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番外編
想いの形 <後編>
和泉さんが、静かに障子を叩いた。
「し、失礼します」
緊張して声が上擦ってしまう僕とは対照的に、中から返ってきたのは、聞き慣れた穏やかな声。
「どうぞ」
その一言だけで、胸が大きく跳ねる。
当たり前なのに、改めて実感してしまう。
和泉さんが障子を開ける。
その瞬間、空気が変わった気がした。
畳の上にきちんと正座した瑛一さんと千里さんの姿があった。
用意された茶器。ほのかに漂う抹茶の香り。
その中心で、瑛一さんの動きが、完全に止まった。
「……瀬里、さ……」
いつもならすぐに立ち上がる人が動かない。
それどころか、息をするのを忘れているみたいに、僕をじっと見つめている。
瞬きもなく、視線だけがまっすぐに刺さってくる。
「あの、瑛一さん?」
小さく呼びかけても、返事がない。
一歩、瑛一さんに近づこうとしたその時……
瑛一さんが急に立ち上がった。
でもいつもの滑らかな動きじゃない。
一拍遅れて、理性が追いつかないまま身体だけが動いたような……そんな立ち上がり方。
そのままぎゅっと抱きしめられて、腕の中にすっぽりと包み込まれる。
背後からは、和泉さんと千里さんの歓声が聞こえて、顔が一気に熱くなる。
人前でこんなにも情熱的に抱きしめられるとは思わなかった。
「瀬里さん、その格好……」
そこで一度、言葉が切れる。
もしかしたら、あまりにも似合わなすぎて隠そうとしたのかも……
そんな考えが頭をよぎった瞬間、
「……反則、です」
「へ?」
予想外の言葉に、思わず間の抜けた声が出た。
反則? なんの?
「似合いすぎです」
「そ、そんなこと……っ」
否定しようとして、そのまま言葉が止まった。
瑛一さんが、僕の顔を見たままほんの少しだけ、呼吸を乱したから……
「本当ですよ。似合いすぎて、誰にも見せたくないと思ってしまいました」
はっきりと独占欲のようなものを見せられて、顔が熱くなる。
「困りましたね……」
ふっと息を吐かれてドキッとする。
困ったって、どういう意味?
頭が全く働かない中、瑛一さんは僕の背後に向かって声を上げた。
「申し訳ありません」
「え、何が……」
「今日のお茶会は、中止にします」
「えっ」
反射で声が漏れる。その間にも瑛一さんはすでに動いていた。
僕の背後に向かって、有無を言わせない声。
「いいですね、千里さん、和泉さん」
「はいはい、了解でーす」
少し笑いを含んだ声。障子が閉まる音が、やけに軽い。
僕が状況を理解する前に、完全に二人は消えていた。
茶室に残されたのは、僕と瑛一さんだけ……
しんと静まり返った茶室で瑛一さんがゆっくりと口を開く。
「瀬里さん……」
いつもの穏やかな声ではなく、熱を孕んだ低い声に身体の奥がきゅんと疼く。
声も出せず見上げると、さらに強く抱きしめられる。
「今のあなたを見て、正気でいろというほうが無理です」
「っ!」
耳元で甘く囁かれてどうしようもなく興奮する。
鼓動が速くなりすぎているのを気づかれるのが恥ずかしくて離れようとすると、
「ダメです、離しません」
と抱きしめられる。
「な、なんで……っ」
理由を聞いた瞬間、瑛一さんが僕をじっと見つめる。
「これ以上、理性が持たないので……」
「っ!」
その言葉に一気に体温が上がる。
そんな言葉を、こんな静かな顔でいう人だと思ってなかった。
「あ、あの……僕、瑛一さんに贈り物が……」
「えっ?」
なんとか必死に告げると、腕の力が弱まった。
手に持っていた和菓子。
ケースに入っていたおかげで、まだ元の形を保っている。
「これは……」
「僕が、作ったんです。和泉さんに教えてもらって……」
目の前に差し出すと、目をぱちぱちしながらケースの中を見つめている。
あまりうまくできなかったからじっくり見られるのは少し恥ずかしい。
「ごめんなさい。不器用で……」
すると、瑛一さんは柔らかな眼差しを向け、ふっと頬を緩めた。
「とても美味しそうです。瀬里さんの気持ちがこもっていますね」
いつもの穏やかな表情に嬉しくなって、気持ちを伝えた。
「瑛一さんのことを思って、作ったので……瑛一さんのこと、大好きです」
そう告げた瞬間、瑛一さんは大きなため息をついた。
「瀬里さん……あなたという人は……」
瑛一さんの呆れたような声が聞こえたと思ったら、さっと抱きかかえられる。
「えっ、あの……」
「これから、覚悟してくださいね。今日はもう、手加減はできませんから……」
欲情を孕んだ瞳で見つめられながら、僕はあっという間に瑛一さんの車に乗せられた。
そして、二人の家でたっぷりと愛され続けたのだった。
「し、失礼します」
緊張して声が上擦ってしまう僕とは対照的に、中から返ってきたのは、聞き慣れた穏やかな声。
「どうぞ」
その一言だけで、胸が大きく跳ねる。
当たり前なのに、改めて実感してしまう。
和泉さんが障子を開ける。
その瞬間、空気が変わった気がした。
畳の上にきちんと正座した瑛一さんと千里さんの姿があった。
用意された茶器。ほのかに漂う抹茶の香り。
その中心で、瑛一さんの動きが、完全に止まった。
「……瀬里、さ……」
いつもならすぐに立ち上がる人が動かない。
それどころか、息をするのを忘れているみたいに、僕をじっと見つめている。
瞬きもなく、視線だけがまっすぐに刺さってくる。
「あの、瑛一さん?」
小さく呼びかけても、返事がない。
一歩、瑛一さんに近づこうとしたその時……
瑛一さんが急に立ち上がった。
でもいつもの滑らかな動きじゃない。
一拍遅れて、理性が追いつかないまま身体だけが動いたような……そんな立ち上がり方。
そのままぎゅっと抱きしめられて、腕の中にすっぽりと包み込まれる。
背後からは、和泉さんと千里さんの歓声が聞こえて、顔が一気に熱くなる。
人前でこんなにも情熱的に抱きしめられるとは思わなかった。
「瀬里さん、その格好……」
そこで一度、言葉が切れる。
もしかしたら、あまりにも似合わなすぎて隠そうとしたのかも……
そんな考えが頭をよぎった瞬間、
「……反則、です」
「へ?」
予想外の言葉に、思わず間の抜けた声が出た。
反則? なんの?
