ひとりぼっちのぼくが異世界で公爵さまに溺愛されています

波木真帆

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第四章 (王城 過去編)

花村 柊   21−1※

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怒涛の旅行初日を終え、翌朝ぼくはフレッドに抱きしめられながら目を覚ました。

フレッドは意識を失って冷たくなったぼくの身体をずっと抱きしめてくれていたらしい。
あっちにいたときはずっと寒くて身体を震わせていて、フレッドが抱きしめてくれていた温もりを残念ながら感じることはできなかった。
でも、今はフレッドの温もりを間近で感じられることが嬉しくてたまらない。

本当に帰ってこられたんだとこの温もりが教えてくれるのだ。
ぼくはまだ眠っているフレッドの胸元に身体を擦り寄せ、フレッドの匂いを存分に味わった。

スゥーっと深呼吸をすると、フレッドの匂いが鼻腔を擽る。
やっぱりこの匂いが一番安心する。

すると、頭上から『ふふっ』と笑いが聞こえた。

「あ、フレッド……起きてたの?」

「ふふっ。シュウが可愛いことをしていたから声をかけられなくて」

「だって、フレッドの匂い大好きなんだもん」

「私もシュウの匂い大好きだぞ」

フレッドはぼくをぎゅっと抱きしめ、耳の後ろをクンクンと嗅ぎ始めた。

「ひゃ……っ」

そこをペロッと舐められ思わず声が出てしまった。

「ふふっ。朝から艶かしい声を出してくるな」

「もう、フレッド……だめだよ」

「ああ、わかってるよ。トーマ王妃たちが待ってるからな。
だが、朝の口付けだけは許してくれるだろう?」

『うん』と答える前に、フレッドの唇がぼくのそれに重なった。

ちゅっちゅっと下唇を食まれたその感触が気持ちよくて、ハフっと思わず口を開くとフレッドの舌が入り込んできた。
肉厚で柔らかな舌に絡みつかれ、クチュクチュといやらしい水音が響く。
最後にぬちゅっと吸いつかれ唇が離れていった。

「ふふっ。ごちそうさま」

ペロリと舌舐めずりしながら、そんなことを言うフレッドにさっきのキスで力が抜けてしまったまま、

「……フレッ、ド……おはよう、だよ」

と言うと、

「ははっ。そうだな、おはよう」

と満面の笑みを浮かべ、もう一度唇にちゅっと軽くキスしてくれた。


部屋で2人だけでゆっくりと朝食を取り、身支度を整え部屋を出るとブルーノさんが立っていた。

「アルフレッドさま、シュウさま。おはようございます。シュウさまのお加減はいかがでしょうか?」

ブルーノさんには詳しい話はしていないと言っていた。
お医者さんの診断では呼吸も弱いし衰弱が酷いと言われていたそうだし、きっと心配していたに違いない。
でも、流石にブルーノさんにまで自分で命を絶ってこっちに戻ってきたとは説明することはまだできていない。
意識が戻って、もう大丈夫だとだけ説明しておくとアンドリューさまが言っていたからそれしか知らないのだろう。

「ブルーノさん、心配かけてごめんなさい。もう大丈夫です、ありがとう」

笑顔でそう返すと、ブルーノさんはほんのり涙を滲ませて
『ようございました』と返してくれた。

宿泊所の玄関に向かって歩いていると、後ろからアンドリューさまとお父さんがやってきた。

「柊ちゃんと、えっと、アルフレッドさん。おはよう」

この旅行では常にフレッドはアルフレッド=サンチェスという名前になっている。
いつもフレッドのことをフレデリックさんと呼んでいるお父さんにとってはまだ慣れないかもしれない。
ブルーノさんしか居ないところなら問題なさそうだけど、周りには騎士さんたちもいるから気をつけてるんだろう。
ぼくのことも『ちゃん』付けになってたし。
ぼくもみんなの前でお父さんて呼ばないように気をつけないといけないな。

「アンドリューさま、トーマさま。おはようございます」

「もう! 『さま』は止めてよ。ねぇねぇ、それよりも、ちょっとお願いがあるんだけど……」

お父さんはアンドリューさまと顔を見合わせて笑った。

僕とフレッドは何を言われるのかわからなくてドキドキしていたけれど、お父さんからのお願いは思いもかけないことだった。

「今日、昼食休憩に入るまで僕、柊ちゃんと一緒に馬車に乗りたいんだ。だから、アルフレッドさんはアンディーと一緒に乗ってくれる?」

「ええっ?」

ぼくはお父さんと一緒でも嬉しいけれど、フレッドはアンドリューさまと2人っきりだなんて緊張するんじゃないかな?

