51 / 56
番外編
みんなからの祝福
しおりを挟む
<side敦己>
昨夜から何度自分の指を見つめただろう。
視線の先には誉さんが贈ってくれた指輪が嵌っている。
男にしては細くて長い女性的な指があまり好きではなかったけれど、この指にはこのフルエタニティの指輪がよく似合う。
誉さんが僕の指に合う指輪を考えてオーダーしてくれたんだ。
だから何度でも見てしまう。
すっかり自分の指が好きになってしまった。
コンプレックスでさえも好きにしてくれる誉さんって本当にすごい。
「なんだ、まだ見てるのか?」
「だって、すごく嬉しいんです。これで離れている間にも寂しくないなって……」
「そうだ。これは敦己のお守りでもあるから絶対に外してはダメだぞ」
僕のお守り。誉さんがずっと守ってくれているってことだ。
「約束します。絶対に外したりしませんから」
小指を絡めて唇を重ねる。
そんな約束をして僕は会社の前で車を降りた。
去っていく誉さんの車に手を振って、ロビーに進む。
「宇佐美さん。おはようございます」
「おはようございます」
受付の女性社員に挨拶を返した時、頭を下げると前髪がサラッと落ちてきた。
何も気にせずさっと指で戻すと、女性社員の表情が笑顔から一気に変わったのに気づいた。
「どうかした?」
「えっ、い、いえ。何も、なんでもないです」
明らかに不自然な笑顔を向けられたけれど、ここで追及するほど気になっているわけでもない。
それじゃあとその場を離れセキュリティーゲートを抜けてオフィスに入った。
出社には少し早い時間。
数人の社員とすれ違いながらも、誰一人いつもと変わらない。
やっぱりなんでもなかったんだなとほっと胸を撫で下ろしながら営業部のオフィスに入った。
ちらほらと席についている人がいる。
彼らに挨拶しながら自分の席に向かうと、すでに暁くんがいた。
「暁くん、おはよう。早いね」
「あ、宇佐美さん。おはようございます。僕もさっき来たばかりです」
以前の会社では始業時間よりかなり早く来させられていたみたいで、ここの出勤時間が天国なんだと話していた。
いつも顔色もいいし、小田切先生にしっかりとお世話されてるんだなと思ったら思わず笑みが溢れた。
「今日の午後のアポイントの資料なんだけど……」
「はい。それはもうバッチリです。どうぞ」
午前中にできればいいと思っていた資料がもうバッチリ?
手渡された資料を見ると、抜けもなくまさしく完璧な資料に驚く。
「ありがとう。これで今日も頑張れるよ!」
笑顔でお礼を言ったけれど、暁くんは何故か赤い顔をして視線が下を向いている。
「どうした? 何かあった?」
「あ、あの……その……」
いきなり挙動不審になった暁くんを不思議に思っていると、突然背後から声をかけられた。
「うーさみ! おめでとう!」
目の前に僕の好きなアイスカフェオレが現れて、思わずそれを受け取ってしまった。
「ありがとう」
とりあえずお礼を言って振り返るとそこにいたのは、上田。
「カフェオレは嬉しいけど、どうした? 朝からテンション高いな」
「まぁな、お祝いだから。ほら、暁くんも。宇佐美と同じカフェオレにしといたよ」
「あ、ありがとうございます」
まだ顔が赤い暁くんが上田からカフェオレを受け取ると、上田は笑顔でアイスコーヒーを掲げた。
「宇佐美、婚約おめでとう!」
その声にオフィス中が大きな歓声に包まれた。
「宇佐美さん、婚約ですか?」
「えーすごい! おめでとうございます!」
「近々だと思ってたよー!」
そんな声があちらこちらから上がる。
「なっ、えっ? どうして、知ってるんだ? もしかして誉さんが?」
上田にわざわざ報告したんだろうか?
今日中に会社には報告すると言っていたけど、まさか上田には個別で?
「違うよ、お前のその指! もう会社中で噂になってるぜ! お前が結婚したってな」
「えっ? 指? あっ!」
もしかしてこの指輪?
