ひとりぼっちのぼくが異世界で公爵さまに溺愛されています

波木真帆

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第四章 (王城 過去編)

フレッド   20−1

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シュウとトーマ王妃は一緒に視察旅行に行けるとあって大喜びだ。
まぁ、無理もない。
シュウは王都への旅行が人生初だと言っていた。
家族旅行など経験したことがないのだから、たとえ視察旅行という名目であったとしても実の父親とともにひと月近くも旅に出られるとなれば、喜ばないわけがなかった。

「それでなんだが、もうひとつ報告がある――」

そう切り出したアンドリュー王の言葉が、私とトーマ王妃の争いの火種となった。


実はレナゼリシア侯爵からの私とシュウへの夜会への招待が届いたのだ。
いや、それについては喜ばしいことだ。
シュウを伴侶として皆に知らしめ、私の傍にずっと置いて置けるのだから。

そもそも私は、ここでは王家の遠戚ということになっているし、同行すると先触れを出せばレナゼリシア侯爵が我々を夜会に招待しないわけがなかったのだ。
しかし、ここ最近いろいろなことがありすぎて夜会に出席することになろうことをすっかり失念してしまっていた。


シュウのドレスだ。

ドレスと言っても今、シュウが持っているようなドレスではない。
夜会用の格式あるドレスだ。
しかも、夜会に出席する者たち全てに、シュウが私の伴侶だと知らしめるようなドレスでなければいけない。

ああ、こんな大事なことを忘れていたなんて!
なんという失態だろうか。

私の夜会用の正装は、突然の事態を考えてアンドリュー王がずいぶん前に作ってくださった。
その時にシュウのものも一緒に作っておけば良かったのだと後悔しても遅い。
まさか侯爵家の夜会に呼ばれるとは思ってもいなかったからなどという言い訳も今更だ。

とにかく、今すぐにシュウのドレスを手配しなければならない。

とはいえ、シュウはドレスの大事さに気づいていないのか、アンドリュー王が必死にすぐに手配しないと間に合わないと言ってくれているというのに、持っているドレスでいいと呑気な様子だ。

シュウが私が作ってやった服を大切にしてくれるのは嬉しい。しかしながら、あれは普段着なのだ。
あれで夜会に出るわけにはいかない。

持っているドレスでいい、わざわざ作ってもらうのは申し訳ないと言い張るシュウを説得するのに、トーマ王妃が一役買ってくれたまでは良かったのだが……問題はここからだった。

翌日早々に仕立て屋ジョシュアを呼び、私の思いが詰まったドレスを伝えると彼はそのデザイン画を描き始めた。

私の注文はシュウの柔らかい白肌を無闇に他人に見せるわけにはいかないから肘辺りまで袖をつけること。
そして、胸元やスカートにフリルをたくさん付けとびきり美しく見せること。
そうでもしなければ、シュウの美しさにドレスが負けてしまうからだ。

ジョシュアの描いたデザイン画を見て、
『うん、これはいい』と言っていると、

「えー、柊くんにはもっと可愛らしいドレスが似合うと思うな」

朝からシュウの元に遊びに来ていたトーマ王妃が突然、私の注文に口を出して来たのだ。

「可愛らしいとは?」

「うーん、だから――」

トーマ王妃もジョシュアにデザイン画を描かせ始めた。

袖ありではせっかくの綺麗な腕が隠れて勿体無い。
ドレスに花やリボンをあしらい、華やかで可愛らしい雰囲気にすること。

出来上がったデザイン画を見て、
『うん、絶対こっちの方が似合う!』と推してくる。

いくらトーマ王妃といえども、私のシュウの夜会用のドレスなのだ。
確かに可愛いとは思うが、トーマ王妃の希望通りのドレスなど作るわけにはいかない。

シュウにとって初めての夜会で着るドレスをトーマ王妃の好きにはさせられない。
制作時間がない中でこんな争いなどするのは、ジョシュアには申し訳ない気もするが、トーマ王妃が引かない以上私も引くわけには行かない。
これは伴侶としての意地なのだ。

すると、トーマ王妃が突然シュウに
『どっちが良い?』と聞き出した。

おそらく自分を選んでくれると見越してのことだと思うが、そうはいかない。

『シュウはこっちが良いだろう?』とデザイン画を見せればすぐにうんと言ってくれると思ったのだが、
トーマ王妃からも『こっちが似合うよ』ともう一枚のデザイン画を見せられ、困惑している様子だ。

悩むことなどない、そこは私のを選ぶべきだろうと思ったが、意見を押し付けるのはしたくない。

すると、シュウはしばらく悩んでいたが、突然ジョシュアに紙とペンを頼み、その紙にさらさらと絵を描き始めた。

シュウの希望のドレスを作るのか?

