184 / 268
第五章 (王城〜帰郷編)
花村 柊 44−2
しおりを挟む
「あ、あの……」
「シュウ、大丈夫だ。気にしなくていい」
フレッドはお兄さんに視線を向けて何やら小声で話しているようだ。
何を話しているんだろう?
「あの……フレッド? 大丈夫? やっぱり国王さまって言うべきだった?」
「そうだな――」
「いい!! アレクお兄さまでいい!! シュウ殿、そう呼んでいただけますか?」
慌てふためいた様子でお兄さんがぼくにそう言ってくれるけれど、いやいやいや、国王さまがぼくに敬語はおかしくない?
「あの、ぼくに敬語なんて……」
「いや、しかし……シュウ殿は神の……」
「たとえそうでもぼくはお兄さまの弟であるフレッドの伴侶ですから。ねぇ、フレッド」
そう言ってフレッドを見ると、フレッドは嬉しそうにぼくに笑顔を見せてくれた。
「そうですよ、兄上。シュウは私の伴侶ですから、兄上がシュウに敬語は必要ありません。
私の伴侶として扱っていただければ構いませんよ」
「うっ……、そんなに強調せずとも良いだろうに。わかった、わかった。それでは楽に話をしよう」
アレクお兄さまはそういうと、ぼくににっこりと笑顔を見せてくれた。
「では改めて、シュウ殿。これからアレクお兄さまと呼んでもらえるか?」
「はい。アレクお兄さま。ぼく、一人っ子だったのでお兄さまができて嬉しいです」
「くぅーーっ! フレデリック、聞いたか? 私にこんなにも可愛らしい弟ができるとは……。
お前が美しい伴侶を娶ったおかげで私にもこのような幸せが与えられたぞ」
「申し訳ありませんね、可愛らしい弟とは縁遠くて。まぁでも、シュウが美しい伴侶というのは正しいですね」
「そんなに拗ねるな。私にとってはお前も可愛い弟だが、シュウ殿の可愛さとは比べられんだろう?」
「ははっ。そうですね、シュウの可愛さは別次元ですから」
フレッドはアレクお兄さまと楽しそうに笑顔を見せている。
なんだかアンドリューさまと一緒にいるフレッドを見ているみたいだな。
フレッドもアレクお兄さまとのこういう関係をずっと望んでいたんだろうし、嬉しいだろうな。
「お前たち、しばらくはここに泊まって行くだろう?」
「そうですね……サヴァンスタック領のことも心配なので早く帰りたいですが、流石に少し疲れましたので休ませていただけると有り難いです」
「お前が伴侶を連れていつ戻ってくるかわからなかったから、部屋はいつでも泊まれるように準備しているのだ。
今日すぐにでも泊まれるから安心していい」
そういうと、アレクお兄さまは部屋の外で待機していた騎士さんを中に呼び寄せた。
「フレデリックとシュウ殿を[月光の間]に案内するように」
アレクお兄さまの言葉にぼくとフレッドは顔を見合わせた。
今朝までいたあの部屋にまた戻れる。
フレッドと、そしてアンドリューさまやお父さんといっぱい過ごしたあの部屋に……。
でもこの間には数百年の時が流れているんだ。
「フレッド……」
ぼくには嬉しさと悲しみの両方の感情が一気に押し寄せてきて、思わずフレッドに抱きつくと、フレッドは
「わかってるよ」
と優しく背中をトントンと叩いてくれた。
「フレデリック、シュウ殿はどうしたんだ?」
「大丈夫です。少し休めば大丈夫です」
「そうか、ならいいが。部屋に案内する前に紹介したいものがいるのだが……」
「紹介したいもの? それは誰ですか?」
「私の部屋にいるのだ。お前たちの部屋に行く前に寄ってもいいか?」
「はい。もちろんです。もしかして兄上……奥方ですか?」
「確かにアリーチェもシュウ殿に紹介しておきたいが、それ以上に大切な存在だ」
「まさか兄上……」
奥方がアリーチェさまって王妃さまってことだよね?
なんだろう……フレッドの目がアレクお兄さまを睨んでいるように見える。
何?
どうしたの?