「似合いすぎです」
「そ、そんなこと……っ」
否定しようとして、そのまま言葉が止まった。
瑛一さんが、僕の顔を見たままほんの少しだけ、呼吸を乱したから……
「本当ですよ。似合いすぎて、誰にも見せたくないと思ってしまいました」
はっきりと独占欲のようなものを見せられて、顔が熱くなる。
「困りましたね……」
ふっと息を吐かれてドキッとする。
困ったって、どういう意味?
頭が全く働かない中、瑛一さんは僕の背後に向かって声を上げた。
「申し訳ありません」
「え、何が……」
「今日のお茶会は、中止にします」
「えっ」
反射で声が漏れる。その間にも瑛一さんはすでに動いていた。
僕の背後に向かって、有無を言わせない声。
「いいですね、千里さん、和泉さん」
「はいはい、了解でーす」
少し笑いを含んだ声。障子が閉まる音が、やけに軽い。
僕が状況を理解する前に、完全に二人は消えていた。
茶室に残されたのは、僕と瑛一さんだけ……
しんと静まり返った茶室で瑛一さんがゆっくりと口を開く。
「瀬里さん……」
いつもの穏やかな声ではなく、熱を孕んだ低い声に身体の奥がきゅんと疼く。
声も出せず見上げると、さらに強く抱きしめられる。
「今のあなたを見て、正気でいろというほうが無理です」
「っ!」
耳元で甘く囁かれてどうしようもなく興奮する。
鼓動が速くなりすぎているのを気づかれるのが恥ずかしくて離れようとすると、
「ダメです、離しません」
と抱きしめられる。
「な、なんで……っ」
理由を聞いた瞬間、瑛一さんが僕をじっと見つめる。
「これ以上、理性が持たないので……」
「っ!」
その言葉に一気に体温が上がる。
そんな言葉を、こんな静かな顔でいう人だと思ってなかった。
「あ、あの……僕、瑛一さんに贈り物が……」
「えっ?」
なんとか必死に告げると、腕の力が弱まった。
手に持っていた和菓子。
ケースに入っていたおかげで、まだ元の形を保っている。
「これは……」
「僕が、作ったんです。和泉さんに教えてもらって……」
目の前に差し出すと、目をぱちぱちしながらケースの中を見つめている。
あまりうまくできなかったからじっくり見られるのは少し恥ずかしい。
「ごめんなさい。不器用で……」
すると、瑛一さんは柔らかな眼差しを向け、ふっと頬を緩めた。
「とても美味しそうです。瀬里さんの気持ちがこもっていますね」
いつもの穏やかな表情に嬉しくなって、気持ちを伝えた。
「瑛一さんのことを思って、作ったので……瑛一さんのこと、大好きです」
そう告げた瞬間、瑛一さんは大きなため息をついた。
「瀬里さん……あなたという人は……」
瑛一さんの呆れたような声が聞こえたと思ったら、さっと抱きかかえられる。
「えっ、あの……」
「これから、覚悟してくださいね。今日はもう、手加減はできませんから……」
欲情を孕んだ瞳で見つめられながら、僕はあっという間に瑛一さんの車に乗せられた。
そして、二人の家でたっぷりと愛され続けたのだった。
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板前姿が板につきすぎて想像できなかったのかも(笑)
最高級の材料を惜しげなく使った和泉の美しい和菓子と瑛一の抹茶でお茶会。本当に贅沢ですね。
このお茶会に参加したい人がどれだけいるか……
おそらく瑛一には着物を着てお茶会を開いたら瀬里が喜ぶんじゃない?くらいの計画は伝えてそうですwww
なので、和服姿でしかも手作り和菓子持ってお茶室にやってきたらさすがの瑛一も驚きそうですね。
涼葉ママの可愛い着物を譲り受けて、瀬里が着たら最高に似合いそうです。
これを見せたら次々着物が送られてきそうですね。
でも瑛一も仕立てたいので、めちゃくちゃ着物持ちになりそう(笑)
可愛い瀬里を見て、瑛一は精神統一して抹茶が点てられるでしょうか。楽しみですね。
いぬぞ〜さま。コメントありがとうございます!
疲れた時ようにちょこっとお昼寝する用のベッドですね。
かなり二人でくつろいだりしてます。
この部屋の映像、今までは陽仁くらいしか見るひとはいなかったでしょうが、瀬里がここに入れるようになって、
旦那三人が楽しめる映像が増えましたね(笑)