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第四章 (王城 過去編)
フレッド 16−2
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迎えの連絡が来るまでの間、溜まっていた政務作業を淡々とこなしながらも考えるのはシュウのことだ。
昨日までシュウの看病という体であったけれど、シュウの世話の全てができることに私は喜びを感じていた。
今シュウはトーマ王妃と中庭で談笑中か……。
久しぶりの父子の対面でどんな話をしているのだろうな。
父子といっても実際は兄弟のような年齢差だから話も気も合うのだろう。
前にも言ったが、サンディーとアランが今どんな状況にいるのかは興味はあるが、私自身に加虐的な嗜好は一切ない。
奴等がどんな苦しみを味わっているかを確認した後はすぐにでもシュウの傍にいって癒されたいものだ。
そんなことを考えていると、執務室の扉が叩かれた。
「陛下、アルフレッドさま。お迎えの馬車が到着いたしました」
「よし。アルフレッド、行くぞ」
アンドリュー王に導かれ、王城の裏手に回された小さな馬車へと向かう。
この馬車には王家の紋章は付いておらず、外を走っていても中の様子はわからない作りになっている。
「ヒューバート、城の警備を頼むぞ」
我々がいない間のトーマ王妃とシュウの警備をヒューバートに頼み、その馬車にはさっと乗り込んだ。
中にはブランシェット侯爵の姿があった。
「陛下。アルフレッドさま。お待ち申し上げておりました。では、出発致しましょう」
侯爵が御者に声を掛け、馬車はゆっくりと王城を出た。
「陛下、アルフレッドさま。大変恐縮でございますが、こちらの上着にお召し替えくださいませ」
手渡された服は貴族仕様の服ではあるが、王家の紋章はない。
たしかにこの服で出入りをしては目立つからな。
侯爵に用意してもらった上着に着替えると、ちょうど目的の場所に着いたようだ。
「馬車を降りる際はこちらの黒いベールをおつけください。それから中では身元が洩れるのを避けるためお2人のお名前と敬語は使いませんのでご了承ください」
「ああ、わかった」
私たちは侯爵の指示通り頭から首まで覆い隠され目元だけが開いたベールを身につけた。
これで、私たちが王族だとはもちろん、どこの誰だかもわからないだろう。
黒いベールを纏い、馬車を降りるとそこは建物の裏手のようだった。
侯爵が一見ただの壁に見える場所を押すと、扉となって開き下へと続く階段が現れた。
「足元に気をつけてください」
コツコツと靴の音だけが響いていたが、階段を下りるにつれ、叫び声や嬌声が耳に入ってきた。
壁に沿うように檻が立ち並び、血の臭いや生臭い臭い、吐瀉物のような饐えた臭いなどが混ざり合っていて吐き気を催しそうになる。
このローブで覆っていなければ耐えられなかったな。
「お2人とも大丈夫ですか? 奥にいるのがサンディー。隣がアランです。サンディーの方は今は客はとってませんね。アランの方から見ていきますか?」
「ああ、頼む」
あの例の薬を使っているのか、アランの嬌声が大きく響いている。
拘束棒に手枷と足枷をつけられ、尻を高く突き上げながら、驚くほど太い棒を差し込まれている。
ぐっぽぐっぽと奥までぶち込まれた尻の穴からくるぶしまで達するほどに血がタラリと一筋流れているが、アランも相手の男も気にしていないようだ。
男が太棒を引き抜くと、尻の穴がぽっかりと開いているのが見えた。
男はそこに躊躇うことなく自分の肉棒を突き刺していく。
あの大きく広がった穴ではまだ解し足りなかったらしい男の肉棒にアランは
「あ゛ぁーーーっあがーーっ裂けるーっ!!」
と叫び声をあげながらも己のモノからは突き刺されるたびに精液がぷしゃぷしゃと漏れ出ている。
「あれは楽しんでるのか?」
「ああ、あの薬の効果が一度で20時間ほど続くことがわかりましたので、無理やりを好む客には使ってません。アランは薬が切れかかってますね。痛みと気持ちよさが半々ってところでしょうか」
「なるほど。で、もう一匹のほうは何してる?」
「サンディーの方を見てみましょうか」
奴の檻を見ると、端の方に身を寄せて縮こまっている。
「サンディーはアランと違って、鞭打ちや縛り付けたりして快楽を求める客を相手にしてるので、基本薬は使ってません。叫び声をあげないと意味がありませんから」
「ふうん、中に入れるか?」
私がそう侯爵に尋ねると、侯爵は嬉しそうに
「ああ、遊んでいきますか。どうぞ」
と扉の鍵を外してくれた。
「こいつは傷つけていいんだろう?」
「ええ。ご自由に」
私が部屋に入ると、奴は諦めたように部屋の端から中央へと近づいてきた。
「……どうぞ、お好きなように……」
ここ数日の間にどれだけやられたのかわからないが、素直にこうやってやってくるところを見るとよほど痛い目にあったようだな。
まぁ、シュウとトーマ王妃の受けた傷に比べればまだまだだがな。
「座って、両手を前に差し出せ」
奴は抵抗することもせずに、その場に正座して両手を床につけた。
ダンッ!!!
「ぎゃーーーーーっ!!!」
思い切り踏みつけた靴の下からバキッバキッという砕かれた音とグシャリと潰れた音が聞こえてくる。
「やめろーーー! 離せーーー!」
奴はバタバタと身体を身悶えさせ必死に抵抗し叫び声を上げ続ける。
足を離すとあちらこちらに折れ曲がった指を庇うように身体を丸めた。
そして、寝そべりながらこちらを睨みつけてきた。
ふん。まだそんな気力があるのか。
私はさっとローブを外し、顔を見せつけ、
「我が伴侶の美しい腕に痕をつけ、トーマ王妃の顔を殴ったお前の醜い手など必要ない。だから潰したまでだ」
そう言い捨て、檻を出た。
侯爵は驚いてはいたが、奴がトーマ王妃を殴りつけたことを知っているせいか何も言っては来なかった。
アンドリュー王もまた満足そうに笑っていた。
奴の手を潰せたから今日来る意味はあっただろう。
今度来る時はシュウの首筋に這わせた舌でも切ってやろうか。ふふっ。それもいいな。
私には加虐的嗜好はなかったはずだがなと思いながら、うっすらと笑みが溢れた。
来た時と同じ馬車に乗り込み、王城へと向かう。
中で上着を着替えると、先ほどまでの加虐的嗜好がどこかへ消え去って愛しいシュウのことばかり考えている。
あんなところに行ったから余計シュウに会いたくなってきた。トーマ王妃との憩いの時間を邪魔したくはないが、荒んだ私の心を癒してほしいのだ。
王城裏手に馬車が着き、下りようとするとアンドリュー王がそれを制し、
「ブルーノ! ブルーノ!」
と声を上げた。
しかし、ブルーノは現れず代わりに騎士団副団長のマルティネスがやってきた。
「恐れながら、陛下。ブルーノさまはただいま団長と騎士5名を警備につけ、トーマ王妃とシュウさまと王城南にある森へ出掛けております」
「なんだと? なぜそうなった?」
「はっ。こちらをブルーノさまよりお預かりしております」
そう言ってマルティネスは一枚の紙を差し出した。
それにさっと目を通すと、アンドリュー王は目を見開き私にその紙を見るようにと差し出した。
そこには、驚きの事実が書かれていた。
「我々もすぐにそこに向かう。マルティネス、アルフレッドの靴を急いで用意しろ!」
はっ? 靴?
と頭にハテナが浮かんでいる様子だったが、マルティネスは言われた通り、私の靴を持って戻ってきた。
「アルフレッド、靴を取り替えろ。あのまま其方の伴侶に会いに行くのは嫌だろう」
ああ、なるほど。さすがだな。
アンドリュー王の配慮に感謝しながら、すぐに靴を履き替えた。
「マルティネス、悪いがこれはすぐに処分しておいてくれ」
奴を踏みつけた靴などシュウの傍に置いておきたくないからな。
靴をマルティネスに渡し、アンドリュー王と2人急いで厩舎へと向かう。
すぐに馬に鞍をつけ、シュウたちが向かったという川に向かって走らせた。
急がないと!
若い騎士たちの前で肌を晒して水遊びなどとんでもない。
すると、上着の内側から少し光が漏れている。
これは確認しなくてもわかる。
あの黒金剛石がシュウの危険を知らせているんだ。
シュウ、川辺で何があったのか?
急げ! 急げ!
あっ、騎士たちの姿が見えた。
あの馬に乗っているのはトーマ王妃か?
私たちの駆け寄る音が聞こえたのか、トーマ王妃がこちらを振り向いた。
「フレデリックさん! 柊ちゃんが!!」
その言葉だけで全てを理解した。
トーマ王妃が指し示す方へ馬を急がせた。
「シュウ! シュウ!」
大声で叫びながら、森へ入ると猛スピードで走る馬の背に必死にしがみついているシュウの姿を捉えた。
幸いにもシュウの乗っている馬は私の馬より遥かに小さい。
これならシュウに追いつけるはずだ。
頼むぞ! 頑張ってくれ!
