ひとりぼっちのぼくが異世界で公爵さまに溺愛されています

波木真帆

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第四章 (王城 過去編)

フレッド   33−1

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「アルフレッド、シュウの絵の進捗状況はどうだ?」

アンドリュー王はここのところ、その言葉掛けから1日が始まる。

それは、シュウが食事と睡眠以外の時間を全て肖像画の下絵を描くために注ぎ込み、画室に閉じこもっているせいだろう。
根を詰めすぎるシュウを心配してトーマ王妃がアンドリュー王に頼んでいるに違いない。

だから私はいつもシュウから聞いた進捗状況を正確にアンドリュー王に伝えるのだ。
その話をアンドリュー王は顔を綻ばせながら聞くというのがここ最近の朝の流れとなっている。

「順調にいけば今日、明日には下絵が終わると申しておりました」

「おお、そうか。描き始めて2ヶ月余り……。シュウもよく頑張っているな」

「はい。少し頑張りすぎなのが気になるところではありますが、シュウは感情で絵を描いているところがありますので、途中で止めることが難しいようなのです」

「そうか……体調は崩してはいないか?」

「食事はいつも通り取れてはいますが、絵を描くのに相当の体力を消耗しているようで元々細い身体が痩せているのが気に掛かっております」

本当にあの下絵を描くのにどれほどの体力を使っているのだろう。
いつも画室に迎えに行った時には、立ち上がれないほどフラフラな状態になっていることはトーマ王妃にもアンドリュー王にも言わない方がいいだろうな。
きっと2人とも責任を感じてしまうに違いない。

「ふむ。下絵が完成したら少し休ませたほうがいいな」

「はい。シュウもトーマ王妃とお会いしたいと申しておりましたので、以前のように城の東屋でお茶でもさせていただけたらと思っております」

「ああ、そうだな。トーマもシュウに会いたいと毎日言っておるぞ。
アルフレッド、2人が一緒にいる姿をここのところ誰も見ていないから城内が少し沈んでいるのに気づいたか?」

そう、シュウとトーマ王妃が時折やっていた東屋でのお茶会は、知らない間に城内で働いている者たちの癒しとなっていたようだ。

決して2人の邪魔をすることはなく、ただ2人の醸し出す癒しの空気に安らぎを得ていたのだ。

「シュウとトーマ王妃が並んでいる姿は見ているだけで心が和みますからね」

「ああ。早く見たいものだな」

いつもより長くなった朝の話を終え、私たちは仕事を始めた。

ブルーノからシュウがもうすぐ描き終わりそうだから、昼食は画室で1人で先に済ませたいと言っていると報告を受けた。
きちんと食事を取ると言っても絵を優先して食事を疎かにしそうなシュウが気がかりで、必ず食事を取らせることを約束させ了承した。

それでもシュウが画室で倒れてはいないかとその日の仕事の間は心配で仕方がなかった。

そんな私の態度に気づいたらしいアンドリュー王がいつもより早く仕事を終わらせてくれたおかげで私はすぐにシュウの元に向かうことができた。

画質の扉を叩くと、『どうぞ』というシュウの声が聞こえたことに少し安堵しながらすぐに扉を開くと、シュウが笑顔で出迎えてくれた。

今日はフラフラしていないなとそれだけで安心する。

シュウに下絵を描き終えたのかと問いかけると、シュウは嬉しそうに笑って画架イーゼルを指差した。

そこにはお互いを見つめ合いながら中庭の芝生に座り、真ん中に座るパールを愛おしそうに撫でるアンドリュー王とトーマ王妃の絵姿があった。

「おおっ、素晴らしいな」

あまりの素晴らしさに私は言葉の表現力を無くしてしまったらしい。
いろいろといいたい言葉があったはずなのに、結局『素晴らしい』の一言しか伝えることができなかった。
しかし、シュウは私の言葉を嬉しそうに笑顔で聞いてくれていた。

「ぼくも自分の納得できる絵が描けたって思ってるんだ」

満足そうな顔でそう言ってくるシュウを抱きしめ、『よく頑張ったな』というと、シュウは『うん』と頷いた。

きっとこの下絵の完成にはいろいろな思いがあることだろう。
私はただ黙ってシュウを抱きしめていよう。

「ねぇ、フレッド。ぼく、お父さんとアンドリューさまに下絵が完成したことを報告しに行きたい」

「ああ。そうだな。きっとお二人も待ち望んでいるはずだ。その前にきちんと夕食を取ってからだがな」

有無を言わさないその言葉にシュウは『わかった』と言って、

「じゃあ、フレッド……抱っこして部屋まで連れて行って」

と可愛く甘えてくれた。

そんなおねだりなら私はいつだって聞いてやろう。
シュウを抱いて歩けるなど幸せ以上の何ものでもないのだからな。

下絵が完成して気分が晴れやかになっていたからか、シュウの食事量はここ数日よりはいくらか増えていた。
そのことに安堵しながら食事を終えると、シュウはすぐにアンドリュー王とトーマ王妃の元へ行きたいと言い出した。

