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第四章 (王城 過去編)

フレッド   27−1※

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アンドリュー王とトーマ王妃のとんだ痴話喧嘩もあったが、今回の視察旅行は概ね実りのある旅となった。
旅行初日、シュウに起こった異変を除いては……だが。

あんなに気持ちよさそうな寝顔を見せていたと言うのに、突然私の耳についている黒金剛石ブラックダイヤモンドが途轍もない光を放ち、そしてシュウの耳についていた藍玉アクアマリンまで眩い光を放ち始めた。

シュウが急に苦しみ出したかと思えば、みるみるうちに青白い顔になり、指先には血が通わなくなり、浅い呼吸を繰り返してはいたものの身体は微動だにさえしなかった。
このままシュウは私を置いていくのではないか、そんな考えに囚われた。

しかし、シュウは戻ってきてくれた。
元の世界との決別を選んで自らの命を絶って、私と共に生きていく決断をしてくれたのだ。

『神の泉』でアンドリュー王が神と対話をした際に聞いた、シュウを見守っていてくれていた神が咄嗟にシュウをこの世界へと送った理由をシュウには内緒にするようにとの約束でこっそり教えてくれた。

シュウは私の元へとやってくるきっかけになったあの日、広場のベンチで眠ってしまい気づいたら私の屋敷の中庭のベンチに眠ってしまっていた。
その話はシュウに聞いて知っていたのだが、実はあの時、シュウはシュウに好意を持つ輩に襲われそうになっていたのだそうだ。
そこで急遽、神がこの世界に送り込んだのだという。

本来ならば、もっと手順を踏んでこの世界へ連れてくるつもりだったのだろう。
おそらくそんな不安定な状態でこの世界へとやってきてしまったから、シュウは急にあちらの世界へ戻ってしまったのだ。

あちらでの命を終えないことにはこの世界へ魂と身体をつなぐことができないのだとしたら、シュウが私を想って自らの命を絶ったことは、ある意味正解だったと言える。
私を想い、自らの命を賭けて私の元へ戻ってきてくれたシュウ……その想いに報いるために私は一生をかけてシュウに愛を伝え続けよう。

シュウに不埒な真似をしようとしたその輩には罰を下したいところだが、異世界で手出しできないのが辛い。
何もしないのは癪だから、そいつに悪いことが起きるよう毎日念だけは送っておくか。
いつか神に私の願いが届くように……。

ゴトゴトと走る馬車の音にもいいかげん慣れてきた。
シュウの教えにより座席を改良したおかげで馬車の旅は数段良くなったが、やはり我々の時代の馬車とは比べ物にならない。
しかし、この古さも慣れると意外と良く思えてくるから不思議だ。
ひと月もこの馬車と共に行動していると愛着も湧いてくるのだろう。
特にシュウとはこの馬車で甘やかな時間を過ごしたこともあるのだから、当然か。
このゴトゴトという音のおかげでシュウの淫らな声も外にいる騎士に聞こえないのだから、ある意味、この馬車で良かったとも言える。

旅行が終わりを迎えつつあるこの状況で、お互いに今回の旅行に思いを巡らせていたことに気づき私はシュウにいたずらを仕掛けた。

シュウの胸に新しくできた三日月の痣……それはシュウが自らの命と引き換えに私の元へと戻ってきた証であったが、
この痣がシュウの襟足にある五芒星の痣と同じ性感帯だと気づいたのはいつだったか。

そこにそっと触れるだけでシュウの身体からあの甘い蜜の香りが漂ってくる……そう発情するのだ。

今日もほんの少し触れただけでシュウの身体から甘い甘い蜜の香りがふわりと香ってきた。

私はうまくいったとほくそ笑みながら、シュウの服の中へと手を差し入れるとシュウは必死に拒み始めた。
周りにいる騎士たちに見られるのが恥ずかしいというシュウの言葉に、それもそうだと納得し、私は馬車の窓から横を並走している騎士に

「もう少し離れていろ。決して中を覗くな」

と命令すると、すぐに我々の馬車からは見えない位置へと移動した。
前を走るアンドリュー王たちの馬車に目をやると、あちらの馬車の周りにいたはずの騎士たちの姿も離れた位置にいる。

