ひとりぼっちのぼくが異世界で公爵さまに溺愛されています

波木真帆

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第四章 (王城 過去編)

花村 柊   39−2

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お父さんたちの部屋の前には警護のための騎士さんが2人並んでいた。
いつもいる人たちだ。

あれ? そういえば、なんであの時はいなかったんだろう。

ふと思った疑問に足が止まった。

「んっ? シュウ、どうしたんだ?」

「いや、騎士さんたちがいるなって……」

「ふふっ。それはそうだろう。今更驚くことでは……」

「でも、あの時・・・はいなかったんだよ。騎士さんたちが止めてくれたらぼくだって勝手に部屋には入ったりしなかったんだけど……」

「ああ、なるほど。そういうことだったか。よくわかった」

「んっ? フレッド、どういうこと?」

「いや、いいんだ。さぁ、中に入ろう。お二人がお待ちかねだ」

フレッドの様子が気になったけれど、さっさと扉をノックして中に入っていくフレッドにもう一度尋ねることもできなくて、ぼくはそのままフレッドに手を引かれながら中に入った。

部屋に入ると、リビングのソファーに俯いた様子で座っているお父さんとアンドリューさまの姿があった。

「陛下。トーマ王妃。シュウを連れてきました」

その言葉にお父さんは一瞬肩を震わせたけれど、まだぼくを見ようとはしない。
フレッドはああ言ってくれたけど、やっぱりあんなところを覗き見してしまったぼくを怒ってるんじゃないだろうか……。

「ほら、シュウ」

そう優しく背中を押されて、ぼくはトコトコとお父さんの前に進んだ。

「あ、あの……ごめんなさいっ!」

大声で謝りながら頭を下げると、お父さんはバッと立ち上がってぼくに駆け寄ってきた。

「柊が謝ることは何もしてないよ! あんなところ見せちゃった僕たちの方が……」

「でも、ぼくが勝手に寝室に入ったんだから」

「柊は僕が何か酷い目に遭ってると思って助けに来てくれたんでしょ?
びっくりさせちゃってごめんね」

「いや、でも……」

「2人とももういいだろう」

2人で言い合っていると、アンドリューさまが間に入ってきた。
アンドリューさまの顔をみた途端、あの時の姿がフッとぼくの脳裏に甦ってきて恥ずかしくなってしまう。

「アンディー、何言ってるの! そもそもアンディーが!」

「ああ。わかった、わかった。だから落ち着け、トーマ」

「わかったってなんだよ!! もう知らないからっ! 行こう、柊!」

「えっ、ちょ――っ、待って!」

お父さんとは思えないような力で手を引かれ、ぼくはただついていくしかなかった。
引き摺られるように引っ張られながら、後を振り向くと茫然とその場に佇むアンドリューさまがいた。

「フレッドっ!」

ぼくのその声にフレッドはアンドリューさまに何か声をかけ、バタバタとぼくたちの後を追いかけてきた。

「トーマ王妃、どこに行かれるのですか?」

「柊たちの部屋だよ」

「えっ? 我々の部屋?」

そうこうしている間にあっという間にぼくたちの部屋に着き、

「柊、入れてくれる?」

と声をかけてくる。

このままでいいのかな? と思いながらも少し落ち着いた方がちゃんと話せるかもと思った。

ぼくはカチャリと扉を開き、お父さんを中へと案内すると、お父さんはポスっとソファーに腰を下ろし、

「柊、ごめんね。変なことに巻き込んじゃって……。
フレデリックさんもごめんなさい」

と頭を下げた。

「いえ、私は何も。ですが、陛下とあんなふうに言い争われて大丈夫なのですか?」

お父さんはフレッドの問いかけに答えようとはせず、ただごめんねと謝罪を繰り返した。

「お父さん、何か飲む? 紅茶でも淹れようか」

「あ、ありがとう。でも、気を遣わなくていいよ」

「ううん、ぼくが飲みたいから気にしないで」

そう言ってキッチンへと向かいながら、フレッドに視線を向けこっちに来てと目で合図すると、フレッドはそーっとぼくの方に来てくれた。

「シュウ、どうした?」

「フレッド、ぼくはお父さんに話を聞いてみるからフレッドはアンドリューさまのところに行って話を聞いてきて。このまま2人が喧嘩で仲違いとかなっちゃったら嫌だし。アンドリューさまだってフレッドに話したら落ち着くかも。ねっ」

