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届いた招待状
<sideクラウス>
あの地下室の小さな檻の中に閉じ込められていたのを旦那様が発見した時、あまりにも悲惨すぎて目を背けたくなった。
微動だにしないあの姿に、おそらくもう命は尽きたのだと思った。
けれど、旦那様は望みを捨てることなく、鍵を破壊し救出した。
泥と汚物に塗れたその身体を何の躊躇いもなく抱き上げ、まだ命があると喜びの声を上げられた。
部屋に連れ戻り、明るい部屋で見るその子はさらに目を背けたくなるほど可哀想な姿。
にもかかわらず、旦那様はその子に口移しで経口補水液を飲ませた。
私が今まで知る旦那様の姿とはまるっきり違い、それはかなりの衝撃だった。
しかも、汚れているその子の身体を清め、着替えを旦那様自らがなさると仰られて、私はいよいよ驚きを隠せなかった。
旦那様がどうしてそんなにもあの子に執着なさるのか……
今まで誰一人として旦那様のお心に入り込めたお方はいらっしゃらなかったのに。
唯一惹かれなさったのがあの子とは……
だが、旦那様のお気持ちを私が変えることなとできない。
私はただ旦那様が望まれることをお手伝いさせていただくだけだ。
その強い気持ちで旦那様のもとに戻ったのだが、そこであの子がフィリグランだったことを教えられた。
誰もが魅了されるフィリグラン。その美しさには抗うことはできないとされている。
だが、地下室で泥に塗れたあの姿からはその片鱗は微塵も感じられなかった。
旦那様もあの子がフィリグランだったことは一目見た時にはお気づきにならなかっただろう。
それでも、一度も躊躇うこともなくあの子のお世話をされた。
あれはフィリグランの力に魅了されたのではない。
旦那様はあの子を心から愛していらっしゃるのだ。
隣国からランチェスター家の屋敷に馬車で戻る間も腕に抱きかかえたまま片時も手放さなかった。
ようやく目を覚まされた時、あの子に怯えられても優しく寄り添い続け、アルトゥンの花の毒に侵され何度も窮地に陥ったあの子……トキ様を支えていらっしゃった。
その努力が実を結び、トキ様は旦那様には心を開かれるようになった。
まだ、私も医師のロジェリオ様ですらトキ様の前に立つことはできないが、毎日旦那様からトキ様の御快復の様子を伺っている。
だいぶ笑顔が増えた。
起きていられる時間が長くなった。
食事の量が増えた。
普通の状態ならたわいもない話だが、トキ様のあの時の状態を思えばかなり良くなっていると喜びに堪えない。
そんな折、我が家に王城から旦那様宛に手紙が届いた。
それは年に一度催される、国王陛下の生誕を祝う宴の招待状。
この招待はいかなる理由があっても断ることはできないと言うのが、フィオラード王国の暗黙のルール。
それはこの王国唯一の公爵家であるランチェスター家でも例外ではない。
旦那様も例年必ず参加なさっておられたが、今年はトキ様がいらっしゃる。
旦那様にしかお世話ができないトキ様を数時間一人にされるのは難しい。
何よりロジェリオ様より、トキ様を不安にさせることがないよう一人にさせないようにと強く言われている。
とはいえ、国王陛下の招待を断ることもできない。
どうするべきなのか……
旦那様はどうお答えを出されるのだろうな。
<sideエリアス>
トキが私にだけ心を開いてくれたと言うのに、ここで一人にしてまた悪い夢でも見たら……
これまでしてきたことがまた振り出しになってしまう。
ようやく少しずつトキの笑顔が見られるようになったというのに……どうしたものか。
その悩みがつい表情に出てしまったのだろうか。
「エリアスさん、何かありましたか?」
腕の中のトキが不安げに尋ねてきた。
「いや、何もない。トキは何も心配することはないよ」
「でも……」
不安にさせないように伝えるが、トキはこちらが驚くほど気持ちを察する力が強い。
これはフィリグランの持つ力なのか。
「心配しないでいい」
もう一度安心させようと伝えたのだが、
「エリアスさん、何か困ってますよね。僕、大丈夫ですよ」