そう思って左手をあげると、遠巻きにしていた女性社員たちが駆け寄ってきた。
「すごい! 素敵!!」
「フルエタニティーよ!」
「わぁー! 宇佐美さん、愛されてる!」
僕の指輪を見て口々に叫んでいる。
社内はともかく、この営業部内では僕の恋人が男性でいつも送り迎えしてくれる人だってことはとうにバレていた。
でもそれが部署外に広まらなかったのは、上田や部長たちのおかげだ。
営業部のみんなも最初こそ驚いていたけれど、以前婚約していた時とは明らかに違う僕の幸せそうな姿に応援してくれていたんだ。
「宇佐美さん、おめでとう!」
「宇佐美、良かったな」
仲間たちからの心からの祝いの言葉に、僕は涙が出そうになってしまった。
昨夜から何度自分の指を見つめただろう。
視線の先には誉さんが贈ってくれた指輪が嵌っている。
男にしては細くて長い女性的な指があまり好きではなかったけれど、この指にはこのフルエタニティの指輪がよく似合う。
誉さんが僕の指に合う指輪を考えてオーダーしてくれたんだ。
だから何度でも見てしまう。
すっかり自分の指が好きになってしまった。
コンプレックスでさえも好きにしてくれる誉さんって本当にすごい。
「なんだ、まだ見てるのか?」
「だって、すごく嬉しいんです。これで離れている間にも寂しくないなって……」
「そうだ。これは敦己のお守りでもあるから絶対に外してはダメだぞ」
僕のお守り。誉さんがずっと守ってくれているってことだ。
「約束します。絶対に外したりしませんから」
小指を絡めて唇を重ねる。
そんな約束をして僕は会社の前で車を降りた。
去っていく誉さんの車に手を振って、ロビーに進む。
「宇佐美さん。おはようございます」
「おはようございます」
受付の女性社員に挨拶を返した時、頭を下げると前髪がサラッと落ちてきた。
何も気にせずさっと指で戻すと、女性社員の表情が笑顔から一気に変わったのに気づいた。
「どうかした?」
「えっ、い、いえ。何も、なんでもないです」
明らかに不自然な笑顔を向けられたけれど、ここで追及するほど気になっているわけでもない。
それじゃあとその場を離れセキュリティーゲートを抜けてオフィスに入った。
出社には少し早い時間。
数人の社員とすれ違いながらも、誰一人いつもと変わらない。
やっぱりなんでもなかったんだなとほっと胸を撫で下ろしながら営業部のオフィスに入った。
ちらほらと席についている人がいる。
彼らに挨拶しながら自分の席に向かうと、すでに暁くんがいた。
「暁くん、おはよう。早いね」
「あ、宇佐美さん。おはようございます。僕もさっき来たばかりです」
以前の会社では始業時間よりかなり早く来させられていたみたいで、ここの出勤時間が天国なんだと話していた。
いつも顔色もいいし、小田切先生にしっかりとお世話されてるんだなと思ったら思わず笑みが溢れた。
「今日の午後のアポイントの資料なんだけど……」
「はい。それはもうバッチリです。どうぞ」
午前中にできればいいと思っていた資料がもうバッチリ?
手渡された資料を見ると、抜けもなくまさしく完璧な資料に驚く。
「ありがとう。これで今日も頑張れるよ!」
笑顔でお礼を言ったけれど、暁くんは何故か赤い顔をして視線が下を向いている。
「どうした? 何かあった?」
「あ、あの……その……」
いきなり挙動不審になった暁くんを不思議に思っていると、突然背後から声をかけられた。
「うーさみ! おめでとう!」
目の前に僕の好きなアイスカフェオレが現れて、思わずそれを受け取ってしまった。
「ありがとう」
とりあえずお礼を言って振り返るとそこにいたのは、上田。
「カフェオレは嬉しいけど、どうした? 朝からテンション高いな」
「まぁな、お祝いだから。ほら、暁くんも。宇佐美と同じカフェオレにしといたよ」
「あ、ありがとうございます」
まだ顔が赤い暁くんが上田からカフェオレを受け取ると、上田は笑顔でアイスコーヒーを掲げた。
「宇佐美、婚約おめでとう!」
その声にオフィス中が大きな歓声に包まれた。
「宇佐美さん、婚約ですか?」
「えーすごい! おめでとうございます!」
「近々だと思ってたよー!」
そんな声があちらこちらから上がる。
「なっ、えっ? どうして、知ってるんだ? もしかして誉さんが?」
上田にわざわざ報告したんだろうか?
今日中に会社には報告すると言っていたけど、まさか上田には個別で?
「違うよ、お前のその指! もう会社中で噂になってるぜ! お前が結婚したってな」
「えっ? 指? あっ!」
もしかしてこの指輪?
そう思って左手をあげると、遠巻きにしていた女性社員たちが駆け寄ってきた。
「すごい! 素敵!!」
「フルエタニティーよ!」
「わぁー! 宇佐美さん、愛されてる!」
僕の指輪を見て口々に叫んでいる。
社内はともかく、この営業部内では僕の恋人が男性でいつも送り迎えしてくれる人だってことはとうにバレていた。
でもそれが部署外に広まらなかったのは、上田や部長たちのおかげだ。
営業部のみんなも最初こそ驚いていたけれど、以前婚約していた時とは明らかに違う僕の幸せそうな姿に応援してくれていたんだ。
「宇佐美さん、おめでとう!」
「宇佐美、良かったな」
仲間たちからの心からの祝いの言葉に、僕は涙が出そうになってしまった。
950
あなたにおすすめの小説
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
運命じゃない人
万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。
理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる