ひとりぼっちのぼくが異世界で公爵さまに溺愛されています

波木真帆

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最終章 (領地での生活編)

花村 柊   52−1

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馬車を流れていく景色がだんだんと見慣れたものになっていく。

「フレッド、もうすぐ着く?」

「ふふっ。ああ、そうだな。もうすぐそこだよ」

フレッドが話していた通り、騎士さんたちが先回りをしてくれたおかげか、さっきの町のように町の人たちが詰めかけるような事態にはなっていない。
それだけで少し安心する。

そのまま馬車はなんの問題もなく、屋敷の前に到着した。

「大騒ぎにならないように屋敷の外に出迎えはないから、安心するといい」

そうか。
そういえば、見送りの時は玄関先にみんなが並んでくれていたんだっけ。

「さぁ、シュウ。降りようか」

フレッドに優しく手をひかれ、ぼくは懐かしいフレッドのお屋敷の前に降り立った。
懐かしいお屋敷を目にした瞬間、喜びが込み上げてくる。

「ああ……っ、ぼくたち……帰って、きたんだね……」

「ああ、そうだ。私たちは帰ってきたんだよ」

あまりの懐かしさに胸の高鳴りが止まらない。
ドキドキしすぎて足が動かなくなっていると、

「シュウ……大丈夫だよ」

そっとフレッドが腰に手を回し、ぴったりと寄り添ってくれた。
フレッドの温もりを感じて安心する。

「さぁ、行こう」

にこやかなフレッドの笑顔に誘われるように玄関に向かって歩き始めると、マクベスさんがサッと玄関を開けてくれた。

中に入った瞬間、

「旦那さま、奥方さま。おかえりなさいませ!」

と大勢の声で出迎えられた。

数えられないくらいたくさんの使用人さんたちが、皆、目にいっぱい涙を浮かべつつも満面の笑顔でこちらをみている。

「ああ、出迎えありがとう。無事にお前たちの顔が見られて嬉しいぞ」

少し声を震わせているフレッドの言葉にみんな涙をボロボロと溢し始めた。
ああ、フレッドはこんなにも愛されているんだ。
それだけで嬉しくなる。

「あ――っ!」

ふと目をやると、以前ぼくのお世話をしてくれていたシンシアさんとメリルさんの姿が目に入ってきた。
ぼくより高い身長も可愛らしい顔立ちも全然変わっていない。

ぼくと視線が合うと、にっこりと笑みを浮かべてくれた。
それが嬉しくて思わず

「わぁっ! シンシアさん! メリルさん! ただいまっ!」

と大声をあげてしまった。

その声に歓迎ムードだったのが一瞬でしんと静まり返る。

あっ!
そういえば、ぼくここに来たのは初めてってことになってたんだっけ。

つい、嬉しくてそのことを忘れてしまっていた。
ああ……ぼくのばかっ!
どうしよう……。
来て早々変な人だと思われてしまったかもしれない。

どうしようと思いながらフレッドを見上げると、フレッドはぼくに笑顔を見せ、彼女たちに視線を向けた。

「そうだった、話をしておかねばな。シンシア、メリル。お前たちは私の大事な伴侶の専属メイドに任命する」

「わ、私どもが奥方さまのお世話を? 若輩者の私たちですが……よろしいのですか?」

シンシアさんとメリルさんは目を丸くしてフレッドに尋ねる。
以前はフレッドを怖がっているように見えることもあったけれど、この世界ではフレッドと使用人さんたちとの間はあまり隔たりがないように見える。
なんかこういうの嬉しいな。

「シュウはこの地にまだ慣れていない。歳の近いお前たちならシュウの良き話相手にもなるだろう。シュウにはここへの道中、お前たちの話をしていたからな、お前たちに会うのを楽しみにしていたようだ。だから嬉しくて声をかけてしまったのだな。なぁ、シュウ」

「うんっ! そうなんですっ! シンシアさん、メリルさん。それから皆さんもこれからよろしくお願いします」

フレッドの機転に感謝しながら、ぼくたちの帰りを待っていてくれた人たちに声をかけた。

「旦那さまっ!! なんて素晴らしい奥方さまなのですか!! 私どもにもこんな丁重にご挨拶していただけるとは……」

「そうだろう。私の伴侶は心清らかで本当に女神のように麗しいのだ。なんといっても私の唯一だからな」

フレッドが得意げな表情でそう話すと、わぁっ!! と喜びの声でいっぱいになった。

「本当に唯一さまなのですね!!! なんと素晴らしいことでしょう!!!」

こんなに喜んでくれるほど、やっぱり唯一ってすごいんだな。

「さぁ、旦那さまと奥方さまは長旅でお疲れになっている。お話はまた後でお伺いすることにして、すぐに部屋に案内するんだ。ルドガー、私が留守にしていた間はしっかりとやってくれていただろうな?」

マクベスさんの声に、一瞬にしてピリッと引き締まった気がした。

さすが筆頭執事さんの迫力。
すごいな。

「は、はい。もちろんです!」

ルドガーさんの返事にマクベスさんは嬉しそうに微笑んだ。

「ふふっ。ルドガー、お前のおかげで私は安心して旦那さまをお探しに行けたのだ。よく頑張ってくれたな」

「ルドガー、私からも礼を言う。よく頑張ってくれた。お前の働きのおかげで予定よりも早くここに帰ってくることができたのだぞ」

「旦那さま……それにマクベスさん……。そんな嬉しい言葉をいただけて幸せでございます……」

ルドガーさんが喜びの涙を流した瞬間、フレッドの後ろからサッと腕が伸びてきた。

「えっ?」

「わっ!」

ぼくの驚きの声と、ルドガーさんが大きな身体に抱きしめられたのはほぼ同時だった。


「ちょ――っ、あ、あの」

「ああ、まさかここで出会えるとは……」

レオンさんはこの上ない幸せそうな笑顔でルドガーさんを抱きしめている。
えっ? これってどういうこと?