「違うっ、違う。そんなことあるわけがないだろうが。私はアリーチェ一筋だぞ」
「でしたら……?」
「見れば、すぐにわかるだろう」
そういうとアレクお兄さまはなぜか嬉しそうにぼくたちを部屋へと案内してくれた。
「中に入ったらすぐに扉を閉めてくれ」
フレッドはアレクお兄さまの指示に訳もわからないまますぐに扉を閉めた。
アレクお兄さまはそれを確認して、
「アリーチェ、アリーチェ」
と奥の部屋にいる王妃さまに声をかけた。
奥から
「はい、アレクサンダーさま」
と高く綺麗な声が聞こえて扉が開いた途端、ものすごい勢いで何かがぼくの元に飛び込んできた。
「わぁーーっ!!」
途轍もない衝撃にぼくは驚いて大声をあげながら倒れてしまったけれど、その正体がなんだったかぼくにはすぐにわかった。
『キューンキューン』
「パール!!」
ぼくの声にパールは
『キューーン!』
と一際大きく鳴き、ぼくの頬をペロペロと舐め始めた。
やっぱりパールがぼくを迎えてくれたんだ!
ぼくにとってはついさっき別れたばかりのパール。
だけど、パールは一体どれだけ長い間、ぼくと再会する日を待ち続けていてくれたんだろう。
しかも、ぼくのことをこんなにも覚えていてくれたなんて。
ぼくが知っているパールより一回りは大きくなっているからかズシっと重みを感じるけれど、これがぼくを待っていた長さの重みなんだろうなと思うと愛おしくなる。
だけど、
「ひゃあ――っ、くすぐったい、ってば――、パールっ!! おち、ついてーっ!」
首筋からぺろぺろ舐めながら中に入っていこうとするのがくすぐったくてたまらない。
パールの戯れを必死で抑えようとしていると、急にパールの感触がなくなった。
と同時に
「フーッ、ウーッ!」
とパールの威嚇するような声が聞こえる。
「あれ?」
驚いて見上げると、フレッドが大きなパールを両手で抱き上げぶら下げている。
「フレッド、何してるの?」
「シュウにベタベタしすぎだろう」
「ベタベタって戯れてただけでしょ?」
「それでも舐めるのはもう許さないと教えていたはずだ」
ああ、確かにそう言ってたな、あの時。
「はっはっはっ。フレデリック。お前がこんなにも嫉妬するとはな」
「兄上」
「ふふっ。フレデリック、ここは私の自室だ。アレクと呼んで良いし、敬語も要らぬ」
アレクお兄さまのその言葉にフレッドは嬉しそうに笑顔を見せながら、
「ありがとう、アレク。伴侶がこんなにも舐められていたら嫉妬くらいするだろう。
それよりも、さっき話していた紹介したいものとはこのパールのことか?」
と尋ねた。
「ああ、そうだ。やはり知っているのだな。このリンネルは神の力によって生まれたトーマ王妃の御子の大切な守護獣だと予言書には書かれていた。
だから、このリンネルは時の王と王妃が自室で責任を持って管理し育てるというのが習わしとなっていてな。
リンネルは元々、人に懐くようなものではないし、かなり大変な時代もあったようだが今まで大切に育てられてきたのだ。無事にシュウ殿にお渡しできてよかった」
「えっ? お渡しって……ぼくが連れて帰ってもいいんですか? 今までここで大切に育てられてきたのに……」
「いやいや、今までの王と王妃が大切に大切に育ててきたのは神の力によって生まれたトーマ王妃の御子に無事に引き継ぐためのものだ。このリンネルはシュウ殿のそばにいるのが一番良いことなのだよ」
「アレクお兄さま……」
「それにこのリンネルもシュウ殿と出会えば、我々と一緒にいる気などないだろう?」
『キューン』
「ふふっ。だそうだ。ああ、そうだ。アリーチェ、お前にも紹介しよう」
パールが突然出てきたからすっかりアリーチェさまのことを忘れてしまっていたけれど、アリーチェさまはずっとぼくたちの様子を見ていたようだ。
「アレクサンダーさま。この方が……?」
「ああ。そうだ、我が弟フレデリックの伴侶であの偉大なるトーマ王妃の御子であるシュウ殿だ。
フレデリック、お前が行方不明になってからここに現れる前にアリーチェには全ての話を伝えておいたから、アリーチェは予言書の全てを知っている」
ああ、なるほどそう言うことか。
と言うことは今までパールをお世話してきてくれた王妃さまたちはパールが何ものか知らなかったってことなんだろうな。
ただのペットだと思ってたりして……。ふふっ。
「あ、あの……私、平伏した方がよろしいでしょうか?」
「アリーチェ、落ち着け。シュウ殿もフレデリックもそんなことは望んではいない。私はアリーチェにはシュウ殿と仲良くなってもらいたいのだ」
「そんな私ごときがあのトーマ王妃の御子と仲良くだなんて……」
「アリーチェ、シュウ殿もフレデリックも、そして私もそう思っているのだよ。フレデリック、そうだな?」
取り乱すアリーチェさまに話を振られたフレッドは、
「アリーチェさま、その通りでございますよ。シュウにはまだこちらに友達がおりません。年の近いアリーチェさまが友達になってくださったら、私も安心でございます。なぁ、シュウ」
とぼくににこやかな笑顔を向けた。
「はい。仲良くしてくださったら嬉しいです。あの、それからアリーチェさま……パールの面倒を見てくださってありがとうございます」
笑顔でそうお礼を言うと、アリーチェさまはブワッといきなり顔を赤らめて、
「まぁ、まぁ、まぁ。なんて可愛らしいお方なんでしょう。こんなに可愛らしい方と仲良くできるだなんて!!