うーん、まぁトーマ王妃好みのドレスを作るよりはまだマシだが、私のドレスを着て欲しかったという思いは拭えない。

そうこうしているうちにシュウの絵が描きあがったようだ。

これが良いと差し出されたデザイン画は、私の希望もトーマ王妃の希望も兼ね備えながら、さらにもっと美しいドレスだった。

こんなドレス、今までに見たことがない。
鳥肌が立ちそうな感覚を抱いていると、トーマ王妃もそのデザインに感動したのだろう。
拍手喝采しながら、とびきりの笑顔を見せていた。

私もこれに異論などあるはずもなく、すぐにジョシュアにこのデザイン画の通りドレスを作るようにと指示をすると、ジョシュアはそのデザイン画を大切そうにデザイン画集に挟んで持ち帰っていった。

「シュウくん、絵の勉強してたの?」

「ううん、絵を描くのが好きなだけだよ」

「そうなんだ、本当に上手でびっくりしちゃった」

確かにシュウの絵は上手だ。
だが、技術だけではない。
見るものを惹きつけるのだ。

やはり、お二人の肖像画はシュウが描くべきだろう。
実際問題、肖像画を描き始めるのはこの視察旅行から帰った後だ。
真実を話すのはシュウがいいのか、アンドリュー王がいいのか悩むところではあるがいつまでも隠し続けるわけにはいかない。
この旅行の間に決断してきちんと話さなければいけないな。


それから2日後、シュウのドレスが完成したと知らせが来た。
すぐにでもあのドレスが見たい!
そう思った私はジョシュアにすぐに登城するよう申しつけた。

大きな荷物を手にやってきたジョシュアは目の下に大きな隈を作っていて疲れ果てた様子だったが、顔は達成感に満ち溢れていた。

月光の間私たちの部屋】にジョシュアを呼ぶことにしたが、アンドリュー王とトーマ王妃にもシュウのドレス姿を早く見せてあげたいと思って彼らにも部屋に来てもらうことにした。

「お待たせしておりましたシュウさまのドレス、お持ちいたしました。ご確認下さいませ」

ジョシュアは美しい桐の箱をテーブルの上に置き、シュウは嬉しそうな顔ですぐに箱を開けようとした。
すると、トーマ王妃から実際に着て見せてと言われ、私もそれもそうかとすぐに箱を寝室へと運んだ。

私は着替えを手伝おうと思ったが、わざわざ部屋に来ていただいているアンドリュー王とトーマ王妃をほったらかしにして2人で寝室に籠るわけにはいかないと思い、泣く泣く諦めシュウを1人寝室に残し部屋を出た。

「ジョシュア、急がせて悪かった。仕立て料は弾むからな」

「そのことでございますが、仕立て料は頂かなくても結構でございます。
その代わりと言ってはなんですが、もしよろしければあのデザイン画をお譲りいただくことはできませんか?」

「何? シュウが描いたデザイン画か?」

「はい。シュウ様がお描きになったあのデザインはあまりにも秀逸で、あのドレスをこの手で仕立てられたことは私の仕立て人生最大の幸福でございました。あの素晴らしいデザイン画を家宝として私の弟子たちへ、そして後世に伝えたいのでございます。どうかお許しいただけないでしょうか?」

ジョシュアがそれほどまでに乞い願う姿に私も興味を惹かれた。
アンドリュー王もまた同じように思ったようだ。

「フレデリック、実際にその完成したドレスを見せてもらってから返事をしても良いのではないか?
なぁ、ジョシュア」

「はい。それで差し支えございません」

自信に満ちたジョシュアの様子にシュウが着替えて出てくるのが楽しみでたまらなくなった。


「おまたせー」

軽やかなシュウの声とともに寝室の扉が開かれた。

――――っ!!