馬にそう願いながら、必死で走らせるとようやく手の届くところまで近づいた。
そこでようやく私の姿にシュウが気がついた。
「フレッド!!」
これならシュウを受け止められる!
「ほら、手を伸ばして!」
手をシュウに向けて差し出したが、猛スピードで走る馬の背で手を離すなど怖いに決まっている。
ましてやシュウは馬に乗れないのだ。
首にしがみついたまま怖がって手を離そうとしない。
「こわいよ……、こわい」
ここは説得するしかない。
「大丈夫! 絶対落としたりしないから私を信じろ!」
シュウは私の目をじっと見ると、ゆっくり体勢を起き上がらせ私の方に手を伸ばした。
よし! 絶対離すものか!
グイッと力を込めて引っ張ると、羽根のように軽いシュウはふわりと空を舞うように私の元へと飛んできて、すっぽりと私の腕の中に入った。
「ああっ、良かった。心配したぞ」
ああ、シュウの温もりだ。シュウの香りだ。
シュウが私の腕の中にいる。
ああ、本当によかった。
「怖かった……怖かったよ。ひくっ」
涙をぽろぽろこぼしながら、私を見つめる。
シュウを失うことにならなくて本当に良かった。
シュウを守ることができて本当に良かった。
「もう大丈夫だ。ほら、笑顔を見せてくれ」
大きな漆黒の瞳からこぼれ落ちる宝石のようにキラキラと輝く涙を親指でそっと拭い取ってやると、にシュウはやっと笑顔を見せてくれた。
シュウの笑顔に誘われるように、私をここまで連れてきてくれたこの馬(名前を聞く暇がなかったが……)も『ヒヒーン』と嬉しそうな嘶きを聞かせてくれた。
ありがとうな
そう思いながら、首筋をよしよしと撫でているとヒューバートが小さな馬を連れこちらへやってきた。
あの馬はシュウが乗っていた馬か……。
シュウは1人では乗れないはずだし、あれは横乗り用の鞍だ。
ヒューバートが手綱を引いて連れて行ってくれていたのか。
ヒューバートはシュウが私の腕の中にいるのをみて安堵の表情を浮かべた。
そして、さっと馬から下り草むらに顔を擦り付けながら、
「アルフレッドさま、シュウさまを危ない目に遭わせてしまい申し訳ございませんでした」
と謝罪の言葉を述べた。
確かにシュウを危ない目に合わせた。それは事実だ。
許し難いことではあるが、シュウは無事な姿で私の腕の中にいる。
ここで怒鳴りつけたとて何の意味もないな。
それでも理由は聞いておかねばな。
私は努めて冷静に
「なぜこんなことになったのだ?」
と尋ねた。
「ユージーンの前を仔ウサギが横切ってしまい、興奮して制御が利かなくなったようです」
ふむ。ユージーンはあの馬の名前か。
あれはまだ幼い馬だ。
仔ウサギに反応してしまうのも仕方のないことか。
「あ、あの……」
私の腕の中で蹲っていたシュウが突然口を開いた。
「んつ? どうした、シュウ?」
何か気になることでもあったのかと顔を覗き込んだが、シュウの視線はヒューバートを向いている。
「そのウサギさんはどうなったの?」
「はい。えっ? あの……驚いてすぐに逃げて行きました」
「ああ、そうなんだ。良かった……ウサギさんに怪我がなくて。ユージーンも大丈夫そうだし、ぼく……わたしもフレッドのおかげで怪我せずに済んだし。みんな元気で良かったね。ふふっ」
シュウからの思わぬ質問に私もヒューバートも度肝を抜かれてしまったが、あんなに涙を流すほど怖い思いをしながら、一番最初に尋ねることが自分に危険を与えるきっかけになったウサギの安否とは……。
しかも、すぐに逃げていったと聞いてあんな天使のようなら笑顔をみせるのだぞ?
怒りを見せていた己の浅はかさに思わず
『はぁーーーっ』と溜め息がでた。
シュウはヒューバートにもユージーンにも罰を与えることを望むどころか、怒りの欠片もみせていない。
そんなシュウの前でヒューバートとユージーンに罰など与えれば、私がシュウに嫌われてしまう。
「ああ、怪我が無くて本当に良かった」
シュウが無傷で私の腕の中にいることを喜んでいる……今回はそれで良しとしよう。
「フレッド、助けに来てくれてありがとう。
フレッドはやっぱりぼくの王子さまだね」
「ぐぅっっ、ああ! もう! シュウが可愛すぎると本当に困るな……。とりあえず、陛下たちの元へ戻ろう」
本当にシュウの無自覚な煽りはなんとかならないものか?
いや、アンドリュー王はトーマ王妃もそうだと言っていた。きっと2人には生まれ持ったものなのだろう。
はぁ……シュウが可愛すぎて心臓が壊れてしまいそうだ。
シュウを乗せたまま森の入り口へと戻ると、トーマ王妃が馬で駆け寄ってくる。
そうか、トーマ王妃は1人で乗れるのだな。
そんなところに感心しながら見ていると、
「柊ちゃん、怪我はない?」
と尋ねてきた。
“シュウちゃん”?
そういえば先ほどもシュウちゃんと言っていた気がする。
そうか、シュウが男だと知らない者たちがたくさんいるからか。
シュウの女装姿もすっかり見慣れてきて違和感がなくなっていたが、トーマ王妃からちゃんと呼ばれているのを見ると、なぜか不思議な気がしてしまうな……。
もちろん、“シュウちゃん”と呼ばれているシュウも可愛いのだが……。
「うん、大丈夫だよ」
「ああ、良かった~!!」
トーマ王妃の傍らにアンドリュー王がいた。
そういえば、シュウのことを考えるあまりアンドリュー王を置き去りに走ってきてしまった。
申し訳ないと視線を送ったが、アンドリュー王は何も気にもしていないようで問題ないと視線を返された。
「其方が無事で良かった。トーマがえらく心配していたのでな」
「だって、ユージーンがあんなに興奮してたから振り落とされちゃったんじゃないかって、そりゃあ心配するよ!」
「アンドリューさま。ありがとうございます。そういえば……フレッドもアンドリューさまもどうしてここに?」
え……っ?
あの時ブルーノから受け取った手紙には
「トーマさまがシュウさまと泳ぎたいと申され、最初は反対したのですがまたお2人で城下へお出になるようなことがあってはならないと賛成いたしました。
警護のために騎士団団長のヒューバート様をはじめ、5名の若い騎士に同行をお願いしておりますが、
お2人はバスタオルを巻いただけで泳ぐおつもりのようです。
このままですと、お2人の肌が騎士たちの眼前に晒されてしまいます。
ヒューバートさまと出来るだけ時間を伸ばすつもりではございますがこの手紙を読まれましたらどうぞお急ぎ王城南の川へとお越しください」
と書かれていた。
シュウとトーマ王妃の肌が私たち以外のものの目に晒されるなどとんでもない。
慌てふためきながらここへやってきたのだが、シュウにそれを知られるのは少し恥ずかしい……。
さて、どうしたものか。
何と話すべきだろうか……アンドリュー王と視線を合わせそう悩んでいると、トーマ王妃が笑いながら口を開いた。
「アンディーも彼も僕たちが心配で急いで迎えに来たんだって」
「えっ? 心配って?」
純粋な瞳で『どういうこと?』と尋ねられたら答えるしかない。
「シュウとトーマ王妃が……その、水遊びをすると聞いたものだから心配で来たのだ」
観念してそう答えると、シュウは呆気に取られた表情で笑って答えた。
「ふふっ。フレッドったら。ぼく溺れたりしないよ」
お、溺れるって……
「いや、そういうことを心配したわけでは……」
「んっ?」
肌を見られたくなかったのだが……この無垢なシュウは私のやきもきした思いなど知るよしもないのだろうな……。
トーマ王妃が話題を変えるように、せっかくだからみんなで川で遊ぼうと言い出した。
シュウと川で遊べるのは嬉しいが、肌を晒すのは許し難い。
アンドリュー王もすぐには賛成できないような口ぶりだが、
『良いよね?』と詰め寄られて、しぶしぶではあるが許したようだ。
ならば、私も許す他ないだろう。
本当はやめさせたいが……。
アンドリュー王がヒューバートに若い騎士たちを帰らせるように命じると、トーマ王妃はせっかくここまで来たのに可哀想だと不満そうに言っていたが、
いや、せめてそれくらいはさせてくれ!
シュウの肌を見る可能性のあるやつは1人でも少ない方がいい。
すると、不満を口にするトーマ王妃の耳元でアンドリュー王が囁くのが私の耳に聞こえた。
『トーマの大事な息子の姿が若い騎士たちの慰みになっても良いのか? あやつらは美しいものは一生忘れんぞ』
アンドリュー王は恐らくトーマ王妃の肌を見せたくないという思いの方が強かったとは思うが、それを言うよりもシュウを愛する父の気持ちを利用したのだろう。
こういえばトーマ王妃のことだ、若い騎士たちを帰らせることを納得するに決まっている。
トーマ王妃の気持ちをよくわかっている、さすがだ。
とはいえ、私のシュウの肌が若い騎士たちの夜の慰みになるなんて考えたくもない。
騎士たちには悪いが早々に帰ってもらおう。
トーマ王妃も騎士たちを帰らせることに納得し、ヒューバートが指示をすると、トーマ王妃やシュウの姿をチラチラとみながら、未練がましく帰っていった。
やはりあいつらそんな気持ちがあったんじゃ?