フレッドを見ると少し驚いていた様子だったけれど、特に困惑する様子もなく
『かしこまりました』と答えていた。

「わぁ、ありがとう! じゃあ、早速馬車に乗ろう」

お父さんは軽やかな足取りで、3つ並んだ馬車の2番目に乗り込んだ。

「ほら、柊ちゃん早く!!」

嬉しそうな声で呼ばれ、ぼくも後を追うように馬車に乗り込んだ。

ぼくたちが馬車に乗り込んだのを確認して、フレッドとアンドリューさまも先頭の馬車に乗り込み、
ヒューバートさんたちの先導で馬車はゆっくりと走り始めた。

「ふふっ。びっくりした?」

「うん。でも……嬉しい」

「ほんとに?」

「うん。昨日すごく心配かけちゃったし、お父さんとゆっくりお話したかったから」

ぼくがぎゅっと手を握ると、お父さんは嬉しそうに
『戻って来られて本当に良かったね』と手を握り返してくれた。
お父さんの手はフレッドよりずいぶん小さかったけれど、ホワホワと温かくて心地よくてフレッドとはまた違う安心感を与えてくれた。

「柊くんにはあっちの世界は少しも魅力的に映らなかった?」

「全然。絶望感しかなかったよ」

あの時の孤独と絶望感を思い出すと、すぐに恐怖でいっぱいになる。
顔を横に振りながら答えると、お父さんは『そっか』と優しい顔で微笑んだ。

「多分ね、僕も今元の世界あっちに戻されたらきっと絶望しかないだろうな」

「ほんと?」

「うん。ここは、柊くんがいた時代と違って電気もないし不便なことも多いけど、便利だから幸せとは限らないってあっちでもうわかりすぎるほどわかってたから、ここの生活が楽しくて仕方ないんだよね。
不便も慣れると楽しみに変わるし。
だから今、もしあっちに連れ戻されたら、僕も絶望してきっと命を絶ったかもしれないな。
ふふっ。柊くんには危ないことするなって怒ったくせにね。ごめんね」

とにこやかに話すお父さんを見て、ぼくも笑みが溢れた。
ぼくの絶望したあの気持ちを理解してくれたことがすごく嬉しかったんだ。

フレッドと出逢ってから、そしてこの時代にきてお父さんとアンドリューさまに出逢ってから僕は寂しいとか辛いとかいう感情は消えてしまったと思うくらい毎日が楽しかったから、急にひとりぼっちに戻って本当に辛かった。
今ここに戻って来られた幸せを噛み締めてる。

「今回のことでフレデリックさんがどれだけ柊くんのことを想ってるかわかったから、安心して任せていられるよ。
良い人に出逢えて本当に良かったね」

「うん。お父さんのおかげかも」

「えっ? 何で?」

「お父さんがアンドリューさまと出逢ったから、神さまはついでにぼくもフレッドに出逢わせてくれたんじゃないかなって思うんだ」

そう、神さまが連れてきたお父さんが残した子どもがあっちにいたから、神さまがお父さんに逢わせようとぼくをこっちに来させてくれたんじゃないかって思う。
時代がずれてたのは、ぼくにも大切な人を与えようとしてくれた神さまの優しさなのかもしれない。
そう思うと納得がいくんだ。
だから今のぼくが幸せなのは、お父さんがアンドリューさまと出逢ってくれたおかげなんだよ。

「そうか。なら、僕たちは2人ともこれからもここで大切な人と一生幸せに過ごしていけるんだね」

「うん。そうだよ、絶対」

窓から入る心地よい風に混ざって馬車の中に幸せいっぱいの笑い声があふれた。


「そうだ、今日僕が一緒に乗ったのはもうひとつ話しておきたいことがあったんだ」

てっきり昨日の話をゆっくりしたいのかなとばかり思っていたから、お父さんの話が気になって仕方がない。
話しておきたいことって何だろう? この旅で重要な話とか?