ブルーノに声をかけると、久々に4人で集まることを我々以上に喜んでいるようで喜色満面の笑みを浮かべながら2人の部屋へと案内してくれた。

ブルーノが扉の外から声をかけると、トーマ王妃が勢いよく顔を出した。
やはりシュウが来ることを心待ちにしてくれていたようだ。

シュウは久々に会うトーマ王妃の笑顔に嬉しそうな表情を浮かべ、案内されるがままに中へ入った。
トーマ王妃が一瞬だけ顔を顰めたように見えたのは、おそらくシュウが痩せたことに気づいたのだ。
だが、トーマ王妃がシュウに何も言わなかったのはそれが自分達のためにシュウが頑張ってくれたからだとわかっているからだろう。

さりげなく、シュウの周りにクッションを配置して体への負担を減らしているあたり、さすがの気遣いだと感心する。

シュウが下絵が完成したから久しぶりにトーマ王妃と過ごす時間が欲しいと伝えると、トーマ王妃は目を輝かせて喜んでいた。
というのもついさっきレイモンドから注文していた例の指輪が完成したと連絡が来たのだそうだ。
それをトーマ王妃が取りに行くかどうかで話をしていた最中だったようだが、シュウが行けるのならシュウと一緒に行きたいと言い出した。

シュウはもちろん大喜びの様子だが、隣で聞いているアンドリュー王は『ああ……』と少し頭を抱えている。
それは私も同じ気持ちだ。
シュウとトーマ王妃が2人で出かければ何か起こらない訳が無い。

以前レイモンドの店に注文に行った時は何とか無事にすんだが、今回もうまく行くとは思えない。
なんせ2人が一緒にいるだけで目立つのだから。

何とか我々も一緒に行ける時にと願ったのだが、早く4人で一緒の指輪をつけたいと強請られたら、もうダメだということはできなかった。
私もアンドリュー王も大概2人には甘すぎる。

ヒューバートに申し訳ないが、とりあえずヒューバートに護衛を任せて我々は急いで仕事を終えて駆けつけることにしよう。
もうそれしか方法はなさそうだ。

アンドリュー王と視線を合わせると、アンドリュー王もまた力無く頷いていた。

今日トーマ王妃と出かけるのは午後からだそうだから、久しぶりにシュウは朝からのんびりしている。
こういう朝はどれくらいぶりだろうか。

「フレッド……指輪楽しみにしててね。大切な話をするから……」

シュウの思わせぶりな言葉が気になりつつも、とりあえず今日シュウが無事に私の元へと帰ってくることをまずは望むことにした。

今日のシュウの服は、赤いドレスにしよう。
赤と言ってもシュウによく似合う上品な赤だ。
どこから見てもわかるように王家の紋章がつけてあるから不埒な奴らがシュウに近づいても、それを見ただけで手出しをしてはいけないとわかるはずだ。
この紋章の意味を知らないものは城下にはいないはずだ。
なぜならこの紋章をつけているものに手を出すということは、王家・ひいては国王に手出しするのと同様の意味を持つ。
手出ししようものなら即刻王家への反逆罪に問うことができよう。

シュウにはその服の意味などは知らせていない。
シュウはただ私を信じていればいいのだ。

私はシュウの服を準備して名残惜しいが執務室へと向かった。

「陛下。おはようございます」

「ああ。アルフレッド。今日は心配だろうが、何とか堪えてくれて助かった。
今日は急いで仕事を仕上げるとしよう」

アンドリュー王の表情に何となく違和感を感じ、何か気になることでもあるのかと尋ねると、どうやら今日は城下近くの侯爵家で成人祝いのパーティーがあるのだそうだ。

そのために城下がいつもより混雑すると予想される。
しかも、その今日の主役である侯爵家の息子と仲の良い者たちの素行があまりよくないのだという。
その者たちが城下をウロウロ散策しているところにトーマ王妃とシュウがかちあわないか心配なのだそうだ。

「シュウには王家の紋章がたくさん入った服を身につけさせておりますし、護衛騎士もおりますから大丈夫とは思いますが……」

と声をかけてみた。
どうやらアンドリュー王も念の為にトーマ王妃に変装ではなくいつもの王妃の格好で城下に出るようにと話したようだ。

そんな2人にみすみす手を出す馬鹿はいないと思うが、アンドリュー王の話を聞く限り、その者たちには一抹の不安がよぎる。

「アルフレッド、今日は急ぐぞ」

アンドリュー王指示の元、私たちは今日の政務作業を終わらせるべく取り掛かった。


途中でブルーノが執務室にやってきて

「先ほどトーマさまとシュウさまがお出かけになりました」

と報告してくれた。
思ったよりも早い時間だったのは、トーマ王妃がよほどシュウとの外出を楽しみにしていたからだろう。
あの指輪を早くみたいというのもあるのかもしれないが。

「アルフレッド、進んでいるか?」

「はい。もうすぐこちらの方は終わりそうです」

「そうか、私の方ももうすぐだ。カーティス、今日はこれが終わったらすぐに城下へ向かうぞ」

「はぁーっ、仕方ございませんね。王妃さまと奥方さまのことは私も心配ですから」

カーティスからも城下へ行く許可を得ることに成功し、私たちは急いで仕事を進めた。

ようやく今日の仕事を終え、一度部屋に戻り外へ行く支度をしていると、突然私の耳につけているピアスが途轍もない光を放ち始めた。

これはシュウの守護石。
まさか、シュウに何か危険が??

