るためには必要なことだ。

「承知しました。ご入場は警備の方達も含めましてチケットなしでもお入りいただけるようになっておりますので、V.I.P用のご入場口からお入りください。それでは何かございましたら何なりとお声掛けください」


「ああ、わかった」

支配人たちが帰っていくのを見送ってから、助手席に回り渚を降ろした。

「お話は終わったんですか?」

「ああ。大丈夫だ。それじゃあ行こうか」

「わー、楽しみです!!」

可愛い渚と手を繋いで入場ゲートに向かうと、いくつかの入場ゲートに分かれていた。

その中でV.I.P用と書かれた入口から中に入ると、

「こんにちはー。レーヴランドへようこそ」

とスタッフが笑顔で話しかけてくる。

私はそのまま素通りしようとしたが、渚は

「こんにちは。今日は初めてなので楽しんで来ますね!」

と笑顔で声をかけていた。
その瞬間、そのスタッフは顔を真っ赤にしてその場に崩れ落ちた。

「えっ、だ、大丈夫ですか?」

慌てて手を差し出そうとする渚の手を取って、

「渚、気にしないでいい。あれはこのテーマパークの挨拶だからな。渚を驚かせているだけだよ」

というと素直な渚はすぐに納得してくれた。

「そうなんですね! ふふっ。入口からもうびっくりが始まってるなんてすごいですね!」

「ああ、そうなんだよ。じゃあ、行こうか。渚はどこから行きたい?」

「僕、まずはあのカチューシャ見に行きたいです!!」

「ああ、そうだったな。あっちに店があるようだ。行ってみよう!」

「はーい」

可愛らしい渚の登場にさっきのスタッフはもちろん、園内にいる者たちもみんな目を奪われている。
これほど人を惹きつけるとはな。
想像以上だが、私が渚についている以上絶対に危険な目には遭わせない。

「欧介さん、ワクワクしますね」

「ああ、そうだな」

渚にとって今日のレーヴランドが楽しい思い出になるように私がしっかりと守るとしよう。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

One Night Stand

BL
「今日、デートしよ。中嶋瑛斗くん」 「……は?」 中嶋瑛斗(なかじまえいと)は都内の大学に通う4年生。就職も決まり、大学最後の思い出作りにと、貯めたお金で友人山本とハワイへ旅行に来ていた。ハワイでの滞在も残すところあと2日となった日。ひとり高級住宅街に迷い込んだ瑛斗は、長身の美男子、相良葵(さがらあおい)と出会う。我が儘で横暴な相良と強制的に1日デートすることになり、最初は嫌々付き合っていた瑛斗だが、相良を知る内に段々と惹かれていく自分を自覚して――。 スパダリ年上男子と可愛い系大学生の異国で繰り広げられる甘くて切ない一夜の恋の話。 ★ハッピーエンドです。 ★短い続きものです。 ★後半に絡みがあります。苦手な方はご注意ください。 ★別ジャンルで書いた物をオリジナルBLにリメイクした作品です。

青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖
BL
溺愛ドS×天然系男子 俺様副社長から愛される。古い家柄の養子に入った主人公の愛情あふれる日常を綴っています。夏樹は大学4年生。ロックバンドのボーカルをしている。パートナーの黒崎圭一の父親と養子縁組をして、黒崎家の一員になった。夏樹には心臓疾患があり、激しいステージは難しくなるかもしれないことから、いつかステージから下りることを考えて、黒崎製菓で経営者候補としての勉強をしている。夏樹は圭一とお互いの忙しさから、すれ違いが出来るのではないかと心配している。圭一は夏樹のことをフォローし、毎日の生活を営んでいる。 黒崎家には圭一の兄弟達が住んでいる。圭一の4番目の兄の一貴に親子鑑定を受けて、正式に親子にならないかと、父の隆から申し出があり、一貴の心が揺れる。親子ではなかった場合は養子縁組をする。しかし、親子ではなかった場合を受け入れられない一貴は親子鑑定に恐れを持ち、精神的に落ち込み、愛情を一身に求める子供の人格が現われる。自身も母親から愛されなかった記憶を持つ圭一は心を痛める。黒崎家に起こることと、圭一に寄り添う夏樹。繋いだ手を決して離そうとせず、歩いている。  そして、月島凰李という会社社長兼霊能者と黒崎家に滞在しているドイツ人男性、ユリウス・バーテルスとの恋の駆け引き、またユリウスと南波祐空という黒崎製菓社員兼動画配信者との恋など、夏樹の周りには数多くの人物が集まり、賑やかに暮らしている。 作品時系列:「恋人はメリーゴーランド少年だった。」→「恋人はメリーゴーランド少年だった~永遠の誓い編」→「アイアンエンジェル~あの日の旋律」→「夏椿の天使~あの日に出会った旋律」→「白い雫の天使~親愛なる人への旋律」→「上弦の月の天使~結ばれた約束の夜」→本作「青い月の天使~あの日の約束の旋律」

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨ 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

処理中です...