「ふふっ。そんなに緊張するほどの話でもないと思うんだけどね、アンディーから聞いてちょっと気になったから前もって話しておいたほうがいいかなって思ったんだ」

一気に緊張感を漂わせてしまったぼくに優しくそう言ってくれたけれど、一体なんの話だろう。
ドキドキしちゃうな。

「あのね、今回視察に行くレナゼリシア領を統治しているレナゼリシア侯爵には溺愛している一人娘がいるんだけど……実はこの子、僕がこの世界に来るまでアンディーのお妃候補の1人だったんだって」

「えっ? お妃候補って……結婚相手ってこと?」

そうなんだ……。びっくり。
でも、そうか。王族なんだもん。小さい頃から許嫁とか普通にいそうだもんね。
実際、お父さんにも許嫁がいたわけだし。

そう考えたらそこまで特別に驚くことでもないのかもしれない。
お父さんは何が気になっているんだろう?

「うん。でもたくさん候補がいる中の1人で、正式に決まっていたわけではないみたいだったんだけど……その子はアンディーのお嫁さんになる気満々だったみたい。
でもね、その、パメラっていうんだけど……アンディーが僕との結婚を発表したら怒り狂ってお城に乗り込んできたんだって」

「乗り込んできた?」

ええーっ、話し聞いてるだけで怖いんだけど。
何でお父さんこんなに冷静なんだろう……。


「うん。それだけアンディーのことが好きだったからだと思うんだけど、僕に会わせろってすごい勢いだったらしいよ」

「ええっ!! お父さんは大丈夫だったの?」

「僕は昨日アンディーに聞くまでその話を知らなくて……多分、アンディーとかヒューバートたちが僕に知られないように隠してくれてたのかな。急に現れたような人にられるなんておかしいってお城の前で騒いでたんだって」

ふぇーっ、女の人って強い……。

「本当なら、そんな騒ぎを起こしたパメラは処罰対象になってたみたいだけど、レナゼリシア侯爵がすぐに飛んできて謝ってきたんだって。よくは知らないけどこの前の大戦でレナゼリシア侯爵には何か恩があるとかで、アンディーもレナゼリシア侯爵の謝罪に免じて処罰はやめてあげたみたい。
その代わり、僕には絶対手を出さないように約束させたんだって。
僕も自分のせいで処罰されるなんて嫌だしね」

「そうなんだ……。でも、なんか怖いね……」

アンドリューさまがお父さんに手を出そうとした人を謝罪だけで許してあげるなんてよっぽどの恩があったんだろうな。
そうでもなきゃ、絶対許しそうにないし……。
あ、でもお父さんに別に被害はなかったから許したのかもしれないな。

そういえば、この前城下でお父さんを叩いた人……サンディーとか言ってた人。
あの人はどうなったんだっけ?
お父さんの顔、結構腫れてたけど……侯爵家とか言ってたから、あの人も許してもらえたのかな?

今度、フレッドに聞いてみよう。


「大事なのはここからだよ!!」

そんなことを考えていたから、お父さんのものすごい勢いに身体がビクッとしてしまった。

「えっ? なに?」

「フレデリックさん、アンディーにそっくりでしょ?」

「えっ、うん。そうだね。今は赤いウィッグつけてるから印象ちょっと違って見えるけど、でも顔の作りはやっぱりよく似てるよね」

アンドリューさまに比べると、フレッドは少し幼い気がするけれどでも2人とも凄くかっこいいんだよね。うん。

「パメラは騒動起こしてしまったからか、今も結婚相手が決まらずにいるらしいの。
レナゼリシア侯爵が今回僕たちがくるのに合わせて夜会を開くのもパメラに結婚相手を見つけるのが目的みたい。
流石にそんな場所で僕に手は出してこないとは思うけど、逆にその夜会でパメラがアンディーにそっくりなフレデリックさんに近づく恐れもあるから、柊くんはフレデリックさんの傍から絶対離れないようにって言っておきたかったの。
まぁ、伴侶がいる王族に手を出してくるようなことしたらさすがに騒ぎになるから今度こそ処罰対象になっちゃうだろうし、彼女もそんなことはして来ないとは思うけど、騒ぎを起こすような子だから少し気になって……」

