処刑予定の悪役令息に転生したのに、なぜか王子さまの膝上で甘やかされています

波木真帆

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第二章

静かな違和感

朝の柔らかな光が、カーテンの隙間から差し込んでいた。

「ん……」

ゆっくりと目を開ける。
見慣れた天蓋と、整えられた自分の部屋。
この場所にも、もうすっかり慣れてしまった。

自分がリュシエルだと気づいて、数年。

――わがままは封印して、目立たず、慎ましく……

その積み重ねの結果、リュシエルの評判は以前とは比べ物にならないほど落ち着いていた。
少なくとも、かつてのように露骨な敵意を向けられることはない。

肝心のヴァレリウスからは嫌われてもいないが、もちろん好かれてもいない。
これは正しく距離を保ったまま、過ごしてきた結果だ。
処刑回避のためには、それでいい。

それでも胸の奥に、説明のつかない違和感だけが残っている。
近づいてはいけない。それだけははっきりしているのに……

小さなため息を吐きながら、ゆっくりと身体を起こす。
コンコン、と軽いノックの音が響いた。

「リュシエルさま。お目覚めでしょうか」

「うん。起きてるよ。リディ」

扉が開き、リディが静かに入ってくる。
以前のような緊張はなく、自然な手つきでカーテンが開かれた。

「本日は中等部の初日でございます。お時間に余裕を持ってご準備を」

「うん」

ベッドを下り、用意された制服に袖を通す。
自然と頭に浮かぶのはヴァレリウスのこと。

同じ学園にいる以上、完全に関わりを断つことはできない。
それでもこれ以上、余計な接点は増やさないほうがいい。

原作では、彼の伴侶となるのは別の人物。
その流れを壊したために、あんな最期を迎えることになった。
それだけは、絶対に避けなければいけない。

「……リュシエルさま?」

「ああ、ごめん。ぼーっとしてた。なに?」

「今日からはネクタイでございますよ」

「あ、そっか」

今まで使っていたリボンを取ろうとしていた手を引っ込める。

「お手伝いいたしますね」

リディの指先が、丁寧にネクタイを結んでいく。

「ありがとう。リディ」

「リュシエルさま。とてもよくお似合いです」

柔らかな笑みが返ってくる。
この日常を守るためにも、余計なことはしない。そう決めたんだ。

用意された馬車に乗り込み、学校へ向かう。

窓の外をぼんやりと眺めながら、意識を落ち着かせる。

中等部になっても変わらない。
自分の立場をわかっていればいい。

「リュシエルさま。緊張なさっていますか?」

リディが少し心配そうに声をかけてくる。

「うん。まぁ……ちょっとだけ」

正直に答えると、リディは柔らかく微笑んだ。

「ご学友はほとんど変わりませんから、大丈夫でございますよ」

「そうだね」

笑顔を見せつつ、そっと窓の外を見た。
やがて馬車は、大きな門の前でゆっくりと止まった。

「到着いたしました」

静かに扉が開く。
目の前に広がるのは、これまでよりも一回り大きく、重厚な校舎。
行き交う生徒たちも、どこか落ち着いて見える。

馬車から一歩踏み出した、その瞬間……

「ヴァレリウスさま。おはようございます」

明るい声が、すぐ近くで響いた。
反射的にそちらへ視線を向ける。

「あっ」

声が漏れかけて、慌てて口を押さえる。

栗色の柔らかな癖毛。
リュシエルと比べると地味な顔立ちだが、愛嬌のある幼顔。
ほんのり頬を染めてヴァレリウスを見上げる彼は、エミール・ヴィルロワ。
原作で、ヴァレリウスの伴侶となる侯爵令息だ。

その彼が、自然な距離でヴァレリウスの隣に立っている。

「エミールか、早いな」

リュシエルとは違う、ヴァレリウスの反応。
ほんの一瞬だけその光景を見つめてから、リュシエルは何も言わずに視線を逸らした。

二人の邪魔をしてはいけない。

そう、心に刻みながら……
感想 10

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