アリーチェさまだなんて、そんな他人行儀なことを仰らないで、私のこともアリーお姉さまと呼んでほしいわ!!!」
とテンション高くそう言ってきた。
「アリーチェ……」
アレクお兄さまが少し呆れた様子でアリーチェさまに声をかけると、
「だって、アレクサンダーさまもアレクお兄さまとお呼ばせになっていたではありませんか? 私もこんな可愛らしい方にアリーお姉さまと呼ばれたいのです。だめ、ですか……?」
と少し寂しげに言うので、
「アリーチェさまさえよろしければ、ぼくはアリーお姉さまと呼ばせていただきたいです」
と言うと、アレクお兄さまもアリーお姉さまも嬉しそうに顔を綻ばせた。
「アレクサンダーさま! 今のお聞きになりまして? 私、隣国から嫁いできてからこの国にお友達と呼べる人がおりませんでしょう? ですから、いつかフレデリックさまにご伴侶さまがお出来になったらその方と本当の姉妹のように仲良くできたらと思っておりましたの。ですが、まさか! こんなに可愛いらしい弟ができるとは思っても見ませんでしたわ。シュウさま、これからはぜひ本当の姉弟のように仲良くしていただけれたら嬉しいわ」
「はい。アリーお姉さま。ぼくも仲良くしていただけると嬉しいです」
嬉しくて笑顔で答えると、アリーお姉さまは顔を真っ赤にして
「アレクサンダーさま!! 今のシュウさまの可愛いらしいお顔ご覧になりました? ああーっ、本当に可愛いですわ」
と相変わらずテンションが高い。
アレクお兄さまもフレッドも驚いていたが、特にフレッドの驚きようは凄かった。
目を丸くして驚く姿にぼくもびっくりしてしまった。
「アリーチェ。話はそれくらいにして、今日はそろそろ2人を休ませてやろう。数日はここに泊まるだろうから、アリーチェがシュウ殿と話せる時間を作ってやるから」
「本当ですかっ!! 嬉しいですっ!」
アリーお姉さまはアレクお兄さまにぎゅっと抱きつき、嬉しそうに笑っていた。
ぼくはそんな2人を見て仲良いなぁと思っていたけれど、フレッドは2人の様子をずっと不思議そうに見つめていた。
「そういえば、フレデリック。食事はどうする? 何か用意させるか?」
「いや、まだそこまで空いていないし、明日の朝にしよう」
「わかった。そのように伝えておく。それからお前のサヴァンスタック領の屋敷にはお前が見つかったことを早馬で連絡しておいたから心配するな。近いうちにあちらからも連絡が来るだろう。それを確認してからここを発つようにした方がいいな」
「ああ、わかった。アレク、ありがとう」
「今日はゆっくり部屋で休め。明日の朝食は一緒に食べるか?」
「明日はまだ起きられるかわからないから一緒に食べるのは夕食からでいいか?」
「ふふっ。ああ、そうしよう」
お二人に見送られながら、ぼくたちはパールを連れて[月光の間]へと向かった。
「ああーっ、すごい! あの時と家具の配置はほとんど同じだね。ふふっ。なんだか変な感じ」
「そうだな。きっとそれも陛下が予言書に書いてくださっていたのだろうな。我々がここに戻ったときにそこに泊まるのを見越して」
「そっか。そうだね。あ、ねぇフレッド……」
聞いてみていいものかどうか少し悩んだけれど、このままだと気になって仕方がない。
「どうした?」
「あの……さっき、アリーお姉さまとアレクお兄さまをどうしてあんな不思議そうな表情で見てたの?
