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優しい匂い
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<side斗希>
気づかない間に声が出るようになっていた。
あんなに必死に出そうとしても出なかったのに……
すると、僕の様子を見てもしかしたら毒を飲んだのではないかと思い、彼がその解毒薬を飲ませてくれたことを知った。
僕は怯えて泣くばかりで何も言えなかったのに、彼はそれだけで僕が言葉を失っていたことまで推理してくれたんだ。
しかももう少し遅ければ二度と話せなくなるところだったなんて……
どれだけお礼を言っても足りないけれど、言わずにはいられない。
怯えて泣いてしまったことも詫びをいれたけれど、気にしないでいいとさえ言ってくれた。
名前を尋ねられてフルネームを言おうかと悩んだけれど、とりあえず名前だけ伝えた。
僕の名前を聞いて、彼は優しい笑顔で素晴らしい名前だと褒めてくれた。
素晴らしいの理由はよくわからなかったけれど、褒められるのは純粋に嬉しい。
この人は本当に優しい人なんだろう。
「ところで私がそばにいて、怖くはないか?」
そう尋ねられてハッとする。確かに眠るまでは怖かったはずなのに。
自分で今の状況がわからない。
「あの、どうしてあなた……エリアスさんが……ここに?」
「トキが魘されていたのでな、手を握ったら安心したようだったからゆっくり眠らせたくてそばにいたんだ」
僕の手を握ってくれた……あの夢の中の優しい温もりはもしかしたらエリアスさんが手を握ってくれたことだったんだろうか?
夢の中で嗅いだあの優しい匂いがしたら間違いない。
僕はドキドキしながら、エリアスさんの胸元に顔を近づけた。
「トキ?」
エリアスさんの驚く声が聞こえるけれど、今は確認したい。
スンスンと匂いを嗅ぐと、夢の中のあの優しい匂いがした。
「やっぱり、この匂い……」
「匂い?」
「はい。この匂いが僕を安心させてくれたんです。だからエリアスさんは怖くないのかも……」
エリアスさんを見上げると、なぜか顔を真っ赤にしていた。
<sideエリアス>
ようやく名前を聞くことができた。
もちろんそれも嬉しかったが、それ以上にトキの笑顔を見ることができたのも嬉しかった。
その笑顔をまた曇らせることになるのは忍びないが、どうしても聞いておきたいことがある。
今はまだ混乱していてもしかしたら気づいていないのかもしれない。
不安を覚えながらもトキに問いかけた。
私が隣にいて怖くないのか、と。
初めて目を覚ました彼は私が近づくのを怖がった。
あの怯えきった表情を見ていたから、今こうしてトキのそばにいていいのかと心配になる。
トキはどうしてここに私がいるのかと尋ね返してきたから、正直に告げた。
魘されていたから安心させたかった、と。
するとトキは何も言わずに私にさらに近づいてきた。
その行動の意味がわからない。
ただ怖がらせないようにするのに必死で何も動けない。
硬直したまま息を殺してトキのしたいようにさせるしかなかったのだが、彼はなぜか私の胸元で大きく息を吸った。
「やっぱり、この匂い……」
そう言ってトキが顔を離す。
そして満面の笑みで、私の匂いが安心する。だから怖くないと言ってくれた。
それが途轍もない意味を持つとも知らずに……
匂いを好意的に感じるのは魂でつながり合っている証。
だから、私もトキをフィリグランだと知る前から好意的に感じていたのだろう。
まさか、私の運命がフィリグランだったとはな……
それがわかって一気に顔が赤くなる。
こうしてトキと出会い、救い出すことができたのも魂で繋がっていたからかもしれない。
「あの、エリアスさん? 大丈夫ですか?」
「あ、ああ。問題ない。トキが私のそばにいて安心するのならよかったよ」
「あの、こんなことを言っていいのかわからないんですけど……僕は、多分違う世界からここにきたと思ってて……それで、元の世界に帰れたりするんでしょうか?」
トキもやはりここが自分がいた世界とは違うと気がついていたようだな。
だが残念ながら元の世界に戻る方法はない。
「おそらくだが、トキはあちらの世界で命を落としたのではないか? そのような記憶は残っているか?」
「多分……そうかも、しれません」
「それなら戻ることはない」
はっきりと告げると、トキは明らかにがっかりした表情を見せた。
「だがこれからの生活は心配はいらない。私が責任を持ってトキを守る」
「エリアス、さん……」
涙目で私を見るトキに安心して欲しいと告げようとしたが、