と可愛らしい笑顔を向けてくれた。
あの地下室の小さな檻の中に閉じ込められていたのを旦那様が発見した時、あまりにも悲惨すぎて目を背けたくなった。
微動だにしないあの姿に、おそらくもう命は尽きたのだと思った。
けれど、旦那様は望みを捨てることなく、鍵を破壊し救出した。
泥と汚物に塗れたその身体を何の躊躇いもなく抱き上げ、まだ命があると喜びの声を上げられた。
部屋に連れ戻り、明るい部屋で見るその子はさらに目を背けたくなるほど可哀想な姿。
にもかかわらず、旦那様はその子に口移しで経口補水液を飲ませた。
私が今まで知る旦那様の姿とはまるっきり違い、それはかなりの衝撃だった。
しかも、汚れているその子の身体を清め、着替えを旦那様自らがなさると仰られて、私はいよいよ驚きを隠せなかった。
旦那様がどうしてそんなにもあの子に執着なさるのか……
今まで誰一人として旦那様のお心に入り込めたお方はいらっしゃらなかったのに。
唯一惹かれなさったのがあの子とは……
だが、旦那様のお気持ちを私が変えることなとできない。
私はただ旦那様が望まれることをお手伝いさせていただくだけだ。
その強い気持ちで旦那様のもとに戻ったのだが、そこであの子がフィリグランだったことを教えられた。
誰もが魅了されるフィリグラン。その美しさには抗うことはできないとされている。
だが、地下室で泥に塗れたあの姿からはその片鱗は微塵も感じられなかった。
旦那様もあの子がフィリグランだったことは一目見た時にはお気づきにならなかっただろう。
それでも、一度も躊躇うこともなくあの子のお世話をされた。
あれはフィリグランの力に魅了されたのではない。
旦那様はあの子を心から愛していらっしゃるのだ。
隣国からランチェスター家の屋敷に馬車で戻る間も腕に抱きかかえたまま片時も手放さなかった。
ようやく目を覚まされた時、あの子に怯えられても優しく寄り添い続け、アルトゥンの花の毒に侵され何度も窮地に陥ったあの子……トキ様を支えていらっしゃった。
その努力が実を結び、トキ様は旦那様には心を開かれるようになった。
まだ、私も医師のロジェリオ様ですらトキ様の前に立つことはできないが、毎日旦那様からトキ様の御快復の様子を伺っている。
だいぶ笑顔が増えた。
起きていられる時間が長くなった。
食事の量が増えた。
普通の状態ならたわいもない話だが、トキ様のあの時の状態を思えばかなり良くなっていると喜びに堪えない。
そんな折、我が家に王城から旦那様宛に手紙が届いた。
それは年に一度催される、国王陛下の生誕を祝う宴の招待状。
この招待はいかなる理由があっても断ることはできないと言うのが、フィオラード王国の暗黙のルール。
それはこの王国唯一の公爵家であるランチェスター家でも例外ではない。
旦那様も例年必ず参加なさっておられたが、今年はトキ様がいらっしゃる。
旦那様にしかお世話ができないトキ様を数時間一人にされるのは難しい。
何よりロジェリオ様より、トキ様を不安にさせることがないよう一人にさせないようにと強く言われている。
とはいえ、国王陛下の招待を断ることもできない。
どうするべきなのか……
旦那様はどうお答えを出されるのだろうな。
<sideエリアス>
トキが私にだけ心を開いてくれたと言うのに、ここで一人にしてまた悪い夢でも見たら……
これまでしてきたことがまた振り出しになってしまう。
ようやく少しずつトキの笑顔が見られるようになったというのに……どうしたものか。
その悩みがつい表情に出てしまったのだろうか。
「エリアスさん、何かありましたか?」
腕の中のトキが不安げに尋ねてきた。
「いや、何もない。トキは何も心配することはないよ」
「でも……」
不安にさせないように伝えるが、トキはこちらが驚くほど気持ちを察する力が強い。
これはフィリグランの持つ力なのか。
「心配しないでいい」
もう一度安心させようと伝えたのだが、
「エリアスさん、何か困ってますよね。僕、大丈夫ですよ」
と可愛らしい笑顔を向けてくれた。
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