なんかすごくびっくりしてたよね? あれってどうして?」
「ああ、あれか……。ふふっ。私の知っていた2人とあまりにも違いすぎて驚いただけだ」
「違いすぎて?」
「そうだ。シュウがこの国にやってきた頃、アレクとアリーチェ王妃は結婚して10年以上は経っていたがあれほど仲睦まじく話していたのをみたことがない。仲が悪いというわけではなかったが、一線を引いたような……お互いに深くは交わらないといった感じだったから驚いたんだよ」
「そうなんだ……。さっきのお二人はすごく仲が良さそうだったもんね。そんなに違ってたらびっくりするね」
「歴史が変わったことによって、こうやって何かしら私たちが知っている部分とは異なるものが出てくるだろうが、今回の件に関しては嬉しいことだな。兄上と姉上が仲良くしているのは私も嬉しいし、オランディア国民たちも幸せを感じるだろう」
「うん。そうだね、もしかしたらパールのおかげかもしれないよ」
ぼくがそういうと、フレッドはどういう意味だ? という目でぼくとぼくの腕の中にいるパールとを見ていた。
「ふふっ。パールを大切に育てるためには王さまと王妃さまが仲良くないと難しいんじゃない?
お世話が2人に決められていたんだったら尚更だよ」
「ああ、なるほどな。パールを育てていくのはそういうのにも一役買っていたわけか。パール、さすがだな」
フレッドがそう言いながら、パールの頭を撫でてやると
『キューンキューン』
と得意げな様子で声を上げた。
ふふっ。
フレッドに褒められて撫でられて喜んでる。
意外とこの2人? 仲はいいんだよね。
「シュウ、大丈夫だ。気にしなくていい」
フレッドはお兄さんに視線を向けて何やら小声で話しているようだ。
何を話しているんだろう?
「あの……フレッド? 大丈夫? やっぱり国王さまって言うべきだった?」
「そうだな――」
「いい!! アレクお兄さまでいい!! シュウ殿、そう呼んでいただけますか?」
慌てふためいた様子でお兄さんがぼくにそう言ってくれるけれど、いやいやいや、国王さまがぼくに敬語はおかしくない?
「あの、ぼくに敬語なんて……」
「いや、しかし……シュウ殿は神の……」
「たとえそうでもぼくはお兄さまの弟であるフレッドの伴侶ですから。ねぇ、フレッド」
そう言ってフレッドを見ると、フレッドは嬉しそうにぼくに笑顔を見せてくれた。
「そうですよ、兄上。シュウは私の伴侶ですから、兄上がシュウに敬語は必要ありません。
私の伴侶として扱っていただければ構いませんよ」
「うっ……、そんなに強調せずとも良いだろうに。わかった、わかった。それでは楽に話をしよう」
アレクお兄さまはそういうと、ぼくににっこりと笑顔を見せてくれた。
「では改めて、シュウ殿。これからアレクお兄さまと呼んでもらえるか?」
「はい。アレクお兄さま。ぼく、一人っ子だったのでお兄さまができて嬉しいです」
「くぅーーっ! フレデリック、聞いたか? 私にこんなにも可愛らしい弟ができるとは……。
お前が美しい伴侶を娶ったおかげで私にもこのような幸せが与えられたぞ」
「申し訳ありませんね、可愛らしい弟とは縁遠くて。まぁでも、シュウが美しい伴侶というのは正しいですね」
「そんなに拗ねるな。私にとってはお前も可愛い弟だが、シュウ殿の可愛さとは比べられんだろう?」
「ははっ。そうですね、シュウの可愛さは別次元ですから」
フレッドはアレクお兄さまと楽しそうに笑顔を見せている。
なんだかアンドリューさまと一緒にいるフレッドを見ているみたいだな。