なるほど。
おそらくあちらも我々と同じ状況なのだろうと察し、思わず笑みが溢れた。

ならば、少々深い交わりになったとしてもトーマ王妃に大目玉を食らうことはないか。

ふふっ。今からシュウと甘やかな時間を過ごすとするか。

これで大丈夫だとシュウに向き直り、先ほどの続きをしようとシュウを抱きしめると、シュウは真っ赤な顔で

「もうっ、フレッドったら! そんな命令したら、今からこの馬車の中で何かやりますって宣言してるみたいじゃない!」

と私に大声をあげた。

?? 何を今更。
私たちは唯一なのだ。
ふたりきりで馬車に乗って何もないほうがそれこそおかしくないか?

だから、アンドリュー王とトーマ王妃も甘やかな時間を過ごしているというのに。

シュウの腰を撫でながら、『しないのか?』と尋ねると、身体は私を望んでいるというのに、シュウの口からはまだお許しが出ない。

もう一度『ダメか?』と耳元で尋ね、縋るように名前を呼ぶとようやくシュウの瞳に欲情の炎が灯った。

欲情が灯ったその瞳を隠すようにシュウが目を閉じると、それが甘やかな時間の始まり。
柔らかで形の良い唇に重ね合わせ下唇を軽く喰むと、シュウが私の舌を誘い込むように唇をそっと開いた。

そこに吸い込まれるように舌を挿し入れると、シュウの甘い舌が絡み合ってくる。
私がそっと目を開けると、シュウが夢中になって私の舌と絡めあいながら、時折甘い声を漏らす様子が見えた。
頬を高揚させながら、私がシュウの口内に移した唾液をコクリと飲み干す姿にグンと愚息が昂った。

シュウの唇が一瞬離れ、閉じられていた目がゆっくり開かれると唾液を飲み干した口内を私に見せつけるように口をあーんと開けてみせた。
それが愛おしくてたまらなくて私がシュウの髪を優しく撫でるとシュウは嬉しそうに身体を震わせた。
痣に触れたために今はどこもかしこもが感じる身体になっているのだ。

「もっと、さわって……」

愛しい人にそんなことを言われて、動けない私ではない。
シュウをもっともっと感じさせてやろうとシュウを向かい合わせに膝に座らせ、胸元に並んだ釦を一つずつ開けていく。
シュウはすでにその先を期待して、服の上からでもわかるほどに胸の蕾を尖らせていた。

服の中に指を入れ、プクリと勃ちあがった胸の尖りにそっと触れると『ひゃ……ぁっ』と可愛らしい言葉を漏らし全身をビクリと震わせた。

シュウのこんなにも感じやすい身体に舌舐めずりしながら、胸の尖りを爪先で引っ掻いてやると、

「ひゃぁ……っ、だ、め……っ」

と言いながらも私の手の動きを拒もうとはしない。
よほど気持ちが良いらしい。

ならばと、胸元の釦を全部開いてやると、赤い木の実のような胸の尖りがふたつ、私に弄られるのを期待するようにビンビンに尖っている。

ふふっ。可愛がってあげるからな。

私は笑みを浮かべながら、その赤い尖りを口に含んだ。

気持ちよさそうな声をあげるシュウを見ながら硬く膨らんだ胸の尖りをコロコロと舌の上で転がしたり、軽く噛んでやったりして弄ってやると、必死に口を押さえている手の隙間から甘い声が漏れていた。

シュウの声が聞きたいと頼むと、それに応えるようにシュウの手が口から離れた。
それと同時に艶のある声が馬車の中に響き始めた。

シュウの本気で感じている甘やかな声が私の耳を潤していく。
それが心地よくて、胸への愛撫をさらに激しくしてやると

「ふぁあ……んっ……ああっ、ああっ……だ、だめ……っ、そこばっかっ……ああっ……んっ」

と快感に身を捩らせていた。
見ると、腰が動いている。

そうか、我慢できなくなったのだな。
そろそろシュウの可愛い果実を可愛がってやろうかとシュウのスカートを捲り上げると、

「やぁ……っ、そこ、だ……めっ……」

恥ずかしそうにスカートを押さえつけ始めた。

こんなに気持ちよさそうなのに触れないわけにはいかないだろうとシュウの手を掻い潜って下着の中に潜り込ませると、もうすでにシュウの果実からは甘い蜜が滴って、下着を少し濡らしてしまっていた。