「だが、陛下は私に話してくれるだろうか?」

「フレッドなら大丈夫だよ。ねっ、お願いっ!」

「ああ、わかった。だが、トーマ王妃に何を言われても絶対に部屋からは出るなよ」

「うん、わかった」

そう約束をすると、フレッドは少し緊張した様子で部屋を出ていった。


「お父さん、どうぞ」

ぼくはお父さんの目の前に紅茶とクッキーを置いた。

「ん、ありがとう」

お父さんはカップを両手で持ってコクっと一口飲むと、『ふぅ』と一息ついてごめんと謝った。

「ううん。少しは落ち着いた?」

「うん。これじゃどっちが親かわからないね」

「心が弱ってる時にそんなの気にしなくていいよ。いつもはお父さんに甘えてばかりなんだからこういう時は頼ってくれた方が嬉しいし」

「うん、ありがとう。あのね、聞いてくれる?」

ぼくが『うん』と頷くと、お父さんはあの時のことを少しずつ話してくれた。

マルセル医師の診察でもう大丈夫だと太鼓判を押されたお父さんは執務室にいるアンドリューさまに報告に行ったらしい。
そうしたら、アンドリューさまは突然お父さんを抱き上げて、フレッドに仕事を任せて一緒に部屋へと戻ってきたそうだ。
しかも部屋の前にいた騎士さんたちを部屋から離れているように指示をして……。

「どうして、アンドリューさまはそんな指示をしたの?」

「えっ? いや、それは……その」

「んっ?」

「だから、その……僕と、その、イチャイチャしたいって……それで……」

顔を真っ赤にしながらそう説明してくれるお父さんの姿にぼくはようやく悟った。

イチャイチャって、そういう……。
だから、あの時誰も部屋の前にいなかったんだ。

そうか……部屋の前に騎士さんがいない時は、つまりそういうことって覚えておかないといけないんだな。

ぼくがあの時お父さんの声が聞こえたように、騎士さんたちにお父さんの声が聞かれないようにするためか……。
ということは、もしかしたらぼくたちの部屋もフレッドがそんなふうに騎士さんたちに声をかけたりしてるんだろうか?

そんなこととされたら、今からイチャイチャしますって宣言してるみたいで恥ずかしいな……。
でも声が聞こえる方が恥ずかしいか……。

うーん、どっちを取るべきか悩むところだな……。

「柊?」

「あ、ああ。ごめん」

「こんな話聞きたくないよね?」

「ううん、違う違う。ぼくがお父さんたちの部屋の前に来た時に騎士さんたちがいなかったのはそういうわけだったんだなって思ってただけ」

「ああ……そっか。ソウダネ」

少し恥ずかしそうに言うお父さんはきっとぼくが思ったことに気付いたんだろうな。

「それで、どうしたの?」

「うん、それで……もうすぐ柊とお茶するからダメだって言ったんだけど、アンディー、僕が怪我をしてからずっと我慢してくれてたんだ。でも、マルセル医師からもう大丈夫だって言われてそれで我慢できなくなっちゃったみたいで、夜まで我慢してって必死で止めようとしたんだけど僕では抑えられなくて、それであんなことに……。いつもだったらアンディーもあんな無理やりみたいなことはないんだけど、我慢しすぎてよっぽど溜まってたのかもしれない。僕がちゃんと毎日手伝ってあげてれば良かったのかな……。そのせいで柊に変なとこ見せちゃって……はぁっ。ごめんね、本当に」

そっか。やっぱりフレッドの言ってた通り、毎日出さないとそんなふうになっちゃうんだ。
健康な男なら毎日出さなきゃ病気になるって言ってたもんね。

アンドリューさまももしかしたらお父さんとのイチャイチャを我慢しすぎて病気になりかけてたのかも。
それなら、こうやって喧嘩なんかしてる暇ないよね?
すぐにでもアンドリューさまを癒してあげないと!!!