なるほど。そういうことか。
でも、僕たちはお互いにピアスもつけてるし、割り込む隙間なんてない気がするんだけど……。
つい昨日も愛を誓いあったばかりだし……なんて、ふふっ。
そんなこと思い出すなんて、ちょっと照れちゃうかな。

「でも……大丈夫そうだね。柊くん、すごく余裕そうな顔してる」

ぼくが考えてたことがお父さんにはバレちゃってるみたいだ。

「へへっ。わかっちゃった?」

「ふふっ。まあ、フレデリックさんも今頃アンディーからパメラに注意するよう言われてると思うから大丈夫だとは思うけどね。気をつけるに越したことはないから」

そっか。2人が分かれて一緒に馬車に乗ってくれたのはそういう意味もあったんだ。
フレッドはアンドリューさまからなんて言われてるのかな……。
ちょっと気になる。

「うん。そうだね。ありがとう、お父さん」

パメラさんか……。
ちょっと心配だけど、フレッドもぼくを伴侶だと紹介するだろうし、ずっと一緒にいたら流石に奪い取りはしないでしょう。
大体、侯爵令嬢って貴族の中でも上の方の人だし礼儀正しいものじゃないの? わからないけど。

フレッドは一応アンドリューさまの遠戚ということになってるし、なんてったって、ぼくたちはゆ、唯一なんだし……。
唯一って、滅多に見つからないっていってたよね。
流石にそんなぼくたちを引き裂いたりまではしないでしょう? ねぇ。

唯一で思い出したけど……そういえば、最近フレッドの蜜舐めてないな。
そんなこと考えてるだけで少し恥ずかしくなってきちゃったんだけど……。
でも、アレって……意外にクセになる味なんだよね。
フレッドには恥ずかしくて言えなかったけど、今朝、チューした時ちょっと欲しくなっちゃったし……。

ふと気づくと、お父さんがぼくの方を見てなんだか少しニヤニヤとしている。

「お父さん、どうしたの?」

「ふふっ。今、フレデリックさんとのアレ・・思い出してなかった?」

「えっ? アレって?」

『エッチ』
耳元でこそっと、そんなことを言われてブワッと顔が赤くなるのを感じた。

「え、エッチって……」

「ふふっ。柊くんは正直なんだよね。顔に出るからよくわかる」

思わず頬に手をやると、
『ふふっ。やっぱりね』と笑われてしまった。

ぼくは恥ずかしくてたまらないのに、お父さんはぼくの耳元で『ふふっ』と笑って、
『たまには柊くんから積極的に行くのもいいと思うよ』と教えてくれた。

お父さんからそんなことを言われるとは思っていなかったから、恥ずかしいのが止まらないけれど
でも、確かにそうだ。
いつもフレッドがぼくを気持ちよくしてくれて、ぼくは甘えているだけだ。

これからずっと一緒にいるならぼくからも愛情を示さないとね。
でも積極的ってどうしたらいいんだろう?
お父さんに聞くのが早いよね。

「ねぇ、じゃあ……お父さんもそうしてるの?」

「ゔえっ? あ、ああ……そうだね。うぅー、なんか自分のこと話すのってすごく照れちゃうな」

2人で顔を真っ赤にしながらそんな話するのはやっぱり照れるけど、でもお父さんはさすがだ!

「よし、こうなったら全部話しちゃおう! 2人でこんなこと話せるのってなかなかないもんね」

お父さんは外を走る騎士さんに目を向けると、ゆっくりと窓を閉めた。

「これで気にせず喋れるよね。フレデリックさんとの夜のことで気になることとかある?」

「……あのね、最初にき、キスするんだけどそれがすごく気持ちよくてそれだけでぐったりしちゃうんだよね。
それで力抜けちゃってる間に胸とか、その、下とか触られてぼくばっかり気持ちよくなって……だからぼくだけ何度もイかされてる気がするのがちょっと気になるかな……」

「うーん、そっか。じゃあフレデリックさんは最後に一回イく感じなのかな?」

「うん。フレッドにも何回もイって欲しいんだけど、ぼくがすぐ寝ちゃうからそれで終わってるのかも」

ぼくがそういうと、お父さんは『うーん』と少し考えた様子で、

「まぁ、そこは大丈夫そうだけど……」

と言っていた。

『えっ? なんで?』と尋ねたけれど、そこは『まぁ、まぁ、まぁ』と笑って誤魔化された気がした。
なんでだろう?