と疑いたくなるほどにシュウとトーマ王妃の姿に魅せられているようだった。
その表情がシュウにも見えていたのか、
「暑かったから、騎士さんたちも水遊びしたかったのかな? 一緒に行けたら良かったね」
と呑気に話すシュウを見て、これは私がしっかり守らないといけないなとつい大きな溜め息が出てしまった。
私たちとアンドリュー王、トーマ王妃、そしてブルーノとヒューバートと共に目的の川へと向かった。
川に着き、シュウを馬から下ろしてやると、
「わぁっ、冷たそう!」
と嬉しそうに川に近づいていった。
すぐさまトーマ王妃から
『滑らないように気をつけて!』と注意が飛んできたのは、やはり父なのだなと感じてしまい、少し笑みが溢れた。
それにしてもこの小川は私たちの時代と何一つ変わっていないな。
幼いころは顔のことで嫌なことを言われたりして我慢できなくなるとよくこの小川にきては自分の顔を水面に映し、みんなに好かれるようにしてくれと神に願ったものだ。
毎回毎回同じ願いをしたが、叶うことはなかった。
だが、今こうやって水面に映る自分の姿はあの時とは違う。
あの生きることを諦めたような表情をした子はもう映っていない。
愛しい人と自分をちゃんと見てくれる人に見守られて、今の私は生きることが楽しくてたまらない表情をしている。
そう、あの時の私の願いは叶ったんだ。
神よ、ありがとうございます。
ブルーノがシュウたちに着替えるようにと話しかけると、すぐさまヒューバートが着替え用のテントを組み立てた。
ああ、これは軍事演習用のテントか。
ならば、外から透けて見えることはないだろうがこよ時代のはどうだろうか?
そっとテントを触ってみたが、生地の感触は私たちの時代と大差ないように感じられた。
よし、これなら大丈夫だろう。
ブルーノから着替えを受け取り、さっそくテントへ入るシュウにくっつくように一緒にテントへと入ると、
「フレッドも一緒に水遊びするの?」
と問いかけてきた。
シュウがとんな格好をするのか確認しておきたいだけだが、
「ああ。だが、着替えはシュウだけだ。
さぁ、着替えを手伝おう」
下心満載でそういうと、
「ふふっ。ありがとう」
シュウはなんの躊躇いもなく、ワンピースの肩紐を外し、ストンと服を脱いで見せた。
――――っ!!
「んっ? どうかした?」
私が声も出せないほどにシュウに見惚れてしまっていたことに気づかれたらしい。
「いや……。テントの中で見るシュウの肌は白さが映えて美しいなと思ってな。こんなに白いと紅い花を散らしたくなるな」
光も通さないテントの中で色の白さがこんなにも際立つなんて、シュウくらいだろうな。
シュウの白い肌に赤い花を散らせるのは私だけだ。
改めてそんな優越感に浸っていると、
「もう! フレッド……って、あれ? フレッドの指、血が出てる!」
慌てたように私の指を指し示している。
「指? ああ、さっきシュウを馬上で抱き止めるときにでも掠ったんだろう。こんなのすぐ治るから大丈夫……し、シュウ!!」
右の人差し指の先からほんの少し血が流れている。気にしないでもすぐに止まるだろう……そう思っていたら、シュウが急にその指を持ち、あっと気づいた時にはシュウの温かな口の中へ導かれていた。
シュウの舌が私の指をペロペロと舐めたり吸い付いたりその姿があまりにも淫らで目が離せない。
ちゅぽんと音を立てて口から指を抜くとさっきまでの淫らな姿が嘘のように
「?? フレッド、大丈夫? ごめんね、痛くない?」
と小首を傾げ見つめてくる。
はぁ……、こんな可愛いことをされては我慢も限界に来てしまうぞ。
「シュウ……お前はどこまで私を煽るんだ。
ああ、もう可愛すぎておかしくなりそうだ」
口付けくらいは許して欲しい……さっき私の指を舐めてキラキラと光る唇に私のそれを重ね合わせようとした瞬間、
「柊ちゃん、用意できたー?」
テントの外からトーマ王妃の声が聞こえた。
「ええっ! あっ、はい。もうすぐ! もうすぐです!」
「ふふっ。じゃあ外で待ってるねー」
「は、はい」
シュウが慌てふためきながらトーマ王妃に返事を返しているが、恐らく気がついているのだろうな。
シュウに口付けていたら、我慢できずにこの場で押し倒していたかもしれん。
この前シュウに無理をさせて熱を出させたばかりだというのに、ここで無理をさせてはまたトーマ王妃の雷が落ちるところだった。
危ない、危ない。
「ウォッホン! シュウ、着替えを手伝おう」
気持ちを引き締めようと咳払いをしたのだが、それがシュウには面白かったらしい。
シュウの笑いにつられて思わず私も笑ってしまっていた。
出来るだけシュウの裸を見ないようにバスタオルで隠しながらシュウの身体に巻きつけた。
胸の尖りを見せるわけにはいかないからな……。
ブルーノが普段よりも一回り大きなバスタオルを用意してくれていて助かった。
シュウの胸から膝が隠れるほどにすっぽりと覆い隠している。
まあ、欲を言えば足は全て隠して欲しいものだが……バスタオルがそこまで長いと歩くのも大変だろうし、水遊びが目的なのだから仕方ない。
と思っていると、シュウがもう一枚服を見つけ出した。
「あれ? タオルだけじゃないんだ。これを上から着ろってことかな?」
シュウが広げているのを見て私にはすぐわかった。
これは私の夜着だ。
シュウは何も気にせずに羽織っているところを見ると、恐らく自分のものだと思っているのだろう。
まだ後ろ姿しか見えていないが、シュウが私のものを着ていると、私にすっぽりと覆われているようで、うん、悪くないな……これは。
「これ、フレッドのじゃない? ブルーノさん、間違えちゃったのかな?」
シュウが振り返った瞬間、可愛さが倍増した。
『ぐぅっっ、か……可愛すぎる。こんな姿で外に出していいのか?』
これは心配になるほど可愛すぎる。
ああ、どれだけ私を煽るつもりだろう……。
だが、着ないで腕や足をさらけだすよりはこっちが良いか……良いんだよな?
「も、森には虫もいるから大きいくらいがちょうどいいよ。刺されたりしたら大変だろう?」
迷いながらもシュウには理由をつけて何とか着させておこうと決めた。
「そうだね。じゃあ行こう!」
シュウはウキウキと足が地につかない様子で外に出ていった。
シュウに続いて私もテントから出ると、全く同じ格好をしたトーマ王妃と早速川の方に向かって歩いている。
ここの石は滑ることがあるから危ないな。
シュウを支えようと近づくとアンドリュー王もトーマ王妃に近づいていた。
やはり考えることは同じか。
さっとシュウの傍に駆け寄り、腕を優しく掴んだ。
「滑ると危ないから、一緒に入ろう」
「ふふっ。ありがとう」
シュウの指先が川の水にそっと触れると、身体をピクリと震わせた。
「わぁっ、気持ちいい」
その声に誘われるように私も一緒に足を突っ込んだ。
「おおっ、冷たいな」
小石の上を裸足で歩く感触はひさしぶりだ。
子どもの時に戻ったようだな。
「ほら、ここに座るといい」
私がいつも座って眺めていた大きな岩にシュウを座らせた。
シュウはそこから両足を垂らすと、足をバタバタと動かし、水飛沫を跳ねさせた。
満面の笑みで
「冬馬さんもここに座ってー!」
と呼びかけた。
トーマ王妃はシュウからの誘いにすぐさま反応し、アンドリュー王に岩の上に座らせてもらっていた。
2人が座っている岩はそこまで大きなものではないが小さくて華奢な2人ならぴったり収まっている。
2人が足で水をバシャバシャと戯れる様子はまるで双子の絵画のように麗しく、私とアンドリュー王は声もなくただ2人を見続けていた。
「水遊びって初めてー! 気持ちいいね」
シュウがそう話すとトーマ王妃は幼い頃の思い出を話したようだ。
食べ物を川の水で冷やす……そんな発想考えつきもしなかったな。
なるほど。
「へぇー、そういうの食べてみたかったな……」
シュウにとっては羨ましいことなのか。
それなら私が全力で叶えてやろう!
「シュウがしたいことならなんでも叶えてやるぞ」
私の言葉にトーマ王妃はもちろんアンドリュー王も大きく頷いていた。
ああ、これが家族というものか。
幸せなことだな。
「ありがとう! 嬉しい」
シュウは私に近寄ろうとしたのだろう。
岩から下りた途端、川の中にある小石で足を滑らせたようだ。
「シュウ、大丈夫か?」
急いで抱き起こすと、裾の長い夜着は濡れていたが中のバスタオルは無事なようだ。
しかし、一瞬はだけたバスタオルの中から太腿がチラリと見え私の目はそれを逃さなかった。
「うん、ちょっと滑っただけだから大丈夫。
バスタオル巻いてて良かったー!