「ねぇ、お父さん! そんなこと言ってる場合じゃないよ! あのね、アンドリューさまは病気になりかけてるんだよ!
だから、そんなふうになっちゃったんだよ! お父さんがアンドリューさまを癒してあげなきゃ!
ぼくのことなんて気遣わなくていいから。お父さんはアンドリューさまのことを一番に考えてあげて!」

「えっ? 柊……どうしたの、いきなり」

お父さんはぼくの勢いに呑まれて慄いているけれど、そんなことを気にしてはいられない。
だって、アンドリューさまが大変なんだもん。

「いい? フレッドから聞いたけど、ああ言うのは毎日出さないとだめなんだって! 病気になっちゃうって。だから、今回のことは病気になりかけてるアンドリューさまがやってしまったことだから、許してあげよう。ねっ。今、お父さんとアンドリューさまに大切なのは、ぼくのことなんかじゃないよ。今は2人がゆっくりと仲良くして、お父さんがアンドリューさまを癒してあげることだけ。ぼくはもうあの時のことは忘れちゃうから、気にしないで。これからは騎士さんたちがいない時は近寄らないようにするし」

「柊……ううっ、なんか恥ずかしいんだけど……」

「ぼくはお父さんとアンドリューさまがこうやって喧嘩してるより、仲がいい方が嬉しいよ。肖像画のお父さんとアンドリューさまはすっごく仲良しに描いてるんだからその通りにしといてくれないとだめっ!」

「ふふっ。そっか……そうだね。せっかく仲良しに描いてくれてるんだからね。うん、わかった。僕、アンディーに謝りに行くよ」

「うん、きっとアンドリューさまも落ち込んでるよ。お父さんにもう知らない! って言われてた時、かなりショック受けてたから」

「うん、あれは言いすぎたかも……」

「じゃあ、部屋に戻ろっか」

「柊、ありがと……」

ぼくはお父さんの手を取り、アンドリューさまとフレッドのいる部屋へと向かった。


お父さんがトントントンとノックすると、中から勢いよく扉が開いた。

「と、トーマ……」

声をかけるアンドリューさまはこの短時間の間に少し憔悴したように見える。
お父さんに『もう知らないっ!』と言われたのが相当ショックだったのかもしれない。

お父さんが何をいうのかと小動物のように怯えた姿は、いつもの冷静で落ち着いたアンドリューさまとは別人のようだ。

あのアンドリューさまをこんなにも変えてしまうお父さんって、やっぱりすごいな。

「中に入れてくれないの?」

「えっ? あ、ああ。いや、は、入ってくれっ!」

アンドリューさまはお父さんの気が変わってしまうのを恐れるように、急いでお父さんを部屋へと引き入れた。
ぼくはこっそりその後ろからついていくと、フレッドがリビングにあるソファーのそばに立っているのが見えた。
お父さんとアンドリューさまの邪魔をしないようにささっとフレッドの元に駆け寄って、ぼくたちは部屋の隅に移動した。

「ねぇ、アンドリューさまとどんな話をしたの?」

コソコソと小声でフレッドに尋ねると、

「うーん、ここではちょっと……な」

と言いにくそうにしている。

まぁ確かにお父さんとアンドリューさまのそういう事情は言いにくいかもね。
それに勝手に話すのはいけないと思っているかもしれないし。

「そっか。でも、お父さんはぼくと話してちょっと落ち着いたみたいだよ。
大丈夫きっと仲直りできるよ。そもそもぼくが勝手に寝室に入っちゃったのが原因みたいなものだし」