「ねぇ、良いこと教えてあげよっか」

「良いことってなに?」

「あのね、――――――って、してあげたらフレデリックさん喜んでくれるよ」

「――っ! えっ、えっ……お、お父さん……それ、って……」

ぼくは顔を真っ赤にしながら尋ね返すと、

「僕も初めてした時は恥ずかしかったけど、慣れたら意外とアンディーの気持ち良さそうな顔もしっかり見れるし良かったよ。何より、自分が気持ちよくさせてるって嬉しいし」

としっかりお父さんの感想も聞かせてもらえてすごく参考になった。

そっか……。お父さんもやってることなら、ぼくにも出来るかな。
フレッドが喜んでくれてフレッドの気持ちいい顔が見られるなら頑張ってみてもいいかも。

そんなことを話していると、あっという間に昼食休憩目的地は目の前まで迫ってきていた。

「あ、もう降りるのかぁ。早いなぁ……。でも、本当に柊くんとフレデリックさんのおかげでお尻も全然痛くなくなったよ。馬車が快適っていいよねぇ」

「ふふっ。良かった。ぼく、昔夏休みの宿題で車を作ったことがあってね、車の仕組みを調べたんだよ。で、その時に一緒に馬車の歴史と仕組みも調べたんだ。その時の記憶が役に立って良かったよ」

「ああ、なるほど。そういえば、僕も作ったことがあったような気がするけど、全然覚えてないや。柊くん、ちゃんと覚えててそれを活かせるなんてすごいよ!!」

自分の知ってることを活かせるって本当に嬉しいことだよね。

「そういえば、お父さんは見知らぬ果物をオランディアに伝えたってフレッドが言ってたけど、あの日記にはお弁当だったって書いてたよね?」

フレッドには詳しくは教えていなかったけれど、お父さんは自分が持っていた果物を植えてそれがうまく育ってくれたんだって日記に書いてたんだ。

「そうそう。ほら、僕大学に行こうとして電車に撥ねられたって言ったでしょ? 学校行くときに背負ってたリュックごとこっちにきたから、中にお昼に食べようと思ってたお弁当が入ってたんだ。食欲なくて家にあった果物を適当に詰め込んできたのが功を奏したみたいでね。最初、お城の畑に埋めてみたら芽が出たんだよ。それをアンディーが育ててくれて、広まったって感じかな」

そっか。でも、畑に埋めるっていう発想があったからこそだよね。
それくらい、そのころのオランディアが飢えに苦しめられてたってことなんだろうな。

「そう、ここって気候がよっぽど適してたのか土壌がいいのかわからないけど、ミカンは植えて1年も経たないのに実をつけたんだよね。しかも、たくさん。苺は王都の土壌じゃ育ちが悪くて、苺を乾燥させて残しておいたタネを視察に行く場所に色々植えてたら、王都以外の場所なら育つことがわかったんだよ、
今回行くレナゼリシア領も苺は育ってる方かな。
この世界の土壌は場所によって、適してるものがかなり違うみたいだよ。
まぁ、気候とかも関係あるとは思うけどね」

なるほど……。
ぼくは本当に身一つでこっちの世界に来ちゃったからな。
その点ではサヴァンスタック領の役に立てなかったな。

「ぼくも何かこの世界に必要なものでも持ってこられたら良かったのに……」

そう呟いたら、お父さんは笑って

「フレデリックさんにとっては柊くんが一番必要だったんだからいいんじゃない?」

って言ってくれた。

そっか。ぼくがフレッドに一番必要なもの……ふふっ。そうだったら嬉しいな。

「これから2人で領地のために何ができるかを考えていくのも楽しいと思うよ。
きっと、節々で柊くんの知識が役に立つこともあると思うし」

「うん、そうだね。お父さん、ありがとう」

2人で顔を見合わせて笑っていると、馬車はゆっくりと止まった。
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