「身体が治ったら僕もちゃんと働きます」
という言葉が聞こえて、私は大いに驚いた。
気づかない間に声が出るようになっていた。
あんなに必死に出そうとしても出なかったのに……
すると、僕の様子を見てもしかしたら毒を飲んだのではないかと思い、彼がその解毒薬を飲ませてくれたことを知った。
僕は怯えて泣くばかりで何も言えなかったのに、彼はそれだけで僕が言葉を失っていたことまで推理してくれたんだ。
しかももう少し遅ければ二度と話せなくなるところだったなんて……
どれだけお礼を言っても足りないけれど、言わずにはいられない。
怯えて泣いてしまったことも詫びをいれたけれど、気にしないでいいとさえ言ってくれた。
名前を尋ねられてフルネームを言おうかと悩んだけれど、とりあえず名前だけ伝えた。
僕の名前を聞いて、彼は優しい笑顔で素晴らしい名前だと褒めてくれた。
素晴らしいの理由はよくわからなかったけれど、褒められるのは純粋に嬉しい。
この人は本当に優しい人なんだろう。
「ところで私がそばにいて、怖くはないか?」
そう尋ねられてハッとする。確かに眠るまでは怖かったはずなのに。
自分で今の状況がわからない。
「あの、どうしてあなた……エリアスさんが……ここに?」
「トキが魘されていたのでな、手を握ったら安心したようだったからゆっくり眠らせたくてそばにいたんだ」
僕の手を握ってくれた……あの夢の中の優しい温もりはもしかしたらエリアスさんが手を握ってくれたことだったんだろうか?
夢の中で嗅いだあの優しい匂いがしたら間違いない。
僕はドキドキしながら、エリアスさんの胸元に顔を近づけた。
「トキ?」
エリアスさんの驚く声が聞こえるけれど、今は確認したい。
スンスンと匂いを嗅ぐと、夢の中のあの優しい匂いがした。
「やっぱり、この匂い……」
「匂い?」
「はい。この匂いが僕を安心させてくれたんです。だからエリアスさんは怖くないのかも……」
エリアスさんを見上げると、なぜか顔を真っ赤にしていた。
<sideエリアス>
ようやく名前を聞くことができた。
もちろんそれも嬉しかったが、それ以上にトキの笑顔を見ることができたのも嬉しかった。
その笑顔をまた曇らせることになるのは忍びないが、どうしても聞いておきたいことがある。
今はまだ混乱していてもしかしたら気づいていないのかもしれない。
不安を覚えながらもトキに問いかけた。
私が隣にいて怖くないのか、と。
初めて目を覚ました彼は私が近づくのを怖がった。
あの怯えきった表情を見ていたから、今こうしてトキのそばにいていいのかと心配になる。
トキはどうしてここに私がいるのかと尋ね返してきたから、正直に告げた。
魘されていたから安心させたかった、と。
するとトキは何も言わずに私にさらに近づいてきた。
その行動の意味がわからない。
ただ怖がらせないようにするのに必死で何も動けない。
硬直したまま息を殺してトキのしたいようにさせるしかなかったのだが、彼はなぜか私の胸元で大きく息を吸った。
「やっぱり、この匂い……」
そう言ってトキが顔を離す。
そして満面の笑みで、私の匂いが安心する。だから怖くないと言ってくれた。
それが途轍もない意味を持つとも知らずに……
匂いを好意的に感じるのは魂でつながり合っている証。
だから、私もトキをフィリグランだと知る前から好意的に感じていたのだろう。
まさか、私の運命がフィリグランだったとはな……
それがわかって一気に顔が赤くなる。
こうしてトキと出会い、救い出すことができたのも魂で繋がっていたからかもしれない。
「あの、エリアスさん? 大丈夫ですか?」
「あ、ああ。問題ない。トキが私のそばにいて安心するのならよかったよ」
「あの、こんなことを言っていいのかわからないんですけど……僕は、多分違う世界からここにきたと思ってて……それで、元の世界に帰れたりするんでしょうか?」
トキもやはりここが自分がいた世界とは違うと気がついていたようだな。
だが残念ながら元の世界に戻る方法はない。
「おそらくだが、トキはあちらの世界で命を落としたのではないか? そのような記憶は残っているか?」
「多分……そうかも、しれません」
「それなら戻ることはない」
はっきりと告げると、トキは明らかにがっかりした表情を見せた。
「だがこれからの生活は心配はいらない。私が責任を持ってトキを守る」
「エリアス、さん……」
涙目で私を見るトキに安心して欲しいと告げようとしたが、
「身体が治ったら僕もちゃんと働きます」
という言葉が聞こえて、私は大いに驚いた。
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