フレッドもアレクお兄さまとのこういう関係をずっと望んでいたんだろうし、嬉しいだろうな。
「お前たち、しばらくはここに泊まって行くだろう?」
「そうですね……サヴァンスタック領のことも心配なので早く帰りたいですが、流石に少し疲れましたので休ませていただけると有り難いです」
「お前が伴侶を連れていつ戻ってくるかわからなかったから、部屋はいつでも泊まれるように準備しているのだ。
今日すぐにでも泊まれるから安心していい」
そういうと、アレクお兄さまは部屋の外で待機していた騎士さんを中に呼び寄せた。
「フレデリックとシュウ殿を[月光の間]に案内するように」
アレクお兄さまの言葉にぼくとフレッドは顔を見合わせた。
今朝までいたあの部屋にまた戻れる。
フレッドと、そしてアンドリューさまやお父さんといっぱい過ごしたあの部屋に……。
でもこの間には数百年の時が流れているんだ。
「フレッド……」
ぼくには嬉しさと悲しみの両方の感情が一気に押し寄せてきて、思わずフレッドに抱きつくと、フレッドは
「わかってるよ」
と優しく背中をトントンと叩いてくれた。
「フレデリック、シュウ殿はどうしたんだ?」
「大丈夫です。少し休めば大丈夫です」
「そうか、ならいいが。部屋に案内する前に紹介したいものがいるのだが……」
「紹介したいもの? それは誰ですか?」
「私の部屋にいるのだ。お前たちの部屋に行く前に寄ってもいいか?」
「はい。もちろんです。もしかして兄上……奥方ですか?」
「確かにアリーチェもシュウ殿に紹介しておきたいが、それ以上に大切な存在だ」
「まさか兄上……」
奥方がアリーチェさまって王妃さまってことだよね?
なんだろう……フレッドの目がアレクお兄さまを睨んでいるように見える。
何?
どうしたの?
「違うっ、違う。そんなことあるわけがないだろうが。私はアリーチェ一筋だぞ」
「でしたら……?」
「見れば、すぐにわかるだろう」
そういうとアレクお兄さまはなぜか嬉しそうにぼくたちを部屋へと案内してくれた。
「中に入ったらすぐに扉を閉めてくれ」
フレッドはアレクお兄さまの指示に訳もわからないまますぐに扉を閉めた。
アレクお兄さまはそれを確認して、
「アリーチェ、アリーチェ」
と奥の部屋にいる王妃さまに声をかけた。
奥から
「はい、アレクサンダーさま」
と高く綺麗な声が聞こえて扉が開いた途端、ものすごい勢いで何かがぼくの元に飛び込んできた。
「わぁーーっ!!」
途轍もない衝撃にぼくは驚いて大声をあげながら倒れてしまったけれど、その正体がなんだったかぼくにはすぐにわかった。
『キューンキューン』
「パール!!」
ぼくの声にパールは
『キューーン!』
と一際大きく鳴き、ぼくの頬をペロペロと舐め始めた。
やっぱりパールがぼくを迎えてくれたんだ!
ぼくにとってはついさっき別れたばかりのパール。
だけど、パールは一体どれだけ長い間、ぼくと再会する日を待ち続けていてくれたんだろう。
しかも、ぼくのことをこんなにも覚えていてくれたなんて。
ぼくが知っているパールより一回りは大きくなっているからかズシっと重みを感じるけれど、これがぼくを待っていた長さの重みなんだろうなと思うと愛おしくなる。
だけど、
「ひゃあ――っ、くすぐったい、ってば――、パールっ!! おち、ついてーっ!」
首筋からぺろぺろ舐めながら中に入っていこうとするのがくすぐったくてたまらない。
パールの戯れを必死で抑えようとしていると、急にパールの感触がなくなった。
と同時に
「フーッ、ウーッ!」
とパールの威嚇するような声が聞こえる。
「あれ?」