慌ててアンドリュー王の部屋へと走り、扉をドンドンドンと力任せに叩くと慌ててアンドリュー王が部屋から出てきた。

『何事だ?』と言いながら部屋から飛び出てきたアンドリュー王の耳についているピアスに変化はない。

「アルフレッド、それ……」

アンドリュー王は私のピアスが光り輝いていることに気づき、シュウの危険を察知したようだ。

「陛下! シュウに何かあったことは間違いありません。急いで城下に参りましょう!」

「わかった。あ、アルフレッド。あいつを連れて行こう!」

あいつ? 誰だ?
そう思った瞬間、アンドリュー王が自室から連れてきたのはパール。

そうだ、パールならシュウの居場所をすぐに見つけられるに違いない。

「パール、行くぞ!」

そう声をかけると、パールはアンドリュー王の手から私の方へ飛んできた。
それを私は自分の上着の中に入れ、アンドリュー王と共に急いで玄関へと向かった。

我々が城下へ行くことはすでにカーティスが話しておいてくれていたおかげで玄関に馬が用意されていた。

私はその馬に飛び乗り、アンドリュー王を残して急いで馬を走らせた。
アンドリュー王に少しは悪いと思ったが、シュウの一大事なのだ。
ゆっくり待っておくような時間はない。

パールに時々声をかけながら馬を走らせると、城下が大騒ぎになっていた。
やはり何かがあったのだと思い、急いで中に入っていくとその騒ぎの中心にトーマ王妃がしゃがみ込んでいるのが見えた。
慌ててトーマ王妃の前に馬を止めるとトーマ王妃は驚愕の表情で私をみた。

驚きすぎて声も出ない様子のトーマ王妃に

「シュウはどこにいるのですか??」

と馬に乗ったまま大声で問いかけたが、トーマ王妃はよほど恐ろしい目にあったのか声が出ないようだ。

一緒にいるはずのトーマ王妃の周りにシュウの姿が見えないということはやはりシュウに何かがあったということだ。
急いでシュウの話を聞きたいのだが、このままではシュウの情報が手に入らない。
どうしようかと思っていると、後ろからアンドリュー王の
『トーマ! どうした? 大丈夫か?』という声が聞こえた。

その言葉にハッとしたトーマ王妃は『シュウちゃんがいなくなった!! どうしよう!!』と大声を上げた。

アンドリュー王は慌てふためくトーマ王妃にその時の状況を詳しく話すようにと落ち着かせると、トーマ王妃は拙いながらもその時の状況について話してくれた。

『泥棒』という声が聞こえてトーマ王妃とシュウの元へと突進してこようとする犯人の子どもたちをヒューバートたちが取り押さえて安堵した途端、後ろにいたはずのシュウがいなくなっていたという。

その話を聞いて私も、そしてアンドリュー王も全く同じことが頭に浮かんだ。
私は怒りを露わにしながらすぐに馬から飛び降り、元凶となった子どもたちの前に立ちはだかった。
そして、ヒューバートが取り押さえている主犯格の子どもの胸ぐらを掴み、

「おいっ!! お前ら、何か知ってるならさっさと話せ! 隠し立てするとお前らも容赦しないぞ!!!」

と大声で怒鳴りつけた。

よほど怖かったのか、私が胸ぐらを掴んでいるその子どもは、金でヒューバートたち護衛を引きつけるよう頼まれたと白状した。
震える手で地面へと投げ出した金は子どもたちを金で雇うにはそこそこの大金だ。

誰に頼まれたのかと問いかけると、犯人である子どもたちは一瞬逡巡したものの、怒りの形相の私と後ろにいるアンドリュー王の顔を見て、

「で、デクスターさまですっ!」

と叫んだ。

「あいつ、絶対に許さんっ!」

アンドリュー王からビリビリとした怒りを感じる。
おそらく前に聞いていたあいつのことだろう。

だとしたら、シュウはどこかに連れ込まれているはずだ。

パールにシュウを探し出すように声をかけ上着から出すと、パールはものすごい勢いで駆けていった。

シュウを見つけ出すのは私だけでいい。
アンドリュー王はトーマ王妃のそばについててやってほしい。
目の前でシュウがいなくなった恐怖を味わっているはずだから。

私がシュウを必ず見つける!
絶対に!

私はアンドリュー王に声をかけ、急いでパールの後を追った。
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