「あの、それってどういう……?」

「それは後で二人になった時にゆっくりと話そう」

「えっ? 二人って……」

焦るルドガーさんをよそに、レオンさんはルドガーさんを抱きしめたまま離そうとしない。
そして、そのまま

「フレデリックさま、申し訳ございません。私と彼にこのまま休暇をいただけませんか?」

と声をかけた。

フレッドも突然の出来事に驚いているようだったけれど、すぐに

「ああ、3日間休暇をやるから好きにしろ。ただし、一人で突っ走るなよ。ルドガーにちゃんと説明してからだ」

というと、レオンさんは嬉しそうにルドガーさんを抱き上げた。

「はい。もちろんです。ありがとうございます。それでは失礼いたします」

フレッドとぼくに丁寧に頭を下げると、ルドガーさんに声をかけながら一階の左奥へと進んでいった。

ぼくは何がどうなったのか全然わからなかったけれど、

「シュウ。我々も部屋に行こう」

とフレッドに抱きかかえられた。

「我々は今から初夜に入る。良いな?」

フレッドの言葉に使用人さんたちはわぁっ! と嬉しそうな歓声を上げた。
けれど、マクベスさんだけは少し険しい顔をして、フレッドの耳元で何かを話していた。

「わかっている。だが、記念すべき夜だ。お前も私の思いがわかるだろう?」

記念すべき夜?
どういう意味だろう?
そもそも初夜って……ぼくたち、もう済ませたはずじゃ?

頭の中が??? だらけでよくわからないけれど、満面の笑みを浮かべたフレッドにそのまま部屋へと連れて行かれることになった。
階段を上り、カチャリと扉が開いた瞬間、懐かしい光景が飛び込んでくる。

「――っ、すごいっ! あの時と同じままだ!」

「ああ、そうだな」

パタンと扉が閉まった瞬間、フレッドの顔がグッと近づいてきたと思ったら、そのまま唇を重ねられた。

「んんっ……んっ」

フレッドの肉厚な唇がぼくのを何度も啄んで、そのまま舌がするりと入ってきた。
クチュクチュと口内を弄られて舌に絡みつかれる。
もう幾度となくフレッドとキスしているけれど、フレッドとの深いキスはいつでもぼくを興奮させる。

フレッドから与えられる甘い唾液に陶然としながら、いつしかぼくもフレッドの舌に絡みついてしばらくの間、お互いの唾液を味わい続けた。

ゆっくりと唇が離され

「シュウ、このまま寝室に行ってもいいか?」

と尋ねられた。

「それって……今日が初夜、だから?」

「ああ、そうだ」

「でも、ぼくたち初めては……」

とっくの昔にお城で……。
それなのに初夜だなんていいのかな?

「ふふっ。この屋敷に伴侶を連れ帰った初めての夜なのだから、間違ってはいないだろう? それにここの使用人たちにもシュウが私の伴侶になったのだときちんと知らせる必要がある。そのためにも初夜は必要な儀式なのだよ」

「儀式……そっか」

「わかってくれたか?」

「うん。あっ、さっきのレオンさんとルドガーさんはどういうこと?」

「ああ、あれか。シュウはわかっていなかったのか?」

「わかって……って?」

「おそらくだが……レオンとルドガーは唯一なのだろう」

「えっ??? レオンさんと、ルドガーさんが??? うそっ、唯一って……見ただけでわかるものなの?」

蜜を舐めないとわからないものだって思ってた。
それとも騎士団長だからわかるとか?
いやいや、それはないよね??

「見ただけで確実に唯一かどうかを判断するのは難しいだろうが、それでも出会った瞬間に心が震えるものだよ。現に私だって、シュウをひと目見た時にすぐに特別な存在だと理解した。目の前にいるこの子を決して手放してはいけないと頭の中で訴えかけていたよ。だから、シュウが唯一だとわかった時はあの時の直感が正しかったのだとわかった。シュウも私を見て惹かれただろう?」

「うん、確かに。こんなにも綺麗で優しい人がいるんだってびっくりした」

「シュウ……」

「じゃあ、レオンさんもルドガーさんを見て、ぼくたちと同じような気持ちになったんだ?」

「ふふっ。そうだな。アンドリュー王も言っていたぞ。トーマ王妃に初めて出会った時、自分のものだと確証を得たとな」

「そうなんだ! やっぱり唯一って、特別なんだね」

「ああ。だから、二人でこれから特別な夜を過ごそう」

「ふふっ。フレッドったら……いいよ、ぼくを寝室に連れてって」

「私の姫……仰せのままに」

フレッドは嬉しそうにぼくの頬にキスをすると寝室へと向かった。
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