ブルームーンに誘われて 〜名も知らぬ彼と裸の付き合いをした夜

波木真帆

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番外編

会いに行こう! <前編>

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<side浬>


一歩もこの旅館から出ることもないまま、新年を迎えて数日が経ったが今日で二人っきりで過ごしたこの旅館ともお別れだ。朝から尊はこの楽しかった時間を惜しむように私にピッタリと寄り添ってくれていた。

「そろそろ行こうか」

その声かけにも少し寂しそうに頷いた。
ああ、何て可愛いんだろう。

尊の身体はこの数日の間にすっかり私の色に染まった。
もうどうやっても女性を抱くことはできないだろう。

かといって、男性を愛するわけではない。尊は私以外には欲情しない身体になったんだ。

それは私も同じ。
尊と出会ったあの日から、尊のことを想像してでしか興奮することはできなくなっていたが、尊の裸を目の当たりにして、尊と身も心も繋げた今、尊でしか反応することもなくなった。
たとえ、豊満な女性の裸体を見せられたとしても、裸で上に乗られたとしても結果は同じ。
尊相手にしか欲情しない。

だから私たちはこれからずっと一緒に過ごさなければいけない。
そうでなければ生きていけないんだ。

旅館の精算を終え、尊と外に出ると頼んでいた車が玄関前に置かれていた。

「尊、助手席に座ってくれ」

「え、はい。あれ?」

助手席の扉を開け、座らせようとすると尊が不思議そうな声をあげた。

「どうかしたか?」

「いや、あの……確か、ここに来た時は一緒に後部座席に座ったような……あれ? 違ったかな?」

あの時尊は酒に酔って、車が動き出してすぐに眠ってしまったから記憶が曖昧なのだろう。

「合ってるよ。ここに来る時は運転手付きの車で来たんだ。今日はこれから尊のお兄さんの家に行くだろう? だから連絡をして私の車を持って来るように頼んでおいたんだ。だからさっき女将から車の鍵を受け取っていただろう?」

私の言葉に尊はハッとした表情を見せた。そんな顔も可愛い。

「愛しい尊とのドライブを運転手であっても邪魔されたくはないからね」

助手席のシートベルトをつけてあげながら、チュッと唇を軽く重ねる。

笑顔で唇を離すと、尊の顔が真っ赤になっているのがわかる。

「どうした? キスなんてこの数日で数え切れないほどしただろう?」

「こ、こんな不意打ちのキス……」

あれほど部屋の中では甘えてくれていたが、こういうのは照れるらしい。
なんとも可愛い尊を知ってしまった。

このままもう一度あの部屋に戻って愛し合いたいと思ってしまうほど可愛いが、ここは我慢だ。

「尊、ナビを頼むよ」

まだ頬が赤い尊に声をかけ、私も運転席に乗り込んだ。

尊のお兄さんの自宅は東京近郊にある住宅街。
子どもを育てるにはかなり良い環境のようだ。

「あ、次の信号を左です。その先の青い屋根の平屋が兄の家ですよ」

「へぇ、平屋なのか。いいな」

私の実家は三階建ての大きな家だったが大学入学を機に高層マンションで一人暮らしを始めた。
その家は気に入っていたが、一ノ宮グループの社長になるのを機にセキュリティの高いマンションを探した。
そのころに尊の存在を知ったこともあって、尊と同棲することを考えて五階建ての低層マンションの最上階を購入した。
今日のお兄さんへの挨拶が終わったら、尊を我が家に連れ帰り同棲することをオッケーしてもらうつもりだ。

尊にも過ごしやすい自宅があるだろうから、もし引き払うのが嫌ならそのまま家賃を払い続けて時々自分の部屋に戻ってもいい。その時は私も一緒についてくつもりだが、それは許してほしい。

もし一緒に住んでもいいと言ってくれたら、すぐにでも尊の家の荷物は運び出せるように業者は手配済みだ。
その前にお兄さんへの挨拶はしっかりとしておかなくてはな。

姪っこが尊を慕っているようだから、彼女を味方につければお兄さんの許可は取れるかもしれない。
そんな考えを抱きながら、お兄さんの自宅に到着した。

尊に案内してもらい駐車場に車を止め、尊と二人で手を繋いで歩いて玄関に向かう。
その手を振り解かれなかったことがたまらなく嬉しかった。

玄関チャイムを鳴らすと勢いよく引き戸が開いた。

「尊おにーちゃんっ! 待ってたよー!!」

小学生には見えないほど大人びた姪っ子だと聞いていたが、確かに高校生くらいに見える。
その子が尊に抱き付かんばかりに飛びかかってこようとしたが、尊の顔を見てその足が急に止まった。

そして、尊と私の顔を交互に何度も見て、

「おかーさんっ! おとーさんっ!! 早く来てーっ!!」

と大きな声で叫んだ。
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