「いや、それは違うぞ。シュウが気にすることでは……」

「ううん。騎士さんたちが部屋の外にいない理由もわかったし、これからはいくらいいって言われててもちゃんと確認するようにする。家族といえどもそういう配慮って大事なんだなってわかったから」

「そうか。なんだか急にシュウが大人になったようだな」

「ふふっ。そう?」

僕たちが小声で話している間に
お父さんたちは何やらお互いに言いたいことを言い合っているみたいだ。

「アンディー、ごめんね。さっき酷い言い方した。柊に見られたのが恥ずかしくて全部の責任をアンディーに負わせようとして……ごめんなさい」

「何言ってるんだ、トーマ。そもそも私の我慢が足りないせいでシュウとトーマの大事な時間を奪ってしまって申し訳なかった。トーマが治ったと聞いたらつい我慢できなくなって……私は自分がこれほど我慢ができない人間だとは思っていなかった。トーマの美しさに理性が効かない私が悪いのだ。本当に申し訳ない」

「アンディー、ずっと我慢してくれてたんだから抑えられなくて当然なんだよ。柊から言われちゃった。我慢したら病気になっちゃうって。僕が無理させてたんだよね。僕、嫌じゃなかったんだ。でも頭の片隅に柊のことがあって……本当はアンディーに求めてもらえて嬉しかったんだ」

「トーマ、それは本当の気持ちなのか?」

「うん、アンディーは信じられない?」

「そんなこと……トーマが言ってくれる言葉が嬉しすぎて自分にだけいいように聞こえているんじゃないかと不安になっただけだ」

「アンディー、僕……アンディーが好きだよ。ずっと僕のことを考えてくれるアンディーに無理させてごめんね」

「トーマ……」

どうやら仲直りできたみたいだ。
お父さんとアンドリューさま、抱きしめあってすごく幸せそう。
うん、やっぱり2人が仲良くしている方が嬉しいよ。

「シュウ、部屋に戻ろう」

フレッドに小声でそう促されて、ぼくたちはこっそり部屋からでた。
だって、このままお父さんたちのラブシーン見てるのもおかしな話だもんね。
ぼくたちがいると邪魔だろうし。

「陛下からお声がかかるまで、部屋から離れていろ!」

「はっ」

フレッドは部屋の前で警備していた騎士さんたちにそう声がけをして、部屋の前からいなくなるのを確認してからぼくの手をとってぼくたちの部屋へと戻った。

「結局のところ、痴話喧嘩というわけだな」

「痴話喧嘩?」

「ああ、ちょっとした気持ちの行き違いで喧嘩してしまうがお互い根本は愛し合っているのだから落ち着けばすぐに仲直りするものだ」

「うん、そうだね。じゃあ、もしぼくとフレッドが喧嘩してもすぐに仲直りできる?」

「ああ、もちろんだよ。まぁそもそも喧嘩になどならないだろうがな」

「えっ? どうして?」

「シュウと喧嘩などしたくないからな。喧嘩して話せない時間などできたら私は生きていくことさえできなくなってしまうよ」

「ふふっ。フレッドったら」

「本当だぞ。だから、シュウ……私に言いたいことがあったら隠さずにちゃんと話してほしい」

フレッドの真剣な表情にぼくは大事なことを学んだ気がした。

「話すって大事なんだね。ぼく、これからちゃんとフレッドには思いを伝えるよ」

「ああ、ありがとう。私もシュウには隠し事なんてしないから」

「うん、フレッド……大好きだよ」

「シュウ……私も大好きだ」

お父さんとアンドリューさまのおかげでぼくたちの絆はより一層強まったような気がする。
これからもずっとフレッドにはぼくの思いをちゃんと伝えていくからね。
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