一瞬息が止まった。

まるで女神が降臨したような、誰もが見惚れるほどの神々しさを放っていて言葉が出なかったのだ。
それは私だけではなかった。
この部屋にいるもの全てがシュウの美しさに酔いしれてしまっていた。

戸惑ったシュウの声にようやく我に返った私は急いでシュウの元へと駆け寄った。
隣にはトーマ王妃もいる。

私の方が先にシュウに声をかけるのだと急いでシュウの美しさを絶賛すると、
トーマ王妃もまた、皆に見せるのがもったいないほどの美しさだと褒め称えていた。

シュウは私とトーマ王妃の希望を重ね合わせてデザインを描いただけだと謙遜していたが、
そんな簡単なものでないことはこの完成したドレスを見ればよくわかる。

シュウは自分に似合うものをよく理解しているようだ。
これはシュウ以外が着てもここまで着こなすことができないだろう。

「汚したら大変だから着替えてくるね」

シュウは私たちの反応にすっかり自信を持ったようで意気揚々と寝室に戻っていった。

パタンと扉が閉まるのを待って、ジョシュアに声をかけた。

「ジョシュア、確かにあれは後世に残しておくべきものだな。シュウのデザイン画をお前に託そう」

「よろしいのですか?」

「ああ、その代わり条件がある」

私の言葉にジョシュアはピシリと固まってゴクリと唾を飲み込みながら続く言葉を待っていた。

「シュウのドレスの仕立て代は受け取ってもらおう。あれほどまでに素晴らしいドレスをこんな短時間で作ってくれたお前への敬意を払いたいのだ。受け取ってもらえないなら、あのデザイン画を渡すわけにはいかん」

「はっ。ありがとうございます。喜んで頂戴いたします」

ジョシュアは涙を流しながら喜んで、私の気持ちを込めたかなり多めの仕立て代とデザイン画を受け取って帰っていった。


視察旅行当日、出かけるギリギリまでブルーノを始め侍従、侍女たちが準備に追われていた。
それはそうだろう、なんせ王と王妃がひと月近くも城から離れるのだ。
今回の旅で使用する馬車は荷馬車も含め4台。
そのうち、アンドリュー王とトーマ王妃、私とシュウでそれぞれ1台。
随行する侍従、侍女とシュウとトーマ王妃の荷物のための1台。
そして、そのほかの荷物一式を乗せる荷馬車1台。
入りきらない荷物の選別に時間がかかっていたようだが、ようやく準備も整ったようだ。

バーナードはこの数日の間に侍従たちの乗る馬車も含めてあの振動の少ない座席に付け替えておいてくれたようだ。
この改良のおかげできっとこの旅は楽しいものになるだろう。

「私たちがいない間、この城を頼むぞ」

城の者たちに懇々と説明をした後で、アンドリュー王が宰相カーティスにそう頼んで乗り込んだ馬車は、ヒューバートたちを先導にゆっくりと城を出発した。

馬車は4台並んでゆっくりとした速度で城下を通っていく。

私たちの前を走る馬車に、アンドリュー王とトーマ王妃が乗っていることに気づいた民たちが群がってきた。
しかし、お二人は彼らを忙しいからと突き放すこともせず、逆にわざと馬車をゆっくりと走らせ声をかけてきた民たち皆に笑顔を向け手を振っている。
妥協しないこのような対応が民たちに慕われる由縁かと、実際に目の当たりにしてわかった気がした。

このお二人の対応をみると、父上や兄上は民たちに対してここまで愛情を持っていないと思わずにいられない。
後世まで語り継がれる偉大なる王と王妃になるのは一朝一夕にはできないものだと改めて感じさせられた。

「アンドリューさまとお父さんが城下にいるのを初めて見たけど、すごい人気だね」

シュウも私と同じようにお二人の凄さに感じたのだろう。
大戦後疲弊した国民達に寄りそってきたお二人無くしては、オランディアの今の平穏は有り得ないだろうなというと、シュウは少し考え込んだ様子で私の目を見つめた。