指で先端を弄ると、クチュリと甘い水音が聞こえてくる。
ゴトゴトと馬車の走る音がうるさくて聞こえないはずなのに、シュウの下着の中の甘い水音は鮮明に聞こえるのだから不思議だな。
これも唯一のなせる技なのか。

果実を弄るたびに漏れ聞こえるクチュクチュと甘い水音にシュウは『ぼく、ばっかり、んっ……はずかしっ……い』と声をあげた。

シュウの艶かしい姿と声に私も限界だし、そろそろいいだろうとシュウの果実を弄っていた手を引き抜き、自分の前を寛げ愚息を取り出すと、自分でも驚くほどに硬く天を向いて聳り立っていた。

そのグロテスクな愚息をシュウの可愛らしい果実と一緒に重ね合わせて擦ってやると、愚息は嬉しそうに先端から少し蜜を溢した。
その蜜とシュウの甘い蜜とがヌチュヌチュと音を立てて混ざり合いながらなんとも言えない芳醇な香りを漂わせる。
このままもっと感じさせてやる。
そう意気込んだのに、

「やぁ……っ、んんっ……フレ、ッドの……固くて熱い……」

という甘い声に愚息が一気に昂りを増し、限界突破しようとしている。

シュウより先にイくなど私の威厳が……と思っているのに、シュウはさらに

「お、っきぃ……」

と煽るような言葉を口にする。
これが無自覚なのだからタチが悪いな。

ヌチュヌチュ、クチュクチュ……

悠長にしていたら、先に愚息が果ててしまう。
シュウの先端をクチュクチュと弄りながら、シュウの好きな裏筋の辺りを念入りに刺激してやると、

「……ひゃあ……んんっ、あっ……あっ……だ、めっ……イっちゃ……うぅ……はあ……あんっ……あっ、あっ……んんっー!」

可愛らしい声をあげながら、シュウが蜜を吐き出した。
今日一番の甘い香りを浴びながら、私も思っていたよりも大量の蜜を吐き出した。

シュウはハァハァと荒い息を上げながら私に倒れ込んできた。
それほどまでに気持ちよくなってくれたのかと思うと男として伴侶として悦ばしいことだ。

私はまだ息が荒く目を瞑ったままのシュウをそっと座席に横たわらせ、私の上着をすっぽりかけてやった。

そして、馬車の小窓からブルーノにシュウの身体を清めるための濡れタオルを要求すると、ほんの少し眉を顰めたもののすぐに用意して渡してくれた。

随分と用意がいいのはおそらくアンドリュー王にも所望されたのだろう。

ここまで似ているのかと苦笑しながら、ブルーノに礼を言いゆっくりと小窓を閉めシュウの元へと戻った。

私とシュウの蜜の混ざった甘い香りに包まれたシュウの身体を清めてやると、シュウがゆっくりと目を開けた。とてつもない幸福感に自然にふたりして笑みが溢れた。

ああ、本当ならこのままずっと抱き合っていたい。
そしてシュウの最奥に蜜を注ぎ込みたい。
しかし、馬車の中ではこれが限界だろう。

「続きは宿でな」

シュウの耳元でそう囁きながら、頬に口付けを送ると恥ずかしそうな表情をしながらも拒みはしなかった。
きっとシュウも物足りないに違いない。
私は嬉しくて休憩地に着くまでシュウを膝に乗せ、ぴったりとくっついて座っていた。

休憩地に着き、私は当然のようにシュウを抱きかかえて馬車を降りると、前の馬車から同じようにトーマ王妃を抱きかかえてアンドリュー王が降りてきた。

ふふっ。どちらも同じというわけか。

これで馬車での戯れについてトーマ王妃から叱られることはないな。

『其方も楽しい時間を過ごしたようだな』
『陛下も何よりでございます』

アンドリュー王と共にしたり顔で、目で会話をしながら今日の休憩地となるカフェへと向かった。


茶色の煉瓦造りのこの店はトーマ王妃がどうしてもシュウを連れて行きたいとあらかじめ予定に組んでいた店らしい。
本来ならばレナゼリシアへの道中に行く予定であったのだが、シュウのあの異変があったためにここに行くことが叶わなかったのだ。
だからこそ、どうしても今日は連れて行きたかったのだろう。