驚いて見上げると、フレッドが大きなパールを両手で抱き上げぶら下げている。
「フレッド、何してるの?」
「シュウにベタベタしすぎだろう」
「ベタベタって戯れてただけでしょ?」
「それでも舐めるのはもう許さないと教えていたはずだ」
ああ、確かにそう言ってたな、あの時。
「はっはっはっ。フレデリック。お前がこんなにも嫉妬するとはな」
「兄上」
「ふふっ。フレデリック、ここは私の自室だ。アレクと呼んで良いし、敬語も要らぬ」
アレクお兄さまのその言葉にフレッドは嬉しそうに笑顔を見せながら、
「ありがとう、アレク。伴侶がこんなにも舐められていたら嫉妬くらいするだろう。
それよりも、さっき話していた紹介したいものとはこのパールのことか?」
と尋ねた。
「ああ、そうだ。やはり知っているのだな。このリンネルは神の力によって生まれたトーマ王妃の御子の大切な守護獣だと予言書には書かれていた。
だから、このリンネルは時の王と王妃が自室で責任を持って管理し育てるというのが習わしとなっていてな。
リンネルは元々、人に懐くようなものではないし、かなり大変な時代もあったようだが今まで大切に育てられてきたのだ。無事にシュウ殿にお渡しできてよかった」
「えっ? お渡しって……ぼくが連れて帰ってもいいんですか? 今までここで大切に育てられてきたのに……」
「いやいや、今までの王と王妃が大切に大切に育ててきたのは神の力によって生まれたトーマ王妃の御子に無事に引き継ぐためのものだ。このリンネルはシュウ殿のそばにいるのが一番良いことなのだよ」
「アレクお兄さま……」
「それにこのリンネルもシュウ殿と出会えば、我々と一緒にいる気などないだろう?」
『キューン』
「ふふっ。だそうだ。ああ、そうだ。アリーチェ、お前にも紹介しよう」
パールが突然出てきたからすっかりアリーチェさまのことを忘れてしまっていたけれど、アリーチェさまはずっとぼくたちの様子を見ていたようだ。
「アレクサンダーさま。この方が……?」
「ああ。そうだ、我が弟フレデリックの伴侶であの偉大なるトーマ王妃の御子であるシュウ殿だ。
フレデリック、お前が行方不明になってからここに現れる前にアリーチェには全ての話を伝えておいたから、アリーチェは予言書の全てを知っている」
ああ、なるほどそう言うことか。
と言うことは今までパールをお世話してきてくれた王妃さまたちはパールが何ものか知らなかったってことなんだろうな。
ただのペットだと思ってたりして……。ふふっ。
「あ、あの……私、平伏した方がよろしいでしょうか?」
「アリーチェ、落ち着け。シュウ殿もフレデリックもそんなことは望んではいない。私はアリーチェにはシュウ殿と仲良くなってもらいたいのだ」
「そんな私ごときがあのトーマ王妃の御子と仲良くだなんて……」
「アリーチェ、シュウ殿もフレデリックも、そして私もそう思っているのだよ。フレデリック、そうだな?」
取り乱すアリーチェさまに話を振られたフレッドは、
「アリーチェさま、その通りでございますよ。シュウにはまだこちらに友達がおりません。年の近いアリーチェさまが友達になってくださったら、私も安心でございます。なぁ、シュウ」
とぼくににこやかな笑顔を向けた。
「はい。仲良くしてくださったら嬉しいです。あの、それからアリーチェさま……パールの面倒を見てくださってありがとうございます」
笑顔でそうお礼を言うと、アリーチェさまはブワッといきなり顔を赤らめて、
「まぁ、まぁ、まぁ。なんて可愛らしいお方なんでしょう。こんなに可愛らしい方と仲良くできるだなんて!!