ねっ、フレッド」
屈託のない笑顔で見上げられたら、さっき邪な想いを抱いた自分の汚れた心に少し罪悪感を感じてしまった。
「あ、ああ……そう、だな」
何とか返事を返してトーマ王妃の隣へ座らせた。
すると、突然シュウが夜着を脱ぎ出した。
シュウの白い腕が晒されていく。
それを気にすることなく、シュウは脱いだ夜着を後ろの草むらにさっと放り投げた。
「はぁー、気持ちいい。やっぱり水遊びできてよかった。ねっ、冬馬さん」
シュウの気持ちよさそうな笑顔に感化されたのか、トーマ王妃も夜着を脱ぎ、後ろへと放り投げた。
胸から膝までを覆い隠しているとはいえ、白く細く長い手足を無防備に晒け出し、2人が水を蹴り上げるたびにキラキラとした水飛沫の中にチラチラと太腿が見え隠れしている。
「フレデリック、其方……トーマのタオルの中を覗くと許さんぞ」
「陛下こそ、私のシュウを覗いたらいくら陛下と言えども許しませぬ」
お互いにそんな牽制をしつつも、2人がもっと足を蹴り上げればもっと深いところまで見られるのではという邪な思いが邪魔をしてそこから動くこともできない。
普段隠された部分がチラリと見える方が色気を感じるというが、それが愛しい人なら尚更だ。
「ふふっ。あははっ。わぁっ」
シュウとトーマ王妃の純粋で楽しそうな笑い声を聞きながら、私はシュウの色気溢れる美しい姿を見続けていた。
突然シュウとトーマ王妃が後ろを振り向いたかと思ったら、
「わぁーーっ!!」
という大声が響き、
パッシャーーン
2人は大きな音と共に川に落ちた。
あまりにも一瞬の出来事に私もアンドリュー王も反応すらできなかった。
気づいた時には2人は頭から雫を滴らせながら川の中で座り込んでいた。
「シュウ!」
「トーマ!」
私とアンドリュー王が声をかけるのと同時に、
「大丈夫でございますか?!」
と、少し離れたところで待機させていたヒューバートとブルーノもシュウたちの叫び声を聞いて駆け寄ってきた。
みんなでシュウとトーマ王妃の方を見やると、
トーマ王妃の胸元にふわふわの小さな物体が張り付いているのが見えた。
あれは……仔ウサギか?
それはシュウたちの胸元に顔を寄せ、匂いを嗅いでいるようだ。
「ふふっ。可愛い」
「ほんと、ちっちゃくてふわふわ」
2人はすっかり仔ウサギに夢中のようだが、あれは雄じゃないか?
シュウに撫でられて嬉しそうな顔をしてやがる。
私のシュウに顔を擦り寄せ匂いを嗅ぐなど、相手がウサギとはいえ、嫉妬しないわけがない。
「見てー! フレッド。このウサギちゃん、すごく可愛い♡」
「アンディーも見て! もふもふしてて可愛いよ♡」
そんな私の気持ちなど露知らず、2人で仔ウサギを愛でる様子に私もアンドリュー王もじわじわと嫉妬の炎が燃え広がっているが、シュウとトーマ王妃の楽しんでいる様子を壊したくないのも正直な気持ちだ。きっとアンドリュー王も同じ気持ちだろう。
さて、どうしたらいいか……。
シュウが何やら仔ウサギに話しかけている。
そんな姿も実に可愛らしい……が、仔ウサギが突然シュウの頬を舐め始めた。
おのれ、私のシュウの頬を舐めるなど!
私でさえ今日はまだシュウを味わっていないというのに!
「ふふっ。もうくすぐったいよ」
シュウもそんな艶めかしい声を出すな!
ヒューバートたちに聞かれるではないか。
仔ウサギを引き離してやろうか。
私の怒りが仔ウサギに通じたのか、仔ウサギはシュウから離れトーマ王妃の方へと移動し、今度はトーマ王妃の顔や首筋を舐め始めた。
「や……っ、もう、ダメだよ」
冷静に静観している様子だったアンドリュー王もさすがに我慢ならなかったようで、仔ウサギを引き離しにトーマ王妃の元へ近づいていった。
もうすぐ2人の元へ着くと言う時に、仔ウサギの前脚がトーマ王妃のバスタオルに引っかかって、止める余裕もないまま、バスタオルはあっという間にポチャンと川の中に落ちてしまった。
「わぁっ!!」
トーマ王妃が声を上げた瞬間、アンドリュー王が壁となりすぐにトーマ王妃の裸を隠したため、私やヒューバート、ブルーノの位置からは全く見えなかったのは幸いだろう。
もし、我々の目の触れるところとなっていたら……考えるのも恐ろしい事態になっていたはずだ。
「アンディー、ありがとう」
「トーマ、今日はもう帰るぞ」
「えっ? もう? まだ良いじゃない!」
「ダメだ! ブルーノ、ボケっとしてないでさっさと代わりのバスタオルを持ってこい!
ヒューバートもいつまでそこにいるつもりだ!!」
トーマ王妃はこの恐ろしい事態に気付いてないのかあっけらかんといつもの調子でアンドリュー王に話していたが、私には分かる。
あれは相当怒っているはずだ。
今は逆らわない方が身のためだな。
「シュウも着替えるぞ」
有無を言わさずテントへと連れ戻ると、シュウは恐る恐ると言った様子で、
「……フレッド、怒ってる?」
と尋ねてきた。
よほど怖い顔になってしまっているんだろう。
しかしシュウに怒っているわけではないんだ。
もし、さっき裸になってしまったのがシュウだったとしたら?
もし、助けに行くのが待ち合わなくてシュウの裸を皆に晒していたら?
多分私は理性が爆発してあの場にいたものを殺めていたかもしれないな。
それが大袈裟ではなく本当にやっていたと自分でも確信しているのだから恐ろしい。
アンドリュー王ならばそこまで爆発することはなかっただろうか……。
私は人間ができていない上に、ずっと虐げられていた人間だ。
だからこそ、アンドリュー王がトーマ王妃に執着するよりも遥かに重くシュウに執着している。
そんなシュウの裸が皆の目に晒されたのを心が受け付けないのだ。
もうそれは変えようのない事実だ。
シュウとトーマ王妃の特別な関係に水を差すつもりは全くない。
トーマ王妃の話を聞く限り、彼もまた家族に恵まれていなかったようだ。
そして、シュウは言わずもがな。
そんな2人が運命のいたずらなのか、神の思し召しなのか、異世界で時空までも超えてこのオランディアで出会ったのだ。
いつか離れ離れになる日のために2人には色々な思い出を記憶として残してあげたい。
私が思う以上にアンドリュー王はもっと思っていることだろう。
何せ、トーマ王妃はこの世界に来て3年もの間、異世界の人間に囲まれて辛い思いをしたこともあっただろう、故郷を懐かしく思ったこともあっただろう。
そこに実の息子が現れたのだから、想いも一入だろう。
大変な思いをさせたであろうトーマ王妃にシュウがいる間だけはできるだけ一緒にいさせてあげたいと思っているに違いない。
ただ、今回は肌を晒したり、挙げ句の果てに裸を晒すことになってしまったから、それだけはなんとかやめてもらいたい。
そう願っているだけなのだ。
シュウに必死で私の想いを伝えると、
「うん。ぼく……軽率だった。本当にごめんなさい」
と理解してくれた。
それだけで十分だ。
「わかってくれたならもう良いんだ。濡れたバスタオルのままだと風邪を引いてしまう。服に着替えよう」
「……フレッド、着替え持ってくるの忘れちゃった」
「ブルーノは……着替えまでは持ってきていないだろうな」
「どうしよう……ブルーノさんに新しいバスタオル貰ってこようか?」
バスタオルを巻いただけの格好で城へ戻る?