シュウが目を輝かせて喜んでいる姿を目を細めて見ているトーマ王妃の姿を見ると、やはり父親なのだなと感じずにはいられない。

トーマ王妃は慣れた様子でテキパキとシュウの好きそうな焼き菓子と紅茶を注文し、私とアンドリュー王の分は尋ねるまでもなく2人と同じ紅茶を頼んでいた。

まぁ、シュウの喜び姿を見たいのは私も同じだから良いのだけれど。

トーマ王妃とシュウは仲良く2人で隣同士に座り、焼き菓子を頬張っては美味しい、美味しいと感想を言い合っている。
本当は親子だというのにこうやって仲良くしている姿は兄弟にしか見えないのだから面白い。

「フレデリック。私はトーマとシュウの姿を見ているだけで癒される。心の中が浄化されるようなそんな気がするのだ」

「陛下。私もです。トーマ王妃とシュウには邪心というものが存在しないのではと思うのです。
やはり神に愛された2人なのでしょう」

シュウとトーマ王妃が笑っているだけで心が温かくなる。
この姿を目に焼き付けておかなければな。

「行きにここを通った時はもうあのような2人の姿を見られないかと嫌な考えもぎったが、トーマは一言もそんなことを口にはしなかった。シュウは必ず我々の……いや、其方の元に戻ってくるのだと信じていた。あれが父親の信念とでもいうのだろうか。ただただ凄いとしか言いようがないな」

私でさえ、ほんの一瞬……そう、ほんの一瞬だけだがシュウがあのまま私の傍からいなくなってしまうのでは……という不安に駆られたというのに。
トーマ王妃はシュウが私の元からいなくなるわけがないと信じてくれていたのか。

ああ、なんだろう。
この胸に広がるこの気持ちは……。
あのときのシュウの姿を見てもトーマ王妃が信じていてくれたとは。
私は改めてトーマ王妃の……いや、父の偉大さに気付かされたのだ。

「シュウが戻ってこれたのはトーマ王妃の揺るぎない信念のお力添えもあったかも知れませんね」

「そうだな。もちろん、シュウの其方への想いが一番だと思うがな」

「ありがとうございます」

「いや、本当だぞ。シュウが自らの命を賭してでもこちらへ戻ろうと思ったのは、其方にもう一度会うことだったのだろうからな」

にこやかな笑顔を浮かべながら肩にポンと置いてくれたアンドリュー王の手のなんと温かいことか。
父にもこんなふうにされたことはなかった。
ああ、父の手はこんなにも温かいものなのだな。
涙が出そうになったのを顔をあげグッと押し留めた。

「そういえば、大事なことを話しておくのを忘れてた」

トーマ王妃の言葉になんのことかと思ったが、アンドリュー王にも声をかけているのを見るともしかしたら我々のことなのかもしれない。
と言うより、我々のことしかないだろう。

アンドリュー王が他人に聞かれてはいけないというくらいだから、やはりというべきか。

シュウはなんの話か気になっているようだが、アンドリュー王がそういう限り、今  話をすることはしないだろう。

アンドリュー王の表情もトーマ王妃の表情も暗いものではないからおそらく悪い話ではないだろう。
だったら心配する必要はない。
明日の夜、ゆっくりと話ができるならそれでいい。
今は2人と過ごせるこの時間を大切にしよう。

最後の宿は王都までそんなに離れていない場所だったから馬車で急げば王城まで帰れただろう。
しかし、アンドリュー王がそれをしなかったのは視察旅行最後の夜をゆっくりと過ごしたい……そんな思いもあったかもしれない。
おそらくシュウとトーマ王妃に楽しい時間を過ごさせたいというアンドリュー王の配慮だったんだろう。
そんな優しさに感謝しながら、最後の宿での食事に舌鼓を打った。

笑顔で美味しそうに食べるシュウとトーマ王妃の姿を見ながら、アンドリュー王とワインを酌み交わす。

「幸せな時間だな」

「はい。そうですね」

「トーマのこんな姿を見られるとは……思っても見なかったな」

シュウもそうだが、トーマ王妃もまたこの世界に1人でやってきて、心を許せる相手がアンドリュー王しかいなかっただろう。
出逢った伴侶が唯一だったのだからそれは幸せだろうが、伴侶以外にも心許せる相手がいるというのは心安らぐものだ。
この生活が楽しいだろうからシュウも元の時代に戻ったら寂しくなるのかもしれないな。