「元の時代に戻ったら……フレッドの伴侶として、その、サヴァンスタックの人たちに寄り添って、ああやってお父さん達みたいに信頼してもらえる存在に……なれるかな?」

シュウはいつまでもここで過ごすことを望んでいると思っていただけに、元の時代のサヴァンスタックの領民達のことを考えてくれていたことに驚いてしまった。
シュウは本当に私と添い遂げるつもりでいるのだ。
私の伴侶として、サヴァンスタック領に住むもの全ての領母として生きようとしてくれているのだ。

そうか、シュウはいずれ帰ることをきちんと覚悟してくれていたのだな。
それならば、やはりシュウにお二人の肖像画を描いてもらい、私たちは元の時代へ帰るとしよう。
夜になったら、お二人を交えて話をしようか。
お二人にもきちんと私たちの想いをわかっていただかなくてはな。


シュウの素晴らしい改良で馬車はおどろくほど順調に進んでいた。
そろそろ馬達の休憩がてら我々の食事にしようと騎士を通じてアンドリュー王からの伝令が来た。

アンドリュー王達の乗る馬車が停まった隣に我々の馬車が停まりシュウをエスコートして降りると、待ち兼ねていたトーマ王妃がシュウに走り寄ってきた。

その表情は実に晴れやかでご機嫌な様子だ。
どうやら振動の少ない座席に感激したようだ。
トーマ王妃がこちらにきてから3年。
おそらく今回のような長期視察を何度も体験していることだろう。
だからこそ、今回の改良の良さに気づいたのだろうな。

シュウは喜んでいるトーマ王妃を見てご満悦の様子だ。
自分の考えたことでトーマ王妃の役に立てたことが嬉しいのだろう。

「あの座席の改良は素晴らしいな。身体への負担が少なく済んでいる」

アンドリュー王からの賛辞に自分のことのように嬉しくなる。

「ええ、私が考えていたよりも遥かに素晴らしい考えをシュウが教えてくれたのです。
私の考えだけではこれほどまでに順調にここまでくることはできなかったでしょう」

「このまま進めば、神の泉へも余裕を持っていけそうだな」

「そうですね。そのことはトーマ王妃には?」

「いや、まだ話してない。まだ行けるかもわからなかったからな。トーマに話しておいた方がいいと思うか?」

「もうしばらく様子を見てからでもよろしいのではないでしょうか?」

今のところあの座席の調子は良いが、旅はまだ始まったばかり。
何が起こるかはわからない状況の中で、喜ばせるだけ喜ばせてがっかりする結果になってはいけない。

「それもそうだな。もうしばらく待つことにしよう。それまでは内緒にしておいてくれ」

「かしこまりました」

お二人が神の泉へ行けるかどうかは文字通り神のみぞ知る。
どうか、フォルティアーナ神の御加護がありますように。

今回食事に訪れた店は、トーマ王妃おすすめのお店らしい。
シュウも気に入りそうな雰囲気の店にやはり親子なのだなと思ってしまう。

今日は貸切になっているから気楽に過ごせるのもいい。
すでに注文されているという料理が来るまで4人で会話を楽しんだ。

アンドリュー王は一国の王として、もちろん高価なものも珍しいものもたくさん食していることだろう。
私も王家に生まれた人間として、少なからずそういうものを食してきた。
こういう視察でさえも、王家の者は貴族の行くような店に行くのが当たり前だったはずだ。
私でさえ、町の食堂で食事を楽しむようになったのは、王室を離れ公爵になってからだ。

現役の王にも関わらず庶民達の行く店に入り、しかもこういう食堂の料理は格別だと褒めるアンドリュー王を私は同じ男ながら格好いいと思った。
話を聞くと、アンドリュー王がこうやって庶民達の行く店に行くようになったのはトーマ王妃と出逢ってからのことらしい。
きっとシュウと同じで値段に関わらず、幸せそうに食事をするトーマ王妃に感化されたのだろうな。
偉大なる王にこんなことを思っては失礼なのかもしれないが、同じ価値観を持つもの同士4人での食事は実に気楽で楽しいものだ。

内緒だが、私は最初アンドリュー王が恐ろしかった。
オランディア王国歴代の王の中で一番国民に慕われた王がアンドリュー王だと言われているが、
王家に伝わる歴史書にはアンドリュー王が実は一番恐ろしい王だったと書かれていたからだ。
それには国民に寄り添う一方で、王に反逆する家臣には容赦無く鉄槌を下していて、家臣達はその制裁に怯えていたとされていた。
それを幼少期に読んでいたからか、実際にアンドリュー王に対面した時、偉大なる王に出逢った喜びよりも恐怖が先に立ってしまったのだ。