もし、途中で外れるようなことになったら……いや、そんなこと絶対にさせられない。
よし、私の服を着せておこう。
「シュウ、これを着るんだ。バスタオルだといつ外れるか分からん。これなら前をしっかり止められるだろう」
そう言って、上着を手渡した。
「うん。ありがとう、フレッド」
シュウは躊躇いもなくバスタオルを外して濡れた身体を拭き始めた。
目の前にシュウの一糸纏わぬ姿がある。
でも手を出すわけにはいかない。
昂りそうになる愚息を必死に押さえつける。
身体を拭き終え、私の上着を羽織り、
「どう?」
とこちらを向いたシュウは、もう我慢の限界を突破しそうなほどに可愛らしく、すぐにでも押し倒してしまいたい衝動に駆られた。
2人っきりでこのテントの中にいるのはまずい。
急いでシュウを抱き抱えてテントの外に出た。
トーマ王妃もアンドリュー王の上着を着ているのが見えたが、今は私は声をかけない方がいいだろう。
トーマ王妃のあの表情を見る限り、先ほどの騒動でテントの中で何かがあったことは一目瞭然だ。
まぁ、それは仕方がない。
それよりも早く城に帰してあげなければ、アンドリュー王の理性が持たないかもしれない。
今回の件で、トーマ王妃とシュウの行動が少し抑え目になることを祈りながら、城へと帰った。
昨日までシュウの看病という体であったけれど、シュウの世話の全てができることに私は喜びを感じていた。
今シュウはトーマ王妃と中庭で談笑中か……。
久しぶりの父子の対面でどんな話をしているのだろうな。
父子といっても実際は兄弟のような年齢差だから話も気も合うのだろう。
前にも言ったが、サンディーとアランが今どんな状況にいるのかは興味はあるが、私自身に加虐的な嗜好は一切ない。
奴等がどんな苦しみを味わっているかを確認した後はすぐにでもシュウの傍にいって癒されたいものだ。
そんなことを考えていると、執務室の扉が叩かれた。
「陛下、アルフレッドさま。お迎えの馬車が到着いたしました」
「よし。アルフレッド、行くぞ」
アンドリュー王に導かれ、王城の裏手に回された小さな馬車へと向かう。
この馬車には王家の紋章は付いておらず、外を走っていても中の様子はわからない作りになっている。
「ヒューバート、城の警備を頼むぞ」
我々がいない間のトーマ王妃とシュウの警備をヒューバートに頼み、その馬車にはさっと乗り込んだ。
中にはブランシェット侯爵の姿があった。
「陛下。アルフレッドさま。お待ち申し上げておりました。では、出発致しましょう」
侯爵が御者に声を掛け、馬車はゆっくりと王城を出た。
「陛下、アルフレッドさま。大変恐縮でございますが、こちらの上着にお召し替えくださいませ」
手渡された服は貴族仕様の服ではあるが、王家の紋章はない。
たしかにこの服で出入りをしては目立つからな。
侯爵に用意してもらった上着に着替えると、ちょうど目的の場所に着いたようだ。
「馬車を降りる際はこちらの黒いベールをおつけください。それから中では身元が洩れるのを避けるためお2人のお名前と敬語は使いませんのでご了承ください」
「ああ、わかった」
私たちは侯爵の指示通り頭から首まで覆い隠され目元だけが開いたベールを身につけた。
これで、私たちが王族だとはもちろん、どこの誰だかもわからないだろう。
黒いベールを纏い、馬車を降りるとそこは建物の裏手のようだった。
侯爵が一見ただの壁に見える場所を押すと、扉となって開き下へと続く階段が現れた。
「足元に気をつけてください」
コツコツと靴の音だけが響いていたが、階段を下りるにつれ、叫び声や嬌声が耳に入ってきた。
壁に沿うように檻が立ち並び、血の臭いや生臭い臭い、吐瀉物のような饐えた臭いなどが混ざり合っていて吐き気を催しそうになる。
このローブで覆っていなければ耐えられなかったな。
「お2人とも大丈夫ですか? 奥にいるのがサンディー。隣がアランです。サンディーの方は今は客はとってませんね。アランの方から見ていきますか?」
「ああ、頼む」
あの例の薬を使っているのか、アランの嬌声が大きく響いている。
拘束棒に手枷と足枷をつけられ、尻を高く突き上げながら、驚くほど太い棒を差し込まれている。
ぐっぽぐっぽと奥までぶち込まれた尻の穴からくるぶしまで達するほどに血がタラリと一筋流れているが、アランも相手の男も気にしていないようだ。
男が太棒を引き抜くと、尻の穴がぽっかりと開いているのが見えた。
男はそこに躊躇うことなく自分の肉棒を突き刺していく。
あの大きく広がった穴ではまだ解し足りなかったらしい男の肉棒にアランは
「あ゛ぁーーーっあがーーっ裂けるーっ!!」
と叫び声をあげながらも己のモノからは突き刺されるたびに精液がぷしゃぷしゃと漏れ出ている。
「あれは楽しんでるのか?」
「ああ、あの薬の効果が一度で20時間ほど続くことがわかりましたので、無理やりを好む客には使ってません。アランは薬が切れかかってますね。痛みと気持ちよさが半々ってところでしょうか」
「なるほど。で、もう一匹のほうは何してる?」
「サンディーの方を見てみましょうか」
奴の檻を見ると、端の方に身を寄せて縮こまっている。
「サンディーはアランと違って、鞭打ちや縛り付けたりして快楽を求める客を相手にしてるので、基本薬は使ってません。叫び声をあげないと意味がありませんから」
「ふうん、中に入れるか?」
私がそう侯爵に尋ねると、侯爵は嬉しそうに
「ああ、遊んでいきますか。どうぞ」
と扉の鍵を外してくれた。
「こいつは傷つけていいんだろう?」
「ええ。ご自由に」
私が部屋に入ると、奴は諦めたように部屋の端から中央へと近づいてきた。
「……どうぞ、お好きなように……」
ここ数日の間にどれだけやられたのかわからないが、素直にこうやってやってくるところを見るとよほど痛い目にあったようだな。
まぁ、シュウとトーマ王妃の受けた傷に比べればまだまだだがな。
「座って、両手を前に差し出せ」
奴は抵抗することもせずに、その場に正座して両手を床につけた。
ダンッ!!!
「ぎゃーーーーーっ!!!」
思い切り踏みつけた靴の下からバキッバキッという砕かれた音とグシャリと潰れた音が聞こえてくる。
「やめろーーー! 離せーーー!」
奴はバタバタと身体を身悶えさせ必死に抵抗し叫び声を上げ続ける。
足を離すとあちらこちらに折れ曲がった指を庇うように身体を丸めた。
そして、寝そべりながらこちらを睨みつけてきた。
ふん。まだそんな気力があるのか。
私はさっとローブを外し、顔を見せつけ、
「我が伴侶の美しい腕に痕をつけ、トーマ王妃の顔を殴ったお前の醜い手など必要ない。だから潰したまでだ」
そう言い捨て、檻を出た。
侯爵は驚いてはいたが、奴がトーマ王妃を殴りつけたことを知っているせいか何も言っては来なかった。
アンドリュー王もまた満足そうに笑っていた。
奴の手を潰せたから今日来る意味はあっただろう。
今度来る時はシュウの首筋に這わせた舌でも切ってやろうか。ふふっ。それもいいな。
私には加虐的嗜好はなかったはずだがなと思いながら、うっすらと笑みが溢れた。
来た時と同じ馬車に乗り込み、王城へと向かう。
中で上着を着替えると、先ほどまでの加虐的嗜好がどこかへ消え去って愛しいシュウのことばかり考えている。
あんなところに行ったから余計シュウに会いたくなってきた。トーマ王妃との憩いの時間を邪魔したくはないが、荒んだ私の心を癒してほしいのだ。
王城裏手に馬車が着き、下りようとするとアンドリュー王がそれを制し、
「ブルーノ! ブルーノ!」
と声を上げた。
しかし、ブルーノは現れず代わりに騎士団副団長のマルティネスがやってきた。
「恐れながら、陛下。ブルーノさまはただいま団長と騎士5名を警備につけ、トーマ王妃とシュウさまと王城南にある森へ出掛けております」
「なんだと? なぜそうなった?」
「はっ。こちらをブルーノさまよりお預かりしております」
そう言ってマルティネスは一枚の紙を差し出した。
それにさっと目を通すと、アンドリュー王は目を見開き私にその紙を見るようにと差し出した。
そこには、驚きの事実が書かれていた。
「我々もすぐにそこに向かう。マルティネス、アルフレッドの靴を急いで用意しろ!」
はっ? 靴?
と頭にハテナが浮かんでいる様子だったが、マルティネスは言われた通り、私の靴を持って戻ってきた。
「アルフレッド、靴を取り替えろ。あのまま其方の伴侶に会いに行くのは嫌だろう」
ああ、なるほど。さすがだな。
アンドリュー王の配慮に感謝しながら、すぐに靴を履き替えた。
「マルティネス、悪いがこれはすぐに処分しておいてくれ」
奴を踏みつけた靴などシュウの傍に置いておきたくないからな。
靴をマルティネスに渡し、アンドリュー王と2人急いで厩舎へと向かう。
すぐに馬に鞍をつけ、シュウたちが向かったという川に向かって走らせた。
急がないと!
若い騎士たちの前で肌を晒して水遊びなどとんでもない。
すると、上着の内側から少し光が漏れている。
これは確認しなくてもわかる。
あの黒金剛石がシュウの危険を知らせているんだ。
シュウ、川辺で何があったのか?
急げ! 急げ!
あっ、騎士たちの姿が見えた。
あの馬に乗っているのはトーマ王妃か?
私たちの駆け寄る音が聞こえたのか、トーマ王妃がこちらを振り向いた。
「フレデリックさん! 柊ちゃんが!!」
その言葉だけで全てを理解した。
トーマ王妃が指し示す方へ馬を急がせた。
「シュウ! シュウ!」
大声で叫びながら、森へ入ると猛スピードで走る馬の背に必死にしがみついているシュウの姿を捉えた。
幸いにもシュウの乗っている馬は私の馬より遥かに小さい。
これならシュウに追いつけるはずだ。
頼むぞ! 頑張ってくれ!
馬にそう願いながら、必死で走らせるとようやく手の届くところまで近づいた。
そこでようやく私の姿にシュウが気がついた。
「フレッド!!」
これならシュウを受け止められる!
「ほら、手を伸ばして!」
手をシュウに向けて差し出したが、猛スピードで走る馬の背で手を離すなど怖いに決まっている。
ましてやシュウは馬に乗れないのだ。
首にしがみついたまま怖がって手を離そうとしない。
「こわいよ……、こわい」
ここは説得するしかない。
「大丈夫! 絶対落としたりしないから私を信じろ!」
シュウは私の目をじっと見ると、ゆっくり体勢を起き上がらせ私の方に手を伸ばした。
よし! 絶対離すものか!
グイッと力を込めて引っ張ると、羽根のように軽いシュウはふわりと空を舞うように私の元へと飛んできて、すっぽりと私の腕の中に入った。
「ああっ、良かった。心配したぞ」
ああ、シュウの温もりだ。シュウの香りだ。
シュウが私の腕の中にいる。
ああ、本当によかった。
「怖かった……怖かったよ。ひくっ」
涙をぽろぽろこぼしながら、私を見つめる。
シュウを失うことにならなくて本当に良かった。
シュウを守ることができて本当に良かった。
「もう大丈夫だ。ほら、笑顔を見せてくれ」
大きな漆黒の瞳からこぼれ落ちる宝石のようにキラキラと輝く涙を親指でそっと拭い取ってやると、にシュウはやっと笑顔を見せてくれた。
シュウの笑顔に誘われるように、私をここまで連れてきてくれたこの馬(名前を聞く暇がなかったが……)も『ヒヒーン』と嬉しそうな嘶きを聞かせてくれた。
ありがとうな
そう思いながら、首筋をよしよしと撫でているとヒューバートが小さな馬を連れこちらへやってきた。
あの馬はシュウが乗っていた馬か……。
シュウは1人では乗れないはずだし、あれは横乗り用の鞍だ。
ヒューバートが手綱を引いて連れて行ってくれていたのか。
ヒューバートはシュウが私の腕の中にいるのをみて安堵の表情を浮かべた。
そして、さっと馬から下り草むらに顔を擦り付けながら、
「アルフレッドさま、シュウさまを危ない目に遭わせてしまい申し訳ございませんでした」
と謝罪の言葉を述べた。
確かにシュウを危ない目に合わせた。それは事実だ。
許し難いことではあるが、シュウは無事な姿で私の腕の中にいる。
ここで怒鳴りつけたとて何の意味もないな。
それでも理由は聞いておかねばな。
私は努めて冷静に
「なぜこんなことになったのだ?」
と尋ねた。
「ユージーンの前を仔ウサギが横切ってしまい、興奮して制御が利かなくなったようです」
ふむ。ユージーンはあの馬の名前か。
あれはまだ幼い馬だ。
仔ウサギに反応してしまうのも仕方のないことか。
「あ、あの……」
私の腕の中で蹲っていたシュウが突然口を開いた。
「んつ? どうした、シュウ?」
何か気になることでもあったのかと顔を覗き込んだが、シュウの視線はヒューバートを向いている。
「そのウサギさんはどうなったの?」
「はい。えっ? あの……驚いてすぐに逃げて行きました」
「ああ、そうなんだ。良かった……ウサギさんに怪我がなくて。ユージーンも大丈夫そうだし、ぼく……わたしもフレッドのおかげで怪我せずに済んだし。みんな元気で良かったね。ふふっ」
シュウからの思わぬ質問に私もヒューバートも度肝を抜かれてしまったが、あんなに涙を流すほど怖い思いをしながら、一番最初に尋ねることが自分に危険を与えるきっかけになったウサギの安否とは……。
しかも、すぐに逃げていったと聞いてあんな天使のようなら笑顔をみせるのだぞ?
怒りを見せていた己の浅はかさに思わず
『はぁーーーっ』と溜め息がでた。
シュウはヒューバートにもユージーンにも罰を与えることを望むどころか、怒りの欠片もみせていない。
そんなシュウの前でヒューバートとユージーンに罰など与えれば、私がシュウに嫌われてしまう。
「ああ、怪我が無くて本当に良かった」
シュウが無傷で私の腕の中にいることを喜んでいる……今回はそれで良しとしよう。
「フレッド、助けに来てくれてありがとう。
フレッドはやっぱりぼくの王子さまだね」
「ぐぅっっ、ああ! もう! シュウが可愛すぎると本当に困るな……。とりあえず、陛下たちの元へ戻ろう」
本当にシュウの無自覚な煽りはなんとかならないものか?
いや、アンドリュー王はトーマ王妃もそうだと言っていた。きっと2人には生まれ持ったものなのだろう。
はぁ……シュウが可愛すぎて心臓が壊れてしまいそうだ。
シュウを乗せたまま森の入り口へと戻ると、トーマ王妃が馬で駆け寄ってくる。
そうか、トーマ王妃は1人で乗れるのだな。
そんなところに感心しながら見ていると、
「柊ちゃん、怪我はない?」
と尋ねてきた。
“シュウちゃん”?
そういえば先ほどもシュウちゃんと言っていた気がする。
そうか、シュウが男だと知らない者たちがたくさんいるからか。
シュウの女装姿もすっかり見慣れてきて違和感がなくなっていたが、トーマ王妃からちゃんと呼ばれているのを見ると、なぜか不思議な気がしてしまうな……。
もちろん、“シュウちゃん”と呼ばれているシュウも可愛いのだが……。
「うん、大丈夫だよ」
「ああ、良かった~!!」
トーマ王妃の傍らにアンドリュー王がいた。
そういえば、シュウのことを考えるあまりアンドリュー王を置き去りに走ってきてしまった。
申し訳ないと視線を送ったが、アンドリュー王は何も気にもしていないようで問題ないと視線を返された。
「其方が無事で良かった。トーマがえらく心配していたのでな」
「だって、ユージーンがあんなに興奮してたから振り落とされちゃったんじゃないかって、そりゃあ心配するよ!」
「アンドリューさま。ありがとうございます。そういえば……フレッドもアンドリューさまもどうしてここに?」
え……っ?
あの時ブルーノから受け取った手紙には
「トーマさまがシュウさまと泳ぎたいと申され、最初は反対したのですがまたお2人で城下へお出になるようなことがあってはならないと賛成いたしました。
警護のために騎士団団長のヒューバート様をはじめ、5名の若い騎士に同行をお願いしておりますが、
お2人はバスタオルを巻いただけで泳ぐおつもりのようです。
このままですと、お2人の肌が騎士たちの眼前に晒されてしまいます。
ヒューバートさまと出来るだけ時間を伸ばすつもりではございますがこの手紙を読まれましたらどうぞお急ぎ王城南の川へとお越しください」
と書かれていた。
シュウとトーマ王妃の肌が私たち以外のものの目に晒されるなどとんでもない。
慌てふためきながらここへやってきたのだが、シュウにそれを知られるのは少し恥ずかしい……。
さて、どうしたものか。
何と話すべきだろうか……アンドリュー王と視線を合わせそう悩んでいると、トーマ王妃が笑いながら口を開いた。
「アンディーも彼も僕たちが心配で急いで迎えに来たんだって」
「えっ? 心配って?」
純粋な瞳で『どういうこと?』と尋ねられたら答えるしかない。
「シュウとトーマ王妃が……その、水遊びをすると聞いたものだから心配で来たのだ」
観念してそう答えると、シュウは呆気に取られた表情で笑って答えた。
「ふふっ。フレッドったら。ぼく溺れたりしないよ」
お、溺れるって……
「いや、そういうことを心配したわけでは……」
「んっ?」
肌を見られたくなかったのだが……この無垢なシュウは私のやきもきした思いなど知るよしもないのだろうな……。
トーマ王妃が話題を変えるように、せっかくだからみんなで川で遊ぼうと言い出した。
シュウと川で遊べるのは嬉しいが、肌を晒すのは許し難い。
アンドリュー王もすぐには賛成できないような口ぶりだが、
『良いよね?』と詰め寄られて、しぶしぶではあるが許したようだ。
ならば、私も許す他ないだろう。
本当はやめさせたいが……。
アンドリュー王がヒューバートに若い騎士たちを帰らせるように命じると、トーマ王妃はせっかくここまで来たのに可哀想だと不満そうに言っていたが、
いや、せめてそれくらいはさせてくれ!
シュウの肌を見る可能性のあるやつは1人でも少ない方がいい。
すると、不満を口にするトーマ王妃の耳元でアンドリュー王が囁くのが私の耳に聞こえた。
『トーマの大事な息子の姿が若い騎士たちの慰みになっても良いのか? あやつらは美しいものは一生忘れんぞ』
アンドリュー王は恐らくトーマ王妃の肌を見せたくないという思いの方が強かったとは思うが、それを言うよりもシュウを愛する父の気持ちを利用したのだろう。
こういえばトーマ王妃のことだ、若い騎士たちを帰らせることを納得するに決まっている。
トーマ王妃の気持ちをよくわかっている、さすがだ。
とはいえ、私のシュウの肌が若い騎士たちの夜の慰みになるなんて考えたくもない。
騎士たちには悪いが早々に帰ってもらおう。
トーマ王妃も騎士たちを帰らせることに納得し、ヒューバートが指示をすると、トーマ王妃やシュウの姿をチラチラとみながら、未練がましく帰っていった。
やはりあいつらそんな気持ちがあったんじゃ?
と疑いたくなるほどにシュウとトーマ王妃の姿に魅せられているようだった。
その表情がシュウにも見えていたのか、
「暑かったから、騎士さんたちも水遊びしたかったのかな? 一緒に行けたら良かったね」
と呑気に話すシュウを見て、これは私がしっかり守らないといけないなとつい大きな溜め息が出てしまった。
私たちとアンドリュー王、トーマ王妃、そしてブルーノとヒューバートと共に目的の川へと向かった。
川に着き、シュウを馬から下ろしてやると、
「わぁっ、冷たそう!」
と嬉しそうに川に近づいていった。
すぐさまトーマ王妃から
『滑らないように気をつけて!』と注意が飛んできたのは、やはり父なのだなと感じてしまい、少し笑みが溢れた。
それにしてもこの小川は私たちの時代と何一つ変わっていないな。
幼いころは顔のことで嫌なことを言われたりして我慢できなくなるとよくこの小川にきては自分の顔を水面に映し、みんなに好かれるようにしてくれと神に願ったものだ。
毎回毎回同じ願いをしたが、叶うことはなかった。
だが、今こうやって水面に映る自分の姿はあの時とは違う。
あの生きることを諦めたような表情をした子はもう映っていない。
愛しい人と自分をちゃんと見てくれる人に見守られて、今の私は生きることが楽しくてたまらない表情をしている。
そう、あの時の私の願いは叶ったんだ。
神よ、ありがとうございます。
ブルーノがシュウたちに着替えるようにと話しかけると、すぐさまヒューバートが着替え用のテントを組み立てた。
ああ、これは軍事演習用のテントか。
ならば、外から透けて見えることはないだろうがこよ時代のはどうだろうか?
そっとテントを触ってみたが、生地の感触は私たちの時代と大差ないように感じられた。
よし、これなら大丈夫だろう。
ブルーノから着替えを受け取り、さっそくテントへ入るシュウにくっつくように一緒にテントへと入ると、
「フレッドも一緒に水遊びするの?」
と問いかけてきた。
シュウがとんな格好をするのか確認しておきたいだけだが、
「ああ。だが、着替えはシュウだけだ。
さぁ、着替えを手伝おう」
下心満載でそういうと、
「ふふっ。ありがとう」
シュウはなんの躊躇いもなく、ワンピースの肩紐を外し、ストンと服を脱いで見せた。
――――っ!!
「んっ? どうかした?」
私が声も出せないほどにシュウに見惚れてしまっていたことに気づかれたらしい。
「いや……。テントの中で見るシュウの肌は白さが映えて美しいなと思ってな。こんなに白いと紅い花を散らしたくなるな」
光も通さないテントの中で色の白さがこんなにも際立つなんて、シュウくらいだろうな。
シュウの白い肌に赤い花を散らせるのは私だけだ。
改めてそんな優越感に浸っていると、
「もう! フレッド……って、あれ? フレッドの指、血が出てる!」
慌てたように私の指を指し示している。
「指? ああ、さっきシュウを馬上で抱き止めるときにでも掠ったんだろう。こんなのすぐ治るから大丈夫……し、シュウ!!」
右の人差し指の先からほんの少し血が流れている。気にしないでもすぐに止まるだろう……そう思っていたら、シュウが急にその指を持ち、あっと気づいた時にはシュウの温かな口の中へ導かれていた。
シュウの舌が私の指をペロペロと舐めたり吸い付いたりその姿があまりにも淫らで目が離せない。
ちゅぽんと音を立てて口から指を抜くとさっきまでの淫らな姿が嘘のように
「?? フレッド、大丈夫? ごめんね、痛くない?」
と小首を傾げ見つめてくる。
はぁ……、こんな可愛いことをされては我慢も限界に来てしまうぞ。
「シュウ……お前はどこまで私を煽るんだ。
ああ、もう可愛すぎておかしくなりそうだ」
口付けくらいは許して欲しい……さっき私の指を舐めてキラキラと光る唇に私のそれを重ね合わせようとした瞬間、
「柊ちゃん、用意できたー?」
テントの外からトーマ王妃の声が聞こえた。
「ええっ! あっ、はい。もうすぐ! もうすぐです!」
「ふふっ。じゃあ外で待ってるねー」
「は、はい」
シュウが慌てふためきながらトーマ王妃に返事を返しているが、恐らく気がついているのだろうな。
シュウに口付けていたら、我慢できずにこの場で押し倒していたかもしれん。
この前シュウに無理をさせて熱を出させたばかりだというのに、ここで無理をさせてはまたトーマ王妃の雷が落ちるところだった。
危ない、危ない。
「ウォッホン! シュウ、着替えを手伝おう」
気持ちを引き締めようと咳払いをしたのだが、それがシュウには面白かったらしい。
シュウの笑いにつられて思わず私も笑ってしまっていた。
出来るだけシュウの裸を見ないようにバスタオルで隠しながらシュウの身体に巻きつけた。
胸の尖りを見せるわけにはいかないからな……。
ブルーノが普段よりも一回り大きなバスタオルを用意してくれていて助かった。
シュウの胸から膝が隠れるほどにすっぽりと覆い隠している。
まあ、欲を言えば足は全て隠して欲しいものだが……バスタオルがそこまで長いと歩くのも大変だろうし、水遊びが目的なのだから仕方ない。
と思っていると、シュウがもう一枚服を見つけ出した。
「あれ? タオルだけじゃないんだ。これを上から着ろってことかな?」
シュウが広げているのを見て私にはすぐわかった。
これは私の夜着だ。
シュウは何も気にせずに羽織っているところを見ると、恐らく自分のものだと思っているのだろう。
まだ後ろ姿しか見えていないが、シュウが私のものを着ていると、私にすっぽりと覆われているようで、うん、悪くないな……これは。
「これ、フレッドのじゃない? ブルーノさん、間違えちゃったのかな?」
シュウが振り返った瞬間、可愛さが倍増した。
『ぐぅっっ、か……可愛すぎる。こんな姿で外に出していいのか?』
これは心配になるほど可愛すぎる。
ああ、どれだけ私を煽るつもりだろう……。
だが、着ないで腕や足をさらけだすよりはこっちが良いか……良いんだよな?
「も、森には虫もいるから大きいくらいがちょうどいいよ。刺されたりしたら大変だろう?」
迷いながらもシュウには理由をつけて何とか着させておこうと決めた。
「そうだね。じゃあ行こう!」
シュウはウキウキと足が地につかない様子で外に出ていった。
シュウに続いて私もテントから出ると、全く同じ格好をしたトーマ王妃と早速川の方に向かって歩いている。
ここの石は滑ることがあるから危ないな。
シュウを支えようと近づくとアンドリュー王もトーマ王妃に近づいていた。
やはり考えることは同じか。
さっとシュウの傍に駆け寄り、腕を優しく掴んだ。
「滑ると危ないから、一緒に入ろう」
「ふふっ。ありがとう」
シュウの指先が川の水にそっと触れると、身体をピクリと震わせた。
「わぁっ、気持ちいい」
その声に誘われるように私も一緒に足を突っ込んだ。
「おおっ、冷たいな」
小石の上を裸足で歩く感触はひさしぶりだ。
子どもの時に戻ったようだな。
「ほら、ここに座るといい」
私がいつも座って眺めていた大きな岩にシュウを座らせた。
シュウはそこから両足を垂らすと、足をバタバタと動かし、水飛沫を跳ねさせた。
満面の笑みで
「冬馬さんもここに座ってー!」
と呼びかけた。
トーマ王妃はシュウからの誘いにすぐさま反応し、アンドリュー王に岩の上に座らせてもらっていた。
2人が座っている岩はそこまで大きなものではないが小さくて華奢な2人ならぴったり収まっている。
2人が足で水をバシャバシャと戯れる様子はまるで双子の絵画のように麗しく、私とアンドリュー王は声もなくただ2人を見続けていた。
「水遊びって初めてー! 気持ちいいね」
シュウがそう話すとトーマ王妃は幼い頃の思い出を話したようだ。
食べ物を川の水で冷やす……そんな発想考えつきもしなかったな。
なるほど。
「へぇー、そういうの食べてみたかったな……」
シュウにとっては羨ましいことなのか。
それなら私が全力で叶えてやろう!
「シュウがしたいことならなんでも叶えてやるぞ」
私の言葉にトーマ王妃はもちろんアンドリュー王も大きく頷いていた。
ああ、これが家族というものか。
幸せなことだな。
「ありがとう! 嬉しい」
シュウは私に近寄ろうとしたのだろう。
岩から下りた途端、川の中にある小石で足を滑らせたようだ。
「シュウ、大丈夫か?」
急いで抱き起こすと、裾の長い夜着は濡れていたが中のバスタオルは無事なようだ。
しかし、一瞬はだけたバスタオルの中から太腿がチラリと見え私の目はそれを逃さなかった。
「うん、ちょっと滑っただけだから大丈夫。
バスタオル巻いてて良かったー!
ねっ、フレッド」
屈託のない笑顔で見上げられたら、さっき邪な想いを抱いた自分の汚れた心に少し罪悪感を感じてしまった。
「あ、ああ……そう、だな」
何とか返事を返してトーマ王妃の隣へ座らせた。
すると、突然シュウが夜着を脱ぎ出した。
シュウの白い腕が晒されていく。
それを気にすることなく、シュウは脱いだ夜着を後ろの草むらにさっと放り投げた。
「はぁー、気持ちいい。やっぱり水遊びできてよかった。ねっ、冬馬さん」
シュウの気持ちよさそうな笑顔に感化されたのか、トーマ王妃も夜着を脱ぎ、後ろへと放り投げた。
胸から膝までを覆い隠しているとはいえ、白く細く長い手足を無防備に晒け出し、2人が水を蹴り上げるたびにキラキラとした水飛沫の中にチラチラと太腿が見え隠れしている。
「フレデリック、其方……トーマのタオルの中を覗くと許さんぞ」
「陛下こそ、私のシュウを覗いたらいくら陛下と言えども許しませぬ」
お互いにそんな牽制をしつつも、2人がもっと足を蹴り上げればもっと深いところまで見られるのではという邪な思いが邪魔をしてそこから動くこともできない。
普段隠された部分がチラリと見える方が色気を感じるというが、それが愛しい人なら尚更だ。
「ふふっ。あははっ。わぁっ」
シュウとトーマ王妃の純粋で楽しそうな笑い声を聞きながら、私はシュウの色気溢れる美しい姿を見続けていた。
突然シュウとトーマ王妃が後ろを振り向いたかと思ったら、
「わぁーーっ!!」
という大声が響き、
パッシャーーン
2人は大きな音と共に川に落ちた。
あまりにも一瞬の出来事に私もアンドリュー王も反応すらできなかった。
気づいた時には2人は頭から雫を滴らせながら川の中で座り込んでいた。
「シュウ!」
「トーマ!」
私とアンドリュー王が声をかけるのと同時に、
「大丈夫でございますか?!」
と、少し離れたところで待機させていたヒューバートとブルーノもシュウたちの叫び声を聞いて駆け寄ってきた。
みんなでシュウとトーマ王妃の方を見やると、
トーマ王妃の胸元にふわふわの小さな物体が張り付いているのが見えた。
あれは……仔ウサギか?
それはシュウたちの胸元に顔を寄せ、匂いを嗅いでいるようだ。
「ふふっ。可愛い」
「ほんと、ちっちゃくてふわふわ」
2人はすっかり仔ウサギに夢中のようだが、あれは雄じゃないか?
シュウに撫でられて嬉しそうな顔をしてやがる。
私のシュウに顔を擦り寄せ匂いを嗅ぐなど、相手がウサギとはいえ、嫉妬しないわけがない。
「見てー! フレッド。このウサギちゃん、すごく可愛い♡」
「アンディーも見て! もふもふしてて可愛いよ♡」
そんな私の気持ちなど露知らず、2人で仔ウサギを愛でる様子に私もアンドリュー王もじわじわと嫉妬の炎が燃え広がっているが、シュウとトーマ王妃の楽しんでいる様子を壊したくないのも正直な気持ちだ。きっとアンドリュー王も同じ気持ちだろう。
さて、どうしたらいいか……。
シュウが何やら仔ウサギに話しかけている。
そんな姿も実に可愛らしい……が、仔ウサギが突然シュウの頬を舐め始めた。
おのれ、私のシュウの頬を舐めるなど!
私でさえ今日はまだシュウを味わっていないというのに!
「ふふっ。もうくすぐったいよ」
シュウもそんな艶めかしい声を出すな!
ヒューバートたちに聞かれるではないか。
仔ウサギを引き離してやろうか。
私の怒りが仔ウサギに通じたのか、仔ウサギはシュウから離れトーマ王妃の方へと移動し、今度はトーマ王妃の顔や首筋を舐め始めた。
「や……っ、もう、ダメだよ」
冷静に静観している様子だったアンドリュー王もさすがに我慢ならなかったようで、仔ウサギを引き離しにトーマ王妃の元へ近づいていった。
もうすぐ2人の元へ着くと言う時に、仔ウサギの前脚がトーマ王妃のバスタオルに引っかかって、止める余裕もないまま、バスタオルはあっという間にポチャンと川の中に落ちてしまった。
「わぁっ!!」
トーマ王妃が声を上げた瞬間、アンドリュー王が壁となりすぐにトーマ王妃の裸を隠したため、私やヒューバート、ブルーノの位置からは全く見えなかったのは幸いだろう。
もし、我々の目の触れるところとなっていたら……考えるのも恐ろしい事態になっていたはずだ。
「アンディー、ありがとう」
「トーマ、今日はもう帰るぞ」
「えっ? もう? まだ良いじゃない!」
「ダメだ! ブルーノ、ボケっとしてないでさっさと代わりのバスタオルを持ってこい!
ヒューバートもいつまでそこにいるつもりだ!!」
トーマ王妃はこの恐ろしい事態に気付いてないのかあっけらかんといつもの調子でアンドリュー王に話していたが、私には分かる。
あれは相当怒っているはずだ。
今は逆らわない方が身のためだな。
「シュウも着替えるぞ」
有無を言わさずテントへと連れ戻ると、シュウは恐る恐ると言った様子で、
「……フレッド、怒ってる?」
と尋ねてきた。
よほど怖い顔になってしまっているんだろう。
しかしシュウに怒っているわけではないんだ。
もし、さっき裸になってしまったのがシュウだったとしたら?
もし、助けに行くのが待ち合わなくてシュウの裸を皆に晒していたら?
多分私は理性が爆発してあの場にいたものを殺めていたかもしれないな。
それが大袈裟ではなく本当にやっていたと自分でも確信しているのだから恐ろしい。
アンドリュー王ならばそこまで爆発することはなかっただろうか……。
私は人間ができていない上に、ずっと虐げられていた人間だ。
だからこそ、アンドリュー王がトーマ王妃に執着するよりも遥かに重くシュウに執着している。
そんなシュウの裸が皆の目に晒されたのを心が受け付けないのだ。
もうそれは変えようのない事実だ。
シュウとトーマ王妃の特別な関係に水を差すつもりは全くない。
トーマ王妃の話を聞く限り、彼もまた家族に恵まれていなかったようだ。
そして、シュウは言わずもがな。
そんな2人が運命のいたずらなのか、神の思し召しなのか、異世界で時空までも超えてこのオランディアで出会ったのだ。
いつか離れ離れになる日のために2人には色々な思い出を記憶として残してあげたい。
私が思う以上にアンドリュー王はもっと思っていることだろう。
何せ、トーマ王妃はこの世界に来て3年もの間、異世界の人間に囲まれて辛い思いをしたこともあっただろう、故郷を懐かしく思ったこともあっただろう。
そこに実の息子が現れたのだから、想いも一入だろう。
大変な思いをさせたであろうトーマ王妃にシュウがいる間だけはできるだけ一緒にいさせてあげたいと思っているに違いない。
ただ、今回は肌を晒したり、挙げ句の果てに裸を晒すことになってしまったから、それだけはなんとかやめてもらいたい。
そう願っているだけなのだ。
シュウに必死で私の想いを伝えると、
「うん。ぼく……軽率だった。本当にごめんなさい」
と理解してくれた。
それだけで十分だ。
「わかってくれたならもう良いんだ。濡れたバスタオルのままだと風邪を引いてしまう。服に着替えよう」
「……フレッド、着替え持ってくるの忘れちゃった」
「ブルーノは……着替えまでは持ってきていないだろうな」
「どうしよう……ブルーノさんに新しいバスタオル貰ってこようか?」
バスタオルを巻いただけの格好で城へ戻る?
もし、途中で外れるようなことになったら……いや、そんなこと絶対にさせられない。
よし、私の服を着せておこう。
「シュウ、これを着るんだ。バスタオルだといつ外れるか分からん。これなら前をしっかり止められるだろう」
そう言って、上着を手渡した。
「うん。ありがとう、フレッド」
シュウは躊躇いもなくバスタオルを外して濡れた身体を拭き始めた。
目の前にシュウの一糸纏わぬ姿がある。
でも手を出すわけにはいかない。
昂りそうになる愚息を必死に押さえつける。
身体を拭き終え、私の上着を羽織り、
「どう?」
とこちらを向いたシュウは、もう我慢の限界を突破しそうなほどに可愛らしく、すぐにでも押し倒してしまいたい衝動に駆られた。
2人っきりでこのテントの中にいるのはまずい。
急いでシュウを抱き抱えてテントの外に出た。
トーマ王妃もアンドリュー王の上着を着ているのが見えたが、今は私は声をかけない方がいいだろう。
トーマ王妃のあの表情を見る限り、先ほどの騒動でテントの中で何かがあったことは一目瞭然だ。
まぁ、それは仕方がない。
それよりも早く城に帰してあげなければ、アンドリュー王の理性が持たないかもしれない。
今回の件で、トーマ王妃とシュウの行動が少し抑え目になることを祈りながら、城へと帰った。
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