「トーマのあんな穏やかな顔が見られなくなると思うと寂しくなるが……其方たちにも待っている者がいるのだから止めるわけにはいかんな」

「そうですね。シュウもきっと寂しくなるでしょうが……陛下がこの視察旅行に我々を同行させて下さったことで王城にいた時よりもずっと深く濃密なトーマ王妃との時間を過ごして心が満足しているようです。トーマ王妃との最後の日まで毎日を楽しむと申しておりました」

「そうか。トーマも同じようなことを言っていたな。ふふっ。意外とあの2人の方が大人なのかもしれんな」

「そうですね。私の方が陛下と離れるのが寂しいのかもしれません」

「ははっ。そうか。私も其方がいなくなったら政務が滞るだろうな」

「ははっ。帰るまでに精一杯お手伝いしますよ」

『それは助かるな。』
『ははっ』

元の時代にはこんなふうに冗談を言い合えるような友はいなかった。
そんな私がまさかあの偉大な王とこんなふうに笑い合いながら冗談を言い合えるような仲になれるとは……。
皆に嫌悪され蔑まれていた私が……本当に人生とはわからぬものだ。

話が盛り上がりいつもより長い夕食の時間を終え、それぞれ部屋へと戻った。

狭いシャワールームで仕方なく1人ずつ汗を流した後で、シュウの手をひき寝室へと入った。

宿の小さめなベッドにも幾分か慣れた。
シュウと寄り添いながら寝るからあまり大きさは関係ないといえばそうなのだが、明日からは広々とした部屋に戻るのかと思うとほんの少ししんみりとした気分になるのは不思議だ。

まだ眠れない様子のシュウにこのひと月近くにも渡る旅行についての感想を問うてみた。

すると、この旅行での楽しい思い出を語っていたがその中でもアンドリュー王とトーマ王妃から聞いたという神の話を一番感慨深そうに語っていた。

シュウにとっては辛い話だっただろうに……。
あちらの屑な輩に襲われそうになった話は聞いていないとは思うが、それ以外にもシュウにとっては嬉しい話ばかりでは決してなかっただろう。

「本当なら生まれるはずのなかったぼくがあっちの世界で大変だったけど、生きていけたのは神さまが見守ってくれていたからだって思えたし、お父さんが神さまの間違えであっちの世界に行ってなかったら、最初からこの世界にいてアンドリューさまと知り合っていたんだよね。そうしたらぼくは決して生まれることはなかったんだからフレッドと会えなかったし……こうやってフレッドの温もりも匂いも知らずに、どこか全然知らない世界でぼくじゃない誰かに生まれていたのかもしれないと思ったら、お父さんには悪いけどあっちの世界にいてくれてよかったって思っちゃった」

唯一を探し求めていたであろうアンドリュー王とこの世界に生まれるはずが違う世界に生まれてしまったがために窮屈な世界で育つことになってしまったトーマ王妃には本当に申し訳ないが、確かにこの世界にトーマ王妃が生まれていたならば、神の奇跡でも起こらない限りシュウという存在はこの世に誕生することはなかったのだ。

私はフォルティアーナ神に足を向けては寝られないな。
これから先もフォルティアーナ神に毎日の祈りとシュウとの誓いを忘れずに生きてくことを約束しよう。
いつか、フォルティアーナ神に直接会ってお礼を言いたいくらいだ。

シュウにはもうこの時代に心残りはないらしい。
本当にトーマ王妃と心が通いあったのだろう。
離れていてもきっと繋がっていられるのだと。

「お城に帰ったら一生懸命心を込めて肖像画を描くね。フレッドも手伝ってくれるんだよね?」

屈託のない笑顔で見上げるシュウに

「ああ。任せてくれ! シュウの邪魔にはならないように頑張るよ」

と答えるとシュウは嬉しそうに笑った。
その笑顔のまま、スーッと眠りについたシュウの頬を優しく撫で口づけを送り私の最後の夜は終わりを告げた。
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