しかし、仕事の補佐をしながら一緒の時を過ごすうちにその歴史書に書かれていたことは全て誤りだということがわかった。
アンドリュー王は家臣がもし自分とは異なる意見を持っていたとしてもきちんとその意見に耳を傾けてくれるし、自分の意見だけを押し通そうとすることは絶対にない。
いつも一歩どころか、二歩も三歩も先を読むことに長けているからか、家臣からの人望も厚い。
だからアンドリュー王に反逆するものなど出てくるはずがないのだ。

あの歴史書はきっと、この先のどれかの王が自分のやり方を正当化するために書き換えたものだろう。
アンドリュー王について間違った認識を後世に残さないよう、私は私の目で見たありのままのアンドリュー王の姿を書き残しておこうと秘かに心に誓った。


向かいに座るアンドリュー王と会話を楽しんでいると、シュウが耳元に顔を寄せてきて囁いてきた。

「ねぇ、フレッド。あの港町で食べたご飯はこの時代では食べられないのかな?」

シュウの言葉で思い出したが、ご飯……白米はシュウの国の主食であったはずだ。
あの時リューイの店で食べさせた時、目の色を変えて喜んでいた。
いつもより倍は食事をしていたと思う。

シュウはきっとトーマ王妃にもあの感動を味わわせたいのだろう。
トーマ王妃がこの世界にきて3年。
主食をそんなにも長い間食べていないのならきっと大喜びすることだろう。

シュウが望むことはなんでも叶えてあげたいが、白米を用意することはおそらく無理だろう。
この時代、白米の存在はオランディアではまだ知られていない。
アンドリュー王ですらわからないのだから、トーマ王妃はこの世界に白米があるとは思っていないだろう。
そうでなければ、あれだけシュウのことを思いやるトーマ王妃のことだ。
とっくの昔にシュウに白米を食べさせてあげているに違いない。
というより、オランディアに白米が存在していればトーマ王妃を溺愛するアンドリュー王のことだ、とっくに食べさせているに決まっている。

実は、白米の存在は私がサヴァンスタックの領地をもらってから周知されたのだ。
それまではヴァルナディアの中でもあの地域に住む一部の民族だけが食していたと言われていて、調査の結果、白米は水なのか土なのかわからないがあの土地一帯でしか育たないことも分かった。

この時代でもヴァルナディアのあの地域に住むもの達なら白米を食べているかもしれないが、
まだこの時代、オランディアとヴァルナディアには国交がない。
我々の時代の大戦に勝利し併合するまでは、ヴァルナディアとの国交はほとんどなかったのだ。

それをこの時代に国交を結んだりしたら将来併合するはずのヴァルナディアの一部、サヴァンスタック領がどうなるか、それこそ確実に歴史が変わってしまうのだ。

もし、元の時代に帰ることができたとしても、サヴァンスタック領がなければどんな未来が待っているのか想像もつかない。シュウとの未来が変わってしまう、それだけは絶対にするわけにはいかないのだ。

その事実を告げると、シュウはがっかりしていたが仕方ないと諦め納得してくれた。


それからしばらくして、トーマ王妃のおすすめ料理が運ばれると、目の前の美味しそうな料理を前にシュウが嬉しそうな声を上げた。

トーマ王妃はそんなシュウをみて嬉しそうに笑い、『懐かしいな』というとアンドリュー王もまた嬉しそうに笑っていた。
きっと2人の思い出の料理なのだろう。

トーマ王妃はシュウの様子がおかしくなったことに気づいていたようだ。
それを分かった上で、この世界で白米を食べることができたらそれは確かに懐かしく思うだろうけど、自分にとってはどんな料理にも思い出があって、これもシュウと一緒に食べられたことで思い出が増えて嬉しいのだと言ってくれた。
シュウはトーマ王妃の言葉をじっくり噛み締めるように聞いていた。
そして、トーマ王妃との思い出を楽しみながら目の前の料理を美味しそうに頬張っていた。
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