アリーチェさまだなんて、そんな他人行儀なことを仰らないで、私のこともアリーお姉さまと呼んでほしいわ!!!」
とテンション高くそう言ってきた。
「アリーチェ……」
アレクお兄さまが少し呆れた様子でアリーチェさまに声をかけると、
「だって、アレクサンダーさまもアレクお兄さまとお呼ばせになっていたではありませんか? 私もこんな可愛らしい方にアリーお姉さまと呼ばれたいのです。だめ、ですか……?」
と少し寂しげに言うので、
「アリーチェさまさえよろしければ、ぼくはアリーお姉さまと呼ばせていただきたいです」
と言うと、アレクお兄さまもアリーお姉さまも嬉しそうに顔を綻ばせた。
「アレクサンダーさま! 今のお聞きになりまして? 私、隣国から嫁いできてからこの国にお友達と呼べる人がおりませんでしょう? ですから、いつかフレデリックさまにご伴侶さまがお出来になったらその方と本当の姉妹のように仲良くできたらと思っておりましたの。ですが、まさか! こんなに可愛いらしい弟ができるとは思っても見ませんでしたわ。シュウさま、これからはぜひ本当の姉弟のように仲良くしていただけれたら嬉しいわ」
「はい。アリーお姉さま。ぼくも仲良くしていただけると嬉しいです」
嬉しくて笑顔で答えると、アリーお姉さまは顔を真っ赤にして
「アレクサンダーさま!! 今のシュウさまの可愛いらしいお顔ご覧になりました? ああーっ、本当に可愛いですわ」
と相変わらずテンションが高い。
アレクお兄さまもフレッドも驚いていたが、特にフレッドの驚きようは凄かった。
目を丸くして驚く姿にぼくもびっくりしてしまった。
「アリーチェ。話はそれくらいにして、今日はそろそろ2人を休ませてやろう。数日はここに泊まるだろうから、アリーチェがシュウ殿と話せる時間を作ってやるから」
「本当ですかっ!! 嬉しいですっ!」
アリーお姉さまはアレクお兄さまにぎゅっと抱きつき、嬉しそうに笑っていた。
ぼくはそんな2人を見て仲良いなぁと思っていたけれど、フレッドは2人の様子をずっと不思議そうに見つめていた。
「そういえば、フレデリック。食事はどうする? 何か用意させるか?」
「いや、まだそこまで空いていないし、明日の朝にしよう」
「わかった。そのように伝えておく。それからお前のサヴァンスタック領の屋敷にはお前が見つかったことを早馬で連絡しておいたから心配するな。近いうちにあちらからも連絡が来るだろう。それを確認してからここを発つようにした方がいいな」
「ああ、わかった。アレク、ありがとう」
「今日はゆっくり部屋で休め。明日の朝食は一緒に食べるか?」
「明日はまだ起きられるかわからないから一緒に食べるのは夕食からでいいか?」
「ふふっ。ああ、そうしよう」
お二人に見送られながら、ぼくたちはパールを連れて[月光の間]へと向かった。
「ああーっ、すごい! あの時と家具の配置はほとんど同じだね。ふふっ。なんだか変な感じ」
「そうだな。きっとそれも陛下が予言書に書いてくださっていたのだろうな。我々がここに戻ったときにそこに泊まるのを見越して」
「そっか。そうだね。あ、ねぇフレッド……」
聞いてみていいものかどうか少し悩んだけれど、このままだと気になって仕方がない。
「どうした?」
「あの……さっき、アリーお姉さまとアレクお兄さまをどうしてあんな不思議そうな表情で見てたの?
なんかすごくびっくりしてたよね? あれってどうして?」
「ああ、あれか……。ふふっ。私の知っていた2人とあまりにも違いすぎて驚いただけだ」
「違いすぎて?」
「そうだ。シュウがこの国にやってきた頃、アレクとアリーチェ王妃は結婚して10年以上は経っていたがあれほど仲睦まじく話していたのをみたことがない。仲が悪いというわけではなかったが、一線を引いたような……お互いに深くは交わらないといった感じだったから驚いたんだよ」
「そうなんだ……。さっきのお二人はすごく仲が良さそうだったもんね。そんなに違ってたらびっくりするね」
「歴史が変わったことによって、こうやって何かしら私たちが知っている部分とは異なるものが出てくるだろうが、今回の件に関しては嬉しいことだな。兄上と姉上が仲良くしているのは私も嬉しいし、オランディア国民たちも幸せを感じるだろう」
「うん。そうだね、もしかしたらパールのおかげかもしれないよ」
ぼくがそういうと、フレッドはどういう意味だ? という目でぼくとぼくの腕の中にいるパールとを見ていた。
「ふふっ。パールを大切に育てるためには王さまと王妃さまが仲良くないと難しいんじゃない?
お世話が2人に決められていたんだったら尚更だよ」
「ああ、なるほどな。パールを育てていくのはそういうのにも一役買っていたわけか。パール、さすがだな」
フレッドがそう言いながら、パールの頭を撫でてやると
『キューンキューン』
と得意げな様子で声を上げた。
ふふっ。
フレッドに褒められて撫でられて喜んでる。
意外とこの2人? 仲はいいんだよね。
242
あなたにおすすめの小説
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
* ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画 です!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
ヴィル×ノィユのお話です。
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけのお話を更新するかもです。
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる